原井宏明の情報公開
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第2章 動機づけと介入

Treatment Improvement Protocol (TIP) Series 35
Enhancing Motivation for Change in Substance Abuse Treatment

  1. 薬物依存治療動機づけ
  2. 第1章 | 第2章 | 第3章 | 第4章 | 第5章 | 第6章 | 第7章 | 第8章 | 第9章 | 第10章 | Appendix A

 超理論的な考え方を使うことは,クライアントが変化の初期段階から決意や実行へ移行する手助けとなる様に努めることである。それぞれの段階にあわせた戦略を用いて変化のための実行に気持ちを向けていくことを促す。クライアント自身が,変化が必要であると確信する手助けを行うことにもなる。Noonan and Moyers, 1997
 動機づけ介入は,クライアントの変化の方向への動機づけを増強する様デザインされた,いかなる臨床的戦略をも意味するという様に広く定義づけられる。それにはカウンセリング,クライアントの評価,多数回の集会や30分といった短い介入が含まれる。この章では効果的な動機づけアプローチの要素と,それを支持する研究を検証する。動機づけ戦略は各段階に適切なアプローチを強調するための変化の段階別モデル(第1章で検討されている枠組みで,後の章で詳しく述べられている)と関連がある。文化の違いによる,又疾患の違いによる要求や,セッティングや,形式の違いに敏感に反応する動機づけ介入を提供する旨の勧告案がある。この章は短い介入として知られる,高頻度に受け入れられつつある形の介入について述べることで終結するが,これは伝統的な物質乱用療法の設定外の領域で有用である。短い介入と治療についてのより広い検討は次のTIPを参考にして欲しい。Brief Intervention and Brief Therapies for Substance Abuse(CSAT,印刷中[a])。

Elements of Effective Motivational Interventions
(効果的な動機づけ介入の要素)

物質の使用減少や使用中止を促進するものが何であるかを理解する為に,研究者達は効果的介入の決定的な要因…正方向への変化を鼓舞する最も重要で一般的な要因…を捜してきた。以下に現在の動機づけアプローチとしての重要な要因を挙げる:

  • FRAMESアプローチ
  • 決断バランス訓練
  • 個人的目標と現在の行動の間の矛盾
  • 弾力性を持ったペース配分
  • 治療以外でのクライアントとの接触

これらの要因を以下に細分して述べる。
短い臨床的試験に現れる6つの要因が確認され,FRAMESとしてまとめられる(Miller and Sanchez, 1994)。これらの要因は以下の様に定義されている。

  • (Feedback)物質使用パターンとそれに関連する問題を評価した後,個人的なリスクや障害がクライアントに還元される。
  • (Responsibility)変化に対する責任は,はっきりと掛け値なしにクライアントに置かれる(クライアント自身で選択を行う権利に敬意を表してのことである)。
  • (Advice)物質使用を変える…減量もしくは中止…為のアドバイスを臨床家からクライアントに非審判的方法で与えられるべきである。
  • (Menus)自身で方向付けできる,変化のオプションのメニューや種々の代替治療法をクライアントに提示する。
  • (Empathic)共感を持ったカウンセリング…温情,尊敬,理解を示すもの…が強調される。
  • (Self-efficacy)クライアントを勇気付けて変化に向かわせる為に,クライアントに自己効力感や楽観的なエンパワーメントを促進する。

 Figure2-1に32のテストとそれらのFRAME要因を列挙してあるが,これはBienと彼の同僚によるレビューである(Bien他, 1993b)。FRAMESの構成は発達してきた為,更なる臨床的研究や経験が展開され,そしてこの動機づけモデルの要因は洗練されてきた。これらの要因はいろいろな方向に組み合わされ,多様な状況や文化的背景の中で試されてきた。その結果として新たな建築材料や道具が,あなた方のクライアントの要求に応えるものとして使用できるようになった。

Feedback(フィードバック)

