Q&A1: 人格および人格障害に関する質問

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心理士からのメール 1

さて、さっそく質問メールです。
お時間があれば、よろしくお願いします。

先生はアセスメントや治療において
「人格」というものを仮定していますか?
心理テスト(ロールシャッハとか)をどう思いますか?

回答

こういうのなんて答えたらいいだろう。

「患者さんのそのひとなりの人格を尊重していますか?」
 Yes 患者さんやその家族は私のお客様です。

「人格も治療の対象ですか」
 Yes or No ここでいう人格が他の精神疾患の現れ,またはその経過で説明されるものならYes どれほど変な人格でもそれが20歳以降に起こったものなら,ほぼ確実に二次的なものだし,原因が治療可能ならなんとかしましょう。
 逆に,青年期または小児期早期から安定して持続し,しかも,本人に著しい苦痛を起こしていないならば,治療のしようがない。多分患者さんも治療してくれとはいわないだろうし。社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしていて二次的に困っていれば本人を変えるより,本人が住みやすい環境を見つけたり,見つけるスキルをつけたりすることを目標にするでしょう。

「人格というものを考えますか」
 Yes 時々,こいつDSM-Wの教科書の引き写しではないかいなと思われるほどの,変人としかいいようのない患者が来ます。アルコール依存症も合併し,実家の床に穴をあけた患者のことを思い出します。診断基準からでてきたような分裂病質(分裂病型ではない)人格障害のひとがいました。DSMを見せてあげると本人が喜んでいました。
 こういう人を正しく変な人と診断し,分裂病としないこと(本人の意思に反して抗精神病薬を投薬したりしないこと)が大事だと考えます。(入眠時幻覚とかが活発だったので,本当は薬を飲ませたかったけれど,本人が,幻覚も楽しいからくすりは嫌だといいうのであきらめた。)

「ボーダーライン,多重人格は・・・・・」
 これを言われると反射的に言った相手の学習レベルを疑う癖がついています。

心理テスト
 心理士を交えたカンファレンスに出すには必要。これがないと議論がでないことがある。人格テストのパターンで患者を覚えている心理の方も大勢おられますから。この間のコロキウムにて言われたようにこれからは経時的にとるよう心がけたいと思います。私としては人格テストより,WAIS-Rの方が大事な気がします。
 人格テスト以外の自記式アセスメントはしょっちゅう使っています。不安障害や気分障害についてはいろいろ用意しています。

参考

人格障害の全般的診断基準 DSM-IV
 その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った,内的体験及び行動の持続的様式。この様式は以下の領域の二つ(またはそれ以上)の領域に現れる。
 (1) 認知
 (2) 感情性
 (3) 対人関係機能
 (4) 衝動の制御

  • b. その持続的様式は柔軟性がなく,個人的及び社会的状況の幅広い範囲に広がっている。
  • c. その持続的様式が,臨床的に著しい苦痛または,社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  • d. その様式は安定し,長期間続いており,その始まりは少なくとも青年期または小児期早期にまでさかのぼることができる。
  • e. その持続的様式は,他の精神疾患の現れ,またはその経過ではうまく説明されない。
  • f. その持続的様式は,物質(例:乱用薬物,投薬)または一般身体疾患の直接的な生理学的作用によるものではない

人格障害ではなく,傾向だけなら,c項は満たさないことになります。

心理士からのメール 2

回答メールありがとうございました。

質問 1) 詳しい状況がわからないと何とも言えないでしょうが、あえて質問。
例えば、

 患者さん自身は「不眠、何かが不安になる、イライラする」などと訴えて通院している。
 家族は「その患者さんに八つ当たりされること(言語的に)や物品破損」などによって非常に迷惑をこうむっている。しかし、患者さんはあまりそのことに罪悪感を感じていない。

という状況であったとします。
そして、そのような状況が高校生の時から24,5歳まで続いているとします。
そうした場合先生は、主訴の解消と、本人が住みやすい環境を提示することを治療目標とするのですか?例えば「罪悪感を感じないこと」にはノータッチなのですか?

> 「ボーダーライン,多重人格は・・・・・」
> これを言われると反射的に言った相手の学習レベルを疑う癖がついています。

質問 2) というのはどういう事ですか? 先生の考えでは、ボーダー、多重人格とはどのような障害なのですか?

回答

> 質問 1)

 「不眠,不安,イライラ」が年余に渡って続き,八つ当たりがさしあたり当たり障りのない相手に対してあるのであったら,まず気分変調性障害を考えます。これだけが訴えのはずはないので,不眠の内容(多分入眠困難と熟眠障害があり,床に入ってごろごろしている時間は長い),希死念慮,抑うつ気分,不機嫌,Anhedonia(生きていて良かったと思える時間があるか),絶望感,意欲・活力(ダルイか),性欲(年齢相応の色気はあるか),食欲(おいしいと思って食事しているか),身体的不調,話がまわりくどいかどうか(思考の転換がスムースにできるか),集中力があるか(1時間ドラマを最後まで見通せるか),愚痴っぽいか,それが一日で変動するか(朝が最悪か),1年のうちで元気なときもあるのか,を聞いて行きます。ハミルトンうつ病尺度が参考になります。
  八つ当たりが反社会的になってしまう人もいます。

 うつ病は,不機嫌になる病気です。人様に迷惑を掛けるような行為をする勇気はないけれど,甘えが効く相手にはやりたいほうだいする人が多いです。

 「罪悪感を感じないこと」を患者さん自身に対して治療目標にとりあげることはしないと思います。罪悪感を感じるようになったら,うつ症状がひどくなったことになりますから。
家族がやってきて何とかしてくれというならば,家族に対応の仕方を教えることになります。家族の要求が強いなら,行動契約とか,いちおうやってみるでしょう。あまり期待しないけれど。何もしないとなれば家族が不満を強めて医者を変えてしまう。

> 先生の考えでは、ボーダー、多重人格とは
> どのような障害なのですか?

 診断名については私の考えはありません。優れた研究者が決めてくれた診断基準に従うだけです。いくら優れた臨床家でも一生の間に経験する患者の数,種類,追える経過の年数は限られます。私が専門にしている気分障害だけでも,専門的な研究者(臨床家ではない)によって方法的に正しく行われた調査,研究によってこの10年間にずいぶん新しいことがわかりました。臨床家は自分の経験は病気全体の一部しか見ていないのだということを自覚する必要があります。「自分の臨床経験による考えではボーダーラインは・・・だ,多重人格は・・・だ」,とご意見を披露される人を見ると,「WeissmanやAkiskal,DSM-IVも読んでいないな」と思うのです。

 今日,EBM(Evidence Based Medicine)の本を読んでいたら,大学学長が卒業生に対して「自分の講義したことの半分は5年後にはうそになっている。勉強を怠るな」という話がありました。
 私の言った事の半分も同じくらいかな。

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