原井宏明の情報公開
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第3章 カウンセリングのスタイルとしての動機づけ面接

Treatment Improvement Protocol (TIP) Series 35
Enhancing Motivation for Change in Substance Abuse Treatment

  1. 薬物依存治療動機づけ
  2. 第1章 | 第2章 | 第3章 | 第4章 | 第5章 | 第6章 | 第7章 | 第8章 | 第9章 | 第10章 | Appendix A

 動機づけインタビューとは単なるカウンセリングを行う一つの技法ではなく,クライアントと一緒にいるための方法である(Miller and Rollnick, 1991)。
 動機づけインタビューはあなたが変化の過程におけるヘルパーになり,クライアントの受け入れを示すための一つの技術である。それは他の治療法の何かとしてだけでなく,クライアントにゴールを確認させる妨げとなっている,両価感情を解決するのに役立つカウンセリングとして,物質を使用しているクライアントと相互に影響し合う方法である。動機づけインタビューは,人々の自由な選択を訓練し,自己活性化を通じて変化を起こす能力についてのCarl Rogerの楽観的,人道的学説を後押ししている。Roger側の人及び動機づけインタビューを行う人の両者にとって,治療上の結びつきは民主主義同盟関係となっている。動機づけインタビューにおけるあなたの役目は,正方向への変化の動機づけを増強する為にクライアントの矛盾点をはっきりさせる事に加え,クライアントから自己動機づけの言葉を,行動の変化を引き出すことをゴールと考えて,指示的立場で臨むことである(Davidson, 1994; Miller and Rollnick, 1991)。本質的に動機づけインタビューは誰もが有している有益な変化を起こす能力を活性化させる(Rollnick and Miller, 1995)。自力で変化を継続することができるものもあれば,回復過程の長旅において形式的な治療や差さえを要するものもある。準備性が低いクライアントにとってさえも,動機づけインタビューは後の治療につながる活気に満ちた前兆となる。
 動機づけインタビューは以下の仮説に基づいて作成されたカウンセリングスタイルである。

  • 物質使用(及び変化)に対する両価感情は普通にみられるもので,回復にとっての動機づけの重大な障害物となる。
  • 両価感情はクライアントに内在する動機づけと価値観を使うことで解決できる。
  • あなたとクライアントの間の関係は,お互いが重要なノウハウを持ち込む共同関係である。
  • 共感を持った,支えとなる,しかし指示的でもあるカウンセリングスタイルには,変化が起こり得る状態を提供してくれる(直接論争と激しい対立はクライアントの防御姿勢を増強させ,行動の変化が起こる可能性を減少させる)。

 この章では両価感情とクライアントの動機づけにおけるその役割について簡単に検討する。動機づけインタビューの5つの基本的原則が両価感情を扱い変化の過程を促進する為に表示され,そして治療の初期にクライアントに使用する最初の戦略も又提供されている。最後は動機づけインタビューの有効性を研究したNoonanとMoyersの,1997年の報告のまとめで締めくくられている。

Ambivalence(両価感情)

 物質乱用の人々は自分達の物質使用の危険性に気付いているが,とにかくそれを止めない。彼らは物質使用を止めたがっているのかも知れないが,同時に止めたくもないのである。治療のプログラムに入ってもなお,自分達の問題はそんなに重篤ではないと訴える。この2つの異なる感情は両価感情として特徴づけられるが,この感情が発生するのはクライアントの準備性の状態にかかわらず自然なことである。あなたのクライアントの両価感情を理解し受け入れることが大切である。というのも,両価感情はしばしば中心となる問題であり,動機づけの欠如はこの両価感情の現れとなり得るからである(Miller and Rollnick, 1991)。両価感情を拒否や抵抗と解釈してしまうと,あなたとクライアントの間に摩擦が生じ易くなる。
 動機づけインタビュースタイルにより,前進の妨げとなる可能性を持つ段階特有の動機づけに対する争いを探り易くなる。しかし各ジレンマは又この動機づけインタビュースタイルを使ってクライアントが反対の態度を探り解決するのを支援する機会を提供してくれる。これらの争いが異なる変化段階でどの様に表現されるかという例がFigure 3-1に示されている。

Five Principals of Motivational Interviewing(動機づけインタビューの5原則)

 MillerとRollnickは自分達の著書"Motivational Interviewing : Preparing People To Change Addictive Behavior"の中で以下の如く述べている。
 動機づけインタビューは的を射ていて実用的であった。動機づけインタビューという戦略は強制的というより説得力を持ったもので,論争するものではなく,むしろ支えとなる。インタビューを行う人は強い目的意識,その目的を追求するための明確な戦略と技術,そして機を見て介入を行うタイミングを計るセンスを持って,インタビューを進めて行かなければならない(Miller and Rollnick, 1991, pp51-52)。

臨床家は以下の5つの一般的原則を念頭において動機づけインタビューを行う:

  • 繰り返し聞くことで共感を示す。
  • クライアントのゴールや価値観と現実の彼らの行動の間の差異を明らかにする。
  • 論争や直接対立を避ける。
  • クライアントの抵抗に直接立ち向かうのではなく,順応する。
  • クライアントの自己効力感と楽観性を支持する。
Express Empathy(共感を示すこと)

 共感とは繰り返し聞くことで他人の意図する事を理解するための,明記できる,そして習い覚えることのできる技術である。その為にはクライアントの新しい発言一つ一つと,言外の意味に関しての次々に発生する仮説に鋭い注意を注ぐ必要がある(Miller and Rollnick, 1991, p20)。

共感的なスタイルとは:

  • クライアントと彼らの感情に対する関心と受け入れる気持ちを伝える。
  • 非審議的な協力関係を促進する。
  • あなたを支えとなる,そして理解あるコンサルタントにならしめる。
  • 誹謗するのではなく,心から褒める。
  • 語るより聞く。
  • 変化への決心はクライアントのものであることを理解した上でやさしく説得する。
  • 回復過程の間中支えとなる。

 共感を持った動機づけインタビューにより,問題点を検証し,変化のための個人的な理由付けと方法を引き出す手助けとなる,安全かつ開かれた環境が成立する。動機づけインタビューの根本的な構成要素の一つとして,各クライアントのユニークな見方,感情,価値観を理解する事が挙げられる。あなた方の態度は受容的であらねばならないが,必ずしも是認と同意だけとは限らず,変化に対する両価感情が起こり得る事を認識しておかねばならない。動機づけインタビューは,あなた方とクライアントの間に信頼関係が築かれた時,最もうまく行く方法である。

共感を表現すること

  • 受け入れることで変化を助長する。
  • 巧みに聞き返すことが共感を表わす原則である。
  • 両価感情は通常起こり得る。

出典: Miller and Rollnick, 1991/許可を得て複製

 共感を持つことは動機づけカウンセリングの土台となっているが,それをクライアントと一体感を持ったり,同様の過去の体験を共有したりする意味での共感と混同してはいけない。実際カウンセラーに最近クライアントと同様の問題を抱えた事がある場合,変化の重要な状況を提供する能力が損なわれるかもしれない(Miller and Rollnick, 1991.p.5)。共感を表現するための鍵となる要素は聞き返すことである。

米国原住民(インディアン)に共感を表現すること

 多くの伝統的な米国原住民のグループにとって,共感を表現することはまず自己紹介から始まる。米国原住民は一般に,臨床家達は文化的に受け入れられた自己紹介や敬意を表す方法を知っており,それを実践するものと期待する。一例としてNavajo族の人と最初に会った時,彼は恐らく自分の名前,一族との関係又は民族の起源とその起源の場所等を話してくれる。肉体的な接触は短い握手だけといった最小限にしか行われず,それも掌部を軽く接触させるだけである。
Ray Daw, Consensus Panel Member.
 もしあなた方が聞き返すことをせず,指示と判断を押し付けるようなことがあれば,治療上の協力関係を損なう障壁を作ることになる(Miller and Rollnick, 1991)。そしてクライアントは立ち止まったり,わきへ逸れたり,方向を変える等の反応を示すであろう。その様な共感がない場合の反応が見られる場面として12の状況が確認されている(Gordon, 1970)

  • 命令又は指示;
    指示が権威に満ちた声でなされた場合で,話し手は権力のある地位に位置するであろうし(例;親,雇用主),言葉も単に権威じみて発されただけのものである。
  • 警告や脅し;
    メッセージは命令と同様であるが,助言や指示がなされなければあからさまに,又は暗に治療の失敗を意味する脅しをもつものとなる。この脅しはクライアントが従わない場合に臨床家が使うものであり,あるいは単に不成功を予告するものである…例,"私の言う事を聞かないと後悔しますよ"。
  • 助言,示唆,解決方法等が時期尚早に,もしくはクライアントが求めもしないのに与えられる;
    メッセージが臨床家の知識や個人的経験に基づいて行動を勧めるもので,これらの勧告は通常「私が行うとすれば…」といった語句で始まる。
  • 理詰めの,論争する様な,講義する様な説得;
    このメッセージの根底には,クライアントがまだ問題を理論的に考えておらず,考えるための手助けを必要としているという推論がある。
  • クライアントの義務について説教すること;
    これらの言葉の中には道徳的な指示を行うための"○○ねばならない"や"○○しなければいけない"が含まれている。
  • 審判,批判,反対,非難;
    これらのメッセージはクライアントやクライアントが言った事の何かが悪い事を意味する。単純な意見の食い違いでも深刻に受け止められるかもしれない。
  • 同意,是認,称賛すること;
    驚いたことに,クライアントが言った事を何でも認め同意すると,称賛や是認でも障害物となり得る。求めもしない是認は話し手と聞き手の間の,意志の疎通を妨げ不平等な関係を作り上げてしまうこともある。聞き返しには同意は不要である。
  • 恥じさせること,笑い者にすること,レッテルを貼ること,馬鹿にすること;
    これらのメッセージは明らかな不賛成を示すもので,ある行動や態度を直そうとする意図がある。
  • 解釈又は分析すること;
    臨床家達は頻繁に,安易に自分達の解釈をクライアントの言った事の上に押し付け,何かその中に隠れた分析的な意味を探し出そうとする。解釈的な供述を行うとあたかも臨床家がクライアントの本当の問題が何であるかを分かっている様に見える。
  • 安心させること,同情すること,慰めること;
    臨床家達はしばしば慰めにより,クライアントの気分を良くしたいと思うが,この安心は意志伝達の流れを止め,注意深く聞くことの妨げとなり得る。
  • 質問又は調査すること;
    臨床家達は"質問すること"を"良く聞くこと"と誤解する。臨床家達はクライアントについて,より多くのことを学び知る為に質問を行うのであろうが,その根底にある意味が充分な質問さえすればクライアントの全ての問題に対する正しい答えが見つかるものと考えている。実際集中的な質問により自発的な意志伝達の流れが妨げられ,クライアントではなく臨床家に向かう流れに変わってしまう。
  • 撤回すること,注意をそらすこと,調子を合わせること,話題を変えること;
    ユーモアはクライアントの心を動機づけの主題や脅威となる問題から引き離す試みとはなるが,同時にクライアントの意志伝達の方向を変えるものとなり,又クライアントの供述が重要ではないことを意味するものとなる。

