原井宏明の情報公開
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第7章 実行段階から維持段階へ

Treatment Improvement Protocol (TIP) Series 35
Enhancing Motivation for Change in Substance Abuse Treatment

  1. 薬物依存治療動機づけ
  2. 第1章 | 第2章 | 第3章 | 第4章 | 第5章 | 第6章 | 第7章 | 第8章 | 第9章 | 第10章 | Appendix A

変化の安定化

 嗜癖行動の変化が本物かどうかは、その変化が数年に渡って維持されるかどうかで判断される。この"維持"段階では、新しい行動パターンがしっかりと確立され、従来のパターンに逆戻りする危険は頻度的にも強度的にも軽減する。クライエントの自己効力感を高めるための援助は、行動維持段階における重要な課題となる。実行段階および維持段階にある個人には、動機づけ戦略に加えてスキル・トレーニングも必要といえる。 DiClemente, 1991
 維持とは変化がないことではなく、変化が継続することである。Prochaska and DiClemente, 1984

 動機づけカウンセリングのスタイルは、主に前考慮段階から準備段階にあるクライエントに対して用いられるが、この時点でクライエントは行動の変化を開始しようとしているところである。クライエントや臨床家の多くが、フォーマルな治療は、様々な理念や手続きによって規定される別個の領域であり、そこでは動機づけ戦略はもはや必要とされない、と考えている。しかし、以下の2つの理由から、これは間違いである。第一に、クライエントは、自ら選択したプログラムまたは治療過程に踏みとどまるために、驚くべき量のサポートと励ましを必要としているからである。うまく退院にこぎつけた後でさえ、治療によって得た利益を維持するためにはサポートや励ましが必要であり、これらなくしては、従来の問題行動へ引きずり戻されそうな危機が訪れたとき、うまく対処することはできない。第二に、クライエントの多くは治療に至る時、変化の段階中の実行段階より以前の段階、または、アンビバレンスが伴う考慮段階のあるレベルと実行段階の間を行ったり来たりしている状態である。それがいよいよ実行の段階になって、物質使用を中止または減量するという現実に、突然直面することになる。これは実行に関して考えをめぐらせることより、はるかに困難な状況である。回復の初期段階では、クライエントは変化について考えることを要求されるのみで、実践することに比べるとその脅威もさほどではない。
 本章では、フォーマルな治療過程中のいくつかのポイントにおける、動機づけ戦略の有効な利用方法について提唱する。まず第一項では、治療開始直後のクライエントが当然抱えるであろう治療に対する疑念や危惧を理解し相殺することの重要性について検討する。これによって、彼らが治療の効果が出始めるのを待たずして、時期尚早に治療を放棄することを防ぐことができる。続く項では、クライエントが、変化を安定させるためのプランを作成し、リスクの高い状況を回避または緩和するための対処戦略を見出し、さらに家族や社会のサポートを獲得するのを手援助する方法について述べる。そして第三項では、物質使用以外の代替強化子となり得る要素をいくつか列挙する。物質不使用のライフスタイルを、従来の自己破壊的行動よりも魅力的で実りあるものにするための広範囲アプローチも、その一つである。

クライエントの治療への関与と継続を促す

 時期尚早のまま治療が終結してしまうこと―ドロップアウト―については、臨床家も研究者も、大いに関心を寄せている(Kolden et al., 1997; Zweben et al., 1988)。非合法物質使用者の治療に関する文献によれば、治療期間が長くなるほど得られる効果も良好であることがわかる(e.g., Simpson et al., 1997)。治療期間が短い場合、すぐに物質使用に舞い戻ってしまう、物質の使用や犯罪行為がやめられない、などマイナスの結果に結びつく傾向が見られる(Pickens and Fletcher, 1991)。これらの結果は、短期介入は集中的な治療に負けるとも劣らず有効であり(Bien et al., 1993b)、クライエントを集中度が高い治療と低い治療に無作為に振り分けたところ、両者の治療の結果にほとんど差は見られない、という別方面からの研究報告とは対照的である。
 時期尚早な治療終結の原因はさまざまである。治療からのドロップアウト、予約時に現れない、治療プログラムの方針に従わないなどは、明らかにクライエントの治療に対する落胆・幻滅または心境の変化を表している場合もある。しかし、クライエントが治療者との話し合いなしで治療からドロップアウトした場合、これはクライエントの不満や抵抗の表れというよりは、むしろ経過は良好であり、治療者の継続的な援助やモニタリングなしでも、自力でプラス方向の変化に到達できる、というクライエントの決断の表れと解釈できるかもしれない(DiClemente, 1991)。
 外来治療の成功と不成功(ドロップアウト)を予測する際、治療開始時における物質依存の重篤度(McLellan et al., 1994)、具体的にいえば治療開始時の尿検査で薬物反応が陽性か陰性か(Alterman et al., 1996, 1997)、が最も確かな指標といえるだろう。インテーク時の尿検査で陽性を示したコカイン使用患者は、治療を完結する、またはコカイン使用を断つことができる確率が、陰性であった患者に比べて半分以下である、と示した研究もある(Alterman et al., 1997)。アルコール依存においては、重篤度と治療結果の相関関係はそれほど明白ではない(Project MATCH Research Group, 1997a)。
 多くの研究者が、クライエントや治療者の性格、治療環境、治療法の要素、これらの相互作用、などを含む変数に焦点を当てて、治療維持への予測指標を見つけ出そうとしてきたが、Koldenらによると、因子が多すぎて現実的な分析は無理であり、これといった治療コンプライアンスの予測指標を同定するには至っていない(Kolden et al., 1997)。
 しかし、上記の研究者のものを含めて、治療維持と何らかの相関関係を示している、もしくはクライエントの早期の治療中断に影響を与えているように見える変数について、若干の報告がされている。例えば、面接と面接の間にクライエントに電話をかけるとか、相互の対話を用いて治療目的の追求や取り決めをする、というような一見ささいな行為を通じて、治療家がクライエントに対する関心を表現した場合、明らかに治療維持に何らかの影響を与えるものである。同様に、治療の要素や継続期間に関する予想が、クライエントと臨床家の間でどのくらい一致しているか、ということも治療維持に影響を与え得る。"不成功"は治療同盟の弱さを意味し、臨床的な未熟さを反映しているといえるかもしれない。社会的に安定していること、以前に治療歴があること、将来の物質使用減量に期待を持っていること、服用しているメサドンの用量が高いこと、および動機づけが高いこと(ここではクライエントが助けを求めており、かつその必要性を認識していることと定義する)――これらは、アヘン使用のクライエントが、メサドン治療を60日以上継続できるかどうか、の予測指標としてある程度有効と見られた(Simpson and Joe, 1993)。さらに、治療コミュニティーからの報告によると、精神病理学的重篤度が低いこと、動機づけおよび準備性が高いこと(ここではクライエントが変化を望み、変化するために治療を利用することを望んでいることと定義する)は、治療維持のプラスの指標である(e.g., DeLeon et al., 1994)。反対に、治療プログラムへの不信感と「どこかに自分に合う方法があるはずだ」 という自己効力感の双方が組み合わさっている場合は、クライエントがAA(アルコホーリクス・アノニマス)を通じて断酒に成功する可能性が示唆される(Longshore et al., 1998)。また、治療からドロップアウトするクライエントの割合は、臨床スタッフの間で大幅に差がある、という研究も見られる(Miller, 1985b)。
 少なくとも3つの研究が、動機づけ面接を追加することによって、クライエントの治療への関与と治療継続を促進することができる、と示唆している。第一の研究では、13日間のアルコール依存症入院治療プログラムにおいて、1グループのクライエントを対象に、2セッションのアセスメントを行い,アセスメント直後に,共感・支持を強調した動機づけスタイル(第4章参照)をもちいて結果をフィードバックしたを行った(Brown and Miller, 1993)。これは,インテーク過程の一環として行われたものである。この動機づけ介入は通常プロトコルに2時間を加えただけのものであったが、同グループのクライエントは動機づけ介入を受けなかったグループに比べて、後の治療に全面的かつ積極的にかかわることができた。さらに、動機づけ面接によって配慮とサポートを余分に受けたグループでは、コントロール群の29%に対して、64%のクライエントが3ヶ月後のフォローアップ時に良好な経過(断酒状態または無症状状態)を示した。
 同様に Aubreyによると、物質乱用治療の開始時に、1セッションの動機づけ面接と個人的なフィードバックを与えられた青年期クライエントの間では、治療の継続率は良く、アルコール摂取、非合法法薬物の使用は減り、これらの差は有意であった。(Aubrey, 1998)。動機づけ面接のセッションを受けた若者は、動機づけ面接なしで同じ外来プログラムに参加した若者(平均6セッション)に比べて、ほぼ3倍のセッション(平均17セッション)を完了することができた。開始時に1セッション加えることによって、フォローアップ時の断薬率も2倍に増加した。
 第三の研究は、オーストラリアで行われたアヘン使用者のメサドン治療プログラムに関するもので、治療導入時に動機づけ面接技法を用いた1時間の介入を受けることによって、参加者はより即時的かつ積極的に治療やアヘン摂取減量へ取り組むことができた(Saunders et al., 1995)。ほんの1時間の付加的治療をつけ足すことによって、教育的介入のみを受けたコントロール群に比べて、これらの外来クライエントの問題が軽減され、治療コンプライアンスが高まり、より多くのクライエントが治療を継続し、治療後すぐにアヘン使用を再開するクライエントが減ったことは、むしろ驚きに値する。研究の対象となった全クライエントの40%が6ヶ月以内にドロップアウトしたが、付加的動機づけ介入に参加したクライエントのドロップアウト率は30%であり、コントロール群(49%)に比べると約半数であった。
 興味深いことに、メサドン治療開始を決断したクライエントは、予想とは裏腹に、必ずしも変化の過程中の実行段階にいるわけではない、との報告もされている。むしろ彼らはどの段階でもありえ、大部分は前考慮段階から維持段階を速い周期で行ったり来たりしているようである。動機づけ介入に参加したグループの多く(38%)は、入院時には変化を考慮している段階で、その3ヶ月後には同グループの37%が実行段階にあった。一方、コントロール群では、入院時には35%がまだ変化を考慮する以前の段階(前考慮段階)で、3ヶ月後には47%が同段階にとどまっていた。これらの結果は、外部環境のいかんにかかわらず、クライエント自身の変化への"準備"がどれほど整っているか、を評価することの重要性を強調するものである。臨床家のカウンセリングや治療戦略によって変化への動機づけが高まっているクライエントであっても、彼らの変化の各段階間の境界はかなり流動的である。

