第9章 治療プログラムに動機づけアプローチを統合する

Treatment Improvement Protocol (TIP) Series 35
Enhancing Motivation for Change in Substance Abuse Treatment

  1. 薬物依存治療動機づけ
  2. 第1章 | 第2章 | 第3章 | 第4章 | 第5章 | 第6章 | 第7章 | 第8章 | 第9章 | 第10章 | Appendix A
 このTIPの中で検討してきた動機づけアプローチは、現実の医療提供においてどのように適合するであろうか。物質乱用治療の需要は、実際に供給されている治療をはるかに上回っているが、医療経済の変化に伴って、医療提供者やクライエントにますます圧力がかかってきている。費用負担者からは、提供されるサービスに治療の有効性だけでなくコスト有効性の証明を求める声が高まっている。臨床家およびプログラムは常に、研究に裏付けられた最新の治療法を用いていないのではないか、という疑いをかけられている。公的資金は乏しく、費用を負担者する第三者は、より短期で、費用がかからず、より効果的な治療を提供するように、とますます大きな圧力をかけるようになっている。要するに、臨床家はより少ない資金でより多くのことをしなければならない。
 動機づけアプローチと面接を治療プログラムに組み込むことは、これら多くの課題に対する現実的かつ有効な回答といえる。近年の研究(Brown and Miller, 1993; Kolden et al., 1997; McCaul and Svikis, 1991) は、プログラムへ動機づけ面接のモジュールの統合することによって、クライエントの治療離れを減らし、治療への参加を促進し、プラス行動変化の達成と維持を強化することができる、としている。その他の研究では、動機づけ戦略と動機づけ面接を用いた短期介入は、まったく治療を受けない、または順番待ち名簿に載せられるよりも、効果的で、またいくつかのタイプのより規模の大きい治療に比べて効果に遜色はないことが示された(Bien et al., 1993a, 1993b; Noonan and Moyers, 1997)。厳格な臨床試験かで提出された証拠に基づく、アルコール使用障害の治療におけるコスト有効性の検討研究では、短期動機づけカウンセリングは、最も有効な治療モーダリティーのひとつにランクされていた(Holder et al., 1991)。また、コスト面では、短期動機づけカウンセリングのコストが一番低かった。総合して、短期動機づけカウンセリングは、全33の治療のうち最もコスト有効性が高い治療と結論づけられた。これは概算に基づく結果なので、今後の精査が必要であることを断った上だが、同研究では、アルコール使用障害の最も典型的な治療形態において、有効性とコストの間に負の相関関係が見られた。これは、有効性が低い、またはあまり研究がされていない、しかしコストははるかに高い、病院ベースのまたは居住式ケアに比べて、効果を上げている外来ケアに対する支持の高まりを強調するものであった(Holder et al., 1991)。
 本章では、動機づけ介入を組み込むべき治療連続体に関する検討から始めて、具体的な治療環境において用いられている動機づけアプローチに関する記述へと進む。また、クライエントの変化への動機づけを高めるために、パートナーを関与させることの重要性についても検討する。

治療連続体と段階的ケア The Treatment Continuum and Stepped Care

 1990年、米国医学研究所(IOM)はその連邦議会への特別報告書の中で、 アルコール使用障害の治療基盤の拡張を強く提唱した(IOM, 1990a)。この呼びかけに前後して、物質使用に関連する問題に対処するためのモーディリティーや特別介入が数多く登場した。IOM の報告書が提出された翌年、 Holder らは過去に比較臨床試験の対象となった33の異なるタイプのアルコール問題治療法に関して、その有効性とコストを再検討した(Holder et al., 1991)。基本的な治療に物質関連問題に対する専門的な治療サービスが加えられた場合、コストが高くなるのは当然である。しかし、これら複数のモーダリティーは、常に適切に用いられているとは限らない。さらに、コストの問題、物理的アクセスの困難さ、圧倒的なスタッフ人員不足、などの理由から、治療を必要とし求めている人たちすべてに、治療が行き渡わたるわけではない。
 IOMの報告書では、その取り組みの根拠をなす重要な仮定に対しての注意を呼びかけている。

  • すべての物質使用問題が均一なわけではない。重篤度、継続期間、影響、その他重要な側面において異なっている。
  • 物質使用に関する問題を抱える個人も多種多様で、受け入れ可能な治療の選択もまた人それぞれである。
  • 物質に関する問題の衝撃は、医療の本流やその他の社会的諸サービスから孤立した専門治療プログラムが扱うには大きすぎる。

