K シュナイダーの定義によれば「精神病質(パーソナリティー障害)とは,その異常性のために自分自身が悩むか,あるいは社会が悩む」とされる。人格は生得的で生涯変化しないものと考えられる。
”社会”が判断を下すということが問題を生むことがある。全体主義社会において政治体制に異議を申し立てる政治犯はパーソナリティー障害にあたるとしてこの診断が乱用されたこともある。またパーソナリティー障害と診断することは治療可能性を放棄することになるとして,この概念の使用がタブーであった時もあった。操作的診断基準の生まれた現在でもパーソナリティー障害の分類について議論がつきない。
2003年8月のDSM-IV-TR日本語訳新訂版からは,人格障害という名前もパーソナリティー障害という名前に変更になった。
DSMIII において研究者のコンセンサスを集めた診断基準に従ったパーソナリティー障害という概念と多軸診断(パーソナリティー障害の場合は第二軸)という方法が作られた。これによりパーソナリティー障害が復活した。
パーソナリティー障害とは全般的な考え方や振る舞い方の特徴である。そうした特徴が社会規範や周囲の一般常識からかけ離れており,しかも思春期頃から始まり生涯を通じて波や変化がなく一定である場合にパーソナリティー障害と呼ぶ。
パーソナリティー障害で見られる考え方や行動の偏りは,認知 (自分自身や他人,出来事に関する受け取り方),感情表現(感情の幅や強さ,情緒不安定,他人の苦痛をたまたま目撃したときの感情表出),対人関係の取り方,衝動性などである。
パーソナリティー障害の診断基準に一致する状態が一時だけ見られるような場合,例えば躁うつ病のようなエピソードの期間中に行動の偏りが見られる場合はパーソナリティー障害ではない。従って本人との面接では診断を付けることはできない。一定の行動パターンが幼少期から年余にわたって変化なく存在することを本人以外からも情報を得て確認する必要がある。
パーソナリティー障害自体が理由になって医療を受診することはない。気分障害や物質関連障害などの他の精神障害を合併したときに精神科を受診し,そのときにパーソナリティー障害が見いだされる。 DSMの多軸診断に正しく従う必要がある。
家族負因が見られる場合が多い。衝動性の制御などにセロトニン動作性神経が関与している。 A群パーソナリティー障害は統合失調症と関連が深い。
人格の分類は DSMやICD10のようなカテゴリ分類と,外向性・内向性,新奇性追求・損害回避・報酬依存のような次元レベルの分類とがある。DSMは,遺伝学的理論の影響から生まれた分裂病型パーソナリティー障害,精神分析理論から生まれた境界性・自己愛性のように多理論的診断分類となり,実用性はあるが,統一性がない。現在のところ,どのような分類・名称が適切であるかについて十分なコンセンサスが得られていない。分類・名称はDSMの版毎に違う。ICD10もまた別の分類をしている。パーソナリティー障害を臨床に用いるときには安易な印象診断や拡大解釈はせず,特定の診断基準に正しく従うことが必要である。
分類 | パーソナリティー障害とその特徴 |
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A群 奇妙,風変わりな信念や習慣をもつ人 |
妄想性パーソナリティー障害 他人の動機を悪意のあるものと解釈するなどの他人に対する不信感,疑い深さがある。自分の評判に過敏で,傷つけられたことを根に持ち,配偶者の貞節を理不尽なまでに疑う。 |
分裂病質パーソナリティー障害 人と交わることを好まない。家族以外には親しい友人がなく,恋人を作ることに関心がない。自分の評判を気にしない。対人場面での喜怒哀楽が乏しく,冷たい。 |
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分裂病型パーソナリティー障害 親しい間柄の間でも些細なことを曲解する。奇妙な空想や迷信深さがある。親しい関係を続けることが困難で,対人場面で過剰な不安を示す。 |
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B群 情緒や感情の現れ方が適切でなかったり,劇的・過度であるような人 |
反社会性パーソナリティー障害 刑罰を受けても違法行為を繰り返す。良心の呵責が欠如している。人をだます。衝動性があり将来の計画を立てられない。怒りっぽく喧嘩っ早い。仕事が長続きしない。借金返済などの経済的義務を果たさない。 |
境界性パーソナリティー障害 理想化とこき下ろしの両極端を揺れ動く対人関係,不安定な自己像と空虚感。不安定な感情・気分。性行為や物質乱用,無謀運転,浪費などの衝動性。他人から見捨てられまいとする過剰な努力。 |
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演技性パーソナリティー障害 常に注目の的になっていようとする。挑発するような行動や芝居かかった態度,派手な外見。感情表出は浅薄で移ろいやすい。暗示にかかりやすい。 |
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自己愛性パーソナリティー障害 自分が特別であり,地位の高い人たちにしか理解されないと考えている。対人関係で相手を不当に利用する。他人に嫉妬し,尊大で傲慢な態度をとる。 |
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C群 対人関係の取り方において自信のなさ,不安が目立つ人 |
回避性パーソナリティー障害 社会的制止,不適切感,否定的評価に対して過敏。 批判や否認に対するおそれから対人接触をともなうような職業活動をさける。引っ込み思案 |
依存性パーソナリティー障害 分離不安が強く,他人にしがみつく。日常の些細なことを決めるのに他人の助言が必要。人から拒まれることを恐れて不快なことも進んでする。 |
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強迫性パーソナリティー障害 秩序,完全主義にとらわれ効率を犠牲にする。娯楽や対人関係を犠牲にしてまで仕事にのめり込む。道徳,倫理に過度に誠実で融通が利かない。吝嗇,頑固。 |
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特定不能 | 研究用診断として受動攻撃性・抑うつ性パーソナリティー障害など |