治療への関与と継続を促進するための具体的戦略

 本節では、クライエントの治療への関与または参加を高め、早期のドロップアウトを減らすための戦略について検討する。ここで挙げる戦略は、臨床家によって、その有効性がある程度確かめられたものである。これらの戦略を用いる際には、これまでの章で概略を述べてきた動機づけアプローチを、何らかの形での応用することが必要となる。

ラポールの形成

 第3章4章で述べたように、臨床家のスタイルは、クライエントとのラポールを確立し、信頼関係を築くための重要な要素のひとつである。動機づけ面接の原理は、臨床家やプログラムの観点ではなく、クライエント独自の観点や価値観に触れ理解するために有効であることが、証明されている。的確な共感と聞き返し(ラポールを促進する相互作用過程を通じて、クライエントの不安を顕在化させるクライエント中心技法)については、多くの臨床研究によって記述され検討されてきた。
 治療環境が快適で安全であると感じたとき、クライエントは治療者に信頼を寄せることができる。彼らの自然な反応は、性別・年齢・民族的背景・以前の経験などの要素によって異なってくる。例えば、エスニック・マイノリティに属するクライエントは、それまでの苦い人生経験や以前の治療で生じたトラブルにゆえに、治療環境において口が重くなるかもしれない。こうしたクライエントを含め、抑圧・虐待されてきた経験を持つクライエントに接する場合、治療環境の安全性が何よりも重要な課題となる。
 クライエントになじみのある環境や活動を取り入れることによって、プログラムを身近に感じられるように創意工夫を凝らすことも可能である。例えば、アフリカ系アメリカ人はお互いをブラザー・シスターと呼び合うし、先住アメリカ人は仲間を血縁同士とみなす。クライエントのことを、参加すること・含まれることという意味を込めて、メンバーと呼ぶプログラムもある。クライエントたちが家族の一員であると感じられるように、食事を提供するプログラムもある。先住アメリカ人を対象としたあるプログラムでは、クライエントのトラウマや痛みは、"栄誉"を持って扱われる。彼らの習慣では、問題を抱えている者は、スウェット・ロッジを願いでることができる。この儀式は、自分の気持ちを吐露しフィードバックを受け取ることができる、安全かつしかるべき場所を提供してくれる。この願い出をかなえることは,重要なことであり,またこの儀式に招かれることは大変な栄誉である。先住アメリカ人にとって、スウェット・ロッジに参加することは、自らの民族アイデンティティーを受け入れ、民族としてのプライドを獲得し、先住アメリカ民族のスピリチャリティーに敬意を払うことであり、これによって帰属意識を高めることができる。別のプログラムでは、物質使用を止めようとしていた先住アメリカ人の女性が、物質使用に逆戻りしてしまった際に、グループは、彼女を処罰し隔離する代わりに、スウェット・ロッジの火を管理する役を与えた。彼女個人の苦しみに対するグループの敬意が彼女の現在の行動(薬物使用)を超越した。グループとの絆を継続することなしに、この女性が将来自らの行為の変化を選択する可能性はないであろう、という考えがこの抜擢の背景にある。
 文化背景によっては、間接的な表現に安心感を覚えるクライエントもいる。その場合、比喩的表現、物語、伝説、ことわざなどを用いて、クライエントに自分が置かれている状況として解釈させるようにするのもよい。例えば、他人に助けを求めることができないクライエントに対しては、その点を物語や比喩の形にして伝える。たいていの場合、クライエントは"納得"し、プライドを傷つけられることなしに治療者の意図を理解するものである。治療者はただテーマを提供するだけで、後はクライエントが自ら解釈し結論を引き出すのに任せればよい。

クライエントを役割に誘導する

 第6章で述べたように、クライエントにとって治療者と紹介元の機関についてよく知ることは大切である。治療者は、治療には何がかかわってくるのか、何を期待すべきなのか、どんな規則があるのか、などについてクライエントに明白に説明するべきである。紹介元機関から十分な説明を受けていない場合は、治療中に起こりえることについてもう一度見直し、どんなにささいな当惑も残らないようにする。また、クライエントが理解できるような言葉を用いるようにする。そして、クライエントの質問を促し、クライエントが紛らわしいとか、正当ではないとか感じることには、すべて明確な説明を与える。クライエントによっては、なぜクリニックがもっと便利な時間に開いていないのか、なぜセッション以外のときにクリニックでたむろするのはいけないのか、なぜ特定のスケジュールでグループ・セッションに参加しなければいけないのか、治療に参加する意味は何なのか、というようなことを知りたがるであろう。これは、情報開示に同意することの意味や、治療を命じた紹介元機関にどんな情報を提供しなければならないか、についてクライエントに説明しておくよい機会である。クライエントを役割に導くこと自体が、時期尚早な治療終結を防ぐわけではないが、それによってクライントは、治療プログラムから何を期待すべきかをはっきりさせることができる。(Zweben et al., 1988).

クライエントの期待を探り、矛盾を見つけ出す

 新しいクライエントと向かい合うとき、まず過去の経験を含めて、治療過程に対する期待について話し合うことが必要である。ここでは、クライエントの期待が、実際の治療に対して大幅にずれていないかどうかの確認もする必要がある。個人的でかつ苦痛を伴うような質問は、必ずクライエントの許可を得ようにする。その後、治療に対する期待、第一印象、希望と恐れについて、クライエントに詳細に語らせる。他のクライエントが挙げた不安をリストにして見せることも、クライエントを安心させるのに役立つ。たいていのクライエントは同じようなことを心配するものである。クライエントが持つ不安の一部を、以下に挙げる。

  • 臨床家が対立的な態度で治療目標を強要するのではないか。
  • 治療が長引き、たくさんのものを犠牲にすることになるのではないか。
  • 規則が厳しすぎて、ちょっとした違反でもプログラムから追放されるのではないか。
  • 苦しい禁断症状に対して、薬を処方してもらえないのではないか。
  • 女性や異なるエスニック・グループに対して、または特定の物質やその組み合わせの使用者に対して、理解を示してもらえないのではないか。 (性差や人種さに対しての理解や使用する薬物の違いに対する理解が得られないのではないか)
  • 配偶者や家族が参加する必要があるのではないか。