 動機づけ介入が成功したという文献から,個人的なフィードバックの説得性が確認された(Bien他, 1993b; Edwards他, 1977; Kristenson他, 1983)。組織立てられた客観的評価に基づいて作成された,クライアントの障害の程度とタイプに関する,建設的かつ非対立的なフィードバックを提供することが特に重要である(Miller他, 1988)。この種のフィードバックは通常標準テストや道具によるクライアントの点数,格付けを,一般人や治療中のグループから得られた標準性と比較するものである(Figure 4-1, 4-2参照)。評価項目には物質消費のパターン,物質に関連した問題,肉体的な健康度,物質使用や情緒的異常に関する家族歴,更に種々の医学的検査が含まれる(Miller他1995c)。(評価とフィードバックについては第4章に詳しく述べられる)。このフィードバックをクライアントに提供する際には,尊厳を持って行うことが肝腎となる。もしも対立的又は審判的な態度で臨んだ場合,クライアントは受け入れない。
 フィードバックをクライアントに敵対する事実となる様な形で提供してはいけない。むしろ情報を与える場合は,率直に尊敬の念を持って,理解し易い平易な語を使い,そして文化的にも適切な語を使用して与えるべきである。大事な事はクライアントが物質を使用していることが問題であり,変化が必要であることを認識する手助けとなる様な形で情報を提供することである。繰り返し聞くことや共感を持ったスタイルにより,クライアントはフィードバックを理解し,その意味を解釈し,自分の物質使用の影響力についての新しい見方を持ち,心配事を表現し,そして変化について考え始める様になる。
 全てのクライアントが同様にフィードバックに反応する訳ではない。中には同僚と比較し,週間飲酒量がはるかに多量である事を警告され,それに気付いても健康を害する恐れがあることには気付かない者もいるし,同量の飲酒で健康を気遣う者もいる。更には物質を使用している為に,それに費やす金銭,インポテンツになる可能性,もしくは比較的低血中濃度でも障害…特に車の運転障害に陥ること等への関心を示さない者もいる。個人的なフィードバックは,人生における他の問題点にも応用できるもので,治療の間中ずっと使用可能である。改善点についてのフィードバックを行うことが進歩を強化する為に特に価値がある。

Responsibility(責任)

 自分の行動を継続するか変えるかという選択権はその個人自身にある。動機づけアプローチでは,クライアント自身が治療を選択し,変化への責任も持つことを主張することにより,クライアントは受動的であるよりむしろ能動的となる。ゴールの場面をクライアントに押し付けてはならない。むしろクライアントの許可を得た上で,物質を使用していることについて話し合い,こちら側から与えた情報について考えてもらう様にするべきである。もしクライアントに自由に選択する気持ちがあれば,あなたの考えに抵抗したり,拒否したりすることが少なくなる。クライアントにしたくないことをしてくれる様依頼はしないが,治療のゴールに関する項目については,クライアントと交渉する,とはっきりと述べて,介入を開始する臨床家もいる。自分自身が変化に対しての責任があると認識した場合,クライアントはより強化され変化に関係できると感じる。これは良い結果である(Deci, 1975, 1980)。クライアントが自分自身で選択を行った場合,あなた方の失意は少なくなりむしろ満足できる。というのも,クライアントが自身で行動するからだ。実際,クライアント自身が,自分達が必要としている事を最も良く知っている専門家なのである。

Advice(助言)

理想的な変化のモデル:クライアントへの助言

治療の過程中ずっと,クライアントに自分達が物質を使用している事の問題について語らせることが大切である。この対話の中に見られる回復過程の現実のいくつかを指摘すると

  • ほとんどの変化は一晩では起きないものである。
  • 変化は時々停止しながら徐々に進む過程としてみると良い。それはちょうど,でこぼこした丘を登って行く様なものである。
  • 困難と停滞は経験を通して学んでいくものとして再形成されるもので,失敗ではない。

Linda C, Sobell, Consensus Panel Member

 温和な態度で助言を与えると言う単純な行為が,正方向の行動変化を助長する。既に検討した様に研究の結果として,短い話し合いの中で提言を行うことは,喫煙や飲酒や他の物質使用行動を変化させるのに有効である(Drummund他, 1990; Edwards他, 1977; Miller and Taylor, 1980; Sannibale, 1988; Wallace他, 1988)。フィードバックと共にあなたからのクライアントへの助言の与え方が,その助言がどの様に用いられるかを決定する。人々に何をすべきかを告げない方が良い。提言するだけの方が良い結果を生む。動機づけアプローチを行って助言を与える事は指示的であったり(提言を行ったり),教育的(情報についての説明)であったりする。教育的アドバイスとは文献内で支持された,信頼できる科学的事実に基づいたものである。クライアントの状態に関連した事実…例えば事故を起こした時のBACレベルや,アルコール乱用及び中毒協会から推奨されている安全な飲酒範囲等…が驚異的にならない様に提示される。「この様な状況下で過去に起こった事を話しても良いですか?」とか「耐性に関しての説明をさせてください」という様にクライアントの行動に思慮深く接するべきである。
 これらの質問はあなたが持っている物質使用に関する知識を,温和で敬意を持った態度で分かち合う為の非支持的な機会を提供する。クライアントが指示を要求した場合は,すぐに助言を与えるのではなく,何が求められているのかを明確にする方向にクライアントからの質問を向け直すべきである。どんな助言を与えるにせよ,それは単純なものであるべきで,圧倒的であるべきではなく,そしてクライアントの理解力のレベル,準備性のレベル,状況の緊急性そして文化にマッチしたものであるべきだ(いくつかの文化においては,助言や状況の重要性を伝えるのにより支持的なアプローチが要求されることもある。更に他の文化内では支持的スタイルは無礼で侵入的と見なされる)。この助言のやり方には忍耐が必要となる。又助言を与えるタイミングも重要であるが,それを知るのはクライアントが何を要求し,何を受けたがっているかを広い意味で聞き取る能力による。

