原井宏明の情報公開
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第6章 準備段階から行動段階へ

Treatment Improvement Protocol (TIP) Series 35
Enhancing Motivation for Change in Substance Abuse Treatment

  1. 薬物依存治療動機づけ
  2. 第1章 | 第2章 | 第3章 | 第4章 | 第5章 | 第6章 | 第7章 | 第8章 | 第9章 | 第10章 | Appendix A

スタートするにあたって

 強く傾倒しているだけでは変化は保証できない。不幸なことに情熱では愚かさを補えない…適切な処理技術や行動力を欠いた傾倒からは希薄な行動計画しか生まれない…問題や落とし穴を予測することがしっかりした問題解決技術につながる様である(Diclemente, 1991)。

 準備段階の最後になると、クライアントは自分を行動段階に導く為に変化に向けての計画を立てる。この章では、この特異的な変化の計画についてクライアントを交渉することに焦点を当てる。長く続いた習慣性の行動はいかなるものでもそれを支えるためには準備と計画が必要である。あなたのくらいなんと立ちが人生において考慮から実際の変化に移動する時、彼らは中間期に存在することになるがその時期に彼らは両価感情を探り、明確にしてそして解決することと行動を起こす決心をすることにより変化への傾倒を強くする。超理論的モデルではこの段階は準備段階として知られている。クライアントは行動段階に移る前は変化を最良の興味でもってとらえているに違いない。準備段階を無視することの負の結果として短い行動段階の後に物質使用に逆戻りすることがあり得る。

 準備段階の間にあなたの仕事は広がる。以前あなた方が動機づけ戦略を準備性…前考慮段階と考慮段階のゴールである…を増強する為に使用した場所で、今はその戦略をクライアントの傾倒を強化し、クライアントが変化の決意を固める手助けを行うのに使用するであろう。
 変化に傾倒し変化が可能であると信じるクライアントは行動への準備ができている。

 準備段階ではクライアントと臨床家には、評価を知らせることによる個別化されたフィードバックからの重要な知識が備わっているがこれについては第4章で述べられる。第5章で述べられている行動や戦略は、クライアントの変化への傾倒を固めることと行動段階へ移動する計画を立てるための場面を決定する事を意図したものである。ここではクライアント達は、物質使用が彼らの人生の多くの場面にどんな影響を与えるかということをより明確に描かねばならず、彼らは物質使用を続けた結果のいくらかを既に認識し始めるべきであった。
 更に多くのクライアントは治療上の同盟関係が育って行く時につきものの希望的な可能性を感じる。もしあなたが動機づけインタビューの原理を練習していたならばクライアントは自分達が変化についての感情と考えを得るのに安全な環境にいること、そして自分達が変化の過程に支配されているということを認識するはずである。

 この章では、クライアントに選択肢のメニューを呈示すること、変化を遂げる為の契約を行うこと、行動に移る際のバリアーを確認しそれを低くすること、社会的サポートを得ること、そしてクライアントが治療に参加することがどの様なものかという期待を持つ手助け行うこと等により、クライアントといつ、どの様にして変化のプランにつて交渉するかを説明し、そしてしっかりした計画を確立する方法を示している。

Recognizing Readiness to Move Into Action

 クライアントが準備段階の中を進んでいる時は、彼らの行動を起こす為の準備性の徴候を見逃さない様注意を払うべきである。クライアントにとって人生内の重大な矛盾点を認めることは長期間とどまるには不快な状態である。従って変化が不快感を減らすために始められることになるか、又はクライアントが極小化や否定といった防衛策へと返却するであろう。変化に対する単なる言葉だけの情熱は必ずしも変化への決意の徴候とはならない。準備性を熱烈に宣言するクライアントは自暴自棄になってあなた方及び彼ら自身にも自分達の傾倒を信じ込ませようとしているのかもしれない(Diclemente, 1991)。

以下に示すことは行動への準備性を示す確かな徴候である。

  • 抵抗の減少:クライアントが論争や話の腰を折ることや否定や反対等をしなくなる
  • 問題点についての質問がほとんどなくなること:クライアントは自分の問題点について充分な情報を得ている様に見え、質問をしなくなる
  • 解決:クライアントは解決に至った様になり、より平和で静かでリラックスして肩の荷を降ろした様で、又安定しているのかもしれない
  • 自己動機づけについての声明:クライアントがいつでも変化できるといった声明"何かしなくてはいけない"とか楽観的な声明"これらは克服できると思う"を出す
  • 変化についてより多くの質問:クライアントは自分達の問題に関して何ができ得るであろうかと、又人々が変化を遂げ様と決心した時、どの様に変化するか等といった質問をする
  • 未来の事を心に描くこと:クライアントは変化を遂げた後の人生がどういうものになるだろうかと語り始めたり変化が遂げられたとした場合の困難を予想し始めたり、変化により利点について検討し始める
  • 試み:クライアントにとって話し合いの合間の時間がとれていたら、クライアントは可能な変化へのアプローチを試み始めていたであろう(例 アルコール匿名団体への参加、自己救済書を読むこと、2〜3日間の物質使用中止)(Miller and Rollnch, 1991)。

Negotiating a Plan for Change

 変化に向けての計画を立てることはあなたのクライアントに行動の準備をさせる最終段階となる。変化に向けてのしっかりした計画によりあなたのクライアントの自己効力感を増強できるし、実際に行動に移す前に起こり得る障害物や変化の為の各戦略の結果について考える機会が提供される。
 更に周到に準備する事が一番の動機づけである…つまりどの様な状況においても周到に準備した人は通常行動開始を熱望しているものである。
 以下の方法により、変化のしっかりした計画についてクライアントと交渉できる。

