1980年代初めから半ばにかけて、多くの人々が物質使用障害の治療を求め始めたことから、覚醒剤乱用および依存に対する「治療」が生み出された。もっとも早く対処した治療システムは28日式のミネソタ・モデルの病院産業であった。この利潤追求型の28日式治療施設の数は、驚くほどの速さで増えて行った。何万ものコカイン使用者がこれらのプログラムの中で、アルコール依存症の治療から適合した戦略を用いた治療を受けた。今日では、これらの治療活動の効果を査定するための実験的根拠はほとんど見当たらない。
時期を同じにして、健康食品、アミノ酸、温水浴、電気ブレイン・チューナーなど「ニューエイジ」治療を含む、これまでにない型破りな様々な療法が出現しては消えていった。そして、[SG1]用語:
contingency 関しては、以前のTIPでは「条件付」と訳させていただきましたが、今回の翻訳あたってより詳しく調べましたところ、contingency自体を「報酬」と訳している例を見つけました。こちらの方が適切ではと考え、今回はすべて「報酬」で統一しています。
まぎらわしくて申し訳ありません。どちらが適切かは、そちらでご判断いただければ、幸いです。 報酬契約などを含む行動テクニック(Anker and Crowley, 1982) やデシプラミン (Norpramine)の使用を含む薬物療法の評価とともに、科学的根拠に基づく治療法の開発活動が始まった (Tennant and Rawson, 1983; Gawin and Kleber, 1984)。 これら早期の活動から15年の間に、覚醒剤使用障害治療に関する莫大な文献が生み出されてきた。
本章では、もっとも厳密な実験に支持されたアプローチから始めて、覚醒剤使用障害の治療に関する最新の知識を再考察していく。科学的文献においてあまり支持が得られていないアプローチについては、本章の後半部分で紹介していく。そして本章の終わりには、覚醒剤使用障害治療における、薬物療法の現状について考察する。本TIPが著された時点では、臨床的有効性を示す薬物療法は存在していないが、国立薬物乱用研究所(NIDA)後援の下で進行中のプログラムは重要な治療向上に向けての大きな期待を担っている。よって、この研究活動の現状についても検討することになる。
本章では、覚醒剤使用障害の有効な治療法として、科学的に認められたものについて検討する。効果的であると判断されるには、無作為抽出の臨床試験において、その治療法の有効性を証明する必要がある。そうした臨床試験を通して、数多くの心理社会的療法および薬物療法が検討されてきた。いくつかの心理社会的治療法が、覚醒剤使用障害治療におけるその有効性を確認されたが、薬物療法に関しては確実な有効性が認められたものは現在までに存在しない。覚醒剤使用の心理社会的療法および薬物療法についてこれまでに知られていることを、ここで要約していく。これらの情報の大部分は、コカイン使用者を用いた研究から拾い集めたものである。塩酸メタフェタミンに関する類似の研究は、報告されていない。しかし、コカイン使用者とMA使用者は心理社会的介入に同じように反応すること示した研究が、少なくともひとつ存在することから、コカイン使用者における有効性が認められたものに関しては、MA使用者にも適用できるのでは、という推測が成立する (Huber et al., 1997)。
無作為化臨床試験は、介入法がクライエントの健康状態を改善したかどうかを判断するのに最適な手段である。無作為化臨床試験は、ある介入法を対照介入法と比較するために、クライエントを無作為に各治療群に割り当てる前向き研究である (see Friedman et al., 1983)。これらの試験では、特定の標本集団内(例:1998年中にAクリニックで治療を開始したクライエントのうち特定の対象および除外基準を満たした人)のクライエントを該当介入法と対照介入法のいずれかに、無作為に割り当てる。無作為割り当ては、同定種類のクライエントを各群に割り当てることから生じる可能性のあるバイアスを避け、結果に影響を及ぼす可能性のある被験者のあらゆる特性が各群に均等に分配されるようにする。
前向き というのは、介入終了後に後ろ向き[回顧的]にデータを収集する方法に対して、各群のクライエントが介入の開始時点から研究対象となること意味する。後ろ向き調査は適切なデータが収集されなかったり、紛失したり、人の記憶に頼るためゆがめられたりすることから、正確さを欠く傾向がある。大部分の障害にはある程度の変動性があり(すなわち、改善したり悪化したりする)、また多くの健康障害は、正式な治療を受けなくとも時間とともに消散することがあるので、比較群あいは対照群を設けることは必須である。観察された変化が治療に起因するのか、それとも自然な変動性に起因するのかを判断するもっとも有効な方法は、治療を全く受けなかった、あるいは標準的な治療を受けた類似のクライエント群と比較することである。
