疾患4 強迫性障害 強迫神経症

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過去 20年に研究と治療が進歩して治療可能になった元難治性疾患

診断

一定のテーマの考え・イメージ・衝動が一定のパターンで繰り返し起こり (強迫観念),手洗い・確認などの儀式的な行為(強迫行為・儀式行為)を繰り返すことを特徴とする。強迫行為・儀式行為は強迫観念を中和したり,取り消すために行われる。強迫症状のために時間を浪費したり(1日合計1時間以上),症状が起こる状況を回避する(家に閉じこもったり,物に触れなくなったりする)結果,生活が困難になる。強迫症状の内容に応じて,不潔恐怖や手洗い強迫,縁起恐怖,不完全恐怖,確認強迫,収集癖,強迫性緩慢などと呼ばれることもある。

不潔恐怖 +洗浄強迫と繰り返し電気のスイッチなどを確かめる確認強迫が最も多い。何もしなければ洗ったり確かめたりする必要がないので,閉じこもりきりになったり,入浴・着替えもせず寝たきりになって不潔な生活を送っていることもある。

疫学

一般人口の 2〜3%に見られる。発症年代の平均は20歳である。男女比は等しい。過半数は生涯の内に一度はうつ病を合併する。トゥレット症候群の患者の多くは強迫性障害の診断を満たす。

病因

特定の病前の人格傾向はない。強迫性人格障害との関連はない。遺伝負因が認められる。強迫症状を引き起こす刺激に決まったパターンがあること,犬や鳥に強迫性障害に類似した病気をもつものがあることから,強迫性障害には生物学的な準備性があることが想定される。この準備性を進化生物学から説明することが試みられている。セロトニンの脳内投与によりレスポンデント条件付けの効果を変えることができることや,三環系抗うつ薬の中でセロトニン作用のあるクロミプラミンのみが抗強迫作用をもつこと,機能的脳イメージング研究の結果などから,セロトニン動作性ニューロンの機能異常や前頭前野 -帯状回-大脳基底核の間を結ぶ回路の機能亢進が強迫症状と関連していると考えられる。

診断

強迫観念と強迫行為の両者が見られることが多い。通常は強迫観念・行為が非合理的であるという認識が患者にあるが,観念に圧倒され合理的かどうかの判断ができない場合もある。こうした例は統合失調症と誤診されやすい。強迫観念・行為は次の 4つに大別できる;1)汚染について(排泄物など,不潔恐怖)と洗浄強迫,2)不完全さについて(戸締まりなど)と確認強迫,3)特にきっかけや対象がなくて起こるその他の強迫観念(縁起恐怖など),4)正確さ・対称性・物の配置・順序へのこだわりや儀式行為。強迫症状自体では,他の精神障害でもしばしば見られるので,症状の経過や合併症状を考慮して診断する。

薬物の反応性の類似と合併例が多いことから,身体表現性障害 (身体醜形障害など)や,解離性障害(離人症性障害など),摂食障害,衝動制御の障害(抜毛症など),神経疾患(トゥレット障害,シデナム舞踏病など)などが強迫性障害の類縁と考えられている。

経過

なにかの出来事のあとに急に発症することが多い。初期には症状を隠すことができるので,受診するまでには何年もかかる。予後は,寛解,改善,不変・悪化にほぼ 3等分される。発症が若い場合,強迫行為に対する本人の抵抗が弱い場合,うつ病を合併する場合,妄想様観念・優格観念を持つ場合などは予後が不良になる。社会適応が良い場合,発症要因が明らかな場合などは予後がよい。

治療

古い教科書では難治性としているものがある。過去 20年に治療研究が進み,現在では確実な治療方法が確立されている。行動療法と薬物療法が有効であることについて専門家の間では異論がない。行動療法の技法の中でエクスポージャーと反応妨害が主に用いられる。薬物ではセロトニン再取り込み阻害剤(クロミプラミンやfluoxetineなど)が用いられる。

強迫性障害の治療に詳しい医療関係者が少ないこと,強迫性障害に対する行動療法の訓練を受けた行動療法家が少ないことなどのため,実際の臨床では分裂病と誤診するなどの不適切な医療が行われていることが多い。

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