第8章 クライエントの動機づけ構成要素の測定

Treatment Improvement Protocol (TIP) Series 35
Enhancing Motivation for Change in Substance Abuse Treatment

  1. 薬物依存治療動機づけ
  2. 第1章 | 第2章 | 第3章 | 第4章 | 第5章 | 第6章 | 第7章 | 第8章 | 第9章 | 第10章 | Appendix A

 動機づけは多元的なもので、ひとつの手段や尺度を用いて簡単に測定できるような単独の領域ではない。本章では、このTIPを通じて検討してきた動機づけの各基礎的要素を測定するための様々な手段について述べていく。本章の内容は、進行状況報告と考えてもらいたい。なぜなら、変化への動機づけという概念は常に進化しており、アセスメントのための新しいアプローチが常に試されているからである。測定手段というものはしばしば改善を必要とし、また新しい問題や集団に適用した場合、その精神測定学的特徴も変わってくる。また、動機づけの測定に特異な課題もある。例えば、クライエントによって使用している物質も異なれば、その準備性のレベルも異なる。人によっては、コカイン使用に関して実行段階であったり、アルコールに関しての考慮段階であったりする。マリワナとタバコ使用で前考慮段階にいるクライエントもいる。確かなのは、ここ数年のうちに動機づけの測定法がより正確なものとなることである。
 本章で紹介する一連の測定法は、コンセンサス・パネルに支持されたものである。他にも多くの測定法が存在するが、適切な精神測定学的裏付けがあるものもあれば、妥当性確認の早期段階にあるものもある。これらの多くは、異なる人種または民族グループに対して標準化がなされていない。多くの臨床家はのこれらフォーマルな手段の有効性を認め、これらが提供してくれる骨組みと焦点を高く評価している。すなわち臨床家のクライエントへの働きかけが課題中心的で現実に根付いたものであることを裏付けてくれるからである。また[これらの測定法の]結果は、クライエントの変化の過程を通じて彼らの動機づけを高めるためのもうひとつのタイプのフィードバックとして利用することができる。クライエントによっては、きわめて主観的に捉えられがちなカウンセリング状況に、検査の得点によって客観的な側面を加えることになる。しかしながら、これらの手段を用いる際には、中には自分の強みを示唆する得点ではなく、脆弱性を指摘する得点に関心を向けすぎるクライエントもいることに注意を払う必要がある。

本章では、動機づけの以下の側面を測定する方法について提示している:

本章の目的は、臨床家がクライエントの動機づけのレベルを査定し、また、動機づけの原理と4章から7章で記述した変化の各段階にふさわしい戦略を活用できるように援助することである。手軽に実施できて、有効かつ精神測定学的にも信頼性のおける手段・尺度が、いくつか用意されている(Allen and Columbus, 1995)。臨床家は、複数の方法を試してみて、クライエントに一番合っている方法、自分が最も関心を持っている側面を測定する方法、自分の臨床スタイルに合っている方法、を見つけるとよい。本章で検討する測定法の大部分は、付録(別表)Aに示されている。

自己効力感

 回復過程にある各個人は、自分が変化し物質を絶つ能力があるという自信(自己効力感)に関して、全く異なるレベルにある。自信過剰な者もいれば、不使用状態どころか減量を達成することにさえ絶望している者もいる。自己効力感は、とりわけアルコール依存または乱用を克服する能力という観点から見た場合、治療成果の重要な予測指標となりえる(DiClemente et al., 1994)。回復過程にあるクライエントにとって特定の状況が挫折を招きやすいことがわかっているので、これらリスクの高い状況を特定することは、治療における重要なステップといえる(Marlatt and George, 1984)。
 自己効力感に関する質問表によって、クライエントに特定の状況についてどの程度リスクがあるか評定させ、それらの状況下で自分がどれだけうまく物質使用の誘惑を避けることができるかを推定させる。具体的な得点が示されることによって、挑発的な状況下で特定の行動に関するクライエントの自己効力感を客観的な指標として捉えることができる。中にはコンピュータ化されたバージョンもあり、小さな棒グラフを投影することによって、数字に視覚的次元を加えて提示する。これらの手段を用いることによって、クライエントは真のリスクがどこにあるのか、つまりリスクは高く自己効力感は低い状況はどれか、を理解することができる。この情報は、現実的な目標を設定し、個々人に合った変化のプランを作り上げるのに非常に有効であり、また自己モニタリングのための確かな基礎を提供してくれる。多くの状況をリスクの高い状況と査定するようなクライエント(すなわち自己効力感が低い)には、新たな対処戦略を学ぶ必要性が示唆される。