 現代はコスト管理型医療の時代である。とコスト有効性を実証できないサービスに対する公的資金カットが当然のこの時代に、医療の提供が制限されるのは必然である。しかし、最も費用のかかる治療は最も重篤な症例用に留保しておき、集中度は最も低いが成功の可能性がかなり高い介入を初期ケアとして適用すれば、資金を合理的で公正、かつ有効な方法で配分することは可能なはずである。この「段階的ケア」アプローチは、以下の原則に基づいて運営される(Sobell and Sobell, 1999)。

  • アセスメントと治療はいずれも個人に合わせて選ばれるべきで、主となる問題やクライエントの特徴に合わせてタイプや集中度は異なる。
  • クライエントに最初に推奨する治療は、最も集中度が低く、コストも低く、研究やアセスメント結果、臨床判断に基づいて、特定された問題を解決する可能性が最も高いと思われるものを選択するべきである。
  • より集中的で高額な治療は、より重篤な問題や集中度の低い介入には反応しないクライエントのために留保されるべきである。
  • 特定の特徴を持つクライエントに対して同等に有効とされる介入方法が2つある場合、コストが低い方をまず試すべきである。同様の原則で、個人的ケアの代わりにグループ治療を用いる。また、以下のアプローチが同等に有効だと実証されている場合には、個人的ミーティングの代わりに電話、インターネット、郵便によるかカウンセリングを用いるべきである。
  • 推奨される治療はすべて、確固とした研究結果に立脚している必要がある。適切なデータが存在しない場合は、仲間の臨床家によって確立された最善の実践ガイドラインに基づくべきである。
  • 治療を推奨する際、臨床家はクライエントの治療に関する意見を考慮するべきである。「クライエントを、彼ら自身が不適当だと考える治療に推薦しても、たいていは治療からのドロップアウトに終わることになり、ほとんど意味がない」(Sobell and Sobell, 1999)。
  • アセスメントと治療はいずれも、常に進行形で進むにつれて包括性を増す過程であり、一度きりの活動と考えてはならない。言い換えれば、状況便乗的過剰飲酒者と同定さてた個人に対して、簡単なスクリーニングや短期介入で十分な場合もある。しかし、クライエントが、実験的に確立された効果指標に基づいた初期治療に満足に反応しない場合は、より包括的でより集中的な治療が次に来るべきである。追加治療の必要性は、初期設定での成果と別のより徹底的なアセスメントの両方に基づいて決定される。追加治療は、臨床判断、アセスメントの結果、クライエントの意見を総合して、初期と同様の設定でより多くのセッションを行ったり、別の介入法へ紹介したりする。

[治療の]設計とサービス提供のためのアプローチとして段階的ケア用いる動機づけ介入は、多くの意義をもつ。第一に、このモデルは、動機づけアプローチに基礎を持つ多くの原則を反映している。この原則には、クライエントに治療に関する選択肢を提供することの重要性や、治療に関する決断におけるクライエントのインフォームド・チョイスの尊重などが含まれる。第二に、段階的ケア・モデルは、軽度な障害を持つ人々に、不必要なサービスを与えることなく対処できる短期外来介入の増加を支持する。これは同時に、危険な飲酒や薬物使用のために被る高額な社会的コストを軽減するという、公共医療の方針に叶っている。動機づけアプローチは、アセスメントと数回の臨床セッションを必要とするのみだが、その有効性は検証済みである。また、配置されたスタッフメンバーが、この方法をよく理解し適切な訓練を受けているという条件を満たせば、幅広い医療設定で有効性を発揮できるはずである。最後に、治療サービスを設計し配分するための段階的ケア・アプローチは、成果優先であり、介入に関する序列は存在しない。このため、動機づけアプローチの異なる形式で適用が可能となる。例えば臨床家は個人のニーズに合った最適な形式を探って、セッションの回数、長さ、頻度に関して色々試すことができる。

具体的な治療設定における動機づけアプローチの応用

 動機づけアプローチを[治療]サービス・システムに組み入れるのに、これが最適、といえる方法が存在するわけではない。たいていはふさわしい機会が自然に訪れるものである。いずれにせよ、過去にもそしてこれからも、[動機づけアプローチの]適用は臨床的独創性の問題といえる。動機づけ介入が追うようされている状況の例を以下に挙げる:

  • 治療への紹介をしやすくするための、一般医療設定における迅速な関与手段として。
  • クライエントが再度[治療に]訪れる可能性を増加するため、または再度訪れない場合は、役立つサービスを提供するための最初のセッションとして。
  • 順番待ちリストに載せられるクライエントに対する励ましの短いコンサルテーションとして。単に治療への順番を待つよう、伝える代わりに用いる。
  • 治療の維持と関与を高めるための準備として。
  • 治療を強制されたクライエントが、当初の怒りや敵意の感情を越えて前進するための援助として。
  • ほんの短い接触しかない場合に、独立した介入として。
  • 変化の過程全般を通して用いるカウンセリング・スタイルとして。