  • 変化の選択肢のメニューを提供する
  • 行動についての契約を発展させる
  • 行動を起こす際のバリアーを低くする
  • 社会的なサポートのリスクを作る
  • クライアントに治療についての教育を行う

 第5章に傾倒を強化し、変化を予想するという意味でのクライアントのゴールを探る過程について述べる。変化の計画はクライアントのゴールを認識するためのロードマップと異なり得る。クライアントの中には変化を遂げる為に自分達ができる特殊な事柄について自発的に提案し始めたり、質問したりし始めものもいる。そうでないクライアントに対してあなた方は、以下の様な鍵となる質問をすることで彼らが提案するのを促進できる。
 "あなたは自分の飲酒や物質使用について何をしようと思いますか"とか"あなたはここまできたからには何をしようとしているのですか"等と。(第5章、鍵となる質問の一覧表)

 クライアントは自分達の懸念やゴールを反映した計画を作り出すであろう。それらの計画のほとんどは物質使用の中止や緩和に止まらず、成功を確実にすることに焦点の中心を当てている。又、計画は非常に一般的でもあり、特殊でもあり得るし、長期にわたることも、又短期でもあり得る。実際、クライアントの中には帰宅する、変化について考える、又はより進んだ話し合いをする為に特定の日に帰る等といった極く限られた計画にのみ傾倒できるものもいる。それら限定された短期の計画にもクライアントにリスクの高い状況を避ける手助けを行う特殊な段階や、しばらくの間うまく物事を処理する特殊な戦略が含まれる。

 あるクライアントの計画は外来治療やアルコール匿名団体に毎回参加する事を表明するといった簡単なものであるし、又他のクライアントは治療施設への移動や金曜の夜を過ごす為の代替方法工夫する様な計画を立てるものもいる。
  以下に検討する様に、成功への障壁で予測できるものを克服する特殊な手段は多くの変化への計画の重要な要素となる。

 計画の中には、一連の手段を設定したものもある。例えば、子どものいる母親で入院治療が必要な者は治療開始以前に子どもの世話に合わせた計画や、一時的な職場交替の為のトレーニングを行う為の一連の計画を立てるであろう。

 変化への計画はクライアントのものであるが、計画を作り上げることはあなたとクライアントの相互作用による過程である。あなたの仕事の中で最も大切なことの一つは、その計画が実行可能で有ることを保証することである。もし、クライアントが非現実的であったり、野心的過ぎたりあるいは意欲が足りない様に見える計画を提案してきた場合には交渉していく必要がある。以下に述べる分野は一般に見られる相互的な討論や交渉の一部である。

  • 必要とされる援助の程度と量…例えば自己救済グループだけを使用すること、集中的な外来治療に組み込まれること、又は2年間の治療集団に参加すること等
  • 時間枠…長期よりも短期の計画そしてその計画をスタートさせる日時
  • 利用できる社会のサポート…治療には誰が関係してくるか(例 家族、しらふになる為の女性、地域社会のグループ)、どこで行われるか(家庭で、地域社会で)そして、いつ行われるか(仕事の後、週末、一週間に二晩)
  • 一連の準ゴールと計画における戦略と手段…例えばまずマリワナを扱うことを止め、次にそれを吸うことを止める。まず友人や家族に計画を伝える為に電話し、そして次に彼らを訪ねる;まずリラックスするテクニックを学び、次に職場でストレスを感じた時にそのテクニックを使う
  • 多くの問題の扱い方…例えば法律上の、財政上の、そして健康上の問題の扱い方

 クライアントはあなたにその計画に参加する為の特殊な手段についての情報や助言を求めるかもしれない。それに対して正しくて特異的な事実を提供する様にし、常に彼らがそれを理解したか否かを尋ねる様にしなさい。"その事に驚きますか?"とか"それについてどう考えますか?"等と質問することで与えた情報に対するクライアントの反応を引き出すことは、又交渉過程に有用となり得る。

 クライアントらがどうすべきであると臨床家が考えているかをクライアントが尋ねるとき、臨床家はどのように規定されるべきだろうか?臨床家の最高の助言は臨床家の役割として大事な部分である。臨床家自身の視点と意見を用意することもまたよいことである。けれども、限定する人を入れることやクライアントが同意できない意見を与えることも援助となる。
 動機づけ面接のその他の技法、すなわち矛盾を拡げたり、共感したり、対立を避けたりすることは、クライアントが変化する過程の他の全段階にある時と同じように、この交渉過程に役立つものとして残る。これらの戦略使用を臨床家が忘れたような計画や交渉にあまりにも焦点をあてないようにすること。そのプラン作成のクライアントの努力を肯定し認めてあげること。
 クライアントはチェンジプランワークシート(図6-1参照)に計画の詳細に注意を集中させるのに役立つものを見出した。ワークシートを完成させるための検討リストが以下のとおりである(Miller et al., 1995c):200

  • 私がこうなりたいという変化とは・・・具体的であること。ポジティブな目標(何かが増えたり、改善したり、もっとしたいというようなこと)を含んだものであり、ネガティブな目標(行動を止めるとか、避けるとか、減らすというようなこと)ではないこと。
  • 私にとってのこんなことが変わったらという最終目標とは・・・・行動を起こすかもしくは起こさないことで、ありそうな結果は何か?どの動機づけが最も強制的か?
  • 私が変化するための計画の最初の段階とは・・・欲求を変化させることをどのように達成するか?具体的で、明確な第一段階とは何か? いつ、どこで、どうやってその段階にはいればよいか?
  • 私の計画を邪魔するものとは・・・どんな具体的なイベントや問題がその計画を台無しにするだろうか?何か間違っているだろうか?どうやってこれらの独特の問題や挫折にもかかわらず計画をクライアントが続けるだろうか?
  • こんなやり方で私を変化へ誘うこととは・・・どんな特別なことがクライアントの変化の手段を講じるのに役立つか。そのようなサポートをクライアントがどのようにアレンジするだろうか。
  • 計画がもしこんな風に動き出したら・・・計画とは違った段階をとる結果となるような何かが起こるだろうか。期待される利益とは何か。