状況別自信質問表 Situational Confidence Questionnaire

 状況別自信質問表(SCQ)は特に飲酒が極端なクライエントを対象にしている。この検査は、100項目の質問から成り、以下の8タイプの状況への反応として、飲酒を我慢することができるかどうかという自信のレベルを、クライエントに特定させるものである(Marlatt and Gordon, 1985)。

  • 不愉快な気持ち
  • 身体的な不快感
  • 物質使用に対する個人的コントロールを試される状況
  • 飲酒への衝動および誘惑
  • 他人と過ごす楽しい時間
  • 他人との衝突
  • 楽しい、愉快な気持ち
  • 飲酒への社会的圧力

 クライエントは、それぞれの状況に置かれた自分を想像して、自信の程度を、その状況の強烈な飲酒衝動に抵抗できるかどうかに、「全く自信がない(0点)」、から「絶対に自信がある(6点)」の間の6段階で評価する。SCQは、一般的には記入するのに20分かかり、紙と鉛筆を用いるか、自動的に採点し、クライエントのアルコール摂取に関するプロフィールを表示してくれるコンピュータ・ソフト版を利用する。SCQは、異なる状況での極端な飲酒の頻度を査定する Inventory of Drinking Situations と共に用いる。この質問表の結果は、治療計画のためだけでなく、クライエントへの個別フィードバック にも利用できる(Annis and Davis, 1991)。高得点は、好ましい治療成果が示唆される(Annis and Davis, 1988)のに対して、低得点のクライエントは、治療成果が弱いであろうと予測された(Sobell et al., 1997)。質問表の開発者は、SCQの修正版(改訂版)、DCQ−39を推薦している(付録B参照)。

簡易版状況別自信質問表 Brief Situational Confidence Questionnaire

 治療プログラムによっては、SCQの長さや採点・グラフ化のシステムは臨床現場において時間を取り過ぎて、不便である。そこで、それに代わって、簡易版状況別自信質問表(BSCQ)が開発された(Sobell, 1996)。付録Bで再現したBSCQの8項目は、元のSCQの8つのサブスケールに対応している。あるコミュニティー研究(Sobell et al., 1996b)では、回答者は、各状況でアルコールまたは主薬物の使用を避けることができるという自信を0(全く自信がない)から100(絶対に自信がある)までの数字で表すように指示された。オリジナルと簡易版、2つのSCQを比較した研究(Breslin et al., 1997)では、簡易版はオリジナルと同様に有効で、ほとんどのサブスケールおいて、結果はよく一致していた。BSCQはオリジナルほど包括的な検査ではなく、また広範囲での検証も行われていないが、臨床的なメリットがいくつかある。検査はわずか数分で実施でき、臨床家による解釈も容易で、クライエントへ即時にファイーバックできることから、初期治療施設などアディクション専門以外の設定で手軽に用いることができる(Breslin et al., 1997)。BSCQでは、スペイン語版も用意されている。

禁酒に関する自己効力感尺度 Alcohol Abstinence Self-Efficacy Scale

 禁酒に関する自己効力感尺度(AASE)は、個人の禁酒に関する自己効力感を測定する(DiClemente et al., 1994)。SCQとは似ているものの、AASEでは、前述の8つのカテゴリーをもとにした20の状況において、クライエントの自分が禁酒できるかどうかの自信に焦点を絞っている。クライエントは状況ごとに、飲酒への誘惑とそれに打ち勝つ自信について、それぞれ、1(全くありそうもない)から5(非常にありそう)までの5段階リケットスケールで評定する。誘惑と自己効力感に関する得点は、別々に集計される(DiClemente et al., 1994)。この検査の項目は、否定的感情、社会的状況、身体的またはその他の不安、渇望と衝動という4タイプの再現誘発因を測定する数個のサブカテゴリーに分けられる。アルコール使用障害の成人266名を対象とした24ヶ月以上の治療プログラムでは、この尺度の信頼性と妥当性を支持する指標が示された(DiClemente et al., 1994)。またこの手軽な尺度は、男性対しても女性に対しても同様に有効であることがわかっている。AASEは、容易に用いることができ、包括的で、精神測定学的にも信頼性がある、禁酒に対する自己効力感の測定法といえる。