以前治療に失敗した経験があるため、マイナスの期待を持っているクライエントも多い。動機づけアプローチを用いれば、批判的になることなくクライエントの不安を顕在化することができる。すべてのクライエントは、治療過程に対する不安や否定的な反応を吐き出したがっており、これらは罰せられるようなことではなく、ごく正常のことで治療の助けになると捉えるべきである。他の人(例:雇用者、法廷、妻など)から治療を強制されたと感じているクライエントの場合、この点は特に重要となる。悩みや否定的な態度を示すと、それらを自分が不利になるように利用されるのではないかと恐れているからである。
 治療によって達成できること――とりわけ、クライエント自身がたいした努力もしないで達成できること――に関する非現実的な希望は、クライエントにとっては非常に危険であり、同時に魅力的でもある。臨床家は、これらについても話し合うべきである。例えば、クライエントには、治療によって結婚生活を修復できるとか、治療に先立って起こした自動車死亡事故による罪悪感を取り除いてくれる、と信じている者もいる。また、プログラムに鍼治療を加えてほしい、と考えるクライエントがいても、それが不可能な場合もある。臨床家は、プログラムが提供できることとできないこと(例:家賃を払うこと、幼年期に受けた性的虐待の傷を取り除くこと、学歴の低さを無効にすること)を、率直に示すべきである。
 変化を目指す作業に実際にはいる前に、治療に対するプラス、マイナス両面の期待について、クライエントと確かめ合うことは、非常に大切である。ひとの認識、希望、不安などは変化するものである。古いものは消えてゆき、新しいものが再び浮かび上がってくる。

クライエントに、よくある落し穴に対する「免疫」を与える

 治療過程では、クライエントが否定的な反応を示したり、きまりの悪い思いをしたりする状況もありえる。思いがけないことまで打ち明けてしまった時、感情的になり過ぎた時、自分が以前言ったことに矛盾を発見した時、いかに他人を傷つけ自分の将来を台無しにしてきたかというつらい洞察によって我に返った時、などがそうである。こうした状況に反応して、クライエントが衝動的に治療を止めてしまうことがある。これを未然に防ぐ方法のひとつに、クライエントに「免疫」をつける、または「予防接種」をしておくことが挙げられる。つまり、こういった問題が起こる前に、それを見越して話合いをし、これらは正常な回復過程の一部であることを伝えておく。そして、どのように対処するかを決めておくのである。例えば、クライエントに、こんなことがあった後には、すぐには治療に戻りにくいであろうが、それは当たり前の反応なのだ、ということを警告しておく。クライエントが経験した激しい、または否定的な反応について、逐一日記に付けておき、次回のセッション、またはセッション間に電話で、臨床家に打ち明け話合う、という方法もある(Zweben et al., 1988)。いずれにせよ、予測される落し穴に対して、クライエントに免疫をつけるとき、彼らの文化的背景を意識すべきである。例えば、先住アメリカ民族の文化では、紙に書かれた言葉よりも、映像的または口頭でのやり取りを好む傾向がある。こういったクライエントには、アート(例:絵画、コラージュなど)を用いたり、トーキング・フェザーを利用したりすることが、予期される落し穴を見つけるのに役に立つかもしれない。

治療における障害を探し出し、取り除く

 治療が進むにしたがって、クライエントは、治療の進歩を妨げるような障害を経験したり、それについて打ち明けたりするかもしれない。こうした障害は、放っておくとクライエントのドロップアウトの原因ともなりかねない。これらの障害には、配られた資料に書いてあることがよく理解できない、治療に通うための交通手段や子供を預ける算段がうまくつかない、経済的な理由や健康保険の関係で当初予定していたように治療を続けることが難しい、などが含まれる。時には、クライエントが治療に参加する準備ができていないと感じ始めたり、急に気が変わったりすることもある。たいていの場合、変化を試みることが、想像の上でも、現実の上でも、あまりにも恐ろしいと感じられることが原因である。
 これらの障害に関して、双方が納得できる形での解決がつかない場合は、治療を中断する、またはクライエントを他の機関へ紹介する必要が生じることもある。このような事態が生じた時点で、治療からの離脱について話し合い、臨床家とクライエント双方にとって納得が行く選択肢を考えるようにする。クライエントには、必要ならば治療から小休止を取るのもよい、ということを強調し、次善策について検討し、そのために準備をする時間を与える。しかし、治療再開の可能性やその具体的な時期については、必ず取り決めをしておくべきである。このタイプの「治療的小休止」は、他の動機づけテクニックでうまくいかなかったときのオプションである(Zweben et al., 1988)。

内在的動機づけと外在的動機づけの調和を高める

 Ryanらによると、内在的動機づけは、クライエントの治療への関与の増加と治療の継続に影響を与えるが、内在的動機づけと外在的動機づけが組み合わさった時、さらにプラスの治療効果が期待できる。強制的または外在的な動機づけを、クライエントの問題に対する認識や治療や変化への要求に組み入れる可能である(Ryan et al., 1995)。したがって、クライエントにとって重要な外在的動機づけ因となるものを探すことは重要である。強制的な動機づけを、肯定的でクライエントの不安と矛盾しないものとして捉えることは、外在的動機づけすべてを内在的動機づけに変換しようとするよりも、有効といえる。さらにRyanらは、物質使用の弊害を見せ続けるよりも、クライエントが直面している問題から受ける精神的苦痛の方が、彼らの変化への動機づけを高めるのにむしろ有効ではないかと仮定している。クライエントの変化への準備性を測るとき、物質使用の重篤度そのものよりも、人生問題に対する不安や抑うつは確かな指標といえるかもしれない。

ノンコンプライアンス行為について検討し解釈する

 クライエントの治療過程や治療法に対する不満は、しばしばノンコンプライアンス行為という形であいまいに表現される。例えば、予約に現れない、遅れてくる、必要な書類に記入をしない、参加を促されても黙っている、などである。こうした行為が出現したら、それについて話し合い、そこから学ぶよい機会である。多くの場合、クライエントは常にアンビバレンスを表現するし、彼らの変化に対する準備性も危うい。臨床家は、批判的にならず、問題解決志向の方法で、こうした出来事が意図的であるかどうか、これらに対する妥当な説明が見つかるかどうか、を確かめるべきである。例えば、クライエントが遅れたのは、反抗的態度の表れかもしれないし、気が重いセッションを短くするためかもしれないし、あるいは単にクライエントの車が故障しただけかもしれない。これらの行為の意味を明白にし、そこに潜んでいる感情や不安、これらの行為が引き起こすであろう結果について、理解することが重要である。
 動機づけ戦略すべてに関して共通のことだが、これらの出来事に対するクライエントの認識や解釈を引き出すことは、大変重要である。一般的に、クライエントの葛藤の言語化に成功すれば、後はクライエント自身がそれに対する回答を見つけるものである。「ここに時間通りにやって来ることを邪魔しているものは何でしょう?」などの質問をすると、たいていクライエントの解釈が引き出され、対話が始まるはずである。臨床家は聞き返しを用いて対応し、それに臨床家自身の解釈やクライエントの解釈に対する保証を加えてやればよい。例えば、予約に遅れてくるクライエントには、治療を完了できない者が多いことについて触れ、過去のクライエントはどんな風にしてこの問題を乗り越えたか、を説明する。しかし、クライエントが予約に現れたこと自体を褒めることも忘れてはならない。
 最後に、クライエントが治療への期待に反しないより無難な対処メカニズムを見つけることができるように、類似の状況に対する次善策を模索することも大切である。これらのノンコンプライアンス行為について検討することによって、治療における目標や活動を引き下げたり、修正したりする必要性が浮かび上がってくることも少なくない。ノンコンプライアンスを、もっと情報を得るべきだ、治療戦略を変更するべきだ、という警告として捉えるとよい。これはクライエントが退却しドロップアウトするのに任せるより、はるかに有益である(Zweben et al., 1988)。クライエントが予約に現れない時の対応策については、図7−1に挙げてある。
 継続するアンビバレンスまたは準備性の欠如は、検討し解決されないで放っておくと、時期尚早なあるいは予期しないドロップアウトの原因となりえる。これらに関する兆候や指標を、これまでの研究に基づいて以下に列挙する(Zweben et al., 1988):

  • クライエントが予約のキャンセルや治療からの早期ドロップアウトの前歴を持つ。
  • クライエントが治療を強制されたように感じており、強制しているものに対して脅威を感じている。
  • クライエントの社会的安定性が低い。
  • クライエントが治療の予約をするのにためらう、またはきっちりとしたスケジュールに従う自信がない。
  • クライエントが、プラス変化を起こすことに自信を持てず、助けを求めることが社会的地位の喪失につながることに対して憤りを感じている。
  • クライエントがインテークの書類やアセスメントに記入するのを不当なことだと感じている。
  • 実際に提案された治療が、クライエントが以前に遭遇したものと大幅に異なっている。
  • クライエントは気持ちを表現したり、個人的なことを打ち明けたりするがうまくできない。
リーチ・アウト(手を差し伸べること)