The PIES Approach

第一次世界大戦中,軍の精神科医が最初に気付いた事は,動機づけ介入が適時使用されると多くのストレスで働けなくなった兵士達を兵役に戻すことができたという事実である。その方法は簡単に憶えられる語,PIESにまとめられる:

  • Proximity:兵役についている現場近くで治療を行い,病院に移さないこと
  • Immediately:問題が発覚したらできる限り早く介入や治療を行うこと
  • Expectancy:介入が成功し,再び兵役に戻れる事を予期すること
  • Simplicity:簡単に聞き,共感を示し理解を示すことが最も役に立つ

対象とする個人は正常なのであって,状況が異常であること,そして休養と栄養により回復することを強調すること。ほとんどのケースには複雑で長期に亘る治療は必要ではない。しかしこの簡単なアプローチに反応しない,極わずかの人にはより高度の治療も考えておく必要がある。
Kenneth J.Hoffman Field Reviewer

Options(オプション)

 クライアントが数あるオプションのメニューから自由に選択できたり,又できると考えたりしたとき,変化への戦略の受け入れはより強化される。この様にクライアントに治療のゴールや必要なタイプのサービスを選択させることにより,治療に参加する動機づけは高められる。オプションのメニューを提供することにより,治療からの脱落率や抵抗は減り,全体的な治療効果は上昇する(Costello, 1975;Parker他, 1979)。あなたのクライアントにとり適切となる,治療への代替アプローチについて述べる際には,各々のオプションについての正確な情報を与え,ある特定の道を選んだ意味について最良の推測を与える様にする。クライアントが,何が最も効果的と考えているか,又過去に何が役に立ったかと考えているかを引き出すようにする。オプションのメニューを提供することは,クライアント自身が選び,選んだものに対して責任を持たなければならないという動機づけの原則と一致する。あなたの役目はクライアントが説明された事を選択する能力を増強させることである。クライアントが自力で決定した場合,彼らはその決定に,より傾倒する様になる。この概念については第6章で更に検討する。

Empathetic counseling(共感を持ったカウンセリング)

 共感は動機づけ介入に特有なものではなく,多種の治療に応用可能である(Roger, 1959; Truax and Carkhuff, 1967)。カウンセリングの際の共感とは,セラピストの特質として思いやり,敬意を持ったケア,傾倒,そして積極的な興味がある場合という様に解釈されてきた(Miller and Rollnick, 1991)共感には通常聞き返すこと(reflective listening)が伴うが…これはクライアントの言う事を注意深く聞き,それを違う言葉でクライアントに返してやる方法で,これによりクライアントは自分の言っていたことの意味が理解されていることを知る。
 臨床家が共感を持ったスタイルを用いた場合,クライアントは最も多くを語る。クライアントからの情報が支障なく流れ出てくる様な,安全な環境を作るのはあなたの責任である。クライアントに投げかける言葉としては「あなたがどこにいるかは分かっています。でも私はそれについての是非を審判したりしません。これからどこに行きたいですか」等がある。共感を持ったサポートがあればクライアントは自然に健康に向かって進んでいくであろうという仮説である。この過程は広げたままにしておくべきで,指示したり,妨げたりしてはならない。共感を持ったスタイルは採り入れ易く見えるが,実際はあなた方にとって注意深いトレーニングと努力を要する。このスタイルは特に,怒った,抵抗するそして防衛的なクライアントに対して有効である。

Self-efficacy(自己効力感)

