Q&A5: 過食嘔吐の15歳の症例に関する質問

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心理士からのメール 1

15歳の過食嘔吐の症例を相談させてください。

中学3年の秋に友人関係のトラブルと受験へのあせりなどから情緒不安定になり、ダイエット。しばらくして過食、嘔吐をするようになりました。
患者さんはこの頃、「中学を卒業したら嫌な友人とも離れられる。知り合いのまったくいない高校を目指しているし、高校に入ればすべてがうまくいくだろう」と考えていました。
しかし冬休みを機会に焦燥感が増し、リストカットしてしまいました。そして母親につれられて受診しました。冬休みの頃は、「焦燥感がでたら、コンビニに買い物に行って、過食嘔吐していた」という感じでしたが、現在は「感情に関係なく、そこに食べ物があったら、過食嘔吐する」という感じです。

現在は春休み中ということもあって生活が不規則になりがちです。朝遅く起きてきて夜まで一日中過食嘔吐する日も続きましたが、今はなんとか朝は9時頃に起き、朝御飯を普通に食べ(ダイエット用ではあるけれど)、昼も普通に食べ、午後は母親のパートにくっついていっている状態です。母親のパートについていってるときは過食嘔吐はありません。家で過食嘔吐するときは、家族の前で平気でできます。夜に何度も過食嘔吐をくりかえします。

患者さんは小さい頃から偏食を続けており、食べられないものがおおいのです。
両親とも忙しく働いており、刺激統制を家族にお願いするのは難しいそうです。
小さい頃からの慣習で、生活費も自由に使える状態です。

今のところ、1)生活のリズムをつけるようにすること、2)学校にそなえて朝の過食嘔吐をしないよう工夫すること、を心がけています。過食や嘔吐が体や心に与える影響についてはパンフレットを渡しており、時折確認しています。

話が前後しておわかりになりづらいかもしれませんが、とても苦労しています。
もしお時間があれば、ご指摘をお願いいたします。

回答

この症例を整理すると

  • 家族負因
      なし(?) 気分障害,アルコール問題,喪失体験,同胞の様子はいかがでしょうか。
  • 生活歴・病歴
    学校での適応はもともとどのくらい? 彼氏は? シンナーやタバコなどは?
    中学3年夏までは問題となる行動無し
    中学3年9月から 情緒不安定 どんな内容でしょうか。ハミルトンうつ病尺度の項目で考えるとなにが相当するでしょうか)
    また情緒不安定は1日,1週間,1ヶ月のそれぞれで考えると変動はあったのでしょうか
    10月頃(?)ダイエット (体重減少は? 身長は? 生理は?)
    12月頃過食・嘔吐
     (私自身,まだ過食症の教科書を読んでいないので過食症の自然経過が分かりません。調べてからまた質問します)
    12月頃 いやな友人がいる 高校に入ってもつきあいを続けたい友人はいない
     (中学最初からそうだったのでしょうか。それとも12月から急に対人関係が悪化したのでしょうか。対人関係の悪化について患者本人以外からの情報はありますか。)
    12月末 焦燥感 リストカット
     こうなると抑うつ気分,頭痛肩こりなどの身体愁訴,倦るさ,入眠困難,朝の目覚めの悪さ,自己評価の低下,勉強への集中困難,などうつ病の症状がありそうです。どうでしょうか。
    1月受診 主訴は多分,抑うつではありませんか。過食嘔吐が始まった時点では受診しようとしていませんが?
  • 今後の予測
     さて過食症であることいいとしてうつ病が合併しているとします。他の薬物などは関わりがないとします。
     うつ病について15歳が初発エピソードであるとしたら,これから平均9ヶ月くらいは,うつ症状が続きます。とくに最後までのこるのが自己評価の低下・集中力の低下・焦燥です。このため,対人関係をさけることが続きそうです。希死念慮は早めに消えるでしょう。18歳以下のうつ病については日本で使える抗うつ薬で効果が立証されているものがありません。とりあえず使ってみて効果がでなければ薬は諦めることになります。自己評価の改善を狙った認知行動療法の報告で良いものがありますが,私自身はワークショップにでたことがあるくらいです。わたしが遠隔地から指導することは無理でしょう。うつ病の経過については多少知識があるのでお任せください。
     過食症の自然経過はまだ知識がありません。
  • 問題点
    春休みに限定しているような問題や自然経過でなくなる問題は取り上げる必要はないでしょう。
    #1 多分あるだろう抑鬱症状のいくつか(?)
    #2 過食・嘔吐
    #3 偏食
    #4 自閉的生活
    #5 高校に進学する目処が立たない(?)
    #6 身体合併症(?)