物質使用障害治療の領域において、無作為化臨床試験に代わって一般的に用いられる方法もまた、有用なデータを提供しえるが、そこには重大な制限が存在することを認識しなければならない。例えば、ある治療を受けたクライエント群を比較群なしで追跡した場合、クライエント群に何が起こったか(例:再発率、追加的治療を受けたクライエントの割合、治療前と治療後の変化)を特徴付ける意味では有益ではあるが、これらの観察には、追跡中に観察された変化の中で治療が果たした役割について、科学的に妥当な推測の余地はない。この目的のためには、比較群が不可欠なのである。観察されたすべての変化は、治療なしでも起こりえたかも知れないのである。比較群なしでは、その可能性を除外することは絶対に不可能である。同様に、研究者によって割り当てられるのではなく、クライエントが自分たちの群を選択した場合も、治療がその結果に貢献したという正当な推測は存在しない。例えば、治療終了者と中断者[ドロップアウト]の比較はよく見られ、各群の成り行きを明らかにするという意味では有益となりえるが、各群間で見られた差異を治療期間の差と結びつける推測は、科学的に全くの妥当性を持たない。別の要因(例:別の事柄に必要とされる時間の差)が治療継続時間の差と、その後の追跡で観察された差異の双方の原因である可能性も高い。
これまでに、覚醒剤使用者の無作為化臨床試験において有効性が示された心理社会的介入法は、よく知られている学習という心理学的概念を取り入れている点で共通している。
心理社会的治療法のすべての側面を定量化することは、不可能である。同じクリニックにおいて同じ治療アプローチを使用する治療者の間で、クライエントの回復に大きな差異が生じることも多い。簡単に言うと、有効性が高い治療を提供する治療者もいれば、比較的有効性が低い治療の提供者もいるということである。入念に作成された治療マニュアルは、こうした治療者間の差異を軽減するはずである。治療マニュアルは、治療者が、クライエントに対して均一なサービスを提供する可能性を高める。ただし、これは治療者の臨床判断や柔軟性を犠牲にするものであってはならない。入念に作成されたマニュアルは、クライエントの個人的ニーズに対処する際の臨床判断と柔軟性の重要性を認識し、これらをマニュアルの中に組み入れるべきである。有効な治療法とそれに関するマニュアルが入手可能な場合、それらを利用することは賢明であり、研究により実証された有効なサービスをクライエントに提供することの保証となりえる。
コミュニティー強化は良好な回復過程を助けるために、いくつかの重要な領域におけるライフスタイルの変化の促進を目的に設計された個別治療法である( Meyers and Smith, 1995; Sisson and Azrin, 1989を参照)。 第一に、クライエントは物質使用者でない配偶者とともに、相互作用的かつ実りのある方法で結婚生活の質を高めるための結婚療法を提供される。第二に、失業中のクライエントや物質使用のリスクが高い職場に勤めるクライエント、あるいはその他の理由から職業的援助を必要とするクライエントは、この領域での支援を受ける。第三に、回復を促進し支援するような新しい社会的ネットワークや娯楽活動を作り上げるためのカウンセリングと援助を受ける。弟四に、クライエントの個別のニーズによって、様々なタイプの技能訓練が提供される。ここには、物質の拒否やそれに関連するスキル、社交スキル、時間管理、気分の調節訓練などが含まれる。最後に、医学的禁忌がないアルコール使用障害のクライエントには、薬へのコンプライアンスを高めるための戦略と組み合わせて、ジスルフィラム(Antabuse) 療法プログラムが提供される。
クーポン報酬制プログラムは、治療継続を支援し覚醒剤不使用状態を促進するために設計される。このような報酬制プログラムは報酬管理介入として知られているが、これについては後に詳述する。この治療法では、クライエントは24週間治療の前半12週間に、尿検査での覚醒剤反応陰性に対する報酬として、様々な商品と交換できるクーポンを獲得する。 この期間中は1週間に3度、尿検査が実施される。この治療法の効果を評価する研究中で用いられたクーポン制システムでは、治療全体と通して最高約980ドル相当の報酬も含まれていた。それらの研究の後には、安価な報酬を用いた有効なクーポン制プログラムも報告された (Tusel et al., 1995)。 コミュニティー内の産業からの寄付を通じて、全ての報酬品を獲得したプログラムもあるが (Amass, 1997)、その有効性に関しては評定されていなかった。よい成果を生むためには、報酬をどの程度に設定すべきなのかについても、まだ査定されていない。
総合的で独立型の治療として提供されるコミュニティー強化・プラス・クーポン制アプローチの有効性は、三つの無作為化臨床試験によって支持され(Higgins et al., 1993b, 1994b, 1997)、このアプローチの特定の構成要素の有効性については、さらにいくつかの試験が肯定している (例:Silverman et al., 1996)。この治療の有効性を検討した最初の試験では、標準型外来カウンセリングとの比較がなされた (Higgins et al., 1993b)。治療期間は24週間で、それに6ヶ月間の追跡期間が続いた。コミュニティー強化・プラス・クーポン制治療では標準型カウンセリングに比べて、クライエントがより長く治療を継続し、覚醒剤不使用状態の維持も長く、これらの差は有意であった。具体的には、コミュニティー強化・プラス・クーポン制治療に割り当てられたクライエントの58%が24週間の治療を完了したのに対して、標準型カウンセリングでは完了したのは11%であった。さらに、コミュニティー強化・プラス・クーポン群では、68%のクライエントが8週間連続コカイン不使用状態に達し、42%は16週間の連続不使用状態を維持した。一方の標準型カウンセリング群では、8週間連続不使用状態に達したのは11%のみで、16週間不使用状態となるとわずか5%であった。追跡時の評価でも重要な差異が見られた。すなわち、コミュニティー強化・プラス・クーポン制治療を受けた群では、治療開始後6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月におけるコカイン不使用状態のクライエントが、標準型カウンセリングを受けた群に比べて多いことが明らかになったのである (Higgins et al., 1995)。