変化への準備性

 もともと喫煙者を対象とした4つの質問尺度(Richmond et al., 1993)を基にした、変化の重要性を測定する手段も開発されている(Sobell et al., 1996b)。質問は、飲酒に関するものとして一部変更されており、質問ごとに異なる選択肢を用いて回答する方式である。混合動機づけ得点は、反応の合計にもとづいて0から10の範囲で集計(計算)される。4つの質問は以下の通りである。

  • もし簡単にできるならば、飲酒を止めたいと思いますか。
    (いいえ = 0、はい = 1)
  • つまるところ、どのくらい真剣に飲酒を止めたい、または減らしたいと考えていますか。
    (全く真剣でない=0、あまり真剣でない=1、かなり真剣である=2、非常に真剣である=3)
  • 2週間以内に禁酒または減量するつもりはありますか。
    (全くない=0、たぶんない=1、たぶんある=2、非常にある=3)
  • 今から12ヶ月後に、アルコール問題を抱えている可能性はありますか。
    (必ずある=0、おそらくある=1、おそらくない=2、絶対にない=3)

このTIPの全般にわたって指摘してきたように、変化への準備性は治療が効果を挙げるための必須条件である。しかしながら、クライエントの動機づけの状態は、動機づけがあるかないかという二進法で測れるものではない。準備性はむしろ、多くのステップまたは段階の連続体と共に存在し、速いスピードで、場合によっては日ごとに変化する。このことから、変化の段階モデルは、変化への準備性あるいはクライエントの動機づけに関する変化の状態を査定する手段開発の原動力となった。クライエントの準備性のレベル、つまりは変化の段階によって、異なる動機づけ介入戦略が異なる程度の効果を生むはずである(第2章から7章を参照)。

準備性尺度 Readiness Ruler

 準備性尺度はRollnick によって開発され、一般的な医療現場で広く利用されている。これは、現在1から10のどの段階にいるかを訊ねることによって、クライエントの変化への準備性を判断する簡単なシステムである(図8−2参照)。低得点は変化への準備性の低さを、高得点は高さを示唆している。クライエントが自分の変化への準備性をどの程度認識しているかによって、[治療における]対話は異なる方法を取りえる。自準備が整っていない(0−3)」と評定しているクライエントに対しては、心配を表現し、情報を与え、サポートとフォローアップを提供することを勧める臨床家もいる。確信のない(4−7)クライエントに対しては、治療のプラス面とマイナス面について掘り下げてみる。変化への準備性が整っている(8−10)クライエントに関しては、実行プランを援助し、リソースを特定をし、クライエンに希望を持たせる(Bernstein et al., 1997a)。治療が継続するとき、治療が進行するにつれて動機づけがどう変化しているかをモニターするために、この準備性尺度を定期的に使うこともできる。クライエントは前進もすれば、後退もする、ということを忘れてはならない。そして、仮にクライエントが意思決定すなわち実行段階に至ることがないとしても、臨床家は前進への支援を止めないこと、これもそれなりの成果といえる。大部分のクライエントは、治療または安定した回復過程に落ち着くまでに、いくつかの変化段階を何回も繰り返すもので、ときには急上昇したり急降下したりもする。変化への準備性尺度の大きな特徴のひとつは、クライエントが、尺度中に印をつける、または数字を声に出すことによって、自分自身の準備性を評定することである。もうひとつの特徴は、臨床家が「3から5に行くためには、何が必要ですか。」とか、「去年のことを考えると、何が変化しましたか。」という質問を提唱することによって、[準備性の]連続体に平行した変動を捉えることができる。準備性の育成に関しては、既に第4章で詳しく述べた。
 その他の類似研究(Sobell et al., 1993b; Sobell and Sobell, 1993, 1995b)では、クライエントは以下の2つの質問に0から100の間の尺度で回答をした:

  • 現時点であなたにとって、飲酒行動を変えることは、どのくらい重要ですか。
    (全く重要ではない=0、現在やりたいと思っている他のこととほぼ同じくらい重要である=50、現在人生において一番重要である=100)
  • 現時点で、あなたは現在の飲酒行動を変えることについて、どのくらい自信がありますか。
    (自分の目標を達成できるとは思えない=0、目標を達成する確立は50%だと思う=50、絶対に目標を達成できると思う=100)

 目標の重要性と自信の査定は、共に良好な治療結果と結びついている(Sobell et al., 1996b)。

ロードアイランド大学・変化査定尺度
University of Rhode Island Change Assessment Scale

 ロードアイランド大学・変化査定尺度(URICA)はそもそも、前考慮段階、考慮段階、実行段階、維持段階、以上4つの変化段階の観点から、精神療法におけるクライエントの変化の段階を測定するために開発された(McConnaughy et al., 1983)。各4つの段階に対応するサブスケールが8個ずつ、合計32項目から成っている(付録B参照)。回答者は、1(強い不同意)から5(強い同意)の5段階リケットスケールで査定する。4つの段階べつの得点が集計される。この尺度は、幅広い範囲のクライエントの不安を対象に含めて設計され、クライエントの「問題」について一般的な質問をする形になっている。
 URICAには、各段階に対応する項目を7個ずつ、計28項目から成るバージョンもあり、こちらもアルコール依存症のクライエントを対象に用いられている(DiClemente et al., 1994)。この尺度のサブスケール得点を利用して、各変化段階のプロフィールを作成することもできれば、考慮段階、実行段階、維持段階の平均得点の合計から前考慮段階の得点を引いて、単一の準備性得点を算出することも可能である。これまでにたくさんの研究が、これらの得点と治療効果の相関関係が指摘している。Project MATCHは、アルコール問題に対する心理社会的治療のマルチサイト臨床試験で、1, 726人のクライエントが参加した。ここでは、準備性得点は3年後の追跡研究時の禁酒結果を予測していた(Project MATCH Research Group, 1997a)。

変化への準備性段階と治療意欲の尺度 
Stages of Change Readiness and Treatment Eagerness Scale

 変化への準備性段階と治療意欲の尺度(SOCRATES)は、変化への準備性を測定するもので、飲酒問題を抱えるクライエントに焦点を当てている。1987年にWilliam R. Miller の開発による最初の項目案が、広く意見を請うため、物質乱用治療に携わる研究者仲間の間に配布された。そして5(強く同意)から1(強く不同意)までの5ポイント制の尺度を用いた32項目のバージョンが出来上がった。付録Bに再現した現在の19項目版SOCRATESは、もともとは1991年に開発され、Project MATCH(Miller and Tonigan, 1996)において、紙と鉛筆を用いた自己実施型質問表として使われた。縮約版の項目は、5つの変化の段階を測定するのではなく、互いに少しずつオーバーラップしている3つの要因、行動の実施、認識、アンビバレンスに関連するものとなっている。
 得点のフィードバックを、話し合いの第一歩としてクライエントに提供するという、SOCRATESの利用法もよい。また、この尺度を再施行した場合、問題認識、アンビバレンス、変化の実行における進歩に関して、介入がどの程度の影響を及ぼしたかを査定することも可能である。物質使用の変化への動機づけを査定するだけでなく、パートナーの物質使用パターンを変えるための援助をするSO(重要な他者)の動機づけを査定する、平行形式も開発されている。SOCRATES変数は、その他の測定法と組み合わせることによって、動機づけと変化への準備性の構造を理解する大きな武器となりえる。SOCRATESは、スペイン語版も用意されている。