この中でどれが治療対象にしやすい,治療したら患者や家族が喜びますか?
今は #2 に目が行っているようですが,#2 は治療しやすいですか?また治療したら患者や家族が喜びますか。
もし,そうならば,#2 について,セルフモニタリングや家族によるモニタリング(この場合,特定の日や時間をサンプリングしてのモニタリングになります)が最初に使いやすい方法です。
次に誘発刺激を調べて,cue exposureと反応妨害をtryしてみてはいかがでしょうか。
しかし,#2 以外の問題が大きいなら,cue exposureのような負担のかかる治療はお勧めしません。セルフモニタリングはそれ自体が #2 の改善につながらなくても全体の経過把握に役立つので継続すれば良いでしょう。
#1についてもBDI, CDI などの自記式,ハミルトンなどを継続して付けておくことをお勧めします。

----------------------  <中略 1通抜け?>  ----------------------

Bulimia Nervosa
DSMIVを見ると,家族負因では,気分障害,物質使用障害,家族の肥満傾向が見られます。

>> 気分障害,アルコール問題,喪失体験,同胞の様子はいかがでしょ
>> うか。
>  お母さんに聞いた限りないようです。

軽度のうつ病は不眠,イライラ,肩こり,頭痛,性欲の低下として現れ,抑うつ気分は見られないことがよくあります。上手に聞かないとうつ病はないことになることが良くあります。でもとりあえず,物質使用障害はなく,夫婦仲も良いのでしょうね。

更にDSMIVによれば
binge eatingは食欲のコントロールが喪失した感じを伴うこと,気分変調性障害や大うつ病性障害が大多数の患者に合併し,bulimiaの発症とほぼ同時にうつ病エピソードがおこることがほとんどであること,しかし多くの患者はうつ気分はbulimiaが原因だと述べること,うつ病エピソードが先に先に起こってそれからbulimiaになる患者もかなりあること。
経過については思春期後期から20代前半から起こり,ダイエットの努力からbingeが起こることが多く,臨床例のほとんどでは数年以上の間,摂食障害が続くこと,慢性または断続的に経過し,時々,緩解する時期も挟まれること,長期転帰はまだ?であること,が記載されています。
最新の論文を検索すればまた新しいことが分かるでしょう。

> 適応はよかったみたいです。
途中からストレス耐性が落ちていますね。
友達とのつきあいにくさ,不幸な気持ち,イライラした気分を主体にしたうつ病エピソードが中学3年秋から起こり,ダイエット(この,前は太り気味だったのでしょうか),そして過食・嘔吐,という経過で誤りはないでしょうか。

> もともと,とてもよい子のようです。
これはCDIをしてみたらいかがでしょうか。多分,今,本人は「自分は悪い子だ」「もともと悪い子だった。周りが良い子と考えていたのは間違い」と考え,自己評価の低下が見られるのではないでしょうか。

> 1ヶ月のそれぞれで考えると変動はあったのでしょうかハミル
> トンうつ病尺度はその時点でつけていませんが、
> おそらく「4入眠困難」「5熟眠障害」「7仕事と興味(趣
> 味に対する興味喪失)」
> 「9激越(じっと座ってられない)」「10精神的不安(緊張
> 、焦燥感)」などが
> あてはまったと思います。