 クライアントが計画を書くことは、クライアントの変化のための準備状態と自己効力感を評価することに役立つ。例えば、1から10(1は自信がない、10は確信している)のスケールで、行動の特別な変化が起こる準備状態について9という評価をするかもしれないし、自己効力感が4しかないと評価するかもしれない。これは変化のための計画をどこで始めるかついてクライアントに臨床家が案内しやすく出来る。

Offering a Menu of Change Options

 動機づけ理論を使っている研究者や臨床家たちは、動機を高めるためのある方法として、種々の治療選択肢からクライアントに選ばせることであると見いだしている。例えば、AA(アルコホーリクス・アノニマス)に行かないようなクライアントでも、Rational RecoveryのミーティングやWomen for Sobrietyがもしあれば行くかもしれない。第5章で述べられたように、節制することを考えないようなクライアントは"warm turkey"アプローチに、より従順に従うかもしれない(Miller and Page, 1991)。治療法の選択肢についてクライアントが学ぶことやインフォームド・チョイスするよう奨励することで、変わるための計画に加わることを増大させる。選択というものは治療法のオプションとなりえるし、あるいは一種の患者サービスであると言える。
 すべてのクライアントに同じようにうまくいくような、ひとつの物質乱用治療法があるわけではない。誰にとってどんな状態のもとでベストかを決定するものは何かを一言でいうのは難しい。治療効果のエビデンスは徐々に専門化し、ややよけいにわかりにくいものになりつつある。治療が有効であることのエビデンスはますます専門化し、幾分わかりにくくなってきており、それは、より多くの要素(クライアントの性格特性、転帰の評価法、臨床家の質、治療コンポーネント、及び治療行為の質)が評価の式に加えられたからである。
 臨床家の地元で利用可能な治療施設に精通していることや、臨床家がみたてたクライアントに最適なタイプに関連する研究論文をもとに、適切なオプションをクライアントに提供するにはたいへん有効である。その他に供給出来るものとしては、食糧銀行や職業訓練プログラムや合併障害のある患者への特別プログラムや虐待被害女性のための"かけこみ寺"における社会資源の範囲について知ることもまた有用である。プログラムの名前だけでなく、それらの施設の交渉担当者、プログラム修了者、典型的な利用間隔、資金の出所、有資格者の基準やプログラム規則や特異性についても知っている臨床家は、クライアントにとってかけがえのない資源となる。それに加えて、クライアントの資源、例えば健康保険の範囲(あるいはマネージド・ケアの数種類に加入者であること)、雇用形態、扶養義務、その他の関連要素についての知識は明らかに選択肢を考慮するときに重要である。初期評価からの情報もまた、可能な治療オプションのリストを作らせることやクライアントに優先権を持たせることに役立つのである。
 地元の社会資源に関する豊富な知識を臨床家は持っているかもしれないけれど、プログラムの管理者は、サービスや臨床家たちの情報を握り紹介を適切にすることを保証するため、他の機関との連携をとることに最終的な責任をとる。多くの地域で中心となる機関は、サービス・値段・場所・業務時間・有資格者の有無についての情報を含んだ社会資源の住所録を編纂し、定期的に更新する。それぞれのプログラムはプログラム別に相互参照出来るような紹介先のマニュアルを持つべきであり、地域や州や国の社会資源の正確なリストを得ておくべきである(TIP 24の第5章参照、 プライマリケアの臨床家のための物質乱用のガイド[CSAT, 1997])。インターネットは、地域の社会資源情報やクライアントに関係したプログラムやサービスの情報にアクセスすることによって、新しい可能性を提供する。例えば、ワシントン州では司法機関のコンピュータシステムは利用可能な場所やプログラムの変更という最新の情報を提供している。司法機関では、クライアントの最初の面談の予約をオンラインでとることが出来る。社会資源が不足しがちな田舎ではインターネットはことさら価値がある。
 臨床家がクライアントと治療法の選択について話し合うとき、臨床家はケアのレベルや強度や適合性について知らせることが出来る。しかし、ありとあらゆることを述べて混乱させ閉口させてはならない。治療タイプや原理の説明にわかりにくい言葉や専門用語を避ける。いくつか適切なオプションを限定しなさい。そしてそれは理解しやすい言葉でひとつずつ説明しクライアントに個別に配慮しなさい。特殊な治療とはどんな予定があるか、どのように機能するか、何か混乱していないか、クライアントはどんな期待をもってよいかを説明しなさい。すべての治療オプションについクライアントが理解するまで決断を延期するよう求めなさい。
 オプションについて話し合うとき、それぞれの選択肢がどのように扱われるかについてたずねているかとか、疑問を持ったりしていないかどうかクライアントに尋ねなさい。最初のうちは目標として正しいアプローチを選択していても、クライアントの中には臨床家がふさわしくないと思っているアプローチを選ぶかもしれない。臨床家の経験や研究知識をもとにアドバイスをしなさい。臨床家は変化のための戦略をどれから始めるかとか、クライアントが理想的には適切なオプションを、前向きに検討することをさがしている。