 変化を達成する為にはクライアントは自分達が特別な仕事を引き受ける能力があると信じ,必要な技能と自信を持たなければならない(Bandura, 1989; Marlatt and Gordon, 1985)。あなた方にとって最も重要な役割は,クライアントの自分達の能力に対する確信を強化してやることにより,期待と楽観を抱かせることである(Yahne and Miller, 1999)。あなた方がクライアントの変化を遂げる能力を信じていれば,この役割は成功し易い。(Leake and King, 1977)。クライアントに「以前のあなたからどの様にして抜け出して今のあなたに至ったのですか」と質問することで,彼らにどの様にして問題をうまく処理してきたかを確認させる手助けとなる。一度強さを確認することができると,クライアントが過去の数々の成功の上に,更に成功を積み上げることの手助けとなる。クライアントが歩んだ小さなステップを肯定し,いかなる正方向の変化をも強化することが肝要である。この自己効力感の重要性については第3章及び第5章で再度検討する。

Decisional Balance Exercises(決断バランス訓練)

 変化の賛否,又は利益と損失を追究するという考えは新しいものではなく,文献の中で記載されている(Colten and Janis, 1982; Janis and Mann, 1977)。人は転職や結婚といった,人生における大きな選択の賛否の追究を自然に行っている。物質使用からの回復という状況においても,クライアントは物質使用を変えるか変えないかの賛否を,自分なりに天秤にかけている。あなた方はクライアントに物質を使用することの良い面と良くない面を表現させ,それらを紙に書かせることで,彼らの方針決定の手助けができる。この過程が通常"Decisional balancing"と呼ばれるものであり,第5章及び第8章で更に詳しく述べられる。物質使用の問題についての賛否を探る目的は,天秤の目盛を正方向への変化を決心する方向に傾けることである。
バランスシートの片側にクライアントがマークした理由の数は,各理由の重み…又は個人的な価値…程重要ではない。例えば20歳の喫煙者にとっては,肺癌になるリスクが高まるという事は,より高齢者程重要ではなく,むしろ肺機能が低下することでテニスやバスケットボールを行うのに支障が出る事の方が気にかかる。

Discrepancies Between Goals and Current Behavior
(目標と現在の行動との間の矛盾)

 変化への動機づけを増強する一方法としてクライアントに将来のゴールと現在の行動との間の差や食い違いを認識させる手助けをすることが挙げられる。「あなたが飲酒することでいったいどうやって家族を幸せにしたり,安定した職を得たりすることができますか」という質問をすることで,この食い違いを明らかにする事ができるであろう。現在の行動が健康や家族の幸福といった重要な個人的ゴールに対立することが分かれば,変化はより起こり易くなる(Miller and Rollnick, 1991)。この考えは第3章及び第5章で拡大される。

Flexible Pacing(弾力性を持ったペース作り)

 全てのクライアントは自分のペースで変化の段階を進んでいく。変化の段階のサイクル内を何度も行き来する者もある。例として:変化を考慮する段階と変化を行うことへの傾倒の間を。又長期間あいまいな状況にとどまる者もある。スタートする準備ができてすぐに行動に移る者はわずかである。従ってあなたのクライアントの,準備性の程度を評価する必要がある。今まで人が変化のどの段階にいて,現在どこにいるかを決定することで,変化を良い方向に促進できる。ペース作りという概念にはあなた方がクライアントに彼らのレベルで会い,変化の各段階に必要な仕事をする為に必要最大限の又は最小限の時間を費やすことが必要となる。例えば,あるクライアントには,治療の初期には頻繁に話し合いを行わねばならなくて,後ではその回数が減少する。変化への特に困難な局面を前に休憩が必要なクライアントに対しては"治療の休暇"を提案するのもよいであろう。もしクライアントが準備しているよりも速いペースに彼らを追い込めば,治療上の同盟関係は破綻するであろう。

Personal Contact with Clients Not in Treatment
(治療以外でのクライアントとの個人的な接触)

 動機づけ介入には,あなた方とクライアントの接触を維持し,共同関係を強化する様にデザインされた単純な行動も含まれる。クライアントに手紙を書いたり,直接電話したりすることもその行動となり得る。これらの単純な動機づけ介入が,受診の約束を破った後クライアントが別の診察を受けたり,治療に戻ったり治療の中心に留まり,そして治療に固執するよう勇気付けるのは効果的となる(Intagliata, 1976;Koumans and Muller, 1965; Nirenberg他, 1980; Panepinto and Higgins, 1969)。この考えについては第7章で検討する。

Motivational Intervention And Stages of Change(動機づけ介入と変化の段階)