 臨床家が[クライエントに]有益な影響を与えることができる期間は、比較的短いことが多い。これは、[保険会社の]医療費払い戻し規定によって、サービス期間が制限されていたり、プログラムの性質上(例えば、雇用主補助によるプログラム)であったり、または救急診療部など、設定よっては、一度きりの接触のみに終わる場合もある。また、クライエントが物質乱用の治療に留まる期間そのものも、平均して非常に短い。ということは、臨床家が最初の1.2回のセッションで効果を及ぼさなければ、永久に効果を及ぼすことはないかもしれない。したがってクライエントとの最初の接触をできるだけ有効に利用することは、賢明といえる。
 しかし、この考えは、治療開始のための事務処理はしなければならない、待合室はクライエントであふれている、4回目のセッションまでに治療プランを作成しなければならない、など実際の臨床設定における要求とは、衝突するかもしれない。それでもなお、[初めての]セッションを書類に記入することから始めるのは、たいてい間違いである。真っ先にすべきことは、クライエントの言うことにただ耳を傾け、理解し、変化への動機づけを促すための時間を取ることである。クライエントとの接触が1回きりで終わるとしたら、質問表に記入すること自体はまず助けにはならないだろう。しかし、動機づけ面接は、たとえ単発のものでも違いをもたらすことが、研究から明らかになっている。
 本章の残りの部分では、このTIPで言及してきた動機づけアプローチが独創的に用いられている状況について記述する。

救急診療科において

 短期介入の威力を最も早い時期に実証した例のひとつは、1950年代にマサチューセッツ総合病院の救急診療科で実施されたものである。Morris Chafetz は、救急診療科で治療を受ける患者の多くが、飲酒による健康障害または負傷ために来院することに懸念を持った。しかし、その時点では、何もなされてはいなかった。研修医が患者に向かって非難めかして、「あなたは、本当にお酒をやめるべきですよ。」などと言うくらいで、フォローアップされたことはなかった。実際、これらの患者中、[後に]アルコール問題の治療を求めに来たのは5%にも満たなかった。
 Chafetz は、これらの患者が医学的処置を受けたあと、共感的なカウンセラーが彼らの話を聞いて、治療のために再来院することを勧めたとしたらどうなるだろうか、と考えた。そこでChafetz は、2つの調査を実施し、アルコール関連の健康問題で救急診療科を訪れた患者の一部を、無作為に抽出し、医学的処置の後で、カウンセラーと短時間の会話(15分から20分)を持ってもらった。いずれの研究(Chafetz et al., 1962, 1964)においても、共感的なカウンセラーと話をした患者が後にアルコール問題の治療のために再来院する確率(65%と78%)は、救急診療科の治療のみを受けた患者(5%と6%)に比べて、12倍も高かった。
 ボストン・メディカル・センターBoston Medical Centerの救急診療科では、医師らが物質乱用治療センターthe Center for Substance Abuse Treatmentから資金を得て、Project ASSERT (アルコール・物質乱用に関するサービスと患者を治療へ紹介するための医療提供者訓練 Alcohol and Substance abuse Services and Educating providers to Refer patients to Treatmentの頭字語)を開発した。Project ASSERT では、健康増進賛同者を採用して、救急診療科患者における物質使用をスクリーニングし、ラポールを確立し、変化の問題を提示する役目に当てた。ここでは、準備性尺度readiness rulerを用いて準備性の査定をし、プランについて話し合い、物質乱用治療のシステムへのアクセスを援助することも行われた。プログラムではまた、救急診療科の研修医を訓練し関与させた。公表されている追跡データによると、薬物問題の深刻度で45%、アルコール使用で56%減、過剰飲酒の頻度で64%の軽減が見られた。また、50%の患者が、治療の予約を守ったことも報告された(Bernstein et al., 1997a)。

産科クリニックにおいて

 効果的な動機づけ介入のもうひとつの例として、Nancy Handmakerによる、産科クリニックに通院する妊婦を対象に行われた試験的研究が挙げられる。過去数ヶ月以内にある程度の飲酒を報告した女性に対して体系的アセスメントを実施し、動機づけ介入または妊娠中の飲酒の危険性についての資料のどちらかに割り当てた。これらの女性は、非批判的かつ個別の面接の中では、それに先立ったスクリーニングの質問表で報告したよりも、飲酒の程度が実は高いことを報告した。血中アルコール濃度の推定最高値が高かった女性の間では、続く2ヶ月間の飲酒量削減において、動機づけ介入がより効果的であった(Handmaker et al., 1999)。