 共感を表現する際には,民族的,文化的違いを考慮しなければならない。なぜならば,それらはあなた方とクライアントが言葉や他の方法による意志伝達をどの様に解釈するかという点に大きな影響を与える為である。

アフリカ系米国人に対する共感の表現

 私がアフリカ系米国人のクライアントに共感を示す一方法として真っ先に挙げるものは,真の人(単なるカウンセラーや臨床家としてではなく)になることがある。クライアントはあなたに(専門家としてでない,人としてのあなたに),世界の中にあなたの位置付けを行う為に質問することで協力関係を築き始めるであろう。それはあたかもクライアントの内面の声が次の様に言っている様である。"私を理解しようとする際には,どの様な経路で,どの様な見方で,どんな人生経験を持ってそしてどんな価値観を持って理解に到達しようとしているのか?"私のアフリカ系米国人が行った典型の質問とは以下の如くである。

  • あなたはキリスト教信者か?
  • あなたはどこの出身か?
  • 町のどこに住んでいるのか?
  • 友達は誰か?
  • 結婚しているのか?

 これらは全て臨床家との間に真の,たくらみのない人間関係を築き上げるのに理にかなった質問である。時には民主的な協力関係の一部として,クライアントは臨床家についての正しい文化的な期待を持つ。

 一方アフリカ系米国人は非常に精神的な人々である。この精神性は宗教上の提携にとって代わる方法で表現され実行される。若い人は自分の胸を叩いて「あなたを感じる」と言うがこれは共感を表現する一方法である。このことを理解し利用すると臨床家は共感を表現する力を増強できる。換言すれば,クライアントと臨床家との間の治療上の協力関係が深まり,ある者からは直感的な理解と,又ある者からはクライアントとの精神的なつながりと呼ばれるもう一つのレベルの"共感を持った関係"を築くことができる。出てくるものは治療上の同盟関係…精神的関係…であり,これは単なる言葉による意味付けを越えたものである。臨床家達がアフリカ系米国人側に立って自己表現をすればする程…直感的と呼ぶか精神性と呼ぶかに関係なく…アフリカ系米国人のクライアントはより強い共感的つながりを感じることになる。
Cheryl Grills, Consensus Panel Member

Develop Discrepancy(食い違いを発展させること)

 クライアントが自分達の現在の状況と未来への希望との間の食い違いを認識すれば,変化への動機づけは増強される。あなたの仕事はクライアントを現在の行動がいかに理想的なものと食い違っているかという点に集中して注意を向けさせる手助けを行うことである。食い違いを目立たせるには,まず問題ある行動が個人に,家族にそして地域社会にとって負の結果をもたらすということをクライアントに認識させ,そしてその負の結果をもたらしている物質使用に立ち向かわせる手助けをすることである。クライアントに食い違いを気付かせる手助けは困難であるが,注意深く選別された戦略的な聞き返しにより食い違いを強調できる。行動とクライアントとを切り離して扱い,クライアントにどんなに大切なゴール(例,健康,幸福な結婚,経済的成功)が物質使用により害されているかを探る手助けを行うこと。この為にはクライアントの社会,家族そして教会との結びつきや価値観についての供述を注意深く聞く必要がある。クライアントが個人的な行動についての懸念を表明した場合には,その懸念を強調して,食い違いに対するクライアントの理解と認容を高めてやること。
 一度現在の行動によってもたらされる,又はその可能性のある結果が重大な個人の価値観と対立することを理解し始めたならば,クライアントが常に不安を表明し変化に傾倒するまでその食い違いに焦点を合わせて,そしてそれを増幅し続ける必要がある。
 クライアントが食い違いに気付くのを手助けする一つの有用な戦術は時々"コロンボアプローチ"と呼ばれる(Kanfer and Schefft, 1988)。このアプローチは特にコントロールされたがるクライアントに有用である。本質的に臨床家達は理解を示し,クライアントの問題点を常に分類しようと求めるが,何の解決策を見出せない様である。確信の持てない混乱した態度はクライアントを動機づけて,臨床家に解決策を提供することによりその場の支配権を握る(Van Bilsen, 1991)。
 談話以外の道具も食い違いを明らかにするのに使用できる。例えばクライアントにビデオを見せてそれについてクライアントと討論すること。クライアントにとって意味のある,並置する異なったメディアのメッセージやイメージも又効果的となる。この戦略は特に思春期のクライアントに有効であるが,それは討論と反応の刺激を提供してくれる為である。
 あなた方はクライアントが,多くの違うレベル…肉体的から精神的なものまで…又違う領域…態度から行動まで…の食い違いに気付く手助けができる。この為には個人の価値観のみならず,地域社会の価値観を理解する事が有用となる。例えば物質使用はクライアントの個人的な主体性や価値観と対立するかもしれないし,より大きな社会の価値観と対立するかもしれない;精神的な又宗教的な信念と対立するかもしれないし,クライアントの家族と対立するかもしれない。この食い違いは物質使用行動をクライアントにとっての家族,宗教団体,地域社会との結びつきといった重要なものと比較することにより明瞭化できる。

食い違いを発展させること

  • 結果について知る事はクライアントが自分達の行動を吟味する手助けとなる
  • 現在の行動と重要なゴールとの間の食い違いは変化の動機づけとなる
  • クライアントは変化のための討論を行うべきである