このアプローチの日々の実行に関して、臨床家を具体的に指導する目的で設計された詳細なマニュアル (Budney and Higgins, 1998) がNIDAにより最近出版され、NIDAクリアリングハウス(1-800-729-6686)を通じて無料で入手、またはウエブサイトhttp://www.nida.nih.gov/TXManuals/CRA/CRA1.html からのダウンロードが可能である。
上記のクーポン制は、報酬管理介入(報酬契約とも呼ばれる)である。報酬管理はターゲット行動が生じたとき、即時に強化的あるいは懲罰的な結果を与えることによって、ターゲットとなる行動パターンを増加させたり減少させたりする、よく知られている行動的介入法である。報酬管理は、様々なタイプの物質使用障害治療において有効に用いられている。報酬管理によって明確な短期的および長期的目標が設定され、プラスの行動変化が強調されることから、治療設計に非常に有用である (Stitzer and Higgins, 1995)。 しかしながら、報酬管理介入において懲罰的な結果のみを用いることは、早期の治療からのドロップアウトを助長することにもなりかねないため、推奨できない (Stitzer et al., 1986)。
クーポン制プログラムは、コミュニティー強化治療と切り離された場合にも、その有効性が実証されている。例えばSilverman らは、尿検査でのコカイン陰性結果を条件とするクーポン制が、メサドン治療中のコカイン乱用クライエントにおけるコカイン不使用状態を増加することを示した(Silverman et al., 1996)。 Tuselらは、報酬クーポン制があらゆる非合法物質乱用を減少させる効果を持つことを実証した (Tusel et al., 1995)。
クーポン制は、覚醒剤使用者の物質不使用状態を増加するための報酬管理介入として、広い支持を受けてはいるが、その他にも有効な方法が存在する。メサドン治療中のクライエントを例にとると、メサドンの自宅持ち帰り(これによりメサドン治療中のクライエントは、毎日クリニックに通いスタッフの管理の下でメサドンを服用する必要がなくなる)(Stitzer et al., 1992) や、コカイン不使用状態を条件とした(の報酬としての)メサドン治療の継続 (Kidorf and Stitzer, 1993)、そして物質不使用状態やカウンセリング出席に対する報酬として、皆の前で金星や安価な贈り物を授与するという単純なシステム(Rowan-Szal et al., 1994) も挙げられる。
報酬制メサドン持ち帰り法は、その他の治療サービスと組み合わせられたとき有効性を発揮している。その優れた例が、 McLellan らによって示されている (McLellan et al., 1993)。 ここでは、メサドン治療クライエントは異なるレベルのサービスを提供する3条件のひとつに、無作為に割り当てられた。3群中2群は、陰性尿検査結果と現在の雇用を条件に、メサドンを自宅に持ち帰ることができた。これらの群ではまた、最小限サービス群には提供されない付加的サービスも受けた。そしてこれら報酬としてメサドン持ち帰りを獲得した2群の間では、無条件にメサドンを持ち帰ったクライエント群に比べて、コカインとアヘンの退薬率が高かった。
Iguchi らは、 陰性尿検査結果の代わりに、個別の治療計画へのコンプライアンスの報酬的強化を通じて、コカイン不使用状態を増加することができるかどうかを調査した (Iguchi et al., 1997)。新しくメサドン治療を開始したクライエントが、(1)メサドン治療クリニックにて標準治療を受けるコントロール群(標準群):(2)標準治療に加えて、物質を含まない尿サンプルの提出の報酬としての金銭クーポンを受け取る群(尿検査報酬群):(3)標準治療に加えて、治療プランに沿った課題の成功の報酬として同様の金銭的クーポンを受け取る群(治療プラン群):の3群のいずれかに割り当てられた。第三の群における違法物質の使用は、その他の群に比べて減少の度合いが有意に大きかった。
報酬管理は、覚醒剤使用者中より治療が困難な下位群に対しても有効にある。例えば、作業療法が可能な非病院場面での昼間治療と、物質不使用状態に対する報酬としての住居提供を組み合わせた報酬管理アプローチは、ホームレスの覚醒剤使用者の間で有効であった (Milby et al., 1996)。 この研究に参加した被験者のほぼ4分の3は、主にクラック・コカインの使用者であった。被験者は無作為に、強化ケアまたは通常ケアへ割り当てられた。強化ケアでは、クリニックの行き帰りの交通手段、昼食、心理教育的グループ、個別カウンセリングを含む、月曜から金曜日まで週5.5時間のクリニック通院が2ヶ月継続された。