医療現場の中で In Medical Settings

 動機づけ介入を医療現場で用いている研究も見られる。一般病院入院中の10代の喫煙者は、短期動機づけ面接によって、喫煙への依存と喫煙日数を改善することができた(Colby et al., 1998)。また、研究者は、一般クリニックでCAGEに1つ以上の肯定的回答を示した患者の変化の段階を判断した。当初、これらの患者は考慮段階にいることが予測されていたが、実際は彼らの多くは実行段階にあり、すでに飲酒を止めている者が大部分であった(Samet and O'Connor, 1998)。これは、一般開業医こそが、禁酒を関するプラスのフィードバックを提供し、再発予防テクニックを用いることによって、これらの患者の禁酒維持に一番貢献できる立場にあることを示唆している。初期医療の提供者は、患者中心のアルコール・カウンセリングに関する簡単な訓練プログラムを受けることによって、カウンセリング・スキルを高め、問題飲酒者によりうまく介入できるようになる(Ockene et al., 1997)。

動機づけ面接とマリワナ診断

 ワシントン大学で行われた研究は、2セッションのマリワナ診断を提供するもので、地元メディアを通じて、問い合わせ電話番号が公開、宣伝された。プログラム最初の数週間では、[研究に]適格と判断され、アセスメント・セッションの予約をした問い合わせ者の60%が、予約に現れなかった。この確率は、当初の電話インテーク・プロトコルが修正されたとき、半分に減少した。新しく採用したアプローチでは、対応スタッフが一連の自由回答形式の質問をし、問い合わせ者がプログラムに関心を持った理由について、聞き返しを用いて話し合う、という3分から5分の対話が含まれていた。

薬物使用者のためのマトリクス・モデル The Matrix Model for Drug Users

 1994年国立薬物乱用研究所National Institute on Drug Abuse は、研究に裏付けられた要素を基にした集中外来治療プログラムのモデルの開発に、資金を提供した(Rawson et al., 1995)。このモデルの最初の形は、覚醒剤使用障害を持つ人々を対象としたもので、以下のような、治療者に対する具体的な指示と動機づけアプローチを強調した明確な治療理念を含んでいた。
 治療者は、患者との間に肯定的で健全な関係を育て、プラスの行動変化を強化するためにその関係を利用する。対話は現実的かつ直接的であるべきで、対立的または保護者的であってはならない。治療者は、治療過程を患者の自尊心、尊厳、自己信頼を高めるためのエクササイズだと捉えるように訓練される。患者と治療者の肯定的な関係は、患者を維持するために欠かせない要素である (p. 120) 。
 当初は、覚醒剤使用者のために作られた外来治療マトリクス・モデルだが、その基本的な動機づけ強化理念は、その後他の物質のプロトコールも含めるために拡張されてきた。現在も、進行中の研究結果を基にした、モデルの評価と修正は続けられている。

動機づけ強化療法 Motivational Enhancement Therapy

 ヴァージニア州では、動機づけ強化療法(MET)を取り入れた多要素モデルが開発され、用いられている。このプログラムは、その前身が物質乱用治療効果評定のためのワーク・グループSubstance Abuse Treatment Outcome Evaluation work groupであることからSATOEと呼ばれる。このグループは、州各地の公立物質乱用治療機関や、大学、精神衛生局Department of Mental Health、精神薄弱・物質乱用サービス Mental Retardation and Substance Abuse Servicesなどの代表およびクライエントの集まりであった。
SATOEモデルの進化続ける要素は以下の通りである。

  • クライエントのアセスメント
  • クライエントを適切なレベル、適切なタイプのサービスへ紹介すること
  • サービス提供に関する見直しと改善
  • 治療効果の評定

SATOE モデルは、現在5つの主構成要素素から成っている。

  • 「精神障害の診断と統計マニュアル・第4版」Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th Edition (DSM-IV) の診断基準による物質乱用障害の診断
  • MET アセスメントと介入
  • アディクション重篤度指標Addiction Severity Index (ASI) による評定
  • アメリカ嗜癖医学学会American Society of Addiction Medicineのものなど、標準化された患者紹介基準
  • 治療サービス再検討