 クライアントがどの段階にいるか又どの段階に入りつつあるかにより,必要とするそして使用する動機づけ介入の種類は変わってくる。もしあなた方が,現在クライアントがいる段階と違う段階に適する戦略を用いたとすれば,その結果は治療に抵抗するか応じないものとなる。例えばもしあなたのクライアントが考慮(contemplation)段階にいて,変化もしくは物質使用の継続かの賛否をてんびんにかけている状態の時に,あなたが行動(action)段階に適する戦略を用いたとすると,あなたのクライアントは恐らく抵抗すると思われる。この反応の理由は簡単なものである。つまりクライアントをまだ変化に消極的な状態に残したまま,あなたが変化に積極的な側の意見を論じている為であり,結果は行き詰まりとなる。
 変化を考える為に,前考慮段階(precontemplation)にいる人は意識を高揚させなければならない。あいまいさを解決する為には考慮段階(contemplation)にいるクライアントは現状を乗り越える変化を選ぶ手助けを必要とする。実行段階(action)にいるクライアントは(この段階ではほとんどの形式的な治療が始まる)変化の戦略を実行し,それに従うための手助けを要する。維持段階(maintenance)では,回復を維持し,物質を使用しない人生を送る為の新しい技能を持たなければならないであろう。更に,もしクライアントが物質使用を再開したとすればできるだけ速やかに回復し,変化の過程に戻る為の援助を受けることができる。
 図2-2にあなた方が変化の各段階で適切に使用できる変化の戦略の例を提示する。勿論これらが有益な変化への動機づけを増強する唯一の方法ではない。第3章では全ての段階に適用できる動機づけ介入の原則のいくつかについては述べられている。第4章から第7章では各々の新しい段階への前進を助長するための最適な動機づけ戦略について,より詳細に述べられている。第4章第8章にはあなた方がクライアントの現状における変化への準備性を認識するのに役立つ道具を示す。

Catalysts for Change(変化への触媒)

 精神療法と行動アプローチを介して起こる,個人的な成長と変化の共通の過程…統合モデル…を捜す中で,Prochaska(Prochasca, 1979)は最初に多くの治療系の核となるアプローチを分離し,それらを要因分析研究の中で発展させた(Davidson, 1994; Prochaska and Diclemente, 1983)。これらの基本的な過程には,主な治療体系の中に現れて,変化に影響を与えている認識的,情緒的,行動的,そして環境の因子が含まれる(Diclemente and Scott, 1997)。これらの変化の触媒は,禁煙,禁酒,一般的な精神治療の問題,体重減少,運動療法の採用等について調べた研究により作り出されている(Prochaska他, 1992b)。10個の触媒各々に対し数種の異なる介入が変化を促進させる為に使用できる。Fig2-3にこれらの変化の為の触媒が述べられており,各々の触媒の為に使われる2〜3の介入が図示されている。
 典型的な例として認知し…体験する過程(例,考慮,準備)がサイクルの初期に使われ,行動の過程は後期段階での鍵とされている(例,行動,維持)(Prochaska and Goldstein, 1991)。
 Fig2-4はどの触媒が変化の各段階に最適であるかを示唆している。クライアント及び臨床家双方の混乱を避ける為に,ある特定の段階に対し最も支持され,論理的に適切な触媒が推奨されるが,これは他の触媒が必ずしも無関係であるという意味ではない。

Special Applications of Motivational Interventions(動機づけ介入の特殊応用)

 動機づけ介入の根底にある原則は,種々の異なる文化,問題のタイプ,治療設定,人種を超えて応用されてきた。研究論文によれば,動機づけ介入が良好な結果に,すなわち治療への照会,物質使用の減量又は中止,特殊な治療への参加もしくは治療の受け入れ,といった結果につながることが示されている(Bien他, 1993b;Noonan and Moyers他, 1997)。動機づけ介入は少なくとも15ヶ国で試されてきた。カナダ,イングランド,スコットランド,ウェールズ,オランダ,オーストラリア,スウェーデン,ブルガリア,コスタリカ,ケニヤ,ジンバブエ,メキシコ,ノルウェー,前ソビエト連邦,そして合衆国等で(Bien他, 1993;Miller and Rollnick, 1991)。動機づけ介入は最初,飲酒者や喫煙者に使用されてきたが,同時に又重篤な物質関連問題を持つマリワナや阿片使用者に対しても奨励できる結果をもたらした(Bernstein他, 1997a; Miller and Rollnick, 1991; Noonan and Moyers, 1997; Sobell他, 1995)。
 動機づけアプローチの特殊な応用で,現在探究されているものとしては,糖尿病患者,疼痛コントロール,冠動脈疾患のリハビリテーション,HIVのリスク軽減,性犯罪者,妊娠中の飲酒者,重篤なアルコール障害となった退役軍人,摂食障害者,精神障害を持つ物質使用者等が挙げられる(Carey, 1996;Noonan and Moyers, 1997; Ziedonis and Fisher, 1996)。動機づけ介入に反応を示した人達としては,酒酔い運転や他の非暴力犯罪にて逮捕された者,思春期の者(Colby他, 1998),高齢者,従業員,夫婦,メサドンの維持療法を受けているオピオイド依存者,家庭内暴力の被害者と加害者(Bernstein他, 1997a;Miller and Rollnick, 1991; Noonen and Moyers, 1997)等が挙げられる。更に文献によれば,これらの動機づけ方法がうまく行く場面として,初期治療施設(Daley他, 1998),病院の救急部門(Bernstein他, 1997a;D'onofrio他, 1998),物質使用者に対する伝統的な入院又は外来治療施設,薬物に関する法廷,地域での物質使用防止運動の場等がある。これらの介入は個人に対して,夫婦に対して,グループに対して,そして面と向かっての話し合いやメールを通じて, といった種々の形で行われてきた(Miller and Rollnick, 1991; Sobell and Sobell, 1998)。動機づけ介入の考え方の根底にある単純性,普通性により,巾広い応用が可能となり,多岐に亘る問題を持ち,多くの異なった文化背景や環境内のクライアントにも接する可能性が大となる。