治療オプションと社会資源

我々のアルコール治療プログラムにおいて、私は両方の社会資源と種々の治療基本単位のリストをもつことが、ケースマネージャーがクライアントと契約し、個人的なプログラムを提供し、クライアントの多用なニーズに対応することを見いだした。以下に、我々のクライアントに提供しているいくつかのオプションを紹介する:

治療基本単位オプション
価値観の明確化・決断
ソーシャルスキルトレーニング(自己主張、コミュニケーション)
不安のマネージメントとリラクゼーション
怒りのマネージメント
夫婦・家族療法
薬物投与療法(ジスルフィラム【商品名:アンタビュース】、ナルトレキソン【商品名:レビア】)
問題解決グループ
集中的なグループ療法
治療のための社会資源
中間施設
サポートグループ(AA, ナルコティック・アノニマス[NA], Rational Recovery, Women for Sobriety)
社会サービス(育児、職業教育リハビリテーション、食糧、シェルター)
医療保険
交通
法的サービス
精神保健サービス
教育・技能訓練学校
Carlo C. DiClemente, Consensus Panel Member

 クライアントと治療オプションを臨床家が検討している間、変化の概念を車輪や周期的過程とみなすようにしなさい。(第1章参照)。前進したり後退したりする変化の段階を経て、それぞれの人がある程度の期間の間には、動く(Prochaska and DiClemente, 1984; Prochaska et al., 1992b)。このサイクルは時々問題行動の間隔や長さやひどさを徐々に改善するような快方へのらせん様式をとる(Miller, 1996)。なぜならば、ほとんどの人々は安定した回復状態への入り口の前を行ったり来たり何度も典型的に同じことを繰り返すし、もし最初の治療オプションが効果をあげなかったとしても落胆すべきでないことを知っている。すべての可能性を指摘してあげなさい。クライアントはうまくいく治療が他の様式の中にあることを確信している。彼らが正しい選択を見付けるまで臨床家は進んで働いてクライアントを安心させなさい。
 クライアントは変化が循環的な過程であることに時々抵抗するし、"全か無か"というような変化がみえることを好む。抵抗はおそれから生じるのかもしれない。間違っている可能性を認めることがクライアントに実際に恐れを持つことを許可されたということを表す。クライアントに伝える最も大事なことは、クライアントがどんなことがあっても、たとえスリップしてもまた再び臨床家のもとへ帰ってきてもよいということである。
 臨床家が他人のために動機を引き出そうとするような考えにクライアントは抵抗するということにも、臨床家はまた敏感でなければならない。このケースで臨床家は以下のように言うかもしれない。「この問題は実にあなたにとって大事なことのようです。もっと詳しく話してください」とか、「もうあなたは二度と経験したくないようですね、私にはここであなたがそのことを話したくないわけがわかります。そこであなたにお役にたつためには、あなたが以前のように再使用をしてしまうようなことを避けるには私にどんなことが出来るか教えて欲しいのです。それで、あなたを助けるために昔、再発の引き起こした事柄をどのようにしたら避けられるかを私に教えてください。同時に、役に立たないと考えていることは話をしないで済むようにしましょう」と。問題行動の再発を話し合うときに(その間クライアントがもう起こってほしくないという合意しているのだと伝える間)、期待することは、以前のような問題行動に戻ることについて話しあうことで、臨床家は再発の可能性やそのようなことを話題にすることに徐々に慣れさせる。
 臨床家は治療の成功というものは正式なプログラムの終了を意味し、逆にドロップアウトは治療の失敗を意味しているという考えに慣れている。しかし、研究はクライアントらが治療を止めた理由は、彼らがそれ以上の手助けを必要でないことや彼ら自身で変化することが出来るという人数もあることを明らかにしてきた(DiClemente and Scott, 1997)。しばしば、彼らは変化への準備状態を最大限にすることや彼らの動機を高める援助が必要なだけである。それ以上の援助(交渉も計画も連絡を取り合うこと)は必要としていない。彼らがもし助けが必要になったら、戻ってくることが出来るのだと励まし安心させることだけである。クライアントの中には過度にまた比較的継続的に長期にわたる物質乱用経験者がいるが、危険なことに彼らは治療から逃げ出すためにこの機会を得るかも知れない。これらのクライアントに変化に挑戦するよう提案するとき、早期に彼らが立ち去るのではないかと臨床家が心配していることについて話し合いなさい。
 いくつかのプログラムでは、クライアントが変わるために時間制限のあるチェックが提供される。例えば、テキサス州オースチンにおける治療プログラムでは喫煙の人々のため、定期的に2時間のグループが提供される。プログラムには集団による自助グループ的な要素と同様に教育と動機づけの要素が含まれる。参加者は必要に応じて、どうやって治療を受けるかを話すけれど、集団は自主的な変化を起こすようデザインされている。なかには治療せずに物質依存行動を変化させる人々もいると研究は示唆している(DiClemente and Prochaska, 1985; Klingemann, 1991; Sobell et al., 1993b; Tuchfield, 1981)。