 結婚、出産、大怪我や大病、などクライエントの人生の一大事や、何度も予約に現れなかったときなど、クライエントに手を差し伸べて、臨床家として個人的に心配していること、治療関係を維持し回復過程の援助をしよう、という思いに変わりはないこと、を伝える必要がある。しかしながら、クライエントのプライバシーや守秘義務を侵害することによって、専門家としての境界線を越えないように注意しなければならない。クライエントが、物質使用の治療を受けていることを家族や友人に知らせていないのに、本人の了解を取らずに彼の身内の葬式に出席することなどは、その一例である。
 臨床家・クライエント間の治療関係の境界に関して何らかの変化を加えようというときには、熟慮を重ね、理論的裏付けを取ることが必要である。そして、臨床スーパーバイザーに相談し、その変化が治療プログラムの方針に反しないことを確かめ、そこから生じえる法律的・倫理的問題点について検討するべきである。例えば、プログラムの方針では、クライエントの治療はプログラムのオフィスのみで行われることになっているが、治療を継続するためには、入院中のクライエントを病院へ訪問しなければならない。この場合、臨床家はまず、スーパーバイザーに相談するべきである。そして、入院先の病院、主治医、その他の職員への情報開示に関する委任書をクライエントから入手することを含めて、プライバシーと守秘義務についての議論がなされなければならない。具体的には、クライエントが病室を他の患者と共有している場合や、治療セッションの最中に電話がかかってきた場合、病院のスタッフによってセッションが中断された場合、どう対処するか、などについてである。
 臨床家は、治療の初期段階に、クライエントの社会的サポート・ネットワークを確認しておくべきである。クライエントが好む連絡方法を、特定の肉親や友人に連絡を取ることへの同意書を取る、などの形で確保しておく。紹介元の機関が臨床家からの連絡に対応することへの同意書を選択するクライエントもいるかもしれない。さらに、物質乱用の治療設定の枠外で連絡を取ろうという際には、クライエントの文化背景を意識し、尊重することが大切である。

短期の追加的動機づけ介入

Saunders ら(1991)の研究では、以下の戦略が短期の追加的動機づけ介入として用いられた:

  • 物質使用についてクライエントが考える、いわゆる「よい点」を言語化させる。
  • 物質使用についてクライエントが考える「あまりよくない点」をまとめるよう援助する。
  • クライエントが、かつて思い描いていたライフスタイル、現在の満足度、将来予想されるライフスタイルについて、じっくり考えられるように導く。
  • 表面化している問題があるとしたら、どの問題が一番重要かをクライエントに判断させる。
  • クライエントが、現在の行為を続けた場合のマイナス面とプラス面を比較・対照するのを援助する。
  • 現在の行動やそれがもたらす結果に対する、不安や純粋な情動反応を引き起こすような矛盾を強調して、クライエントの一番の不安領域を明らかにする。
  • 目標行動に関して将来的な意欲をはっきりさせ、同意を引き出す。

安定化へのプラン

 治療を時期尚早に中断させるような問題を処理することに加えて、問題行動の変化を安定させることも大切である。そのためには、機能分析の実施、対処プランの構築、家族や社会のサポートの確保、などを含む、インタラクティブな対策づくりが必要とされる。

機能分析の実施

 機能分析は治療経過中のどの時点でも用いることができるが、維持に向かって準備を進める段階において特に有効となりえる。機能分析とは、物質使用に関する前例やその結果についての評価(査定)である。治療者は、機能分析を通じて、過去において何が飲酒や薬物摂取の「引き金」になっていたか、アルコールや薬物使用によってどんな結果が生じたか、について、クライエントが理解するのを援助する。これらの情報をもとに、治療者とクライエントは、物質を使用しない状態を維持するための対処戦略を構築することができる。以下のアプローチはMiller and Pechacek(1987)から応用したものである。
 機能分析を開始するには、まず紙か黒板に表を描き、最初の二列に「引き金」と「結果」という項目をつける。そして、「あなたの人生において、物質使用がどんな位置を占めてきたのか、考えていきましょう。」というようなコメントから始める。
 次に、クライエントの前例を確認していく。「過去に、飲酒や薬物摂取に陥りやすいのは、どんな状況のときでしたか。どんな場合にお酒を飲んだり、薬物を使ったりしがちでしたか。特定の人や場所に関係していたり、一日の特定の時間、または何か特別な気持ちになったり、など気づいたことはありませんか。」というような質問をする。このとき、必ず過去形を使って質問する。現在形や未来形を用いると、クライエントを動揺させる恐れがある。
 治療者は、聞き返しを用いて、クライエントが言っていることを確実に理解するようにする。「引き金」の欄に、クライエントの前例を記入する。そして、「その他に、お酒を飲んだり、薬物を使用したりしたくなるような時は、ありませんでしたか。」と質問し、各反応を記録していく。
 クライエントが治療開始前に、物質使用に関する質問表に記入している場合は、クライエントが言及しなかった「引き金」について、質問表の回答を利用して誘導することも可能である。例えば、「質問表の中では、…な時にお酒を飲みたくなる、と書いていますが、それについて話してみてください。」という具合である。このようにして、すべての前例について「引き金」の中に記入しておく。
 クライエントの物質使用の前例が出尽くしたようであれば、次に、クライエントに飲酒や薬物摂取に関して好きな点について質問する。ここでは、クライエント自身が、どのように物質使用を捉えているか、そこから何を期待しているのかを見出すことが目的であり、必ずしも客観的な記述である必要はない。
 クライエントがこれらについて自発的に語る間、治療者は、聞き返しを用いて確実に理解し、非難や不同意を一切示さないように努める。「結果」の欄に、クライエントが挙げる好ましい影響を書き込んでいく。そして、「その他に、飲酒や薬物使用の何が好きでしたか。」と質問し、回答を記録する。
 ここでも同様に、クライエントが治療開始前に、物質使用に関する質問表に記入している場合は、その回答を利用して、クライエントが口にしなかった「結果」について聞き出すことが可能である。例えば、「この質問表では、…のために薬物を使用する、という項目に丸をつけていましたが、それについて話してみてください。」という具合である。得られた回答はすべて「結果」の欄に書き込んでおく。
 クライエントが前例とその結果について出し尽くしたようであれば、特定の「引き金」が特定の「結果」を引き出していることを指摘していく。まずは、明らかに関係があると思われる「引き金」と「結果」をひとつずつ選び出す。そして、クライエントにその組み合わせを確認させ、紙または黒板上に、その二つ千出を結ばせる。
 組み合わせが見つからない「引き金」については、その状況下で、飲酒や薬物使用によってクライエントはどうなったか、を考えさせ、対応する「結果」を見つけさせる。「結果」の欄に対応するものが見つからないこともあるが、その場合は何か追加すべき「結果」が別に存在するはずである。しかし、すべての項目に組み合わせを見つける必要は必ずしもない。
 これらの情報をもとに、維持戦略を立てることができる。まず、クライエントが確認した組み合わせの中には、他のクライエントと共通する典型的なものがあることを指摘する。次に、もしクライエントにとって、これら「引き金」から「結果」に至る方法が、物質使用しかないとしたら、それは、クライエントが心理的に物質使用に依存しているのだ、ということを言語化する。そして、選択の自由は、「引き金」から「結果」に至るのに異なった方法、すなわち選択肢を持つことであると強調する。その後、クライエントにとって最も重要と思われる組み合わせから始めて、すべての組み合わせについて再検討し、「引き金」から、物質使用を経由しないで望みの「結果」に至るための、対処プランを構築していく(Miller and Pechacek, 1987)。

対処プランの構築

 治療目標ごとに機能分析を行い、それぞれの対処戦略を構築する。このアプローチは、回復過程で奮闘するクライエントの福利に影響する多くの要因を扱うものである。対処プランの構築は、問題を事前に予測し、代替戦略をたくわえる必要性を認識するための手段のひとつである(図7−2参照)。他のクライエントの間で有効であった対処戦略の一覧表は、プランの構築や、予測される変化に対する障害を処理するブレーンストーミングの際に、特に有効である。
 クライエントが対処戦略の構築方法を学ぶのを援助する方法のひとつに、クライエントが喜びを感じる活動に関する機能分析が挙げられる。対処プランの構築過程は、プラスの強化刺激となり得る。こうした活動は、クライエントの自尊心を高めるために利用できる。「あなたが、問題行動からどんな具合に回復しているか、考えて見ましょう。例えば、あなたは、引き金になる場所に行っても、お酒を飲みませんでしたね。これはどうしてでしょう?」と、バーやレストランに行っても、飲酒をしなかったクライエントに、何かが変化したことを指摘してやる。しかしこの場合も、バーに行ったのには相応の理由があったのか、それとも単に無謀であったのか、その動機について探り、確かめることを忘れてはならない。しっかりとした対処戦略を構築したクライエントは、危険を自覚すべきであるが、同時に無謀であってはならない。
 時には、臨床家が提案した活動に対して、クライエントが積極的でない場合もある。先にクライエントが予約に現れないときの対策をいくつか示したが、これに類似の戦略が、こうした状況での対処戦略の強化に役立つ。プランを再度見直し、必要なら修正を加えるべきである。カウンセリング・セッション中にクライエントに対処戦略を予行練習させてから、現実の状況下でその戦略を使ってみるように勧める。