Figure 2-4
文化の専有(Cultural Appropriateness)

 種々の違う世界観を持つ人々と接してきた私の経験において,文化が変化の過程に影響を及ぼして行くことに関する多くの観察ができた。情報を受け取り,それを処理し,方針決定を行い,ペースを保ち,そして行動に移る準備を行うといった個人的スタイルに及ぼす文化的効果に私は注意を払ってきた。クライアントがより深く周囲の文化に同化するにつれ,情報を処理し,反応しそして主流となる信念やスタイルに一致した選択を行い易くなる。文化の違いによってもたらされる価値体系を知る責任は実地医家にあり,治療を受けているクライアントにはない。

 より特殊なものとしては,人々のコミュニケーションのやり方は,それが言葉であれ,他の方法であれ,しばしば直接文化に関連した方法となる。ある若い米国原住民が最初に会った時に言った事は「靴がきつすぎる為,戻って来れないかもしれない」であった。これは「金がない」という意味の彼の表現法なのである。

 しかし民族性は必ずしも人が選択する文化や価値観を決定するものではない。例えば米国白人は東側社会の見方や価値観を受け入れることができる。更に教育水準の高さが必ずしも文化の同化や変容の態度を示すものでもない。高等教育を受けたアジア系米国人や,アフリカ系米国人も,彼らの伝統的な文化体系に従って生活し,情報を処理して行くかもしいれない。

 文化は人の独自性を定義付けるのに大いに貢献する。健全な民族意識を持たない事は,変化の過程の,全ての段階に影響を及ぼす。Maslowが書いている様に,自我としての強い意識を持つ為にはあなた方は存在し,知り,行い,所有することにおいて強力であらねばならない。自分達の固有の文化とかけ離れた環境で育った少数民族系米国人は,自分の民族性についての正しい情報を持っていないかも知れないし,又自己に対する健全な民族意識を育むこともないかも知れない。

 私の信念では,動機づけ増強による治療を行う臨床家は,種々の異なった文化の価値体系を知り,かつ文化に敏感である必要がある。もしクライアントの信じる事に疑問が生じたら,それをクライアントと共に探究すべきである。世界観に文化的な違いがある事を認め,敬意を表することは,動機づけのスタイルと治療の結果に大きな影響を与える。
Rosalyn Harris-Offutt, Consensus Panel Member

Responding to Differing Needs(異なる必要性への反応)