変化への準備性質問表 Readiness To Change Questionnaire

 変化への準備性質問表(RCQ)は、物質乱用治療を専門としない医療関係者が、大酒家のクライエントの変化の段階を査定するのを支援するために開発された(Rollnick et al., 1992b)。URICAの項目から適用した12項目からなっている。これらの項目は前考慮段階、考慮段階、実行段階の3つの段階と密接に関連しており、それら各準備性レベルにいる個人の典型的な態度を反映している。例えば、まだ変化を考慮するに至っていない人は、「飲酒量を減らすことは、私にとって意味がない」という記述に対して、たぶん肯定の回答をするだろうし、逆に既に実行段階にいる人は、「私は最近自分の飲酒習慣を変えた」という記述を肯定するであろう。また、変化を考慮している個人は、「私は時々、飲酒量を減らすべきだ、感じる。」という記述に同意を示すであろうと予測される。回答には、「強く同意(5)」から「強く不同意(1)」の5段階尺度が用いられている。
 RCQは自己実施が可能で、非治療的環境に適する精神測定学的特徴を持っていることが知られている。この質問表が一般病院で飲酒の多い患者のスクリーニング検査として用いられたとき、患者の変化への準備性を正確に反映し、また、回答者の退院8週間後と6ヶ月後における飲酒パターンの変化をよく予測していた。すなわち、変化への準備がほとんど整っていなかった患者らは、追跡時の飲酒習慣における変化も最も乏しく、逆に、実行への準備が最も整っていた患者らは、追跡時には変化を実行していた(Heather et al., 1993)。この質問表の追加的試験では、一般病院の病棟で過度の飲酒癖があり、かつ変化の初期段階にあると同定された男性たちは、飲酒量の軽減に関して、スキル・ベースのカウンセリングよりも短期動機づけ面接の方によい反応を見せた。しかし、その逆は当てはまらなかった。変化への準備性が整っていると査定された男性たちは、短期動機づけ面接よりもスキル・ベースのカウンセリングの方によい反応を見せたのである。この研究の著者は、状況便乗的な過剰飲酒者と同定され、かつその人の変化の準備性が整っている場合、どのタイプのカウンセリングが適切なのかを確かめるには、さらなる研究が必要だと結論づけている(Heather et al., 1996a)。
 RCQを繰り返して使用するにつれて、Heather らは、その採点方法に改良を加えている。もともとの「簡単な方法」では、各変化の段階の尺度ごとに得点を合計して、変化の段階の連続体上で一番得点が高い段階が、クライエントの変化への準備性を最も正確に反映する、としている。この方法は、即時的にクライエントの準備性を判断する必要がある場合には、適当である。しかし、より正確で精緻な採点方法、すなわち研究目的にとっても臨床目的にとってもより有効な変化の予測指標を考えるとき、非論理的で信憑性のない反応をすべて削除する必要がある。また、準備段階も採点に含めるべきである。改訂版「変化への準備性質問表・使用の手引き」中に、この方法を用いた集計方法の詳細は述べてある。
 RCQ(治療版)(RVQ[TV])は、RCQの最新版(Heather et al., 1996b)で、アルコール問題の治療を求めている、または既に治療を受けている個人の変化の段階を判断するのに、より適している。付録Bに再現したこのバージョンは、オリジナルのRCQが状況便乗的過剰飲酒者または危険な飲酒者のみを対象としている(Gavin et al., 1998)にもかかわらず、既に物質使用障害の治療に応募してきたアルコール依存症の人たちにも不適切に実施されている、という批判に答える形で登場した。ここでの大きな問題は、一般の医療設定で同定された過剰飲酒者は、断酒ではなく、飲酒を安全な量まで減らすことを選択する、という点である。これは、従来の治療を必要とする重篤な障害を持つ人たちが下す典型的な決断である。
 改訂に際して開発者は、5つの変化段階にいる個人を同定するためにいくつかの質問を加えることと、(1)飲酒を減らす(2)禁酒する、という2つの目標を反映するよう質問を修正すること、望んで改訂に取り組んだ。しかし、この改訂版では後者のみが達成されている(Heather et al., 1996b)。RCQ(TV)は、各変化段階につき6個ずつの質問項目、計30項目から成り、強く同意から強く不同意までの5段階で査定する。これらの質問および記述の大部分はオリジナルRCQから適用したもので、それに目標として禁酒を含めている。例えば、「私は、飲酒を減らす、またはお酒を止めるための計画を既に実行し始めた。」というもの。また、2つの変化段階を新たに含め、これらに対応する新しい質問が追加された。「私は既に禁酒または飲酒の減量に成功したので、このまま続けたいと思う。」(維持段階)や「私は既に飲酒を減らす、または止める計画を立て、これを実行に移すつもりである。」(準備段階)がその例である。
 この検査は精神測定学的信頼性が高く、開発者によると、治療を開始する個人にとってどのタイプの援助が臨床的に最も有効かを決定するのに、大変有効である。変化への準備性が整っていると同定されたクライエントには、スキル中心の、または行動指向型の援助を即座に提供でき、一方のまだ実行段階に達していないクライエントには、準備性連続体に沿ってさらに前進するまで、一層動機づけ介入を続けるべきである。スケールのひとつをさらに強化し、検査の飲酒行動における効果を正確に予測する能力を判断するには、さらなる研究が必要である(Heather et al., 1996b)。