うつ病で良さそうですね。
児童思春期のうつ病では自己評価の低下が特徴的です。ハミルトンでははっきりとれませんが,CDIやBDIを付けてみたらどうでしょう。

> ったことに今気がついたのでカルテ見直します)。現在は42sぐらいです。
> 生理はこの頃くらいから止まっています。

これくらいでも生理が止まるのか。電解質異常でもあるのかな。

> お母さんと学校の先生からの情報では、「バ
> スケット部同様、本人が男の子と仲良くしているのに
> やきもちをやいた女の子が2年の時に彼女をいじめた。本人は
> 新しくできたばかりの高校に入学する
> ことで、中学の友人達との関係を完全に切ることをあてにし
> ていた。本人はそのために必死に勉強
> をして成績も急にのびた。しかし中学3年のこの時期に、彼女
> をいじめた張本人も彼女と同じ高校を
> 受験すること、成績から言うとその子は落ちそうなのに学校
> の先生が内申点に下駄をはかせたこと
> 、自分の方が落ちたらどうしようと不安になったこと、など
> から本人は情緒不安定になった。」と
> のことでした。

このあたり,本人のストレス耐性が落ちていることも一因なのに家族は同級生や学校のせいにしてしまうのですよね。
家族の方のそういう認識を変えさせる必要はないけれど,治療者も一緒になって周りのせいにしていると先に進めない。
もし本人自身も周りの人の行動を否定的にとらえがちならば,ベックの認知療法で修正を試みてはいかがでしょう。
  まわりが虐めた
  高校でも虐めが続くに違いない
は機能的な認知ではない。

私自身はあまり認知療法の人ではないが,10代のうつ病については薬物療法が効かないと言うエビデンスがいくつかあります。一番,望みがあるのは,実は自己評価の改善を狙った認知療法です。

> 私としては、受診してくれたこと、夕食は過食嘔吐するが朝
> 食や昼食については「過食嘔吐してや
> せようとしても上手くいかない。カロリーの少ないものでい
> いからきちんとした食事をとろう。そ
> れでも過食嘔吐したくなったら何か他のことをして気を紛ら
> せよう」としていること、を評価して
> います。

一度,食事を前にして本人がどのように振る舞うのかセラピストが観察した方が良さそうですね。
過食と嘔吐は食欲コントロール喪失の病気みたいなので,過食を起こしやすい食事・状況を診察室で提示し(エクスポージャー 例えば,一人でいるとき,食事を大量に用意してある机の前に座り,一口食べてみる),その後の過食を反応妨害する(一番,過食衝動が強いところで食べるの止める,過食衝動を記録してもらい,それが時間とともに軽減するのを経験してもらう)を考えます。強迫性障害やアルコール依存症の治療からの類推だけれど,探せば臨床試験があるのではないかしら。

> 中学卒業と同時に自閉的生活になり、それにともなって記録
> をつけるエネルギーもなくなったとの
> ことで、中止しています。

いよいようつ病みたいね。
うつ病の治療はしたほうがよさそう。認知療法でいいと思います。スーパーバイズする自信はないが。
あなたの症例には,あんまり期待できないと言ったけれど,アナフラニールぐらいから試してみるか。
6月からやっと日本でも発売されるSSRIを試すか。

心理士からのメール 2

先日のBulimiaのケースについての質問をさせてください。

>でもとりあえず,物質使用障害はなく,夫婦仲も良いの
> でしょうね。

夫婦仲はあまりよくないようです。Pt.いわく、お父さんの方が家族とあまり関わりをもたず、
自分の書斎にこもりっぱなしのようです。お父さんは難聴で何度か入院されています。

> 更にDSMIVによれば
> binge eatingは食欲のコントロールが喪失した感じを伴うこと,
> 気分変調性障害や大うつ病性障害が大多数の患者に合併し,bulimiaの発症とほ
> ぼ同時にうつ病エピソードがおこることがほとんどであること,しかし多くの患
> 者はうつ気分はbulimiaが原因だと述べること,うつ病エピソードが先に先に起
> こってそれからbulimiaになる患者もかなりあること先日、Pt.は来院しました。

高校生活1週間目くらいでした。学校で友達もでき、バイトをはじめようと思っている、とのことでした。過食嘔吐は学校から帰ってきてから毎日しているようです。
ただ以前と違って20:00くらいにはもう過食嘔吐の作業が終わりのんびりすごしているようです。