試験の後半4ヶ月間には、被験者が廃棄処分となった住居を修繕する作業療法に参加できるよう、昼間治療の集中度は削減された。また、これらの住居は被験者が安価な家賃で住めるようになっていた。作業療法への参加と住居は、毎週の任意尿検査を条件としていた。薬物陽性の結果が出た場合、被験者は作業療法プログラムから除外され、住居からも2週間以内に立ち退かねばならない。2回連続で物質陰性の尿標本を提出すると、作業療法および住居の手はずは再開される。通常ケアの方は、週に2回の12ステップ志向のグループおよび個人カウンセリング、医学的評価と別の治療への紹介、住居および職業的サービスのための地元機関への紹介、が含まれていた。強化ケアでは、6ヶ月および12ヶ月のアセスメントではそうでもなかったが、2ヶ月のアセスメントにおいてはコカイン不使用率が有意に高くなっていた。強化ケアではまた、各アセスメントにおけるアルコール使用の減少がより大きく、ホームレスの日数も6ヶ月および12ヶ月のアセスメントにおいて有意に少なかった。
予備調査という形ではあるが、報酬管理の効果が査定されたもうひとつの重要な下位群として、妊娠女性が挙げられる。ふたつのパイロットスタディ[予備実験]で、妊娠女性が妊婦クリニックへの通院および/またはコカイン不使用に対する報酬を提供された (Elk, 印刷中)。物質陰性の尿標本を続けて提出した場合と、妊婦クリニックまたは物質使用障害治療クリニックへの通院が増加あるいは継続した場合ごとに、段階的に増えていく金銭クーポンが与えられた。物質不使用率、継続率、妊婦ケアへのコンプライアンスは、報酬群で一様に高かった。別の研究では、妊娠中のクライエントが、標準あるいは強化メサドン治療に無作為に割り当てられた (Carroll et al., 1995a)。標準治療は、毎日のメサドン投与、毎週のグループカウンセリング、週2回の尿検査から構成されていた。強化治療の方は、毎週の妊婦ケア、再発予防グループと3回連続の物質陰性尿サンプル提出ごとにもらえる金銭クーポンから構成されていた。治療の継続に関しては2群ともよく似た結果で、コカイン陽性尿サンプルの確率にも、両群で有意差は見られなかった。
覚醒剤使用障害を持つ妊娠女性に対するこの治療アプローチは、ほんの予備的な試みであり、今後より詳細な評価が必要とされる。しかしながら、これらの取り組みは、覚醒剤乱用の治療におけるより困難な臨床課題に対処するために、報酬管理を利用する可能性を例示するものである。その他の重要な例としては、統合失調症の成人クライエントの間で、金銭的な報酬強化がタバコおよびコカイン使用を減少させることを示唆したパイロット研究 (Roll et al., 1998; Shaner et al., 1997) や報酬金銭強化が、結核を患った覚醒剤使用者の間の服薬コンプライアンスを増加する証拠を提示する研究 (Elk, 印刷中) もある。
[ひとつの]グループとして考えたとき、報酬管理介入は、その覚醒剤使用者の治療的行動変化を促進する効果において、圧倒的に多くの実験的支持を得ているといえる。覚醒剤使用者は、体系的に適用された報酬管理介入によい反応を示す。現在のところ、同等の明確な実証的効果を示す治療戦略は他に存在しない。
再発予防 (RP) では、クライエントに(1)物質への渇望に対処する方法、 (2) 物資拒否および自己主張のスキル、(3)一見関係なく思えるような決断が、どのように後の覚醒剤使用の可能性に影響するか、(4)対処および問題解決スキル一般、(5)物質使用エピソードが生じてしまったとき、本格的な再発に進展するの防止する方法、を指導する (Marlatt and Gordon, 1985)。
Carroll らは、この治療アプローチをコカイン使用者に適用し、その有効性を実証した (Carroll et al., 1991a, 1991b, 1994a, 1994b)。最初の研究では、RPは社会的、対人的問題を改善するための戦略を指導する対人[人間関係]精神療法(IP)と比較された (Carroll et al., 1991a)。治療の継続率はIPよりもRPのがよく、コカイン不使用率も同様の傾向が示唆されたが、これらは有意な差ではなかった。
この後続研究では、RPとケース・マネージメントが比較されたが (Carroll et al., 1994a)、この研究ではクライエントはデシプラミンまたはプラシーボの投与も受けた。合計139名のクライエントが、無作為に4つの治療群に分けられた。ケース・マネージメントは非特異的治療関係とクライエントの臨床状態をモニターする機会を提供するために設計された。どちらの治療も、12週の治療期間中、毎週の治療セッションの中で提供された。クライエントは全員、毎週の尿検査とその他の臨床モニタリングも受けた。全ての治療群が、コカイン使用の程度と嗜癖重篤度インデックスAddiction Severity Index (ASI) の薬物・アルコール・家族/社会・精神病の複合尺度において、治療前から治療後において改善がみられた。しかし、心理社会的(RP対ケース・マネージメント)あるいは薬物療法的(デシプラミン対プラシーボ)については、有意な主要効果は見られなかった。1年後の追跡調査では、RP群のクライエントはケース・マネージメント群に比べて、コカイン不使用率が有意に高かった (Carroll et al., 1994b)。PRでは、物質使用エピソードが本格的な再発へつながるのを防止するスキルの指導が強調されることを考慮すると、これらの遅発効果は予想通りといえるかもしれない。実際、その他のタイプの物質使用障害治療に関する研究でも、類似のRPの遅発効果が報告されている (see Carroll, 1996) 。