 SATOE モデルでは、32項目から成る自己報告式の質問表、ロードアイランド大学変化アセスメント尺度(URICA)を通常用いてクライエントの問題行動を変えるための準備性を査定する(第8章参照)。URICA の得点は、臨床家が、クライエントの治療に対する準備性を判断する助けとなる。この方法が選ばれたのは、公共分野では、精神障害に合併して物質乱用障害の診断を持つクライエントが多く、その他の準備性測定法が物質使用に限定されているのに対して、この尺度では、回答者がターゲットになる問題を指定することができるからである。
 このモデルの実施例としては、URICAを基にした臨床アセスメントによって前考慮段階(時には考慮段階)と査定されたクライエントを、別のMETの原則と介入を用いた期限付き(4週から8週間)で動機づけ指向型治療路線に紹介したものがある。METに基づいたこの治療路線が、望ましい行動変化を起こすのに役立った、とするクライエントもいたが、一般的にはMETベースの治療は、MET 原則を取り入れたより従来型の物質乱用治療に対するクライエントの準備性を高めるために用いられることが多い。 SATOE においてMET を実施するその他のアプローチには、従来型の外来治療、集中的な外来治療のモデルにMET 原則を統合させようという試みが含まれる。
 短期のMETベース治療プログラムの終了後、クライエントは再評価をされることになる。ここでは、再度URICAが、 または変化への準備性をはかる非公式の臨床アセスメントが実施される。それに加え、治療コンプライアンスや尿検査などの行動的指標も考慮される。結果に基づいて、クライエントが治療から開放されることもあれば、追加的動機づけ優先治療、従来型物質乱用治療、ケース・マネージメントや個人療法などその他のサービスを含んだ新しい治療プランが開発される場合もある。また、クライエントが刑事司法制度から送られた場合は、累進制裁処置のために刑事裁判機関に連絡を取る必要がある。ヴァージニア州としてはすべてのSATOE要素をサポートすることが期待されてはいるが、当初は変化への準備性アセスメントとASI に重点が置かれていた。このモデルを利用する専門家間のコミュニケーションやモデルの構成要素をサポートするために、治療提供者のリストが作成された。さらに、モデル実施のパラメーターの評定やモデルの費用便益分析も予定されている。
 SATOEの実施を援助するためにヴァージニア州は、いくつかの重要な取り組みを行った。まずは、METの理念とテクニックに関するマニュアルを作成した。最もよく知られているMET の物資乱用治療プロトコルは、Project MATCHの短期「個人」療法への取り組み(適用)であったが、ヴァージニア州の公的プログラムにおける一般的なモーダリティーはグループ療法であった。そこで、ヴァージニア嗜癖技術移転センターVirginia Addiction Technology Transfer Center によってMET 治療の「グループ・ベース」モデルが開発され、このプロトコル用のマニュアルも作成された (Ingersoll and Wagner, 1997)。このモデルは、変化への準備性を高めるのに効果的であることが実証されている(Wagner et al., 1998)。 第二の取り組みは、大規模なトレーニングを率先したことで、ここでは臨床スタッフがMET の理念や関連する臨床介入についての訓練を受ける一方で、事務職員にも基本的なMETの理念とプログラムの変更に伴う影響について紹介をした。
 ヴァージニア州では、SATOEモデルが現場からのフィードバックを糧として、時間をかけて進化していくことを期待している。現在、地域の機関がそれぞれの優先事項や制限に合わせて利用できる、モデル範囲内でのオプションに大きな関心が集まっている。例えば、州内の治療機関では、MET ベースの治療路線を別に設置する代わりに、物質乱用障害治療連続体の全体にわたって、または集中外来治療など特定なサービスに限って、MET 理念を統合することを選択するところも出てきた。標準的なMET プロトコルが4セッションから成るのに対して、SATOEモデルでは、地域の刑事司法機関の期待に副うかたちで、より長期の、場合によっては期限を設けないバージョンも模索している。
 SATOEモデルの実施は、ヴァージニア州の物質乱用治療提供システムにとって、将来模範的となるような変化といえるかもしれない。SATOE関連の取り組みすべて関して最も重要なのは、公的[治療]機関が最も適切でコスト効率のよいサービスを提供できるように、方法論を開発することである。

動機づけ介入のアフリカ系アメリカ人を中心とした適用
An African-Centered Application of Motivational Intervention