出典: Miller and Rollnick, 1991

クライアントの文化的背景が食い違いの認識に影響を及ぼす。例えば,アフリカ系米国人は中毒を"化学の奴隷"と見なすかもしれないし,それは彼らの民族的プライドと対立するもので,集団的な抑圧の歴史を克服したいと熱望するものになるかもしれない。更にアフリカ系米国人は白人と比較して,大きな宗教団体や精神的社会から表現された価値観により強く影響される。最近の,思春期に焦点を合わせた研究では,アフリカ系米国人の著者は他の著者達と比較して,喫煙を民族的プライドに対立するものと見なす傾向がはるかに高いとされた(Luke, 1998)。彼らは,この対立が喫煙をしない重要な理由であると示している。

コロンボアプローチ

 時々私はこのコロンボアプローチと呼ぶ方法をクライアントの食い違いを発展させるのに用いる。昔の"刑事コロンボ"シリーズではPeter Falk扮する刑事は,事の真相に気付いているにもかかわらず,最重要容疑者に質問する際,ある程度へまに見える様な気取らないソクラテススタイルを用いるが,戦略的に質問を重ね,聞き返したことをつなぎ合わせて最後に実際に起こった事を描きあげる。各断片が本来の位置にはめ込まれ始め,コロンボの調査の対象物が真相を暴くことになる。

 このコロンボアプローチを用いて,臨床家は謎を解こうとしているが,手がかりが増えずに苦労している刑事の役を務めるのである。この"コロンボ臨床家"はクライアントを謎解きに参加させるのだ。

例#1:"うーん,そこを説明してください。あなたは今娘さんを手元に置いて良き親となることが最も大切と言いましたが,どうすればヘロインを使用する事が良き親であることと一致するのですか?"

例#2:"そうです,あなたは時々ウィークデーに飲酒し,仕事に行けなくなります。先月は5日も休みました。しかしあなたは自分の仕事が楽しいし,職場でうまくやることはあなたにとって非常に重要なのです。"

 両方のケースにおいて臨床家は混乱した様子を呈しているが,これによりクライアントが臨床家を引き継いで喋ることになり,どの様にこの対立する要求同士が合致するかを説明することになる。

 コロンボアプローチの価値は,臨床家よりもクライアント自身に食い違いと取り組ませ,それを解決しようとしむけることである。このアプローチにより,クライアント自身が彼らの行動や価値観の中においては専門家となるという認識が強められる。実際クライアントだけが食い違いを解決できるのである。しかしもし臨床家がクライアントに代わって食い違いを解決しようとすれば,臨床家は誤った解釈を行い,クライアントの考え方を聞こうとせずに自分達の独り善がりの結論を急ぎ,そして最も重大なことであるが,クライアントを変化の過程の積極的な参加者でなく消極的なものにしてしまうリスクを持つ。
Cheryl Grills, Consensus Panel Member

Avoid Argument(論争を避けること)

 あなた方は時々クライアントが変化について確信を持っていなかったり,変化の意志がない場合,特にクライアントが敵意を抱いたり,反抗的であったり,挑発的であったりした場合には論争するかもしれない。しかし,クライアントに問題が存在し変化が必要であることを,納得させることは忍耐の積み重ねでもある。もしあなたが核心を示そうとすると,クライアントは恐らく反対の態度をとるであろう。クライアントと論争になればそれはすぐにより激しい戦いに後退し,有益な変化への動機づけは増強されなくなる。変化への議論を口にするのがあなたではなく,クライアントである場合に前進がみられる。ゴールはクライアントと伴に"歩く"こと(例;治療の間中クライアントのお伴をすること)でクライアントを"引きずる"(例;直接治療)ことではない。
 論争となる一般的な分野として,クライアントが"アルコール中毒"とか"薬物乱用者"といったラベル付けを受け入れたがらない点があげられる。MillerとRollnickが下記の如く述べている:
 セラピストが無理にクライアントにラベル付けを受け入れさせたり,そのように説得する特別な理由はなにもない。クライアントが拒否したり,抵抗したり,中毒であることを責めることは変化の動機づけを教え込むというよりむしろ抵抗を強めることになる。我々が主張することは,クライアントがどの位置にいようと,論争ではなくより効果的な方法を用いることでクライアントと一緒にスタートし,彼らの自己認識を変えていくことである。(Miller and Rollnick 1991, p59)
 以上のことは,クライアントは自分でラベル付けを行う様説得されるべきである,という幾人かの臨床家の信念と対立するものであるが,アルコール匿名団体(AA)の"Big Book"内で提唱されているアプローチでは,ラベル付けは押し付けられるべきものではなく(AA, 1976),むしろ個人の自由選択であるとされている。

論争を避けること

  • 論争は実りのないものである
  • (自分が正しいと)主張しても防御的な状態を育てるだけである
  • 抵抗は変化の戦略に結びつく合図である
  • ラベル付けは必要ない

"出典Miller and Rollnick, 1991"から許可を得て掲載

Roll With Resistance(抵抗を手玉にとること)