変化にむけてのオプションメニューの提供

 口頭あるいは文書による行動契約は、クライアントが自分の変化のプランを始めるのに役に立つ方法である。行動契約は二者の間の正式な同意である。読み書きができるクライアントの場合には、変化プランワークシートの一番下に自分の名前をサインすることを選ぶかもしれないし、別の紙に書くのを好むかも知れない。読み書きができるクライアントに対しては他の人は行動契約をとることが役立つと思っていて、あなたも書いてあげなさいと説明するとよい。契約の文書を作りサインをするという行動は些細なことのようにみえるが、変化にかかわってあげるという儀式として大変重要である。契約をクライアントの代わりに臨床家が書くということは避け、クライアント自身の言葉で書くよう励ましてあげなさい。クライアントによっては、文書に書いた契約のかわりに握手で十分なこともあり、特に読み書きができないクライアントの場合は文書による契約の代わりになることがある。
  契約を交わすことが、クライアントが変化をしたいという望みの理由について話し合う良い機会となる。誰と契約を交わしますか?どんな人がそれに関わっていますか?契約によっては臨床家が相手方のひとつに加わることになり、臨床家の役割と責任について明確にすることになる。他のクライアントの場合には、自分自身についてする約束であるとか、配偶者あるいは他の家族に対する約束と見なすこともある。
 契約は治療プログラムの中で行動療法のテクニックを用いている場合によく使われる。多くの臨床家にとって行動契約は随伴性、強化、罰を意味していて、プログラムの構造を形作る随伴性の中に組み込まれている。例えばメサドン維持療法プログラムで多くの場合、尿検査で薬物反応が陰性でなければ自宅に薬を持ち帰ってはならないことになっている。強化子やインセンティブ(金銭的なものなどの報償)はしらふに対する大変効果的な強化子であることが研究で示されている。ある治療研究(Higgins et al., 1994b)では40人のコカイン依存男性に対し、第一群はコカインを含まない尿を提出すれば、小売り店で使用できる商品券を第1週から第12週の期間に受け取れるようにした。コントロール群で商品券を用いなかった。商品券を受け取った群の75%では12週間の全体の治療期間を終えることができた。それに対し、比較群では40%にとどまった。商品券グループの治療期間中にコカインに対ししらふであった期間は比較群に対し、約二倍になった(11.7週:6週)。インセンティブについては第7章が詳しい。
 行動契約を作るに際し、クライアントは随伴性を含むかどうか、特に報酬や正のインセンティブを含むかについて判断することになる。どのような報酬を使えばよいかは患者個人個人によって大きく異なる。患者が楽しめる活動、好みの食事、好物、欲しいもの、儀式やセレモニーは行動変化のためのすぐれた客観的なマーカーになるし、本気でかかわることの強化子となる。報酬はしらふ期間の長さと結びつけることができるし、あるいは、断薬をした記念日と結びつけることもできるし、副次的なゴールと結びつけることもできる。あるクライアントは、一ヶ月間しらふでいられたら、それを祝うために息子と野球を見に行くことにしていた。別のクライアントは50回目のAAミーティングに参加したら赤い靴を買うことにしていた。ある人は、教会に明かりをともすこと、またある人は健康を保つために近くの山に登ることにしていた。

Lower Barriers to Actions

 行動へのバリアが何であるかを見付けることは変化のプランにおいて非常に重要なことである。クライアントは何が自分にとってベストであるかを決めようとしているとき、これらのオプションを行ったとき、どのような問題が起こるか計画に従おうとするとき、何が邪魔になるのか、ゴールを達成しようとするとき何が妨げになるかと聞くとよい。何かまずいことが起こるだろうか。前に同じように変化しようと試みたときに、どんなまずいことが起こっただろうか。前に述べたようにうまくいかないことがあるという時、クライアントにとっては抵抗しようとすることがある。ここでは前にやったときに何がうまくいかなかったかと尋ねるがよい。将来起こるかもしれない困難について考えるより、過去に起こった困難について話し合う方が簡単な場合がある。
 インテーク面接や評価のあとで、クライアントを他の治療プログラムや他の施設へ紹介しようとするとき、共通して妨げとなることがしばしばある。クライアントを紹介するときは、そのプログラムの受け方、誰にいつ電話して電話中に何が起こるか(例えば、どんな個人情報が尋ねられるか)などの必要な情報のすべてをクライアントが分かっているかどうかを確かめなさい。クライアントに対してインサイダー情報を与えなさい。これによってクライアントの不安を和らげ行きやすくなる。例えばプログラムの受付や電話交換手が親切な人であると知っているかもしれないし、建物の入り口がわかりにくくいつも迷いやすいと知っているかもしれないし、近所の食堂がおいしいと知っているかもしれない。ある入院治療プログラムでは退院する前に外来のアフターケアの施設に一日つれていって、退院後にスムーズに移行できるようにしている。
 研究によれば患者に名前と電話番号だけ書いた紙を一枚与えてもたいして役に立たず、もっと個人的に患者一人一人に合わせた紹介の方法をとったほうが有効であることがわかっている(Miller, 1985b)。クライアントが電話をかけやすくしたり、治療プログラムの予約が取れるようにしてあげるとよい。クライアントによっては面接室から電話をかけることを希望することもある、また人によっては自宅から治療プログラムに電話し臨床家に予約がとれたことを連絡することもある。また人によってはしばらくどうするか考えてから次の外来の時に診察室から電話をかけたいと思うこともある。クライアントに対して臨床家がいろいろなことを気にしているのだということを教えてあげなさい。

Anticipating problems

 ワークシートの中で示唆したように、クライアントに聞くべき一つの質問は「もしこれらのプランが失敗したとしたら、その理由は何だと思いますか?」。クライアントは臨床家よりもうまく予測できることがあるし、クライアントにそれを見つけ詳しく述べさせることが重要である。これから起こるかもしれないまずいことを全部予想しようとしてはいけない。問題になりそうなこと、起こりそうなことや状況にフォーカスを当てこれらを回避する方法や解決をプランの中に入れるようにしなさい。
 問題によっては最初からはっきり分かっている場合もある。30キロ離れたところにある外来治療プログラムに週3回参加することを動機づけが大変高い患者が決心したとしよう。参加するためにはバスと電車を使い、帰宅は深夜になるとしよう。もう少し距離の近いプログラムに紹介することが解決になるかもしれないし、またクライアントに治療プログラムに電話をかけさせ、近くから車で参加する人を見付けて同乗させてもらうという手もある。