 アフリカ系アメリカ人のクライエントに対する場合、その文化背景に適合するかたちで動機づけ介入を用いることは、自己開示を誘導し、治療過程への関与、プラスの治療効果を引き出すのに有効である。例えば、矛盾が高まっていく過程において、物質使用行動がクライエントから見た人生の目的、存在の意味、宿命とどう矛盾するかを増幅してみせることは、クライエントの居心地を悪くし、内省的沈黙を生むだろう。文化的意味を持つ矛盾としては、物質使用とコミュニティーの福利、物質使用と他者との関係、物質使用と宿命の成就、物質使用と精神性の開拓・忍耐力、物質使用は「自分らしくない振る舞い」を引き起こすことなどがある。これらの矛盾は、アフリカ系アメリカ人にとって文化的意味を持つ理念、つまりアフリカ系アメリカ人の文化遺産を反映する理念、かかわりがある (Grills and Rowe, 1998; Longshore et al., 1998)。これらの理念には、相互の結びつき、コミュニティーへの責任、「自己は神の実在である」という根本的核をなす信念、一人一人が神に与えられた人生の目的を持っているという信念、よい人格を作り上げることの重要性、などが含まれる。さらに、癒し(回復)の過程を、個人としての自己を癒すだけの過程から、コミュニティーの癒しを促す過程へと、定義しなおすことによって、クライエントが自らの物質使用についてより実質的に考慮するようになる。アフリカ系アメリカ人コミュニティーの持つ相互依存的な性質のため、個人の癒しは、すなわちコミュニティーの癒しを意味するからである(Rowe and Grills, 1993)。
 最後に、アフリカ系アメリカ人のクライエントに対する動機づけ介入の適用は、個人的な物質使用を歴史的、社会的現実の中に文脈付けすることを通じて、強化されてきた。物質使用は、単なる個人属性の作用ではなく、米国における抑圧と人種差別が持つ歴史的かつ体制的圧力という文脈の中で理解されるべきである。これらの圧力は、アフリカ系アメリカ人個人の、家族の、そしてコミュニティーの福利と人生の肯定的な営みを、極めて攻撃的に侵害してきたのである。物質使用の弊害は、アフリカ系アメリカ人にとって、人生のチャンス、家庭生活、文化的伝統、そしてコミュニティー・ライフの感覚までも破壊するものである(Goddard, 1992)。
 動機づけ介入の文化的矛盾への適用は、アフリカ系アメリカ人クライエントが、前考慮段階から考慮段階へ、考慮段階から実行段階へ、そして実行から維持へ前進する過程において、その有効性が実証されている(Longshore et al., 1998)。

多種薬物使用問題を抱える若者 Adolescents with Multiple Drug Problems

 ニューメキシコ大学アルコール依存症・物質乱用・アディクション・センターUniversity of New Mexico Center on Alcoholism, Substance Abuse, and Addictionsにおける若者向け治療プログラムは、主に絶大な問題を抱える若者を対象にしている。これらの若者は、多種の薬物を使用し、法律問題を抱え、学校で落ちこぼれまたは退学しており、無秩序で時には虐待的な家族関係を持ち、ギャングに属している場合もあり、たくさんの危険な行動にかかわっている。これらの若者が、自分の意志で治療にやってくることはまずない。裁判所の命令で、親に連れられて、または監禁状態から移されてやってくる。彼らは怒っていたり、沈黙していたり、ふさぎ込んでいたり、対立的または反抗的であったりすることが多い。彼らは、「薬物に対してはNOと言え」と押し付ける大人に不快感を抱いている。
 ここでは裁判所や家族などあらゆる外的圧力にもかかわらず、治療の継続が大きな問題である。このプログラムに収容された青年期のクライエントは、平均して5回の外来セッションを受けるのみである。そこで、この問題に対処するため、インテーク時に動機づけ面接の導入が試みられた(Aubrey, 1998)。プログラムを開始した若者は無作為に、通常のインテーク面接、またはアセスメント結果の個別フィードバックを含んだ1回の動機づけ面接に振り分けられた。Aubreyによると、青年期クライエントは、彼らが予期していたのとは全く異なるカウンセリング・スタイルである動機づけ面接に、非常によく反応した。また、これらのクライエントは治療により長くとどまった。通常のインテーク手順を踏んだクライエントの6セッションに比べて、インテーク時に動機づけ面接を受けたクライエントは、平均17セッションの治療を継続した。最も重要なのは、若者たちの物質使用に対する影響である。3ヶ月後の追跡調査では、動機づけ面接を受けた若者は、コントロール群に比べて有意に高い物質不使用率を示した(70%対43%)。この結果は、以前に行われた成人入院患者に関する研究(Brown and Miller, 1993)および外来母集団における研究 (Bien et al., 1993b)の結果に匹敵するものであった。