決断バランス Decisional Balancing

 第5章で述べたように、決断バランスを査定するためのエクササイズや手段を用いて、特定の行動パターンのプラス面、マイナス面を吟味することができる。行動パターンおよびそれを変えることに関する一般的なメリットとその代価とを天秤にかけることによって、 クライエントは自らの行動の影響を評価し、それを変えることに関して、より詳しい情報に基づいた選択をすることができる。本節で紹介する尺度は、クライエントの物質使用の代価を強調し、クライエントから見た物質使用のメリットを弱めるために利用できる。また、回復によるメリットをより明らかにしてみせ、変化への潜在的障害物を同定するためにも用いられる。
 決断バランスのエクササイズは、クライエントが、物質使用のメリットとデメリットを特定するのを支援する目的で、Sobellらによって開発された(Sobell et al., 1996b)。これは、自律性変化としばしば関連づけられる認知評価過程の一部として用いられる。このように意図的なデメリットとメリットの比較をすることは、関連する問題の認識と解決を大いに促進する。行動を変える気があるクライエントには、変えることのメリットとデメリット、逆に変えないことのメリットとデメリットを並列して表を作らせる。そして、「これらのデメリットにそれだけの価値があるか」をじっくり考えさせる。図8−3は、変化への決断のためのエクササイズの一例である。
 もうひとつの決断バランス・エクササイズとして、付録Bに収録されている、アルコール(および非合法薬物)決断バランス尺度が挙げられる。これはDiClemente によって開発されたもので、回答者は、飲酒または薬物使用行動の変化において、各項目がどのくらい重要かを5段階尺度で示す。

アルコール・薬物効果質問表 Alcohol and Drug Consequences Questionnaire

 アルコール・薬物効果質問表The Alcohol and Drug Consequences Questionnaire(ADCQ)は、物質使用問題の変化におけるデメリットとメリットを査定するための比較的新しい手段である(Cunningham et al., 1997)。付録Bに収録してある。質問表の29項目は、物質使用の外来治療施設における、指導つき自己変化のための短期認知行動的介入に参加したクライエントの報告に基づいて作成された。これらの項目は、変化のデメリットと変化のメリット、と2つのカテゴリーに分けられる。回答者は、自分が物質使用を止めるまたは減らすことを考えるとき、そのために各項目はどのくらい重要かを答える(0=該当なし、1=重要ではない、3=中程度に重要である、4=とても重要である、5=極めて重要である)。採点方法は、デメリットの得点とメリットの得点を別々に合計して、2つの得点を比較する。
 この質問表に関する初期の検証では、回答者が予想した変化によるデメリットとメリットは、治療目標を達成することに対してクライエントが評価した重要性に有意に相関しており、問題飲酒者では、彼らの後の飲酒行動に相関していた。変化がもたらすデメリットの得点が高かった回答者の間では、治療に続く1年の間の飲酒量は多くなる傾向が見られ、変化によるメリットはデメリットよりも重要であると認識していた回答者の間では、治療後の飲酒レベルは減少する傾向が見られた(Cunningham et al., 1997)。