家族や社会のサポートを確保する

 クライエントは、時として建設的にも破壊的にもなりえる社会のネットワークの中に組み込まれている。クライエントにとってどの社会関係が支援的で、どの社会関係が危険かを判断することは治療者の課題のひとつである。
 物質使用に関わりを持たない家族や友人は、クライエントをモニターしたり、新しい行動を強化したり、手本になったりと、クライエントの変化を安定させるために重要である。彼らは、クライエントの居所や活動について見守り、新しい社会活動やリクリエーションに引き込んだり、精神的または経済的サポートとなったりする。その他の型のサポートとしては、手段的サポート(具体的には、ベビーシッターをする、車の相乗りを提供するなど)、恋人としてのサポート、宗教的なサポート、集団サポート(例えば、特定の集団やコミュニティーに属すること)が挙げられる。
 サポート資源は、同時にストレス要因にもなりえる。例えば、負担でもあり、同時にサポートでもあるような家族を持つ、女性クライエントもいる。また、サポートを受けることによって、クライエントは「借りができた」と感じる場合もある。治療者は、クライエントが異なるサポートを利用する、あるいは利用しない理由をはっきりさせるための手助けをする必要がある。その場合、以下の質問が有効である。

  • どんなサポートが欲しいですか。
  • どんなサポート資源がありますか。
  • あなたのサポート・ネットワークにはどんな落し穴がありますか。

 クライエントが利用できるサポート資源の配置を特定することによって、そのサポート・システムの中のすき間を見つけることができる。同時に、クライエントがひとつのサポート資源にあまり頼りすぎないよう、警告しなければならない。そして、クライエントのパートナーや重要な他者(SO)による早期警報システムを確立する援助をする。彼らは、クライエントの物質使用に逆戻りする「引き金」を見分け、すばやく介入する方法を学ばねばならない(Meyers and Smith, 1997)。12ステップ・プログラムでは、スポンサーがこの役割を担う。
 治療者は、クライエントが、人生におけるどのような変化に対して前向きであるか、を確認するべきである。また、どんな方法での変化を望んでいるのか、どのようなタイミングが適切か、というのも重要である。通常のコミュニティーでは、現役の物質使用者と接触することは、「引き金」と物質入手の安易さ、という点からは非常に危険であるが、逆に、物質使用者の社会ネットワークから完全に遮断してしまうことが、かえって危険となるクライエントも存在する。
 ヘロイン常用者のグループでは、ヘロインを止めたメンバーが、ネットワークに戻ってくることを歓迎する場合もある。物質使用のクライエントは、独自の問題を解決するために、時には創意工夫をこらさなければならない。物質を常用している友人に囲まれているクライエントは、妻が妊娠中なので薬物はやれないとか、職場で定期的な尿検査があって、薬物反応が出れば首になってしまうなど、物質を使用しないことに対して、上手な言い訳を用意しなければならない。
 クライエントはまた、薬物の供給者に対処する方法を見つけ出すのに、臨床家の援助を必要としている。供給者との関係がどんなものなのか、どの程度の精神的サポートが得られているのかについて、クライエントが言語化するのを援助するとよい。友情の意味―つまり友情から期待すべきサポートと、それに伴う責任について、全く理解していないクライエントもいる。その場合、動機づけインタビューのテクニックを用いて、矛盾を明らかにし、その矛盾を減らすためにクライエントはどうするつもりか、どうする準備があるのかを探り、境界の設定という概念を導入する。図7−3,7−4,7−5のケーススタディでは、臨床家とクライエントが遭遇する可能性がある様々なサポートの筋書きを示した。
 配偶者またはパートナーを治療過程に引き込むことはまた、クライエントの問題について直接理解する機会を与えてくれる。パートナーは、治療目標の設定とその推進のための貴重なヒントやフィードバックを提供してくれる。さらに、クライエントとパートナーが、お互いに協力し合って、治療目標到達への妨げになりえる問題へ取り組むことも可能である。Project MATCHは、国立アルコール乱用・依存症研究所の後援により実施された、患者と治療の適合に関するマルチサイトの臨床試験で、その中には動機づけ強化療法(Miller et al., 1992)も含まれていた。この試験では、変化へ決意を維持するための要素として、配偶者のサポートを選ぶ被験者が最も多かった。この結果は、家族環境をプラスの結果の一番の原因として家家庭環境を挙げている治療研究・自然回復過程の研究(Azrin et al., 1982; Sobell et al., 1993b)と一致するものであった。
 最後に、治療の一部として、クライエントに公的な場所での社会的行動の模範を示す臨床家もいる。例として、銀行口座を開くとか、食料の買出しに行くなど、日常生活に必要な行動や技能が含まれる。室内で不自然な稽古を積ませるより、現実的で"生体内の"[現実場面での]アドバイスを与える方が望ましい、と主張する理論家もいる。
 これらのタイプの"援助"を与えるかどうかは、当然ながら臨床家の治療姿勢、方針、プログラムの理念、クライエントの文化的背景の認識などにかかってくる。臨床家は、こうした戦略を実行する前に、慎重に検討し、プラス面と潜在的なマイナス面を秤にかけ、プランについてスーパーバイザーと議論するべきである。例えば、共に外出することは、クライエントとっては、治療ではなく、友情、または個人的親密さの現れと解釈されかねない。これが治療の境界や治療関係を脅かす問題に発展し、果てには、臨床家とクライエントが気まずくなって、治療が困難になる可能性もある。

強化子を育成し、利用する

 リスクの高い状況を特定したり、新しい対処戦略を訓練したり、サポート源を見つけたりして、安定化への道を歩みだしたクライエントであっても、まだまだ、充実感を与えてくれる新しいライフスタイルを確立する、薬物使用の誘惑に打ち勝つ、などの課題が待ち受けている。クライエントが本当に物質禁断状態を維持しようと思ったら、最終的には広範囲に渡る生活の変化が必要となる。これらの変化は、程よく広範囲で浸透性があり、クライエントのかつての物質常用ライフスタイルに取って替わるものでなければならない。物質を手に入れ、使用することが生活のすべてになっているクライエントにとって、これは大変な課題である。治療初期段階の競合強化子や外的不確定強化子を用いて、クライエントのプラス方向の行動変化を後押しすることによって、これらの変化を援助することができる。

自然競合強化子Natural Competing Reinforcers

 競合強化子は、物質使用を減らすために有効である。競合強化子とは、薬物やアルコールに代わってクライエントへ満足を与えてくれるものすべてを指す。例えば、実験動物は、ケージ内に別の強化子(この場合甘い飲用液)が用意されている場合、コカインを摂取し、それを継続する可能性は低くなる、という研究結果がある(Carroll, 1993)。この原理は、人間にも当てはまる。別の研究では、実験室内で物質かお金かという選択をせまられた被験者は、もうひとつの選択肢が十分魅力的な場合、物質をあきらめる方を選ぶことが確認された(Hatsukami et al., 1994; Higgins et al., 1994a, 1994b; Zacny et al., 1992)。物質使用に個人の選択がかかわっていることは明らかで、そこで。物質使用と競合する、明らかで、即手に入り、十分に魅力的な別の選択肢が存在することは助けになる。これが臨床家が目指すべき理想の状況であり、その際に外的報酬方式は非常に有効な手段となりえる。(後述のvoucher incentive systemクーポン報酬方式の部分を参照。)
 プラスの強化子の源を新しく確立するための基本原則は、クライエントに自分自身のアイデアを生み出すようにさせることである。臨床家としては、一般的に楽しいと思われる活動のリストを挙げることによって、彼らを社会的強化子、余暇的強化子、12ステップ・ポログラム、またはその他のプラスの行動強化へとクライエントを誘導することができる。(Meyers and Smith, 1995)。夫婦療法によって、クライエント夫婦が物質使用の深みにはまる以前に楽しんでいたことや、物質常用夫婦として結びついたため夫婦関係の中で今までまったく実現できなかった活動について、考えさせることも有効である。
 複数の源をから異なるタイプを含む新しい強化子を獲得するためには、クライエントの生活のあらゆる領域をけんとうすることが大切である。ある領域でうまくいかなくても、他の領域のプラス強化子によって埋め合わせが可能だからである。また、クライエントの動機づけは常に競合しているので、長い目で見て物質の誘惑に打ち勝てるような強化子の選択ができるように援助する。特に、物質が生活の隅々まで染み込んでいるクライエントにとっては、物質をやめることは抜本的な生活の改善を意味する。プラス方向の変化への動機づけ維持が難しいクライエントほど、目の前の障害を乗り越えるのに強力な理由が必要となる。
 スモール・ステップは有効であるが、それだけで生活全体を埋めることは不可能である。物質を絶つことは急激な変化であり、クライエントの生活に空洞を開けることになる。臨床家は以下に挙げる活動を示唆して、この空洞を埋める援助をすることができる:

  • ボランティア活動をする。これはコミュニティーとの結びつきにもなる。クライエントは時間を埋め、向社会的な人々との結びつきを新たにし、自己効力感を高めることができる。ボランティア活動は直接的な貢献手段のひとつであり、これによって、クライエントが過去の犯罪や反社会的行動への罪悪感を解消することもある。例えば、カリフォルニア州の中南米系アメリカ人とアフリカ系アメリカ人を対象とした回復プログラムでは、クライエントは戸別調査に参加し、コミュニティーのためにデータを収集し、ロサンジェルス大震災後に助けを必要としている住民を特定する活動に携わった。クライエント自身に金銭的な報酬は与えられなかったが、コミュニティーへの利益になり、また毎日の報告会では、自分たちでも他の人々を助けることができるということ確かめ合い、結果的にクライエントの回復への意志を固めることとなった。
  • 12ステップの活動に参加する。ボランティア活動と同様、集団と関わりを持つ必要性を満たし、有意義な団体に貢献することができる。
  • 仕事、教育、健康、食生活を向上するための目標を設定する。
  • 家族やパートナー、友人たちと過ごす時間を増やす。
  • 宗教的または文化的活動に参加する。
  • スポーツ、芸術、音楽、趣味などの分野で新しい技術を学んだり、上達するように努力する。例えば先住アメリカ人のコミュニティーでは、カウンセラーがクライエントを田舎に連れ出して自然からの贈り物(薬草、木、動物など)について教え、これらの贈り物がいかにクライエントの治癒と回復過程の助けになるかを説いたりする。

 クライエントはおおげさな献身や投資をする必要はなく、目の前にあるチャンスを試してみればよい(Meyers and Smith, 1997)。居住型の治療や[生活]機能が高いクライエント向け集団治療においては、同志の応援やミーティング仲間からの期待は、強化子となる。例えば、12ステップ・プログラムでは、12ステップ中の利他的境地に達するという目標を、新しく得た社会ネットワークの中で実践しようと努力をする。

外的条件付き強化子

 物質抜きのライフスタイルを確立しようと努力している時期のクライエントが、物質不使用状態を維持するために、条件付き強化子の原理を応用することが可能である。ここで用いる報酬は、クライエントの価値観やプログラムのリソースによって選べばよい。物質使用を変化させるために、自然強化子だけでなく、一時的条件付き強化子を利用するプログラムも見られる。クーポン報酬プログラムは、以下のような理由で推奨される。まず、このプログラムによって、治療にしっかりとした枠組みを提供し、クライエント・治療スタッフの双方の期待を明らかにする、明快で系統だったポイント・システムを導入することができる。第二に、プログラムでは、クライエントが自分のために一番望ましいと思われる報酬を選ぶことができるため、最大の効果が期待できる。最後に、クーポン方式の効果は研究によっても検証されている(Budney and Higgins, 1998)。新しい行動を確立するにはある程度時間がかかるので、これらのプログラムは最低3ヶ月から6ヶ月継続されるべきである。

クーポンによる報酬

 クーポン・プログラムは条件付き強化システムのひとつで、物質使用者の物質禁断を維持するのに有効であることが、研究により明らかになっている。魅力的な外的動機づけ要因は、薬物強化子と競合する即時的で強力な強化子となりえる、というのがこの理論的説明である。一般的に物質依存には即時満足への欲求が関連しているといわれるが、クーポンやその他の報酬方式は、この欲求を適切に満たしてくれる。
 クーポン報酬プログラムの強化子は、個々のクライエントにとって魅力的で吸引力のあるものでなければならない。研究によると、現金またはそれに相当するものに、ほとんどのクライエントが心を動かされる。クーポンは、クライエントがその禁断によって獲得したポイントを示す紙切れで、各ポイントが現金の価値を持つ(例えば、1ポイント=1ドル)。例えば、クライエントが尿検査で陰性のたびに、ポイントが加算される。クーポンは、プログラムからの借用書のようなものである。典型的なクーポン方式では、クライエントは集めたポイントを賞品やサービスと交換することができる。クーポンで請求書の支払いをしたい、買い物(食料品、衣料品、靴など)をしたいというクライエントが多いようである。通常スタッフが、支払いや購入の手配をする。クライエントに直接現金を渡し、自分たちで買い物をさせる方法もあるが、この現金を使って彼らが物質を購入してしまう可能性もあるので、これは危険である。したがって、スタッフにとっては余分な仕事になるが、それだけの意味はあるといえる。
 コカイン乱用者の外来治療において、治療維持と禁断の継続を促進する強化子として、クーポン方式が効果を発揮した、という研究もある。例えば、クーポン方式を開発し検証をしたHiggins らによると、この方法と集中的な行動カウンセリング・プログラムを組み合わせたところ、60%から75%のコカイン乱用者が6ヶ月の外来治療を続けることができた(Higgins et al., 1993, 1994b)。一方、集中的な行動カウンセリング療法のみでクーポンを受け取らなかったコントロール群では、治療維持率は40%、12ステップのカウンセリングを受けたコントロール群では、11%であった。クーポン・プログラムでは、患者は治療を維持しただけでなく、物質を使用しない状態を保つこともできた。発表された2つの研究によると、クーポン・プログラムではそれぞれ68%と55%の患者が8週間連続してコカイン不使用状態を保つことができたのに対して、クーポンをもらわなかったコントロール群では、それぞれ11%と25%が不使用状態を保ったのみであった。これらの研究では、最初の3ヶ月間のみクーポンによる報酬が行われ、続く3ヶ月は、尿検査が陰性であった場合、宝くじ券が渡された(Higgins et al., 1993, 1994b, 1995)。
 メサドン治療中の慢性コカイン乱用患者の間では、コカイン使用をコントロールするためにクーポン報酬方式が有効であった(Silverman et al., 1996)。この研究では、尿検査でコカイン反応陰性のたびにクーポンを与えられた患者はコントロール群に比べて、コカイン不使用の週が有意に多く、不使用状態を保った期間も有意に長くなっていた。クーポンを受け取った患者のうち47%が、7週間またはそれ以上の期間不使用状態を継続することができたが、コントロール群では、非使用状態を2週間以上継続した患者は、1名だけであった。一般的に、メサドン治療中の患者が補助的な薬物の使用を止めるのは非常に難しいことを考えると、これらの結果は非常にインパクトがある。クーポン方式による介入は、統合失調症、結核、ホームレス、その他非合法物質の乱用者の間で、物質使用の減量や他の行動の変化を動機づけるために、有効に使われている(Higgins and Silverman, 1999)。
 その他にも独創的なプログラムが試されている。例を挙げると、あるプログラムでは妊婦の禁煙を報酬するためにクーポンが使われた。一酸化炭素呼気検査に合格して喫煙しなかったことを証明したクライエントは、コミュニティーから寄付してもらった商品を獲得できる方式である。そこには様々な商品やサービスが含まれていたが、ベビー用品を選ぶ妊婦が大部分で、彼女らの禁煙の動機づけが子供の健康であったことがよく表れている。
 金銭的である点では同じであるが、クーポンには頼らず個人に責任を持たせる強化方式を用いると、クライエントが欲しい物、好きな物――例えば新しい寝室用セットとかコンピュータとか――を特定することができる。クライエントは、毎日または毎週、物質使用のために使ったであろうお金を積み立てておいて、最終的にそれらを購入するのに用いる。当然ながら、積立金が物質使用の再現のために使われることが懸念されるが、これは積立金を物質不使用の家族や友人に預けることで解決する。
 コミュニティー強化アプローチ(CRA)では、金銭的な報酬(外的動機づけ要因)は、クライエントが、決めた目標(内在的動機づけ要因)に達するチャンスを直接増やすことにつながる活動や商品を獲得するために使われることになっている。このモデルでは、外的要因と内在的要因の対応が必要で、そうでなければクーポン方式はほとんど効果を持たない(本章の後のセクションを参照)。
 家族が治療に関わっている場合は、クライエントは鍵となる家族メンバーと共同でクーポン報酬制を作り上げることも可能である。例えば、あるクライエントは、90日間物質を使用しないでいられたら、日曜に両親を訪ねて夕食を共にすることができる。別のクライエントは、ミーティングに90回出席できたら、子供に訪ねて来てもらえる、などとする。例えば、6回治療セッションを終えたら週末に外出してもよい、または車を使ってもよい、90日間禁酒できたら以前のように小遣いや"好物"をもらえる、というように、両親と回復過程の子供がともに、クーポン制に関して取り決めをするのもよい。
 どんなタイプの報酬をどの程度用いるべきであろうか。これまでの研究では、3ヶ月間で1, 000ドル以上獲得できるクーポン・プログラムもあった。コカイン乱用者に関する研究では、金銭的報酬の価値が大きくなるほど強力な強化子となる、つまり多くのクライエントがコカインを使用しなくなることが示された(Silverman et al., 1997)。
 どのくらいの報酬が最適かという理論的問題はわきに置いて、クリニックの資金源、人事資源、管理面に関して考慮すべき現実問題がいくつかある。報酬価値が小さいクーポン方式については体系的な検討はなされていないが、クライエントによっては有効だと思われる。地元企業からの寄付を、プログラムの報酬として用いることを検討するのもよい。
 臨床家とプログラムにとって、自然に生じる経済的サポートの源を物質不使用と結びつける方法を工夫することも大切である。クライエントの家族は、治療のため、サポートのため、愛する者が物質依存ゆえに引き起こした弊害を処理するため、しばしば相当の散財をすることになる。こうした無条件のサポートを止めさせ、クライエントの禁酒を確立する助けとなるようなやり方でのサポートに切りかえるように、家族と話合いをすることも可能である。特別な取り決めをして(例えば、クライエントの同意によって)、無条件サポートの小切手を条件付きプランを通じて運用することにする。
 条件付き報酬方式が、必ずしも金銭的価値を持つ必要はない。お金が最も強力な強化子とはならない文化も多く存在する。例えば、個人的利益よりもコミュニティーの便益に価値を置く文化では、お金を差し出すことは、無礼な行為とみなされる。共有意識の強い文化(例えば、先住アメリカ人、アフリカ系アメリカ人)では、民族的価値体系の中にスピリチャリティーが織り込まれている。神聖なものをサポートするこれらの儀式や活動を、条件付き報酬方式に取り入れることもできる。先住アメリカ人のコミュニティーでは、贈り物をすること、フェザーを獲得すること、宗教的つながりを大切にすること、トーキング・フェザーを用いることなどが含まれる。図7−6に示したケース・スタディでは、変化への動機づけとしての文化的価値観の重要性が強調されている。条件付き報酬方式は文化的に適切で、クライエントの価値観にそったものでなければならない。