 抵抗が臨床家にとって懸念となるのはもっともなことである。というのも抵抗は実りのない治療と治療過程に入っていないことを予告するものとなるためである。抵抗の一つの見方は,クライアントが挑戦的にふるまっているということであり,もう一つは,抵抗とはクライアントが状況を違った角度から捕らえているというサインであるという見方である。後者の考えでは,あなた方はクライアントの観点を理解し,そこから着手して続けることが要求される。抵抗とはあなたに方向を変換し,クライアントの言う事をより良く聞くようにと語る信号である。実際には抵抗はあなた方が新しい,多分驚くべき方法に反応する機会と,対立することなしに状況を優勢に運ぶ機会を与えてくれる。抵抗に順応することは論争を避けることに似ている。それは抵抗がみられる場合,非批判的で敬意を表する立場にとどまり,クライアントが語り治療に参加する様に励ますことにより,共感を表現する機会が与えられる。出来る限り抵抗を引き起こさない様に努め,クライアントが抵抗に注ぐエネルギーを正方向の変化に向けて方向転換させることである。
 クライアントの抵抗をどう認めるか?Figure3-2にクライアントが治療に抵抗していることを示す4つの一般的な行動について述べられている。どの様に論争を避け,抵抗に順応するか?Millerとその仲間はクライアントの抵抗に適切に応じる方法を少なくとも7つ確認し,実例を呈示した(Miller and Rollnick, 1991; Miller他, 1992)。これを下記に示す。

Simple reflection(単純な聞き返し)

 抵抗に応じる最も単純な方法は無抵抗をもって行うことで,クライアントの言葉を中立の形で繰り返すことである。これによりクライアントが言った事が容認され,価値付けられ,そして抵抗と違う反応を引き起こすことができる。

クライアント:"私は時々禁酒しようなどとは絶対に思わない。"
臨床家:"あなたは,今は禁酒などあり得ないと思う。"

Amplified reflection(増幅した聞き返し)

 もう一つの戦略はクライアントの言葉を誇張して繰り返すこと…より極端に,しかし皮肉を込めない様に述べることである。これによりクライアントを抵抗から正方向の変化に動かすことができる。

クライアント:"私はなぜ妻がこれについて心配しているのか分からない。私は友人の誰よりも多く飲酒していない。"
臨床家:"それではあなたの奥さんは無用な心配をしているのですね。"

Double-sided reflection(二面性を持った聞き返し)

 第三の戦略はクライアントが言ったことを認めつつも,そのクライアントが過去に述べた反対の言葉を繰り返すことである。この為にはクライアントが過去に,違う話し合いの中でも良いが,話したことについての情報が必要となる。

クライアント:"あなたが私に禁酒させようとしていることは分かるが,そうしようとは思わない!"
臨床家:"あなたは本当に問題があることは分かっていて,禁酒することを考えようとしない。"

Shifting focus(焦点をずらすこと)

 クライアントの焦点を障害物や障壁からそらす手助けをする事で,抵抗を和らげることができる。この方法は,あなたのクライアントの人生運営に関する個人的選択を確かめる機会を与えてくれる。

クライアント:"友達がみんなやっていれば私もマリファナを止めることはできない。"
臨床家:"あなたは先走っている。我々はまだあなたが大学に行くか否かについての悩みを探っている段階で,まだマリファナがあなたのゴールに合うかどうかを決定する段階には達していない。"

Agreement with a twist(ひねりを持った同意)

 巧妙な戦略としてクライアントに同意するが,話し合いを前に押し進める微妙な方向転換やひねりを持って行うものがある。

クライアント:"なぜあなたや私の妻は私の飲酒に関心を持つのか?彼女の問題はどうなんだ?あなたも家族から口やかましく言われたら,飲みたくなるでしょう。"
臨床家:"良い点に気付きましたね。それは非常に重要なポイントです。ここにはより大きな場面があり,私は恐らくそれにあまり注意を払ってなかったと思う。それは一人の飲酒という様な単純なものではない。あなたに同感です。私たちは誰か一人を非難するというやり方をしてはいけない。飲酒問題は家族全員を巻き込んでいるのです。"

Reframing(組み立て直すこと)

 クライアントが個人的な問題の存在を否認する時に使うべき良い戦略は,組み立て直しである。これはクライアントからの否定的な情報についての,新しい正方向の解釈を提供することである。組み立て直しとはクライアントの生の観察を認めながら,それに新しい意味付けを行うものである。(Miller and Rollnick, 1991 p107)

クライアント:"私の夫は常に私の飲酒にうるさく口を出し,私をアル中と呼ぶ。本当にいらいらする。"
臨床家:"あなたのご主人は本当にあなたの事を心配している様に見えます,たとえあなたを怒らせる様な言い方をしていても。我々は,彼がいかにあなたを愛し,あなたの事を気にかけているかという事を,より正方向の受け入れられる形で表現できる様になる手助けができると思います。"

別の例では,アルコールに対する比較的な耐性という概念により,問題を持つ飲酒者を組み立て直す良い機会が与えられる(Miller and Rollnick, 1991)。多くの大量飲酒者は自分の事をアルコール中毒と考えていない。なぜなら,彼らは酒を飲んでも酔わない為である。あなたが,耐性がプライドではなくむしろ危険因子で警戒信号であることを説明すれば,無効と感じる意味についてのクライアントの見方を変えることができる。従って組み立て直すことは教育的であるばかりでなく,クライアントのアルコールの経験に新しい光を放つことになる。

抵抗に逆らわずに進むこと

  • はずみは事を優勢に運ぶのに利用できる
  • 認識は変えることができる
  • 新しい見方は招くべきものであり,押し付けるものではない
  • クライアントは問題解決のための価値ある資源である

出典: Miller and Rollnick, 1991

Siding with the negative(負の側に味方すること)

 クライアントの抵抗に順応するもう一つの戦略として"負の側に味方すること"があるが,これは討論における負の意見を取り上げることである。これは"逆の心理学"でもないし,"治療上の逆説"における様に症状以上に処方をすることの倫理的困惑をも意味しない。特に負の側に味方することは,変化に反対する議論の際にクライアントが言った事を述べることであり,それは恐らく増幅された聞き返しと同様のものであろう。もしあなたのクライアントが両価感情を持っている時に,あなたが議論の負の側をとれば,クライアントは"はい,でも…"と言い,次に反対の(正の)側の意見を述べる。しかし注意しなくてはらならいことは,この方法を使う時期が早過ぎないことと,抑うつ状態のクライアントに用いないことである。

