総論1 精神医学

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精神と行動の問題を扱う医学

バイオ・サイコ・ソーシャル

精神と行動の問題を扱う医学。かつては精神病学と呼ばれたが第2次世界大戦後,精神医学と呼ばれるようになった。バイオ(生物学的精神医学,遺伝生物学,脳生理学,神経生化学,神経病理学,精神薬理学など),サイコ(精神病理学,行動科学など),ソーシャル(社会精神医学,文化精神医学,家族,社会学,社会福祉など)からのアプローチが問題に応じて行なわれる。

病院精神医学や地域精神医学(患者が住む場所での精神医療),リエゾン精神医学(他の身体科で治療を受けている患者に対する精神医療)などの領域もある。また,医療だけではなく,病跡学(歴史的人物の足跡から精神疾患の影響をたどる)や司法精神医学(刑事裁判における被告人の責任能力の鑑定など)なども重要な領域である。

歴史

精神医学が今日的な意味での学問体系になるのは1850年代にヨーロッパ各地の大学医学部が精神医学講座を設置し始めてからである。当時はWグリージンガーを代表として疾患の本態を脳の中に求める方向に研究が進められた。19世紀末にEクレペリンが精神病の記述と分類をなしとげて精神疾患の分類は一応の完成をみた。20世紀に入るとSフロイトが精神分析を提唱し,Kヤスパースが現象学を導入した。1920年代にはMグロース,Eクレッチマー,Hエーなどが活躍した。

向精神薬の開発後,ようやく実用的な治療が行えるようになった。1950年代は精神分析理論から始まった様々な仮説が花開いた。

1980年に米国精神医学会によって操作的診断基準であるDSMIIIが発表された。これによって信頼性のある診断をつけることが可能になった。非精神病性の精神疾患を集めた雑多な概念であった神経症がより具体的な症候群に解体され,気分変調性障害やパニック障害などの新しい病名が採用された。これらの非精神病性の精神疾患は病態研究と治療が過去20年に最も進歩した領域である。

構造化面接・臨床疫学などの臨床研究の方法と,精神疾患モデル動物の開発,ポジトロンCT(PET)などの脳機能をリアルタイムに画像として表示できる技術の実用化などの生物学的研究方法の進歩と,精神科リハビリテーションや認知行動療法,EBMなどの医療面の進歩が常に進行している。現代の精神医学は2,3年単位で変化し,知識の更新をすることが常に必要である。

日本の歴史

日本でも中国の古医書をもとにした精神疾患に関する理論と治療があり,江戸時代中葉には一応の体系になった。明治時代に他の漢方系医学と同様に衰退した。1879年にEヘルツにより最初の精神医学の講義が現在の東大医学部で行われた。この後1970年頃までドイツ流の精神医学が主流であったが,現在は英米の影響が強い。

精神医学の誤用・悪用・人権抑圧

精神医学には人権を抑圧する道具として使われた歴史がある。30年代から40年代半ばにかけてドイツ精神医学が精神障害者をガス室に送り込むナチスの活動に荷担した。日本では1950年代から欧米の時流と逆行して精神病院の急速な増加と精神障害者の収容が進行した。反動として1960年代には統合失調症は近代西欧精神医学が生み出した仮構であるとして反精神医学という運動が起こったこともあった。

正常と異常 心因と内因

特定の状況で繰り返し現れる特徴的な行動や言動があること,その結果日常生活が妨げられて苦痛をもたらしていることが精神疾患の存在を診断するための必要条件である。鑑別診断するためには行動や言動の内容と現れるパターン,持続の仕方が重要である。合目的な判断ができるどうか,問題が起こる前に何か出来事があったかどうかは精神疾患の存在の診断や分類にはこれらに比べれば重要ではない。病識や心因の有無からのみ診断をつけることは現代の精神医学では誤りである。

現代の精神疾患の分類は診断カテゴリーだけでも16種類ある。個別の診断になると400を越える。また一人の患者が複数の診断を持つことが普通である。精神疾患の多様性が明らかになった現代では正常か異常か,心因か内因か,精神病水準か神経症水準かという単純な分類は意味がない。

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