複数の脆弱性を持つ女性

 物質乱用問題を抱える個人は一般人口に比べて、健康問題、精神衛生上の問題、または社会的問題を併せ持っていることが多いようである。女性は特に弱者であり、女性は男性に比べて複数の障害を併せ持つ確率が高いことが、研究でも示唆されている(Helzer and Pryzbeck, 1988; Regier et al., 1990)。 女性は複数の問題を併せ持っている女性が多く存在し、彼女らは生活のある側面に関しては変化への準備が整っていても、その他の側面に関しては整っていないかもしれない、という認識に立って、カリフォルニア州の研究者が、変化の段階(Brown et al., in press; Melchior et al., in press)に基づいて変化のステップモデルSteps of Change modelを作り上げた。
 変化のステップモデルでは、(1) 物質使用行動を変えるための準備性(2)リスクの高い性行為を変えるための準備性(3) 家庭内暴力的な状況を変えるための準備性(4) 情動的問題に対処するための準備性、の4つのカテゴリーを検討することによって、治療を開始する女性の準備性を査定する。これによって、女性は自分が持つ複数のニーズについて考慮し、適切なタイプの、または統合的な治療へと進むことができる。当初の研究結果は、変化の段階の4レベルが変化への単一の基本的な願望を示しているわけではないこと指摘した。これは、様々な領域での準備性を評価するために変化のステップモデルを用いることを支持するものであった。また、女性にとって最も直接的な損害を与える可能性がある問題ほど、最も変化への意欲をかきたてることも示された。これらは、女性クライエントに関して、治療の開始とその効果について予測する際の重要な検討材料となる。今後の研究によって、変化のステップモデルに基づいた物質乱用治療における女性の治療維持に関しても検討されることが期待される。

短期居住型治療プログラム A Short-Term Residential Treatment Program

 人南西部の口の95%が先住アメリカ人である地域で提供されている治療プログラムを紹介する。ここでは、ベッド数150の施設における様々なプログラム要素の治療効果を高めるために、たくさんの動機づけ戦略が用いられている。例えば、施設の臨床スタッフは名札をつけているが、これには臨床家の名前と肩書きを特定する以上の役割がある。各臨床家の名札には、部族名または家族のルーツが示されている。部族メンバーの場合は、ネイティブ言語で書かれている一族名によってその人物が特定される。この一族名は部族のアイデンティティーを構成する24の一族のうちどれかである。非先住アメリカ人の場合は、その祖先(例:ヨーロッパ系、アフリカ系)によって特定される。16日の居住型プログラムに参加するクライエントは、自分自身で個別の名札を作成し、自分の家族やルーツに関する情報を書き込むための、材料を与えられる。臨床家は、一族の関係を個人または家族介入に利用することを後押しされるので、クライエントを弟、祖母、叔父、などと呼ぶこともまれではない。これらの呼称は、クライエントの治療過程に参加する動機づけを高め、先住アメリカ人プログラムの治療の力動に対する関与を深める。
 33名のもとクライエントを6ヶ月追跡したところ、この居住型プログラムを終了したクライエントの70%が、入居以前よりもよい状態を保っていた。すなわち、アルコール摂取の割合が少なく、生活の質や家族との交流が改善されていた。機能の領域では、まだ改善の余地があるものの、重要な変化を経験したクライエントも見られた。数ヶ月または数年のアルコール乱用の間にホームレスとなっていたにもかかわらず、[治療後]住居を確立したクライエントが何人も見られた、という追跡報告もある。自分たちが触れることができた基本的な文化的教えを活かし始めたクライエントもいた。また、治療プログラムの外に、スウエット・ロッジを行う方法とか、家族や友人のために儀式を進める方法など伝統についてさらに教えてくれるよき師を探そうとするクライエントもいた。ここでは、治療過程に家族的関係を含めることが、クライエントの飲酒行動を変化させるよう動機付づけるための鍵であった。そしてこれは、標準型のプログラムでは、不可能とは言わなくとも、非常に困難なことである。
 あるクライエントは追跡調査終了後、地域を離れて標準型の30日住居型治療プログラムに参加した。30日のプログラムを終了したとき、クライエントと同部族の別のメンバーが収容されていることから、ボランティアの文化アドバイザーとして残るように勧められた。2年後、このクライエント/ボランティアは、自宅に戻り、彼自身がその回復の一歩を踏み出した16日プログラムの伝統カウンセラーとしての職を得た。