PRに関する研究のすべてが、肯定的な結果を示しているわけではない。例えば Wells らは、RPと12ステップに基づくカウンセリングを比較し、否定的な結果を報告している (Wells et al., 1994)。 24週間の外来試験中および6ヶ月の追跡調査において、治療の継続あるいはコカイン使用に関して2群間に有意な差は見られなかった。
マトリクス・モデル(もともとは、神経行動モデルと呼ばれた)は、1980年代半ばに、コカインおよびMA使用障害を持つ個人の治療向けに開発された外来治療アプローチである (Rawson et al., 1990)。このモデルは、再発予防、動機付け面接、心理教育、家族療法、12ステップ・プログラムへの関与を含む、複数の具体的戦略の治療要素を統合したものである。このアプローチの基本構成要素は、グループセッションの集合(早期回復スキル、再発予防、家族教育そして社会的サポート)と20回の個人セッション、および12ステップ活動への参加の奨励から成り立ち、24週間の集中治療として提供される (Rawson et al., 1989)。
この治療モデルは、南カリフォルニアの外来診療所ネットワーク(マトリクス・センター)の主要治療プロトコルとして機能する。この診療所ネットワークでは1985年以来、8,000人以上のコカインおよびMA使用障害者をこのアプローチで治療してきた。クライエントには、専門職業人や企業幹部からスラム街のクラック使用者や田舎の貧困なMA使用者まで、様々な人口が含まれている。コスト管理型医療の出現によって課された財政的現実に適応するために、このモデルの2ヶ月および4ヶ月バージョンが開発され、現在その評価が行われている。モデルが開発、改良されるに伴い、治療アプローチの評価に関する広範囲なデータが収集された。この治療アプローチを評価する研究には、無作為化臨床試験は含まれていない。しかし、この治療モデルを評価する7つの研究プロジェクトの中では、モデルの適用が、コカインとMAおよびその他の物質使用の有意な削減と関連していることが示されている (Rawson et al., 1993, 1996; Shoptaw et al., 1994)。 224人のコカイン使用者と500人のMA使用者の治療効果とマトリクス・アプローチを検討したところ、すべての指標において類似の治療反応が示唆されていた (Rawson et al., 1996; Huber et al., 1997)。マトリクス・モデルにおける治療参加は、覚醒剤およびその他の物質使用の削減だけでなく、HIVリスクの高い性的行為を有意に削減することも示された (Shoptaw et al., 1997)。マトリクス・センターのMA乱用・依存の治療に対するプロトコルについては、図3-1を参照されたい。
物質使用障害の人々は、広範囲におよぶ夫婦関係、人間関係、家族関係の問題を抱えていることが多い。安定した夫婦および家族適合は、より良好な治療成果と関連づけられている。治療に家族を含めることは、クライエントの変化への取り組みに対して重要なサポートと、クライエントの物質使用およびその他の行動について付加的な情報を、これら家族から提供してもらう、という観点に基づいている。したがって、夫婦および家族の適合改善を目指した介入は、治療成果を高める可能性があると考えられてきた。アルコール依存に関する研究では、少なくとも部分的にはこの仮定が支持されているが、覚醒剤使用者に関する試みはほとんどなされていない。
物質使用者の混成グループにおいて、無作為化試験がひとつ実施されている。[参加者の]大部分はコカイン使用者で、夫婦/家族療法が治療成果を高める方法として支持された (Fals-Stewart et al., 1996)。 被験者は、過去1年間配偶者と共に生活し、物質不使用状態の継続に意欲を示す刑事司法管理下の男性物質使用者であった。これら被験者は二つの治療群に無作為に割り当てられ、ともに24週の治療期間内で同回数の治療セッションを受けた。ひとつの群では、これらセッションでは対処スキルのみに焦点が当てられた。もうひとつの群では、対処スキルに加えて行動的夫婦療法が加えられた。夫婦療法を受けた群では、比較群に比べて[夫婦]関係においてよりよい成果(肯定的な2者関係が得られ、別々の時間が減ったという点において)が示された。また治療後1年間において、物質使用日数が少なく、不使用期間は長く、物質に関連した逮捕や入院の件数が少なかったことが報告された。予想されるように、これらの差異のいくつかは、フォローアップ期間の間に消散してしまった。しかしこの研究では、治療開始時に比較的安定した異性関係を持ち、物質不使用への意欲を示す覚醒剤使用者の治療では、行動的夫婦療法が重要な役割を担うことを明らかにした。