クライアント:"ええ,私のことを飲み過ぎと思っている人がいることは知っていますし,私の肝臓はダメージを受けているかもしれません。でも私は自分がアル中で治療が必要とは思いません"
臨床家:"私達はかなり長い時間を費やして,飲酒に対する正の感情や懸念を検討してきましたが,あなたはまだ準備段階ではなく,又自分の飲酒を変えようとも思っていないようです。恐らくあなたがこのままでいたいと思うのであれば,変化することはあなたにとって難しすぎるでしょう。とにかく,あなたが変化したいと思っても,変化できると確信しているとは私には思えません。"

Support self-efficacy(自己効力感を支持すること)

 多くのクライアントは良く発達した自己効力感の感覚を持っていないし,自分達が行動の変化を開始し維持できると確信するのは難しいことが分かる。自己効力感を高める為には希望,楽観視,変化を遂げる可能性を引き出し,維持する必要がある。この為にはあなた方はクライアントの強さを認め,その強さを必要時にはいつでも中心に持ってくる必要がある。もしクライアントが,変化が可能であると信じなければ,変化への要求と変化を遂げられないという失望感の間の差を感じ,その結果不快感を減らす為に正当化と否定が生じてくる。自己効力感が行動変化の重要な要素であることから,あなた方臨床家も又クライアントのゴールに到達できる能力を信じることが鍵となる。
 たとえクライアントが治療プログラムから脱落していたり,一時物質使用を中止していた後再び使用を始めたりしていても,クライアントにとってまだ魅力的な治療や変化の選択肢について検討することは通常役に立つ。又同様の状況にいる人が,どのようにしてうまく行動変化ができたかと話すことも有用となる。他のクライアントはモデルとして役に立ち勇気付けになる。それでも最終的には,クライアントは変化が自分達の責任であり,長期に亘る成功も一歩の前進から始まることを信じなければならなくなる。アルコール匿名団体のモットーである"一回に一日"は,クライアントができると信じる当面の小さな変化に集中し,従事するのに役立つ。
 教育によりクライアントの自己効力感の意識を高めることができる。信用できる,理解できる,そして正しい情報はどの様にして物質使用が乱用と依存症に進行するかをクライアントに理解させるのに役立つ。依存症の生物学と物質使用の医学的効果をクライアントの経験と関連付けることにより,恥と罪の意識を軽減させて,適切な方法と道具を用いれば,回復が達成されるという希望を植え付けることができる。最初は圧倒的すぎて希望がもてないと思った過程が,回復に向かう到達可能な小さな一歩に分解できる。

自己効力感

  • 変化の可能性を信じることが重要な動機づけ因子となる
  • クライアント個人に変化を選択し施行する責任がある
  • 利用可能な代替アプローチの範囲内に希望がある

出典Miller and Rollnick, 1991許可を得て掲載

Five Opening Strategies For Early Sessions
(早期の話し合いのための最初の5つの戦略)

 動機づけインタビューを好んで取り入れる臨床家達は,次で検討する5つの戦略が特に治療の早期において有効であることが分かっている。それらは前のセクションで述べられた5つの原則に基づいたもので,それらは共感を表現すること,食い違いを発展させること,論争を避けること,クライアントの抵抗に立ちはだからず順応すること,そして自己効力感を支持することである。クライアントが自分達の持つ自然な両価感情を扱う手助けを行うことが良いスタート地点である。これらの最初の戦略は,あなたのクライアントに対する支援を確実なものにし,クライアントが自分の両価感情を安全な場面設定下で探る手助けとなる。クライアントを中心としたカウンセリングから出てきた最初の4つの戦略は,クライアントが自分達の持つ両価感情を変化への理由を探るための手助けとなる。5番目の戦略は動機づけインタビューに特有なものであり,他の4つを導き統合するものとなる。
 治療上の話し合いの初期には,まずあなたのクライアントの変化に対する準備性の度合いと変化の段階を測るべきである(第1章, 第4章, 第8章を参照)。特定の変化の段階に,時期尚早に焦点を合わせたり,クライアントに会う場面設定に合わせる為,特定の段階にクライアントがいると推定したりすることは避ける。既に述べた様に,ある特定の変化の段階に対し,不適切な戦略を用いたり,クライアントの要求に関しての不正確な認識を形成したりすることは有害となり得る。従ってクライアントの準備性を十分に調べてしまうまでは,カウンセリングのゴールを見極めようとしないことである。

Ask Open-Ended Questions(答えが自由に選べる質問をすること)

 答えが自由に選べる質問をすることは,クライアントの見方を理解する手助けとなり,ある与えられた話題や状況に対する感情を引き出す。この種の質問は対話を促進する;つまり一つの語や句で答えられるものではなく,ある特別な反応を要するものでもない。それは中立の立場で,新たな情報をせがむ手段となる。この種の質問はクライアントを励まして喋りの殆どをさせ,あなた方に時期尚早な決定を下させることを防ぎ,そしてコミュニケーションを前進させる(Figure3-3参照)。

Listen Reflectively(聞き返すこと)