Recognizing barriers to action

 行動のバリアはしばしばあるし、それについて話し合わねばならない。これから変化するプランについてたとえ短い時間であっても話し合うべきである。具体的な対策や対処行動について話し合い、クライアントに何がベストか考えられるようにするとよい。考えられるバリアはいくつかの領域にまたがる。
 家族関係は行動を起こし維持するときに致命的なバリアとなりえる。クライアントの変化した行動が家族関係の微妙なバランスを崩してしまい、薬物使用の結果長い間押し隠されていた家族内力動が浮かび上がってくることがある。例えば、クライアントが家族に対して支配的になろうとすることがある。妻が家族内の決定について長い間自分で何もかも決めてきた場合に、このような権力を共有することに対してネガティブに反応することがある。十代の子どもが家からの出入りについて今まで見とがめられなかったのに、門限が新しく作られ反抗することがある。家族メンバーにとっては今まで口に出せなかったクライアントの問題行動に対して、はっきりと嫌悪感を口にすることがある。
 そのような家族の混乱や危機は薬物使用の再発を起こすことがあり、再発を予防するために具体的な対策や対処行動を学ばなくてはならない。クライアントによっては週に一回家族会議を開くようにし、問題について話し合い、危機をかわすようにする必要がある。最初の家族会議は診察室で行っても良い。家族によってはもっと正式な家族療法を行った方が良い場合もある。家族療法を行うことも変化プランに入れればよい。クライアントによっては尊敬する年長者を持っており、例えば祖父や友人だが、そういう人たちが家族の不和を調整する役割をとることがある。また回復途上の人々は自助グループなどのミーティングに頻繁に参加しその結果家族との時間が短くなる。クライアントによっては昼食時にミーティングに参加するとか、家族との時間を減らさないように参加するよう考える。またある場合には、AAやNAのグループの他の参加者が家族との時間を犠牲にするように見られるが、実際は家族との時間を大事にすることの大事さを教える。他の重要な問題は人間関係や結婚関係を修復することである。男性のクライアントはもとの性的な関係に戻りたいと切望する。女性のクライアントは過去の苦痛や不審から元に戻ることに注意深くなる。男性はパートナーがセックスを拒否することによる緊張に反応することになる。場合によっては回復中の人をコントロールする方法として性的活動性が用いられることもあり、回復がうまくいかなかった場合、緊張が高まることになる。
 多くのクライアントにとって重い身体障害や精神疾患のような健康問題は回復の妨げとなる。治療プログラムに入った後病気が重くなる人もいるし、慢性疾患をかかえていて、継続的に状態観察が必要なクライアントもいるし、治療中に健康上の危機を起こす場合もある(例えば、HIVやAIDS、糖尿病、高血圧)。クライアントはケガや自己管理の不足による慢性疼痛(腰痛や虫歯など)があるかもしれない。うつ病や精神障害のような精神的な病気に隠されていたものが、断薬によって明かになることがある(TIP 9:合併する精神疾患とアルコールやその他の薬物乱用がある患者の評価と治療[CSAT, 1994b]; TIP 29:身体的認知的障害のある物質乱用者の治療[CSAT, 1998a]を見よ)。身体疾患や精神保健を治療するための薬物が痛ましい副作用を起こすこともある。
 すべてのこうした条件や状況が薬物使用を再発することになる。これらの問題のいくつかは事前に予測することは不可能だが、健康に対するサポートや治療プランの中に組み込むことができる。健康に関心のあるクライアントの場合は内科や歯科へいくスケジュールをプランの中に入れたり、慢性的な疾患の主治医やクリニックにいく計画を立てるとよい。医療を受けるための副次的なゴールは公費負担や医療保険の申込をすることも含んでいる。うつ病のクライアントの場合には、しらふになって30日後、まだ依然としてうつ病の問題があるかどうかについて精神科、心療内科、カウンセラーを訪れるようプランを立てておく場合がある。あるいは薬物使用に戻ってしまう前に精神科や診療内科にかかるようにしておくこともできる。繰り返しになるが、クライアントによっては(併存する疾患をもつもの)はより質の高いものを必要としている。
 システム上の問題は、治療プログラム自体が持つこれからの回復を続けることの妨げとなるのである。多くの治療施設は治療を受ける前に患者の順番待ちがある。治療プログラムによっては受ける前に何十枚の書類を書かねばならない。読み書きができないものにとっては、最初からこうしたプログラムに入れない。治療プログラムによっては犯罪歴があったりする場合、最初から受け入れてもらえない。治療を受ける前に考えていた、公的補助や保険がなくなってしまうかもしれない。例えば医療保護によって治療を行っていた母親が仕事についたため治療が行われなくなるなど。非常にやる気のあるクライアントが英語を話せないばかりに近くの治療が受けられない場合がある。合併した精神科疾患があるクライアントが、精神安定剤を飲んでいるためにAAグループに参加できないことである。
 非常に高い動機づけをもったクライアントがよく考え抜いた変化プランを持っていても後からこれでよかったのだろうかという気持ちになることがある。突然、あれでよかったのだろうかという後悔や疑いが出てくるのは珍しいことではない。AAのメンバーが使う表現だが、"ピンクの雲から出てきたような感じだ(幸福感から離れてしまう)"という。迷いは診察室を出たとたんクライアントの心の中に生じてくる、あるいはプランを立ててから2−3週間たってからかもしれない。クライアントのこうした経験はよくあることだと伝えるようにし、同時に迷いについて対処できる具体的なプランを立てることが必要である。こうした自分の迷いを乗り越えられるようクライアントを助けることが大事である。クライアントに迷いが生じたら、いつでも電話して、追加してAAミーティングに参加するとか、クライアントが信頼している人を呼び出すなどの対処法について話し合いをするようクライアントに説明しておかねばならない。クライアントによっては抗酒剤を手元においておき、渇望や使いたいという気持ちに圧倒されそうになったときに使用するようにしている。