 物質乱用の治療を受けているクライアントは,民族的,人種的背景,社会経済状態,教育水準,性,年齢,セックスのやり方,物質使用問題のタイプ及び重篤性,精神的健康度において異なる。既に述べた様に,研究と経験から変化の過程は人種の違いを越えてほぼ同じであることが示されている。従って変化を起こす動機づけを増強する原理とメカニズムは広く適用可能であると思われる。それでもなお変化への動機づけの表現法や,人生における決定的な出来事の重要度に関しては,人種や文化により大きな違いがあるであろう。従って,あなたが治療上の共同関係を築こうとしている人達の人種に精通し,そしてクライアントから彼らの文化について学ぶべきである。
 動機づけ戦略が,クライアントのゴールと価値観について表明し,変化の為のオプションの中から選択する責任を増強するのであるから,敏感な臨床家とは,理想的には文化の違いを理解し,非審判的な方法でこれに反応するものを指す。文化的な違いが健康についての価値観,時間の意味,多量の飲酒という汚名,又は地域社会や家族に対する責任の中に反映されるであろう。主流となる価値観を押し付けたり,即座に判断したりするよりも,クライアントの考え方を理解する様に努めるべきである。これを行う為には物質使用を促進したり,継続したりさせる様な影響を及ぼす因子についての知識が必要である。動機づけを増強させる戦略はクライアントの文化的社会的原則,基準,期待に一致するものでなければならない。例えば高齢者はしばしば退職時には社会的地位と独自性を喪失することでもがき苦しむかも知れないし,余暇の使い方を知らないかも知れない。これらの退職したクライアントには新しい行動が必要であることを理解させ,物質を使用する事が事態をうまく処理する機構とはなり得ないことを理解させる手伝いをすべきである。同様に思春期のクライアントに,変化への動機づけを増強させようとする時は,同僚が彼らの行動や価値観にどの様に影響を与えているか,またどの様にして家族が自主性の出現を制限しているかを考えるべきである。
 変化を促進する為に,人種特有の価値観を理解し,これを利用することに加え,どうすれば逆にこれが変化に対する障壁となり得るかを知っておかねばならない。クライアントの中には文化的,宗教的に,伝統に一体感を強く抱き,グループの年長者やリーダーからの尊敬を得ようと働くものもいるが,又これらのグループに属する事を嫌うものもいる。家族をカウンセリングに参加させようとする人種もあるし,又そうする事を恥とまでは思わないまでも失礼な事と考える人種もある。"アルコール中毒"というラベル付けは,アルコール匿名団体からは自発的に,しかも声高に採用されるが,他では非人道的と見なされる。ここで伝えたいメッセージはただ一つ,"あなたのクライアントの関心事や価値観を知り敏感であること"。
 もう一つの敏感であるべき分野にクライアントに適合する臨床家を選ぶことがある。文献的には温情,共感,純粋な敬意が,専門的なトレーニングや経験よりも治療上の共同関係を築くのにより重要と示されているが(Najavits and Weiss, 1994)それでもなお,プログラムでは特殊な人種集団に属するクライアントを扱う為に,文化,言語,その他の背景に同一性があることから最適となる臨床家を見出せる様になっている。又プログラムにより,英語を喋れない人々とコミュニケーションを図る為の二カ国語を話す臨床家や通訳のネットワークを作ることが有用であることが分かっている。
 最後にどの様な人物,物質的資源があなたのクライアントに役立つかを知り,貧困,社会的孤立,最近起こった損失等の問題に敏感であるべきである。特に財政的,社会的資源を利用する事は変化への動機づけと変化の過程の重要な一部となることを認識しておかねばならない。長引く貧困と資源不足は,変化をより困難なものにする。というのも多くの代用方法が不可能となり,絶望感が広まっていくためである。物質的に窮乏し,差別に苦しんできたクライアントに自己効力感を肯定し,希望と楽観視を刺激する事は一つの挑戦である。その状況における事実はしっかりと受け止めるべきである。しかしクライアントの忍耐力と悲惨な境遇下での個人的成長を,敬意を持って肯定し,更にこれらを正方向の変化を試みる上での強さに持っていくことができる。

Brief Interventions(短い介入)

 最近の20年間で物質に関連した問題を単に診断的な"乱用"や独立した症候群としてではなく,より広い意味で捕らえようとする傾向が世界的に広まってきた。物質に関係した問題を持つ人々の方が,伝統的で特殊な治療を要する小人数の人々よりはるかに人数が多く,重篤で,費用のかかる疾患となるという認識は,治療サービスの組織や有用性に必ずしも反映されない。有害な飲酒のパターンを早期に見つける運動や,この拡大する問題を解決する為の,効果的で費用のかさまない方法の,開発の一部として短い介入が開始され,評価されてきた。それは,最初は英国とカナダで始まり,その他の多くの国でも使用されてきた。(短い介入と短い治療のより詳しい検討に関しては,次のTIPを参照。Brief Interventions and Brief Therapies for Substance Abuse〔CSAT, in press(a)〕。)それらは米国やその他の国々で試され,大いに成功したが,研究面以外では広くは採用されていない(Drummond, 1997; Kahan他, 1995)。この短い形の治療の採用が広がるための勢いは以下の事に反応する:

  • 最小限から重篤に至るまでの物質関連問題や消費パターンを持つ,あらゆる人種集団に対応できる底辺の広い治療と予防の必要性。
  • 公的資金をこれ以上枯渇させず,医療費抑制策を満足させる経済的な介入の必要性(しかし研究の結果からはニコチン依存症に対する集中的な治療の方がより費用効果は高いことが示されている〔Agency for Health Care Policy and Reseach, 1996〕)
  • 短い介入が介入を使用しないものに比べ,一定して効果が高いことを示す研究結果が増加すること