 動機づけインタビューの根本的な構成要因である聞き返しは,クライアントの言う事を繰り返し述べることで,あなたがそれを正確に聞き取り理解したことを証明する挑戦的な技量である。それはあなたにとってクライアントが伝えたいと思っている事を思い切って推量することであり,それを質問としてではなく聞き返す言葉で表わすものである。"聞き返しとは,クライアントの言った事が理解できたと思うのではなく,できたか否かを点検する方法である"(Miller and Rollnick, 1991, p75)
 聞き返しにより臨床家とクライアントの間の共感をもった関係が強化され,問題と感じ方を更に探究する勇気を与えてくれる。この形のコミュニケーションは特に初期のカウンセリングに適切である。聞き返しは内容と過程の合成物を提供することで,クライアントの手助けになる。聞き返しは抵抗を起こし難くし,クライアントに話し続ける勇気を与え,敬意を伝え,治療上の同盟関係を固め,クライアントが何を言いたいかを明らかにし,そして動機づけを強化する(Miller他, 1992)。
 この過程には途方もなく大きな流動性があり,あなた方はクライアントの正方向の考えを強化する為に聞き返しを使用できる(Miller他, 1992)。以下の対話は有効な聞き返しを例証することになる臨床家の対応の例である。本質的に真の聞き返しを行う為には,絶えず注意深くクライアントの言葉,又は言葉以外による反応を見つめその意味を掴むこと:適切な複雑さで聞き返すことそして仮説を適応させ続けることが必要である。

臨床家:あなたは自分の飲酒について他に心配事がありますか?
クライアント:さあ,私は飲酒についての不安があるかどうか分かりませんが,時々飲み過ぎではないかと思います。
臨床家:何に対して過ぎるのですか?
クライアント:私自身のためにでしょう。本当に深刻というものではありませんが,朝目覚めれば時々ひどい気持ちになり,朝一杯正しい思考ができないことがあります。
臨床家:あなたの思考,集中力を乱してしまう
クライアント:そうです。そして時々物事を思い出すのにも苦労する事があります。
臨床家:そしてあなたはそれが飲み過ぎの為ではないかと思うのですか?
クライアント:ええ,時々そうだと分かります。
臨床家:あなたは良く分かっていますが,もっと他にあるのでは?
クライアント:ええ,飲んでいない時でさえも時々頭が混乱することがあり,飲酒の為ではないかと思います。
臨床家:…ではないかと思う?
クライアント:恐らく私の脳がアルコール漬けになっているのでしょう。
臨床家:そういう事が人に起こり得るし,あなたにも起こっていると思うのですね?
クライアント:え,起こり得ないのですか?私はアルコールで脳細胞を殺すと聞きましたが。
臨床家:ふーむ,なぜ飲酒に悩んでいるか分かりました。
クライアント:でも私はアル中でも何でもないと思っています。
臨床家:あなたは自分がそんなに悪いと思っていない。でも,飲み過ぎではないか,又その為に自分を害しているのではないかと思っているのですね?
クライアント:はい,そうです。
臨床家:恐ろしい話です。他に心配事はありませんか?

Summarize(要約すること)

 ほとんどの臨床家は,カウンセリングでの話し合いの中で起こったことを定期的に要約する事が有用であると分かっている。要約とはクライアントが表現したことの本質を引き出し,それをクライアントに伝え返すことから成り立っている。"要約は言われた事を強化し,あなたが注意深く聞いていた事を示し,そしてクライアントに前進する心構えをさせる"(Miller and Rollnick, 1991, p78)。クライアントの物質使用に対する正と負の感情に結びついた要約は,最初の両価感情の理解を促進し得るし,食い違いの認識を助長する。要約は又各カウンセリングの話し合いを始めたり終えたりする際の良い方法であり,クライアントが変化のある段階から次の段階に移る時に自然な架け橋を提供してくれる。
 要約することは又,戦略的目的を提供する。まとめを呈示する時,どの情報が含まれるべきか,どれを縮小又は捨てるべきかを選択できる。クライアントによる要約の訂正を取り入れるべきで,これによりしばしば更なる批評と検討を導き出すことになる。要約することはクライアントが自分達の反応について考え,自分達の経験を熟考する手助けとなるし,更に又あなた方とクライアントに何が見逃され,何が間違って述べられていたかに気付かせる機会を与えてくれる。

Affirm(肯定すること)

 誠意を持ってすれば,あなたのクライアントを肯定することは,自己効力感を支持し促進することになる。更に広い意味ではあなたの肯定により,クライアントが経験してきた困難を認めることになる。肯定するときあなた方は"〜と聞きました,〜と理解しました"と言い,クライアントの経験と感情を確認することになる。肯定することはクライアントが行動を起こしたり変化したりするための,内に秘めた力を整理する自身を持たせる手助けとなる。クライアントの強さ,成功,力を実証する過去の経験を強調することは落胆防止になる。多くのアフリカ系米国人といったある種のクライアントにとっては,肯定することは精神的な状況を含む。彼らの内に秘めた指導的精神と信念を肯定することは,彼らの両価感情を解決する手助けとなる。肯定する声明のいくつかの例を下に示す(Miller and Rollnick, 1991)。

  • ここに来る決心をした事は,あなたにとっていかに大変であったかを認めます。あなたは大きく前進したのです。
  • あなたがこの問題に対して何かをやりたいと思ったことは偉大なことだと思います。
  • それはあなたにとって非常に難しかったに違いないと思います。
  • その問題を持ってこの長い間生きてこられたのは,あなたはきっと力にあふれた人に違いない。
  • それは良い提案です。
  • その様にストレスに満ちた一日一日を受け入れる事はあなたにとって困難であるに違いないでしょう。もし私があなたの立場であっても同じ困難を覚えるに違いないと言わざるを得ません。
Elicit Self-Motivational Statements(自己動機づけの言葉を引き出すこと)