ソーシャルサポートを得ること

 ソーシャルサポートは変化が起こるかどうか、また変化が続くかどうかについて重要な影響を与える(Sobell et al., 1993b)。ソーシャルサポートについて量や質について考えるだけでは不足している。薬物乱用を治療するときに、クライアントのソーシャルサポートシステムが薬物使用自体を支えているかどうかについて確かめなければならない。例えばプロジェクト・マッチの中で示されたように治療の転帰はクライアントの社会的ネットワークが飲酒を支えてきたか、それともしらふを支えてきたかによって予測できるということが示されている(Project MATCH Research Group, 1997a, 1997b)。しらふを支えるソーシャルサポートを持っている患者は回復した。インテークの時に飲酒を支えるソーシャルサポートを持っているとされた患者はフォローアップでしらふである期間が短かった。しかし、ひとつ例外がある。それはもし治療によってクライアントがAAに参加するようになると、こうしたクライアントも回復したのである。簡潔に言えば、AAは彼らに対してしらふを支える新しい社会的ネットワークを与えたのである(Project MATCH Research Group, 1997b)。もし臨床家のクライアントがしらふを励ましてくれるような知り合いをほとんど持たない場合は、こうしたクライアントが変化の努力を支えてくれる社会的構造を作れるよう援助しなければならない。
 臨床家はクライアントのサポートの中心にある。しかし、クライアントが必要としているサポートのすべては与えることが出来ないのである。一般にサポートをしてくれる人と言うのは、よく話を聞き、批判的でない人である(最低限批判を差し控える人)、こうしたサポートを与える人は、クライアントに対して、助けとなり励ましとなる人であり、批判をしたり、説教したりする人であってはならない。理想的にはこうしたサポートをする人は薬物を使ったり乱用したりする人であってはならず、一方で、薬物依存とそれからの回復の過程を理解している人であるとよい。変化プランのワークシート(図6-1)は、サポートをしてくれる人と彼らがどのような援助を与えてくれるかをリストするスペースがある。第4章で述べたようにクライアントを気にかけている大切な人は動機づけ面接のスキルやテクニックを学びクライアントが変化するために有用なパートナーとなることが出来る。
 ソーシャルサポートは、クライアントが薬物使用と両立しない活動に参加しないことを含んでいるので、薬物使用以外で共通した興味をもつ親友がサポート役割をもつ良い候補者となる。もちろん言うまでもないが、ソーシャルグループのメンバーでも飲酒や薬物使用の仲間であるメンバーはクライアントが回復の時にサポートするメンバーとしては最低である。
 援助してくれる家族や大切な人と人間関係を修復し、再び始めていくことに付け加えて、クライアントは教会や娯楽施設や地域でのボランティア活動の中から、サポートしてくれる人を見つけることが出来る。こうした関わりを作るためには、クライアントに薬物使用が問題となる前に送っていた生活について話し合い、考えるようにするとよい。薬物使用が問題となる前に人生がどのような意味を持っていたかを聞くとよい。
 クライアントは今述べたような社会組織の中でビッグ・ブラザーとかビッグ・シスターと呼ばれるメンターグループの組織の中から、新しいサポートをしてくれる友人を見つけることが出来る。AAのメンバーやその他の自助グループのメンバーは回復途上のクライアントの重要なサポートとなる。オックスフォード・ハウスや同様な治療共同体は、その中にソーシャルサポートシステムを持っている。クライアントによっては、特に慢性的な身体疾患や重い精神疾患を持っている場合には、ケースマネージメントのチームが安全と構造とサポートの感覚を与えてくれる。
 クライアントがソーシャルサポートを得るとき、ソーシャルスキルが劣っていたり、社会的ネットワークがわずかしかないクライアントには注意しなければならない。クライアントによってはソーシャルスキルを学ぶ必要があり、余暇時間を構造化する必要がある。変化のプランの中にスモールステップを組み入れる必要がある。クライアントによっては、いかなる社会組織にも加わっておらず、薬物使用においても組織に属していない場合がある。さらに薬物依存のためにクライアントの活動が縮小されてしまい、昔持っていた興味ややりたいと思っていたことや昔やっていた活動を思い起こすこと自体が難しい場合がある。しかしほとんどの人は人生の一時点のどこかでやろうと思っていた、満たされない希望がある。彼らにそうした隠された望みについて聞いてみるとよい。あるクライアントは社交ダンスを覚えたいと思っていたし、あるクライアントは武道を学びたいと思っていたし、小説を書くクラスに入りたいと思っていた。変化のプランについて考えるときに、クライアントにとって昔の失われた望みと再びつながることが実りのある時間であり、こうした活動を追及していくことが新しい友達を見つけることにつながる。
 最後に社会的サポートに頼るクライアントは自給自足の独り者というステレオタイプを避けなさい。薬物依存の人々に対する過去の見方は彼らを基本的な人間関係から断ち切られた野良猫のような存在であるとしていたが、多くの国々から得られたエビデンスによれば薬物依存症者も家族と強い絆があることを示している(Stanton, 1997)。真実は家族との接触の割合は、特に母親については薬物使用がない普通の大人よりも何倍も多いのである。家族のサポートの影響や親密な関係のエビデンスを示すことに加えて、Stantonは家族や大切な人からのサポートを得ることによって治療でクライアントに契約した7つのアプローチの価値のある概要を示している。これらの方法について記述することはこのTIPの範囲を超えている。しかし、独り者というようなステレオタイプは重要なバリアとなるというこの批評は貴重な助言である(Stanton, 1997)。