集団設定 Group Settings

 現在治療サービス提供の状況では、集団治療に重きが置かれている。動機づけ強化のための活動の多くには、集団療法において実現可能で、個人治療では実現できない(例:クライエントが仲間からフィードバックを受け取ることができる)。しかし、集団を管理するという点において、メンバーの欠落、集団の構造、集団の結束、難しいクライエントへの対処、など重大な臨床的問題が生じてくる。(Dies, 1994)。集団療法の実施は、複数のクライエントに同時に対処しなければならないため、個人治療の実施に比べて相当複雑である。また、集団における行動的素材や動機づけ戦略・テクニックの利用は、個人療法における目標と同じものを目指すやり方でなされなければならない。したがって、個人治療の設定においてよい臨床家が、集団セッションの臨床家として適格であるとは限らない。むしろ、臨床家は、集団の力動に対する理解を処理し、集団療法を実施に必要なスキルを備えることが要求される。
 集団設定における動機づけ強化療法の取り組みは、今日までのところ、甲乙入り混じった結果を示している。集団での動機づけ面接は、個人カウンセリングにおける場合よりも、有効性が低いとする研究もいくつかある。中には、集団治療を受けた大学生は、治療を受けなかったコントロール群よりもわずかに悪い結果を示した、という研究もある(Walters et al., 印刷中)。
 しかし、ワシントン大学のある研究チームは、過剰飲酒癖のある大学生は、6週間の集団プログラムに反応して、飲酒を著しく減量することができた、と報告している(Baer et al., 1992)。動機づけに基づいた認知行動的介入である指導付き自己変容Guided Self-Change (GSC)治療を評定する、最近の任意抽出型臨床試験でも、有利な結果が得られている。この試験では、動機づけに基づいたテクニックと戦略は、アルコール乱用と物質乱用の双方に関して、集団形式での、個人治療と同様に有効であることが、実証された(Sobell et al., 1995; Sobell and Sobell, 1998)。この試験における具体的な結果は次のようなものであった: (1) 集団または個人治療への無作為な割り当ての結果、治療全般を通じて、クライエントの欠落における差異は見つからなかった (2)集団治療の成功に不可欠といわれる(Cota et al., 1995; MacKenzie, 1983; Satterfield, 1994)、高い集団の結束が見られた (3)動機づけベースのGSC集団治療における効果とクライエントの満足度は個人的治療を受けたクライエントと同等であった (4)集団・個人いずれの治療形式においても、治療開始前に比べて、飲酒と薬物使用が著しく軽減され、これらの変化は治療1年の追跡においても維持された (5) 動機づけベースの治療が個人形式ではなく集団で提供されたとき、多額の費用削減が実施できた−実際のサービス提供に関する費用は41.5%減、個人セッションに比べて集団形式における予約無効は8分の1に減少した。また、個人・集団治療あわせたクライエント全体の80%が友人にGSCプログラムを勧める、と言っていた。
 集団治療にはそれ自体に社会的サポートの要素が備わっており、クライエントは、集団の中で互いの変化を強化し援助することができる。治療が進むにつれて、フィードバックを受け自己開示を強化されることによって、クライエントは心を開くようになる。このフィードバックと自己開示は、集団治療と動機づけ面接における2つの重要な要素である。集団でアドバイス・フィードバックの題材を扱う場合は、「ラウンドロビン」形式[総当り式]を利用するのもよい。ここで、クライエントは聞き返しに専念し、仲間のアンビバレンスを指摘するとともに、矛盾を明らかにするような仕方でコメントをする。集団療法では、すべてのクライエントが変化の動因として働く。つまり、仲間ベースの過程を通じて、互いの変化への動機づけと意欲を強めることによって、互いに助け合う。ここでは、臨床家個人ではなく、集団そのものが変化の動因となる(Dies, 1994)。
 この研究結果は非常に有望なものではあるが、同時に集団形式の中で動機づけに基づく介入を用いた、最初の研究でもある。動機づけアプローチを集団治療に適用することによって、コスト有効性を高める、というのは理にかなった試みである。しかし、集団形式での動機づけ介入の試みには、失敗もあり、中には有害と思われるものもあった。有効的な集団治療法が確立されるまでは、新プログラムがその意図するものを達成しているかどうか、必ず評定することは賢明であろう。

集団療法における動機づけ強化

個人形式に比べて、集団形式で動機づけ介入を実施することは、より困難、複雑、そしてやりがいがある仕事だとおもいます。個人的には、はるかに実りのある仕事だと感じています。集団療法では、とりわけ動機づけテクニックと戦略を用いている場合には、クライエントは集団を通じて学びます。ちょうど鏡の間のようなもので、クライエントは他の人が自分をどのように見ているかを感じることができます。クライエントが別のクライエントに対して聞き返しを用いたり、アンビバレンスについて指摘したりするのを見るとき、私には集団が生きた経験を学ぶ実験室のように思えます。彼らはまずは安全な環境で予行練習をし、その後現実世界で試しに行きます。メンバーたちは、物質乱用を減らす、または止めるという目標を共有していて、彼らの相互サポートと仲間からのプレッシャーが存在するのは、ここ、集団内以外にないのです。
Linda C. Sobell, コンセンサス・パネル・メンバー

  1. 薬物依存治療動機づけ
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