 クライアントを変化の過程に引き入れることが動機づけインタビューの根本的な仕事である。問題を確認し,それを解決する道を探すことを促進するよりも,あなたの仕事はむしろクライアントに人生がどんなにより良いものか認識させ,そうなる様努めさせる手助けを行うことである。
 あなたの役目は,クライアントに自分の心配事と意図を口に出して言わせることで,変化する事が必要であると納得させることではない事を覚えておくこと。動機づけインタビューを成功させる為には臨床家ではなくクライアント自身が最終的に変化に賛同し,進歩したいと思い,それができると自分自身に言い聞かせることが必要である。クライアントの両価感情と抵抗が減少していることを示す一つの信号に自己動機づけの言葉がある。

4つのタイプの動機づけ声明が確認される(Miller and Rollnick, 1991)

  • 問題の認識(例:"これは私が思う以上に重大ではないかと予想する")
  • 認識した問題に対する懸念の感情的な表現(例:"私は自分に起こっている事を本当に心配している")
  • 行動を変えたいという直接の又は暗黙の意志(例:"これに対して何かしなければならない")
  • 人の変化する能力についての楽観視(例:"もしやろうと思えば本当にできると分かっている")

(Figure3-4)に,どの様にすれば自己動機づけの主張と区別できるかを示す。あなた方はクライアントの言う事を反復し,うなずき,表情による表現を認め,そして肯定する声明を出すことで彼らの自己動機づけ声明を強化できる。クライアントが変化の可能性を探り続ける様励ますべきである。これを為し遂げるためには,残っている心配事についての詳細,実例を教えてくれる様に彼らに求めることである。"他に何か"で始まる質問は更なる増幅を招く効果的な方法である。時々クライアントに問題の極端な点を確認する様に頼む(例;"あなたは何を最も不安に思っているか?")ことで彼らの動機づけを強化することができる。もう一つの効果的な方法は,クライアントに将来に何を期待するか,心に描いてくれる様に頼むことである。そこからクライアントは特別なゴールを確立することができるであろう。(Figure3-5)に,あなたがクライアントから自己動機づけを引き出す為に有用な質問のリストを載せてある。

Effectiveness of Motivational Interviewing(動機づけインタビューの有用性)

 動機づけインタビューを行った11ヶの臨床試験についての,最初のレビューの結果は"動機づけインタビューは有用な臨床的介入であり,「更に」効果的,有用かつ採用すべき治療形式であり,更なる発展,応用,研究の価値がある"(Noonan and Moyers, 1997, p8)とされた。動機づけインタビューは動機づけ増強方法の原則を,第2章で述べたいくつかの短いインタビューよりも更に接近して反映したもので,それらの基本的な教訓を変化の段階別モデルに結び付けるものでもある。
 再調査された11の研究のうち9研究では,動機づけインタビューを施行した群が,未治療群,通常の治療群,より広範な治療群,もしくは介入待ちリストの上の群よりも有効な結果であったことを示していた。他の2つの研究は動機づけインタビューの有効性を支持す0るものではなかったが,調査した者の意見によれば,その2つの研究では施行者が権威じみた方法で助言をクライアントに与え,又適切に訓練されていなかった可能性もあることから,本法の精神が適切に守られていなかったかも知れないとしていた(Noonan and Moyers, 1997)。更にそのうちの一つには多くの脱落者が含まれていた。2つの研究では動機づけインタビューの効果を支持していたが,それは飲酒についてのフィードバックは与えられているが,その後の医療的関心が払われていない,自己確認した不安を持つ飲酒者にのみ利用できる孤立した介入法であるとしている。3つの研究では動機づけインタビューの効果を従来の治療法を増強するものとして認め,5つの研究では,その有用性を他疾患の治療に臨んでいるクライアントに対し,物質使用量を減少せしめる効果を持つものと結論づけ,更に一つの研究ではマリファナ使用者に対して短い動機づけインタビューが,より集中的な他の治療法よりも有効であったと結論していた。

Motivation Interviewing and Managed Care
(動機づけインタビューとマネージドケア)

 動機づけインタビューはその有効性に加え,医療費抑制が重大問題化している場面にも適用できるという意味で有益となる。動機づけインタビューのアプローチは以下の様な意味での,管理された治療に特に適合する:

  • 低費用:
    動機づけインタビューは最初から短い介入としてデザインされており,通常2回〜4回の外来患との話し合いで終了するものとなっている。
  • 効果:
    動機づけインタビューがリスクの高い行動を持つ者にとって,変化の引き金となることを示した強力な証拠がある。
  • 有効性:
    短い動機づけカウンセリングによる多大な有効性が,広範囲に亘る医療現場で積み上げられてきた。
  • クライアントの持つ力を動かすこと:
    動機づけインタビューはクライアントの持つ変化への力に焦点を合わせるものである。
  • 治療供給への適合:
    動機づけインタビューは,クライアントとセラピストの間の長期間を要する治療関係ではない。一回の話し合いでも行動の変化を引き起こすことが分かっており,動機づけインタビューはより大きな治療体系内で供給することができる。
  • クライアントの動機づけを強調すること:
    クライアントの動機づけは変化への強力な預言者となるため,本法ではクライアントの変化への動機づけを最も強調する。従ってクライアントは長期間治療コースにいなくても(しばしば物質乱用治療には長期を要する),最初の2〜3の話し合いにより彼らにとって手助けとなるものが得られてきた。
  • アドヒアランスの増強:
    動機づけインタビューは,他の治療法に気付かせる前兆となる。つまり本法によりアドヒアランスが強まり,治療効果が改善される。
  1. 薬物依存治療動機づけ
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