コミュニティー強化アプローチ

 CRAでは、物質使用者の日常生活の中にあって、強力な精神活性物質と競合する、新しい自然強化子を作り上げることに重点を置く。(第4章の考慮段階でのCRAに関する記述を参照。)基本的に、この総合的アプローチは、クライエントが、物質抜きのライフスタイルを、飲酒や薬物使用を伴う破壊的パターンよりも充実していると感じられるようにするために、行動戦略を用いる。それには、しっかりとした雇用、家族のサポート、社会活動などに由来する、いくつかの代替プラス強化源が必要となる。そして、臨床家は可能な限り、クライエントの物質不使用状態を直接的条件とするような代替強化源を選ぶようにする。それによって、クライエントの物質不使用状態への動機づけを高めるためである。CRAではまた、リスクの高い状況を特定する機能分析によって割り出した特定の対処スキルに関して、スキル・トレーニングを通じて新しい技能を育成する。CRAで用いる戦略には以下のものが含まれる:

  • クライエントが目標に向かって動き出すのを助けるために動機づけカウンセリングを用いる
  • 技能を育成する
  • 競合強化子を応用する
  • 強化子と物質不使用状態を結びつける
  • 回復は多面性を持つことを強調する

 自然強化子を物質不使用状態に結び付けることは、CRAの主要な特徴のひとつである。クーポン制とはちがって、職場でいい仕事をして褒められる、というような自然強化子は、クライエントの普段の日常生活の中で生じるものである。作り出されたものでない自然の強化子には、自分を働き者だと認識する、など内在的なものも含まれる。概念としてはわかりやすいが、実際に強化子をクライエントの物質不使用状態と結びつけることは簡単ではない。例えば、雇用主に働きかけて、薬物またはアルコール検査で陰性を出した日のみにクライエントは働くことを許されて給料がもらえる、というシステムに同意してもらうというのは理想的である。この方法だと、お金を稼ぐことを含めて働くことから得られるメリットが、物質不使用状態と結びつき、クライエントが物質使用に走るのを一時的に防いでくれる。このシステムでは、治療プログラムが雇用主と特別な取り決めをするか、[プログラムが]直営の仕事場を持っていることが、必要条件となる。また、即時に結果を出せる薬物検査の施設が容易に利用できる、というのも含まれる。図7−7に示した職場は、この種のプログラムの一例である。
 直接的強化のもうひとつの源は、恋愛や結婚生活でのパートナー、またはその他の物質不使用の支持者である。多くの研究が、行動夫婦療法の有効性を示唆している(O'Farrell, 1993)。CRAでは、クライエントとパートナーの間で物質不使用を条件とする交流のあらましについて取り決めをすることになっている。例えば、クライエントが物質不使用を維持する限りにおいて、パートナーは、特別なご馳走を用意するとか、クライエントが好きな活動を一緒に楽しむことに同意する。逆に、物質使用の再現が発覚した場合は、パートナーはクライエントの好きな活動を見送る、社会的強化子を保留する、場合によってはクライエントが物質不使用状態に戻るまで家を出る、という具合である。これらの方法がうまくいくためには、取り決めに沿ってパートナーが適切な行動を取ることができるように、治療プログラムからパートナーへ薬物検査の結果を定期的に知らせる(これにはクライエントの同意が必要)ことになる。この際パートナーも、臨床家のサポート、励まし、問題解決への援助を必要とすることが多い。
 新しい社会活動や余暇活動も、重要な代替強化源となりえる。しかしこれらの領域の開拓はしばしば困難で、クライエントは新しい活動を始めるための援助を必要としている。CRAでは、臨床家は変革推進者として積極的にかかわり、クライエントが目標や新しい行動パターンを形成するのを直接援助する。これは、新しい社会活動、余暇活動を報酬する際に、特に有効である。
 CRA臨床家の仕事には、自然な環境における強化子の適切な配置を整えること、目標を設定すること、新しい行動パターンを作り上げることなどに加えて、代替強化子を獲得し維持するために必要なスキルをクライエントに教えることも含まれる。ここには、社交術、問題処理技能、また自己主張を含む様々な自己管理術などが含まれる。とりわけ、恵まれない環境出身のクライエントにとっては、職を得るためのスキルを教えることが、非常に大切である。
 CRAにはジョブ・クラブ(Job Club)と呼ばれる特別プログラムがあって、スキル・トレーニング[技能訓練]、求職申込書記入のアドバイス、未来の雇用主に電話をかける時や面接と服装に関する助言、そして将来の雇用主に対して自分を主張し積極的にふるまう訓練、などを提供する(Azrin and Besalel, 1980; Meyers and Smith, 1995)。ここで強調される鍵となる領域は以下の4つである:

  • 電話で接触するときのスキル
  • 電話で接触するときの目標
  • 求職に関するスキル
  • 面接でのスキル

 ジョブ・クラブは高度に体系化されたプログラムで、例えば、職を持っている親戚や友人から毎日10人選んで売り込みの電話をかける、などの方法によって、クライエントをより高いレベルの具体的行動に導いていく(例としてAzrin and Besalel, 1982 を参照)。
 またプログラムでは、物質乱用障害のクライエントが直面するデリケートな問題についても指導をする。例としては、刑務所で数年を過ごした男性にとって、就職のための面接で職歴の間の空白時期について聞かれた場合、どう対処するかを学ぶの有益である。さらにクライエントの過去からプラス面を発掘して、それを履歴書に盛り込むことにも重点が置かれる。例えば、小さな子供を持つ女性で過去数年は有給の職にはついていないが、ボランティアの仕事をしていた、という例もある。こうした経験を履歴書の中で活かすようにする。
 ジョブ・クラブのカウンセラーは、仕事を得ることが時には困難であることをクライエントにはっきり述べる。就職活動に失望はつきものだが、クライエントにとっては治療開始後初の挫折経験となるかもしれず、ジョブ・クラブでは、拒否されたときの対処法を指導し、あらゆる挫折感と向き合うための安全な枠組みを提供する。また、参加者が互いに話し合しことによって孤立感や寂しさを軽減するための、フォーラムも用意されている。
 クライエントは、職を得た時点でジョブ・クラブへの参加を終了する。通常この時点で、カウンセラーまたは臨床家が、クライエントの雇用を維持するために、何らかの働きかけ(すなわち、クライエントの期待と現実の差をチェックする、仕事に関する問題を特定し解決する、など)を続ける必要があるかどうかを判断する。
 ジョブ・クラブが特に重要なのは、仕事すなわち経済的自立がアイデンティティーおよびライフスタイルにおいて鍵となる要素だからである。物質使用を絶つことも職を得ることも、ライフスタイルにおける大きな、そして突然の変化という点では同じで、一方のゴールに到達するためのスキルは、もう一方を実現するための助けとなる。ジョブ・クラブは、クライエントの実行を助けることによって、この必要性を満たす。変化のモデルという観点からすると、クライエントは実行段階および維持段階にとどまるためには、行動の変化が功を奏していることを実感する必要がある、との研究もある。ジョブ・クラブは一見指示的に見えるが、実際は行動の変化を助けることによって、治療の成功を促進することになっている。
 クライエントに職業上の目標について話をするときや、仕事を見つけることに焦点を当てたスキル・トレーニングを実施するときにも、動機づけテクニックを利用できる。時には、決断バランス・テクニックdecisional balance techniques を使って、クライエントの就職への意欲を掘り返すことも必要となるかもしれない。スキル・トレーニングや求職活動対する期待について議論することもよい。しかしこのプログラムに基づいたスキル・トレーニングの真価は、客観的かつ中立的なフィードバックを与えてくれる臨床家が提供する安全な環境でのロール・プレーを繰り返すことによって、クライエントの不安が緩和される点にある。
 最後に、仕事関連のスキル・トレーニングは、雇用維持、すなわち仕事を維持するための方法まで含める必要がある。仕事を維持するためには、時間を守り整理整頓をする、仕事上で生じた問題を処理する、他の人を信頼してチームの一員として効率的に動くなど、物質乱用障害のクライエントがしばしば失ってしまったスキルが必要とされる。
 仕事を持つことは、金銭的なニーズを満たすという現実的な面では即効性の強化子として働くが、それ以外の面で強化子として効果を発するには時間を要する。例えば、仕事を持つことによって自己効力感を高めることができる。また、クライエントに、新しい職業的スキルを学び薬物に無関係な新しい仲間に出会う機会を与えてくれる。社交、恋愛、家族、余暇、教育、そして宗教など、クライエントの生活のその他の領域に関しても、これらの代替強化子としての最大の可能性に気づくには、少々時間が必要となるかもしれない。この隙間を埋めるためにも、クーポン報酬制プログラムを治療開始時に用いるのは有効である。新しい活動を始める際にはたいていすぐには満足を得られないもので、その意味でもCRAカウンセラーは、クライエントがなるべく多くの領域で新しい行動を開拓し、接点を見つけるように援助すべきである。すべての領域でうまくいくとは限らないし、中には他よりも早く強化子としての働きを発揮する領域もあるかもしれないからである。
 クライエントが生活の各領域での変化に取り組んでいる間に、スキルを教え、非薬物性の社会強化子ネットワークを整備する新たな機会がやってくるはずである。例えば、子供の正常な発達過程について学ぶために育児教室に参加した女性は、一般に育児能力を高めるだけでなく、他の母親らとの社会的絆を築くことが、研究によって示されている。この領域に関するPetersonらの研究では、これらの利点から、育児教室を治療プログラムに組み込みことの有用性を指摘している(Peterson et al., 1996; Van Bremen and Chasnoff, 1994)。別のユニークな構想として、10代の両親を対象にした育児教室も、同様の役割を果たすともに彼らの社会的絆を強めることができる。これらのプログラムは、ほとんどのコミュニティーでは用意されていないが、有益であることは確かである。
 CRAは、クライエントに治療を提供する包括的なアプローチである。CARカウンセリングそのものの有効性はアルコール依存症において検証されており、CRAにクーポン制をプラスした治療に関しては、コカイン乱用者の治療での高い有効性が裏付けられている。CRAでは、物質抜きのライフスタイルを築くための動機づけの重要性を十分認識している。また、物質不使用状態を条件とする強化子の概念を始めとする動機づけテクニックの数々が取り入れられている。物質抜きで満足感が得られる生活を確立するには時間が必要であり、その道のりには多々の障害が待ち受けている。ここでは意欲と動機づけは、繰り返し現れる課題となる。クライエントが自らライフスタイル変化を求めるとき、CRAや他の動機づけテクニックは、非常に有効な手段となりえる。

維持段階での動機づけカウンセリング

 本章ではこれまでのところ、クライエントが回復への準備を整え、それを安定させるために行う援助に焦点を絞ってきた。最後に、動機づけアプローチは維持段階にあるクライエントのカウンセリングにも十分有効であることを付け加えたい。臨床家が、行動指向型治療が終結した後のクライエントに会う理由は、ほとんどの場合物質使用の再現とそれに関連する問題である。
 最初の章で述べたように、このTIPは、治療の中で使われる言語と一般的表現から連想されるイメージを、鋭く意識して作り上げられた。「再発relapse」という用語は、この言葉の持つ重みゆえに、意図的に排除されている。コンセンサス・パネルの狙いは、relapseの婉曲的な表現を求めることではなく、治療後の物質使用の「再現recurrence」という概念を根本的に変えるような方法でこのTIPを書き上げることであった。この再概念化では、研究に支えられた観察が取り入れられている:

  • 治療後の物質使用再現は例外的なことでなく、むしろ当たり前である。これは一般的に見られえることであり、現在ではむしろ変化と回復過程の一部とみなされている。
  • 「再発」という用語から連想されるのは、成功か失敗という2種類のみの結果で、これでは実際の回復過程をうまく捉えられない。クライエントの経験する過程はずっと複雑なものである。回復過程では、物質使用のエピソードとエピソードの間がだんだん長くなり、逆にエピソード自体は短期間で軽いものになっていくことが知られている。
  • 「再発」という概念につきまとう二進法的仮定は、いったん物質使用が再発したら最後、これ以上失うものはない、または、どうしようもない、という暗示を含んでおり、自己達成的予言になりかねない。しかし肝心なのは、物質使用が再現したとしても、できるだけ早くもとに戻ることである。
  • 再発という概念が物質使用に適用されるとき、そこには道徳的非難または自己非難のニュアンスが添えられる。実際のところは、症状の再現は嗜好行動において共通の、それどころか、慢性健康問題一般に共通する問題である。

 そこで、維持段階における動機づけアプローチの一部は、物質使用の再現の意味やそれに対する対処を含む心構えと関連してくる。「再発」という眺め方をすると、ついつい小言をいったり、啓蒙しようとしたり、さらにはクライエントを責めたり、説教をしたり(「それ見たことか。」)、という事態に陥りがちである。前考慮段階と考慮段階での援助の部分で記述した原則が、ここでも役に立つ。実際、物質使用の再現はある意味では、これらの段階に逆戻りすることである。もちろん変化を考慮しない理由は、2回目とか5回目では異なるはずである。失望や変化への自信のなさ、物質使用再現の防衛的合理化との関連している場合もあるかもしれない。いずれにせよ臨床家の仕事は、クライエントがここで立ち往生せずに、準備段階そして行動段階へと立ち戻って行けるように援助することである。
 ここには、特別な策略はない。用いるのは、同じアプローチである。物質使用再現に対するクライエント自身の経験と対応について訊ねる。そしてクライエントから、変化への自己動機づけの根拠や軌道をもとに戻すための理由を引き出すようにする。そして、この経験から何が学べるかを追求する。ここでは、物質使用再現過程の機能分析が有効である。この経験を、回復の変動過程中のごく一般的で一時的なものとして、標準化する。物質不使用のメリットについてクライエント自身に語らせる。このとき次々に質問するだけでなく、聞き返しをうまく利用する。クライエントの価値観、希望、人生の意味や目標について探求する。今どうしたいのか、という重要な質問をする。そして新たな変化に向かって、ともに動き出す。

  1. 薬物依存治療動機づけ
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