救急部門における短い介入

私は動機づけインタビューを救急部門に応用するときにかなりの専門的満足感を覚える。正直なところ,動機づけインタビューは,必要な事をその部門の専門家にしようとする戦いである。動機づけインタビューは私が医療の場の,出会いの中で対話する人も又専門家であること(クライアント自身のライフスタイルや必要,選択においての専門家)を認めるのに役立つ。

1998年にFRAMESの原理について学んだ後,それを実際に1〜2度使ってみたら成功した為,以後何度も使ってきた。これは私が古い方法に戻り,時々人に"解毒しに行きたいですか"と聞くという訳ではなく,多くの場合,人々に彼らの物質使用について話し合う許可を得るようにしている。私は患者に物質使用の何が楽しいか,又逆に何が楽しくないかを理解するのを手伝ってくれるように頼む。患者達は"ハイ"な気分になりたいとしばしば言う。それは彼らをリラックスさせてくれ,又問題を忘れさせてくれるもので,更に彼らの社会生活の一部となっている。しかし物質使用により病気になりたくないし,クラックを使うことで家族から避けられたり,自動車事故や胸の痛みを起こしたりするのも嫌だと言う。私はクライアント一人一人が言った事を注意深く聞き,私なりに理解したことを思い起こし,要約し,そして「物質使用はあなたをどこに置き去りにするの?」とたずねてみる。又彼らがどの程度物質使用から変化する準備ができているかを1から10のスケールで調査する。低い点数なら,前進する為に何が必要かを調べ,高得点であり,変化への準備性を示すものであれば,彼らに何が物質使用からの変化に役に立つと考えているかをたずねる。

患者が治療に関心を示した場合,各種の選択肢についての賛否を調べてみる。物質使用の救急部門の専門家であれば,クライアントに適したプログラム上の位置を捜すことに努め,もし必要ならば転院(移送)の切符を与える。この系統立ったプログラム…動機づけインタビューの原理を取り入れている…は私の多忙極まりない医療現場で役に立っている。それは個人の自主性を尊重したものであることから,倫理的というだけでなく,時間の節約にもなるし,フラストレーションも起こしにくくなる。患者一人一人は問題を呈示し,可能な解決法を確認することで自立して行く。私の役目はこの過程を助長してやるだけである。
Ed Bernstein, Consensus Panel Member

Uses of Brief Interventions(短い介入の使用)

 物質を使用している人々への短い介入は伝統的な治療設定以外で(しばしば日和見的治療と言われる)最も頻繁に用いられる。ここでは,クライアントは物質乱用に対する救いを求めている訳ではなく,医療措置や生活保護の小切手の受け取りや,裁判所からの召喚に応じて来ているのである。これらの場面では物質乱用の人に"現場"で出会い,関わる機会が得られる。又サービスを受けに来た人々に,常時物質関連問題を有するか否かのふるいわけを行い,物質使用のパターンについて質問することができる(ある場面で短い介入がどの様に奏功するかについてより知りたい方はTIP24を参照,A: Guide to Substance Abuse Services for Primary Care Clinicians〔CSAT, 1997〕)。危険で過度の物質使用やそれに関連した問題があると判明したら一つ又はそれ以上の話し合いによる,数分から一時間程度の短い介入を受ける。
 救急治療には短い面接だけで他の部門に委託されることも含む。これらの短い介入はクライアント自身が求める領域の医療専門家により誘導されるもので,物質乱用治療の専門家によって誘導されるものではない。通常短い介入の目的となるものは,彼らの有害な物質パターンについてカウンセリングを行い,状況に応じて物質使用を制限したり中止したりする様助言を行うことである。もし最初の介入が実質上うまく行かなかった場合には,専門家は更なる物質乱用の特殊治療を追加する委託ができる。短い介入は又治療に入る賛否を調べて,治療のオプションのメニューを示し,治療のシステムに接触することを促進できる。
 短い介入は物質乱用の治療設定内で援助を求めているが,順番待ちの人々に対し,効果的に用いられてきた。それはより集中的な治療への契約と,参加への動機づけの前置きとして,そしてそれ以上の医療処置を要せずに行動変化を促進する最初の試みとしてであった。一連の短い介入は短い治療を形成する(時間的に制限のある治療に向けて,治療上の技術を応用させる特別な戦略)ことになり,ある人種に特に有効となる(例,高齢者や思春期のクライアント)。

  1. 薬物依存治療動機づけ
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