その他いくつか介入についても、そのメリットに言及しておく。女性が居住型治療施設に入居する際に、子どもの一部または全員を伴うことを許可することは、治療継続率を高めるようである。この主題に関する比較研究が公表されている (Hughes et al., 1995)が、その中でコカイン使用の居住型治療を開始する際に、1人または2人の子どもを伴うことが許された女性は、子どもを最適と思われる世話人のもとに残してきた女性によりも、治療を有意に長く継続することができた(平均継続日数300.4日対101.9日)。これ以外の結果指標は報告されていない。
治療への参加を高めるための手段を記述した、別の研究も存在する (Hall et al., 1994)。[ここでは]クライエントはコカイン依存の男性退役軍人であった。クライエント全員は、概して2週間の入院用治療から開始し、その後同じ医療施設内の外来センターでの治療継続を勧められた。治療は、個人およびグループ療法セッションから構成されていた。外来治療への参加が入院中に開始された場合は、入院、外来段階を通じて同じ個人およびグループ療法を継続し、退院後外来治療が開始された場合は、外来段階に移った時点で被験者は新たな個人およびグループ療法へと割り当てられた。外来ケアへの参加を入院中に開始した場合の方が、退院後の治療参加率は若干高くなり、当初(3週間)のコカイン不使用率は有意に高くなった。しかしその以降の不使用率では、有意差は見られなかった。
Woody らは興味を示すクライエントに対しては、支持的表現精神療法 supportive-expressive psychotherapy がコカイン使用を削減するのに有効である、と報告している (Woody et al., 1995)。この研究では、新しくメサドン療法を開始したクライエントのうち、精神療法に興味を示し、カウンセリング・セッション参加に同意した一部の集団(同意したクライエントは半数以下であった)を被験者とした。これらのクライエントは、支持的表現精神療法プラス物質使用カウンセリングを受ける群と、物質使用カウンセリングのみを受ける群に無作為に分けられた。支持的表現精神療法では、物質が、人間関係や情緒などを含む問題の中でどんな役割を果たしているのかについて、探求することに焦点が絞られた。この精神療法を受けたクライエント群では、物質使用カウンセリングのみを受けたクライエント群に比べて、24週間の研究中のコカイン使用が有意に低かった。
最後に、「ノード・リンク・マッピング」と呼ばれる介入も、コカイン乱用を軽減するのに有効と言われる (Czuchry et al., 1995; Dansereau et al., 1995; Joe et al., 1994)。この介入では、フローチャート[流れ図]などの方法を用いて、クライエントの思考・行動・気持ちと物質使用との関係を図解するものである。メサドン治療に参加しているクライエントが、標準カウンセリングまたはノード・リンク強化カウンセリングへと無作為に振り分けられた。ノード・リンク・マッピングを受けたクライエントは、標準ケアを受けたクライエントに比べて、その6ヶ月の治療の間のコカイン使用が低いという傾向が見られたが、その効果は顕著なものではなかった。ノード・リンク・マッピング群では、治療の開始時点でのコカイン使用が、標準群より多かった。同群の治療開始から終了までの[コカイン使用]の削減は標準群よりも大きかったが、治療終了時の絶対コカイン使用量については、両群間に有意差は見られなかった。[本介入の有効性を実証するには、]治療開始時の両群のコカイン使用水準を同じに設定した研究、あるいは治療終了時にノード・リンク・マッピング群のコカイン使用が有意に低いという結果を示すような研究が、さらに必要とされる。
その他にも数多くの心理社会的モデル、アプローチが記述され、中には覚醒剤使用障害の治療にかなり広く用いられているものもある。
ネットワーク療法は、精神療法治療の中でクライエントを支える安定した社会的ネットワークが存在するとき、物質使用障害から回復することが可能となる、という理論に基づいている。このモデルでは、個人精神療法中のクライエントは、家族・パートナー・親しい友人などの安定した非物質使用のサポート要員のネットワークを構築することになる。これらのサポート要員は、治療者から、治療を受けている個人の治療過程をサポートするための戦略を学ぶ。彼らは定期的に治療者と交流を持ち、クライエントと共に治療セッションに参加したり、クライエントの治療プランの設計に関与したりする。
ネットワーク精神療法に対する実証的証拠は、十分ではない。コカインあるいはその他の物質使用に対するネットワーク療法の比較試験は、今のところ発表されていない。
鍼治療は、中国に古くから伝わる療法で、細い鍼を身体の様々な部位に皮下挿入するものである。この技術は、身体の正常な機能は、身体の経絡と呼ばれる線に沿って流れる対極の二つのエネルギーのバランスによって保たれる、という信念に基づいている。これら経絡に沿って約1,000の経穴が並んでおり、細い鍼でそれらの経穴を刺激することによって、エネルギーのアンバランスを修正し身体の自然治癒力を高める、と考えられている。コカインあるいはその他の覚醒剤使用障害に対して、鍼治療の有効性を報告する比較研究は報告されていない (TIP 10, コカイン乱用患者のメサドン治療とアセスメント Assessment and Treatment of Cocaine-Abusing Methadone-Maintained Patients [CSAT, 1994b]).