クライアントに対する治療教育

 治療にスムーズに移行できるようにするためにクライアントの治療に対する期待についてよく考えておく必要がある。特にクライアントが治療について持っている誤解や情報の誤りについて知っておかねばならない。このステップは役割導入と呼ばれる。これはクライアントが治療について教育をし、彼らが必要としているものについて十分に参加し得られるようにするものである。クライアントに対してグループミーティングやセルフヘルプに参加してどんな風に感じるか考えて御覧なさいと聞くようにする。クライアントが治療を本当に受けるようになったときの期待感を与え、実際に起こるかもしれない驚きを減らすことが出来る。研究によれば一貫して、治療継続率は、クライアントの治療を受ける前の期待感と相関すること、そして、役割導入が初期にドロップアウトすることを防ぐことを示している(Zweben and Li, 1981)。
 もし臨床家が他のプログラムへクライアントを紹介しようとすれば、そのプログラムの方針やルールや治療プログラムの中で起こる特徴についてよく説明した方がよい。プログラムについて説明したビデオテープがあればそれを示すことによってクライアントが個人や集団療法がどのようなものであるのかや、AAや他の12ステップミーティングに参加するのがどのようなものであるのか理解することが出来る。多くの治療プログラムはそれぞれが役割導入プログラムを持っている。例えば、インテークの段階でクライアントは強制退院の規則を含む権利と責任についてのリストを示されてそれについて話し合う機会がある。
 治療プログラムの情報を与えるときにクライアントの変化のプランを妨げるものではないことを明らかにしておかねばならない。プログラムの部分によっては、例えば費用やミーティングによっては大切な人を同伴しなければならないとか、場所がクライアントにとってそのプログラムが自分に役に立たないと思わせるようなこともある。変化のプランが進行するしたがい、こうした自分の感じる問題を取り上げることをためらうことがある。こうした反応はよく検討される必要があるし、特にアンビバレンスの再発の観点からよく検討すべきである。しばしばこうしたアンビバレンスは治療プログラムの誤解が元になっている。
 役割導入のもうひとつの重要な役割はクライアントに対して、薬物からの対薬症状の身体面について教えることが出来ることである。症状またはリバウンド反応はごく軽いものから重篤なもの、あるいは遷延するものまである。正確な情報をクライアントに与えることによってクライアントがセルフコントロールの感覚を得られるし、多くの反応は主観的な症状であり予測することは難しいのである。それにもかかわらずクライアントに対して薬物を中止することに伴う心理的身体的反応は通常のものであり、どちらかといえば予想できるものだと説明した方がよい。例えば、ヘロイン使用者の多くは離脱4日目がもっとも困難だと述べている。クライアントはこうしたときに針を見ただけで強い直感的な反応を示すことがある。テレビのコマーシャルで白い洗剤の粉を見ただけで強い渇望が起こることもある。遷延したあるいは予期しがたい症状は薬物をやめてから30日間続くこともあるし、それはベンゾジアゼピンやコカインの場合には珍しくない。朝目が覚めたときに、薬物を使ってしまったというような真に迫ったような夢を見、クライアントによっては本当にもう戻ってしまったのだと信じてしまうことがある。その結果、恐怖や混乱を引き起こすことになる。しらふになった一週間にはクライアントによっては気が違ってしまうのではないかと思うことがある。どのようになるのかをあらかじめ知っておくことによってクライアントは安心感を得ることになるのだ。

Initiating the Plan

 多くの変化のプランは具体的な開始日がある。クライアントによってはこうした新しい始まりの日に印をつけることがひとつの儀式であり、それを楽しみにするだけでなく、古い行動を捨て去るシンボルがあるとみなすことがある。例えば、クライアントによっては薬物使用の小道具やタバコ、ビールジョッキ、酒を燃やしたり儀式的に捨てたりすることがある。クライアントが定期的に外来に来ることにしているのか、それとも紹介先でフォローアップをしてもらうのか、また自分を変化させようという行動をしているのか、それにあわせて臨床家とプランの進行具合をいつチェックするかを決めておかねばならない。言い換えれば、カウンセリングを続ける気がないのであれば、臨床家が定期的に電話をする日を決めて、サポートし気にかけているということを示すべきだ。
 どのような予定をたてるにしろ、クライアントはみな診察室から出て行き、そのときにいずれ診察室に戻るかあるいは更なる励ましやサポートのための電話があるか、それとも変化のプランをもう一度考えなおすかを理解しておかねばならない。多くのプログラムは他の施設を連絡をとる約束をしており、それによってクライアントが次のステップに完全にまた十分に移行しているかどうか確かめるようにしている。もしそうでなければ、クライアントに対して紹介先で続けて見てもらっているか把握できるような約束事を作っておいて、もしうまくいってない場合は外来に戻るように伝えておかねばならない。
 十分なきちんとした変化のプランが出来ていれば、クライアントはハイリスクの状況とこれから起こるかもしれないバリアについての知識がわかっており、またサポートしてくれる友人や親戚もおり、次の行動に行く用意が出来ているのである。

  1. 薬物依存治療動機づけ
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