物質使用の動機づけ Motivation for Using Substances

 本節で記述した測定手段の基本的な目的は、「もし物質使用を止めたら、…に感じるのではないかと思う。」というような文の空いている部分を埋めることによって、クライエントが物質使用に対して持っている期待を[言葉で]表現するように働きかけることである。研究によると、使用が乱用へと発展していく過程では、「期待」が大きな役割を果たしている(Brown, 1993; Connors and Maisto, 1988; Leigh, 1989a)。クライエントの物質の効果に対する期待について知ることは、臨床家にとって、彼らの物質使用行動の論理的根拠を理解するのに役立つ。すなわち、大部分の状況で物質使用からよいことを期待しているクライエントは、この観点に変化が現れない限り同じレベルの物質使用を続けるであろう。クライエントの期待を手がかりとして、クライエントの行動パターンと希望(願望)の間の矛盾を見つけ、彼らが物質使用の根拠を同定するのを援助するための戦略を選択するべきである。
 その他の測定領域と同様、アルコール使用に比べて薬物使用への動機づけについては知られていることが少ない。本節で検討した尺度は、それぞれの長さも異なり、中には臨床現場での検証がなされていないものもある。Leighは、動機づけの測定を目的とするいくつかの質問表について再検討し、それらのサンプルと注意書きを提示した(Leigh, 1989a)。

アルコールに関する期待質問表 Alcohol Expectancy Questionnaire

 アルコールに関する期待質問表は、同種の質問表の中で最も広く用いられている(Brown et al., 1987)もので、付録Bに示されている。 90項目から成り、同意/不同意の二者選択型の回答形式である。これらの項目は、アルコールによるメリットの6つのカテゴリーに分類される。

  • 広範囲のプラスの変化
  • 社会的・身体的快楽
  • 性的興奮
  • 社会的積極性の増加
  • 緊張緩和/息抜き
  • 覚醒度と攻撃性の増加

この尺度では、マイナスの期待ではなくプラスの期待のみが測定される。この尺度によって、治療終了時点でプラスの期待を持ち続けていたクライエントは、乏しい結果を得ることが示されている。臨床母集団と非臨床母集団の双方の成人において、用いられている(Sobell et al., 1994)。また青年期のクライエント用に、同じ形式の120項目のバージョンも開発されている(Christiansen et al., 1982)。

アルコール効果質問表 Alcohol Effects Questionnaire

 付録Bに再現したアルコール効果質問表は、研究者たちから、先に挙げたアルコールへの期待質問表はアルコールに関連した期待の強さを測定しているのか、という疑問が出たことを受けて作成された(Collins et al., 1990)。標準のアルコールに関する期待質問表への同意/不同意回答に加えて、被験者は、彼らの信念の強さを評定するように指示された。この研究によって、(1)ある行動に対する態度の性質と(2)その態度の強さ=行動変化に関する自信、という2つの異なるタイプのアルコールに関する期待を明確に区別をすることが期待されていた。被験者は、特定の信念についてどのくらい強く同意または不同意かを、1=少し信じる、から10=強く信じる、までの10段階リケットスケールで報告した。結果は、アルコールに関する期待質問表で査定された個人のアルコールに関する期待への同意/不同意の強さは、同じ期待に対して単に同意である、不同意である、ということとは異なる、という考えを支持するものであった。

その他の尺度

 飲酒効果尺度 the Effects of Drinking Alcohol scaleは20項目から成り、「ありえそうもない」から「非常にありえそうだ」までの5段階尺度で評定する。これらの項目は、アルコール使用に対して期待される反応が反映されており、意地が悪くなること、脱抑制、認知的/身体的障害、社交的傾向、抑制効果という5つの要素のどれかに対応している。(Leigh, 1989a)。
 アルコール効果尺度the Alcohol Effects Scale は、37項目から成る強制選択式の形容詞チェックリストで、刺激/優越感、愉快な脱抑制、行動障害の3つの要素を測定する(Southwick et al., 1981)。この尺度によって、どのくらい控えめな飲酒、またはどのくらい過剰な飲酒が影響を与えるか、についてのクライエントの期待を測定するものである。
 アルコール信念尺度the Alcohol Belief Scale は、異なる状況における異なる量の飲酒の効用についてのクライエントの期待を査定するために開発された(Connors and Maisto, 1988; Connors et al., 1987)。この尺度はクライエントの信念を測定するもので、例えば、アルコールが、その飲酒量に応じて不快感を軽減するかどうかが、「飲めば飲むほど、気分がよくなる」という項目によって問われる(Connors et al., 1987)。最も重篤な飲酒問題を抱えるクライエントほど、最も肯定的な期待を示すことが報告されている。
 マリワナ効果期待質問表 the Marijuana Effect Expectancy Questionnaire(MEEQ) とコカイン効果期待質問表the Cocaine Effect Expectancy Questionnaire(CEEQ)は、ともに物質使用への動機づけを査定する姉妹尺度である(Schafer and Brown, 1991)。MEEQ(70 項目)、CEEQ(64 項目)ではともに、はい/いいえ形式を用いて、AEQ と同じやり方で同意/不同意を評定する。被験者は、自分の信念と、実際に物質を使用しているかどうか、という点に基づいて、各項目に回答する。一層の研究が必要ではあるが、被験者の期待は物質によって異なり、これらは各物質の性質に対応しているようである(例えば、アルコールやコカインからは興奮を期待するが、マリワナ使用からはこれを期待しない。)