入院治療は元来、病院または居住型治療施設での28日滞在から構成され、その滞在期間中はセルフヘルプグループ、グループ精神療法、リラクゼーション療法などの毎日の活動が、構造化された形式の中で提供される。これは、通常は支持的な、時には対立的な性質を持つ療法で、クライエントの拒否に対抗し、もともとアルコホーリクス・アノニマス(AA)によって確立された、回復の12ステップへの参加へ誘導することを目標とする。大部分の入院治療プログラムの主目的は、慢性物質使用の作用を解毒し、AAやナルコティックス・アノニマス(NA)などのセルフヘルププログラムへの関与過程を開始することである。治療の構成要素には、実験的テクニックとともに、嗜癖過程・回復過程についての教訓的な学習が含まれる。クライエントの家族にも、これらの問題について知ってもらうために、特別な「家族日」などの参加を促す。
28日型標準入院プログラムは、もともとはアルコール依存の治療のために開発されたものである。治療を求めるコカイン使用障害クライエントの数が、劇的に増加し始めた1980年代初めには、特に多用された。この潮流の最サービング期は1980年代半ばで、多数のプライベート[私立]プログラムにおいて半数以上のクライエントが、コカイン乱用または依存の治療を受けていた (Rawson, 1986)。これらの入院プログラムの多くは、アルコール依存用の治療方式を、ほとんど、あるいは全く修正せずに、コカイン使用者に適用したものであった。1980年代半ば、中流階級アメリカ人の間でコカイン使用が大流行に達した際、これらの人口に対してもっとも広く用いられた治療モーダリティがこの28日型標準入院プログラムであった (Rawson et al., 1991a)。
いくつかの病院/居住型治療機関が、自らのコカイン使用者向けプログラムの評価を試みている。例えば、アリゾナ州トゥーソンのシエーラ・トゥーソン Sierra Tucsonでは、自分たちのコカイン使用者に対する治療活動の有効性を評価し向上させるために、1980年代に成果調査プログラムを実施した。ヘイゼルデン治療機関 the Hazelden treatment organization では、そのコカインおよびその他の物質使用者に対する治療サービスの有効性に関する、広範囲のデータベースを作成した。キャリヤーThe Carrier organization は、そのプログラムの有効性を評価するために設計した、一連の研究を発表している (Pettinati, 1991)。これらの評価は、無作為化臨床試験ではないが、収集された情報はこの治療サービスの重要性を支持するものだったといえる。
元来の28日型入院治療方式は、ほとんど実験研究に基づかずに開発されたものである。過去数年間で、医療保険提供会社から入院治療に対する疑問が叫ばれるようになり、それに伴いその使用は確実に減少した。入院治療に対する保険補償も同様に縮小され、プログラムの長さもまちまちとなった。多くのプログラムが閉鎖または、提供するサービスの縮小を余儀なくされた。現時点では、解毒目的のみの短期入院(7日間まで)は補償されるが、心理社会的サービスに対する補償は制限されているクライエントが多い。入院治療プログラムでは、プログラムによってスタッフの資格に広く差がある場合が多いが、ほぼ全てのプログラムが回復中の個人を数人、スタッフとして抱えている。
長期居住型治療は、持続的に構造化されたサポートシステムを必要するとみなされた物質使用者に適用される。長期居住型治療の構造は、クライエントの考え方やライフスタイルのプラス方向への変化と安定化を促すよう、設計されている。居住型治療プログラムの期間はまちまちで、一時期はほとんどのプログラムが少なくとも1年であったが、最近では6ヶ月あるいは90日まで縮小されている。長期型あるいは中間施設[ハーフウエイハウス]を含む大部分の居住型プログラムでは、少なくとも一部のスタッフが回復中のクライエントとなっている。
治療共同体 (TC) は、もっとも一般的なタイプの長期居住型治療プログラムで、通常クライエントのライフスタイル、考え方、価値観において有意義な変化を促すために、グループ活動を利用する。そこでは、向社会的行動とともに、自分の行動に対する責任を取ることが強調される。TC への紹介は、刑事司法制度を通じて生じる場合が多い。実際、TC は元来、困窮した社会経済的背景と長期の犯罪関与歴を持つヘロイン嗜癖クライエントのために、設計されたものであった。
中間施設は、TC などのより拘束的な環境からは脱皮できたものの、コミュニティーの中で独り立ちして機能するには至っていないような個人に、過渡的サポートを提供する治療プルグラムである。これらの人々は、TC のように非常に構造化された環境は必要ないが、自立した生活への準備は整っていない、という人たちである。中間施設プログラム参加への必要条件には、雇用や学校への在籍など規定のコミュニティーへの関与と、精神変容物質の不使用が通常含まれる。居住者の仕事のスケジュールを考慮して、夜のグループ活動が組み込まれる。
覚醒剤使用障害に対する、長期居住型治療の有効性を支持する実証的根拠は比較的少ないにも関わらず、その有効性を信じるに十分な理由がいくつか指摘されている (Gerstein et al., 1994; Mueller and Wyman, 1997)。臨床経験からは、一部のコカイン使用者の間でのTC の有効性が示唆されるものの、コンセンサス・パネルの知る限り、コカイン依存治療におけるその有効性を支持する比較臨床試験は発表されていない。
コカイン使用障害に対する有効な薬物療法は、未だに存在しないが、これは現在集中的に研究が行われている領域である。コカインとMAの神経科学的差異から、これら2種の覚醒剤使用の治療には異なる薬物療法が必要である、と考える十分な根拠が存在する (Ling and Shoptaw, 1997)。一方で、両薬物は脳内のドーパミン濃度に類似の影響を与えることから、コカイン使用障害の治療に有望と思われる薬物療法については、塩酸メタンフェタミン使用の治療に関しても検討されている。