ということを考えると、私としては、
「過食嘔吐があることでの二次的な抑うつだった」
「Pt.が年齢なみのストレス対処力を備えていなかったわけではなかった」と感じます。

> > もともと,とてもよい子のようです。
> これはCDIをしてみたらいかがでしょうか。多分,今,本人は「自分は悪い子
> だ」「もともと悪い子だった。周りが良い子と考えていたのは間違い」と考え,
> 自己評価の低下が見られるのではないでしょうか。

一環して、自己評価の低下はなかったと思います。たぶん。質問紙は利用していません。過食嘔吐をした後に、摂食障害患者さん特有の強い後悔がありましたが、どちらかというと他罰的で、「自分が悪い」という感覚はあまりなかったように感じます。先日もそのような感じはありませんでした。

DSMをみると気分障害も摂食障害もあてはまるように思います。

> これくらいでも生理が止まるのか。電解質異常でもあるのかな。

電解質異常があるようです。

> このあたり,本人のストレス耐性が落ちていることも一因なのに家族は同級生や
> 学校のせいにしてしまうのですよね。
> 家族の方のそういう認識を変えさせる必要はないけれど,治療者も一緒になって
> 周りのせいにしていると先に進めない。
> もし本人自身も周りの人の行動を否定的にとらえがちならば,ベックの認知療法
> で修正を試みてはいかがでしょう。
>  まわりが虐めた
>  高校でも虐めが続くに違いない
> は機能的な認知ではない。この点についてもう少し教えてくださいませんか。

母親もこの学校のスクールカウンセラー(実はうちの病院の心理士)も口をそろえて、いじめっ子の方に非があるように言います。
Pt.はいろいろな人に相談したり、気にしないようにしていましたが、「やっぱり心のどこかでひっかかっている」と言っていました。つまり、歪んだ認知が原因で非機能的な認知が生じているわけではないように思います。
あわせて、先にも書いたように、Pt.は年齢相応の対処力は十分もっているように感じます。つまり、ストレスの影響がかなり大きいように感じるのです。先生は、どうお考えになりますか。

あと、DSMでは第4軸でストレス因を記述することになっていますよね。こういった「年齢相応の対処力を越えるようなストレスがあったかどうか」を客観的に考慮できるようにこの第4軸がある、と考えてよろしいのでしょうか。

結局高校も始まったので、次回の約束もせず面談を終えました。体重は41.5キロにさらに下がり、顔も青白く覇気がなかったため、ちょっと心配です。
「高校に行くことができている」「バイトを始める」「友達もたくさんできた」と、ポツポツと話すその楽しそうな内容と、彼女から何となくうける悲壮感とのギャップから、また少し心配になりました。

----------------------    <中略 メール1通抜け>  ----------------------

> > 「過食嘔吐があることでの二次的な抑うつだった」
> > 「Pt.が年齢なみのストレス対処力を備えていなかったわけで
> > はなかった」と感じます。
>  このうつ病についてのあなたの"認知"はとっても気になります。これは気
> 分障害については20年前の教科書的知識しかご存じない心理士・医者みなに共通
> している誤った"認知"です。

私も10%くらいは先生のような考え方が頭をよぎったんですよ。なぜならDSMに照らしてみたら気分障害に当てはまりますもの。そこで私は当院の医者に相談してみました。が、医者は「DSMなんて当てにならないよ。自分が(DSMを)ちゃんと勉強してないから強いことは言えないけどね」とおっしゃいました。
で、その医者は、「内因性のうつ」「心因性のうつ」という教科書的な考え方をする先生で、私に「教科書的な知識だと思うけど(うつ病について知らないの?)・・・」というようなことをおっしゃいました。

そこで、私の考えは真っ白になり、先生にメールをした次第です。でもやっぱり目からうろこ。

> ぜひ,使ってみてください。一太郎のファイルでCDI,BDIを付けておきます。

本当にありがとうございます。

また勉強してメールします。

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