目標と価値観 Goals and Values

 クライエントが治療の目標に向かって前進するためには、それら目標の重要性を認める必要がある。逆にクライントが重要性を認めない限り、それらはクライエントの立場から見た目標とはいえない。動機づけの観点からすると、臨床家は、クライエントが人生において何を目標にしているのか、そして何を重視しているか、を理解しなければならない。通常、クライエントが現在いる位置−つまりクライエント自身の観点から見て、何が一番重要なのか−から始めるのがよい。
 「あなたにとって一番大切なことは、どんなことですか。」「5年後にあなたの人生がどんな風に変わっていることを望みますか。」などの質問をする自由回答形式の面接を通じて、クライエントの目標と価値観について査定することができる。この過程の補佐として、次のようなことをする臨床家もいる。紙にいくつかの丸を描いて、その中にクライエントが臨床家と話し合いたいと感じているような問題点をひとつずつ書き込んでおく。そして「今日はここで、この中のどれについて話し合いたいですか。」とか「どれから始めましょうか。」というような質問をする。クライエントは紙に書かれた以外にも目標を持っているかもしれないので、中が空白の丸も書いておくようにする。治療プランを作るに際には、すべて空白の丸から始めて、治療の目標となりそうな問題を書き込んでいき、最後にそれに優先順位をつけることも有効である。Miles Cox は、クライエントの目標とそれに対する意欲の程度、効果への期待、自己効力感を同定するために、動機づけ構造質問表 Motivational Structure Questionnaire を開発し、それに関する臨床的検証を行った(Cox et al., 1993)。
 クライエントが何を欲し何を重要視しているのかを査定するためには、より体系化された方法も用意されている。「私が治療に求めるもの」質問表 the What I Want From Treatment Questionnaire では、考えられる治療目標と側面が挙げられ、新しいクライエントは、自分の治療にこれらの各項目を盛り込むことの重要性を評定する(この質問表のコピーについては付録Bを参照)。また治療完結時に、これらの各治療要素を、実際の治療の中でどの程度経験したかをクライエントに訊ねることも可能である。この質問表を用いた研究のひとつは、インテーク時に希望していた要素を、実際の治療で経験することができたクライエントは、治療完結時の良好な結果を示した、と報告している。そしてクライエントが、希望していなかった要素を経験した場合は、結果に影響は出なかった。つまり、クライエントは自分が希望しているものを治療によって与えられた場合、進歩を見せる。
 価値観の測定一般を扱った文献は広範囲におよぶ。例えば、1960年に開発されて以来、広く用いられている価値観調査質問表the Study of Values Questionnaire もそのひとつである(Allport et al., 1960)。Rokeach はこのテーマを扱った古典とでも言うべき著書の中で、道具的価値観(手段)と最終的価値観(目的)を評定する方法を紹介している(Rokeach, 1973)。Rokeachの評定法は、綿密な研究に基づいたもので、公表されている形式を手に入れることができる。クライエントが、小さなラベルを階層的に配列することによって、自分たちの価値観に優先順位とつける、というものである(Rokeach, 1983)。クライエントに、広範囲な価値観を日常的な言語で表現したカードを選別し、優先順位をつけさせる、という方法もある(Miller and C'de Baca, 1994)。

  1. 薬物依存治療動機づけ
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