MA使用障害に対する薬物療法の臨床研究[治験]は、始まったばかりである。各種の適応に対する薬物が、現在模索されている。MA中毒および退薬による医学的/精神医学的症状を軽減する薬剤の開発に、大きな関心が集まっている。例えば、MA使用を中止した個人に対しては、抗うつ薬が有効であることが知られている (NIDA, 1998c)。また、MA乱用、依存を治療するための薬物の開発にも、注目が集まっている。ドーパミン作動性(すなわち、ドーパミンに仲介される)およびセロトニン作動性(すなわち、セロトニンに仲介される)化合物、あるいはその他の化合物を査定する試験が現在進行中である (CSAT, 1997)。
コカイン使用障害に対する薬物療法の研究は、非盲検試験から始まった。その後には、二重盲式無作為化試験によって、三還系抗うつ薬デシプラミンが、外来患者のコカイン使用と渇望の短期的軽減に有効であることが示された (Gawin and Kleber, 1984; Gawin et al., 1989)。この無作為化試験では、6週間のデシプラミン治療を受けたコカイン依存クライエントの59%が、3週間以上のコカイン退薬に成功した。リチウム投与クライエントでは25%が、プラシーボ投与群では17%のみが同様の退薬に成功した (Gawin et al., 1989)。 残念ながら、これらの前途有望に思われる結果は、後続のデシプラミン (e.g., Carroll et al., 1994a; Weddington et al., 1991)、あるいは別の三還系抗うつ薬イミプラミン (Janimine) (Nunes et al., 1995) の比較試験では、再現されなかった。重篤度の低いコカイン依存のクライエントの間では、デシプラミンおよびイミプラミン治療が有効であるという報告が少なくとも二つ提出されており、さらなる研究に値する報告である (Carroll et al., 1994a; Nunes et al., 1995)。
その他、主にコカイン使用者において研究がされてきた抗うつ薬には、フルオキセチン(Prozac) (Grabowski et al., 1995)、 マプロチリン (Ludiomil) (Brotman et al., 1988)、 ジェピロン (Jenkins et al., 1992) が含まれる。これらの化合物の一部については、現在も研究が進行中だが、コカイン渇望あるいは使用の軽減における、確かな有効性が比較試験で実証されたものはない。コカインのドーパミン系に対する強力な影響から、アマンタジン、ブロモクリプチン、ビュープロピオン、フルペンチキソール、カルビドパ-L-ドパ、マジンドール、メチルフェニデート、チロシンなどを含む様々なドーパミン作動性化合物が、研究の対象になっている( Gorelick, 1994; Kleber, 1995; Mendelson and Mello, 1996 によるレビューを参照)。オープントライアル[オープン試験]のデータで有望そうに思われる場合はあっても、これらの化合物のいずれに関しても、無作為化試験で確かなプラス効果は認められていない。抗痙攣薬カルバマゼピンについても同様である (Kranzler et al., 1995)。
ブプレノルフィンは、現在メサドンと同様の形式でのアヘン依存治療への適用が研究されている、オピオイド薬剤である。この研究過程における研究者の観察は、アヘンとコカインの両方を使用するコカイン使用障害者の治療において、ブプレノルフィンが有効となりえる可能性を示唆している (e.g., Kosten et al., 1992; Schottenfeld et al., 1993)。 しかし、 より厳密な臨床研究においては、ブプレノルフィンのコカイン乱用抑制効果は示されなかった(e.g., Johnson et al., 1995)。これに関する研究が、今後も続けられることが期待される。現時点では、ブプレノルフィンがコカイン使用の減少を引き起こす、あるいは、アヘンとコカイン両方を乱用するクライエントに対して用いた場合、メサドンよりもコカイン使用の減少が大きくなる、という説得力のある証拠は提示されていない (see Silverman et al., 1998)。
コカインとアルコールの両方を使用するクライエントに対するジスルフィラム療法は、有望に思われる。覚醒剤使用者の大部分は、アルコール依存の医学的基準を満たし、90%以上が進行形のアルコール使用者であると言われる (Grant and Harford, 1990; Higgins et al., 1994a)。処方コンプライアンスを確実にするための社会的モニタリングと組み合わせたジスルフィラム療法は、既述したコミュニティー強化・プラス・クーポン制治療アプローチでは標準的に用いられている。この治療を受けた16人のコカイン依存者のカルテ[病歴]のレビューが行われた (Higgins et al., 1993a)。 またCarroll らは、パイロット無作為化試験の中で、これらの発見と一致する結果を報告している (Carroll et al., 1993b)。その研究では、18人のコカインおよびアルコール乱用外来患者を用いて、ジスルフィラム療法とナルトレキソン療法が比較された。結果は、ジスルフィラム療法ではナルトレキソン療法に比べて、飲酒とコカイン使用の削減が有意に大きかった。最後に、ジスルフィラム療法の有効性に関する大規模な無作為化試験が最近完了し、ジスルフィラム療法による有意なコカイン使用の削減が、ここでも再び確認された (Carroll, 1996)。コカイン使用者に対するジスルフィラム療法のプロトコルについては、既述のNIDAのコミュニティー強化・プラス・クーポン制のマニュアルの中で提供されている(Budney and Higgins, 1998)。
終わりに、基礎科学実験室内で非人間実験体を用いて研究されている興味深い領域がある。酵素あるいは触媒抗体の形での、コカイン使用障害に対するワクチンの開発に関心が集まっているのである。これらの斬新なアプローチは、従来のアプローチよりも大きな将来性を秘めているかもしれない(Ling and Shoptaw, 1997)。