第4章 前考慮段階から考慮段階

Treatment Improvement Protocol (TIP) Series 35
Enhancing Motivation for Change in Substance Abuse Treatment

  1. 薬物依存治療動機づけ
  2. 第1章 | 第2章 | 第3章 | 第4章 | 第5章 | 第6章 | 第7章 | 第8章 | 第9章 | 第10章 | Appendix A

準備性の形成

 重篤な健康に関する依存症問題を扱う上で,多量な程良いという社会的通念がある。より多くの教育,より集中的な治療,より多い葛藤により必然的に多くの変化が生じる。しかし前考慮段階にいる人々にはこの考えは当てはまらない。集中的に行えば行うほど結果は実りのないものとなる。従って変化に興味を示していない問題行動者から無視される,集中度の高いプログラムを始めるのではなく,注意深く動機づけ戦略を用いることが極めて大切となる。前考慮段階のクライアントを変化させることはできない。しかし,彼らを動機づけて考慮段階に進ませる手助けを行うことはできる(Diclemente, 1991)。人々は物質使用の治療に入る前や,自力で物質使用を中止又は節制する以前に,彼らの物質使用パターンが問題化すること、たとえば、誰か他人にとって問題となる様な危機や,一連の拡大する出来事により変えられていたかもしれない。もし家族以外の大切な人や家族から彼らの物質使用行動が問題あるものだと告げられた場合,彼らは驚き,敵意,否認,不信,又時には受容といった反応を示すであろう。変化の段階別モデルによれば(第1章に示された),まだ現時点での物質使用を心配していない人々や,変化を考えていない人々は前考慮段階にいることになる…たとえいかに大量に頻繁に物質を使用していても,又いかに彼らの物質使用関連の問題が重大であろうとも。更にこれらの物質使用者は,前考慮段階や早期の考慮段階に何年も留まり,変化について考える事は稀か皆無であるかも知れない。疫学的研究によると,物質乱用患者のわずか5〜10%しか治療や自己救済グループに参加していない(Stanton, 1997)。ある研究による推定では,物質乱用の人々の少なくとも80%は現在前考慮段階か考慮段階にいることになる(Diclemente and Prochaska, 1998)。
 物質乱用者や依存者が変化に向かう道をたどり始め,前考慮段階から考慮段階へ移動する手助けを行う機会を臨床家に呈示する多くのシナリオがある。定義上は,前考慮段階の人々は無条件で物質乱用の治療に進んで参加することはない。しかし,この段階の人々は,治療プログラム内に送りこまれたり,自らを引き入れたりすることはある。以下の場面は,物質使用者本人から,もしくは誰かを委託する為に,治療施設にかかる電話の中でみられるであろう場面を示している。

  • 大学のコーチがコカイン陽性と判明した運動部長を治療の為に委託する場合。
  • 夫の飲酒に困り果てた妻が,夫が治療を受けないなら離婚訴訟を起こすと主張する場合。
  • あるテナントが物質使用の為に州の住宅建設プログラムから外される場合。
  • 裁判所から,飲酒運転をしたドライバーが治療の為に委託される場合。
  • 妊娠中に物質判定テストで陽性と判明した婦人が公的な医療機関を訪れる場合。
  • 雇用者が営業成績の低下した従業員を会社の従業員支援プログラムに送りこむが,結局は,その従業員は物質乱用治療に委託される場合。
  • 救急部門の臨床家が重大な自動車事故に遭ったドライバーの治療に当たり,彼の体内からアルコールを検出する場合。
  • 家庭医が患者からアルコール依存症を示す症状を発見し,治療を提案する場合。
  • 世話の義務を放棄したとして子供達を児童保護施設に引きとられた母親が,物質使用を中止し治療を求めるまでは,子供達は返さないと言われる場合。

 これらの場面全てにおいて,物質使用者と重要な関係にある人々は,物質使用は本人や他人にとって危険で,異常で有害であると述べている。物質使用者の反応は,部分的には周囲の環境に対する彼らの見方や,物質使用の事実が周囲にどの様に示されるかに依存する。もし,これらの重要な鍵となる人々が,審判的,軽蔑的,対立的な態度でなく,むしろ支援的,共感的に適切な情報を与えてくれるならば,彼らはより良く動機づけされ,物質使用を節制したり,中止したりするであろう(自分達だけの努力で,もしくは治療プログラムの助けを借りて)。物質使用者は,しばしば公然の説得に対しては,ある種の抵抗を示すものである(Rollnick他, 1992a)。
 この章では,あなた方臨床家が治療施設で利用できるいろいろな技術や,やさしい戦術について検討するが,それにより変化を考えていない人々の話題を掲げ,物質乱用が"有害である"との一般概念に対するクライアントの疑問を引き出し,そしてクライアントに物質乱用は現在,又は将来重大な負の結集を生み出すと確信させるに至る。評価とフィードバックは,動機づけ戦略の重要な部分を占め,あなたのクライアントに彼らの個人的な物質使用のパターンが正常のパターンと比較しどう違うか,どんな特別なリスクが伴うか,そして,どんな障害が既に起きているか,又もし変化を起こさなければ将来どんな障害が起きるかという情報を与えるものとなる。多くの臨床家は,重要な他人が調停者として働き,適切な動機づけ戦略を用いて,物質使用者である親しい人々に介入することを手助けするのに成功している。この章では,又前考慮段階にいる人々が変化への準備性を作り上げる手助けとなる戦略について検討する:一方的な家族による治療,地域社会の強化アプローチ,地域社会の家族トレーニングに向けての強化アプローチ。治療に参加する様に指定されたクライアントを勇気づける建設的な手段もまたこの章で述べられている。

Raising the Topic(話題を掲げること)

 あなた方にとって,治療に参加しようとしている人々の中には,自分達の物質使用が危険であったり,問題を起こしたりしている事に気付いていない者が存在するという事実は信じ難いであろう。集中的な長期に亘るアルコール使用の徴候を示しているクライアントは,考慮段階にいるか変化への準備ができているに違いないと考えがちである。しかし,その様な推察は誤っている。新しいクライアントは,重症度の連続体上のいかなる地点にも存在し得るし(軽度の問題的使用からより重度の依存に至るまで),健康又は社会に関する問題を殆ど持たない者から,数多く持つ場合もあり,そして変化への準備性のいかなる段階にも存在し得る。治療としての対話を開始する為に,あなた方が用いる戦略は,あなた方によるクライアントの動機づけと準備性に対する評価に導かれるべきである。

最初の話し合いでは以下の事が重要である。

  • ラポールと信頼関係を築くこと
  • 治療への参加を促進した出来事を探ること
  • クライアントが治療に来たことを褒めること

これらの勧告の詳細を以下に述べる。

肝臓移植:前考慮段階から考慮段階

 前考慮段階のクライアントは,驚くべき医療の場面に現れる。末期の肝機能障害に陥り,肝臓移植の適応と判断された患者に対面することも,私にとってはまれなことではない。医学的観点からは,その患者の肝機能障害の原因はアルコール性肝炎であり,肝硬変に至ったものである。検査室や他からの多くの情報から,長期に亘り大量のアルコールを消費していた事実が更に支持されている。

 アルコール依存症の診断は,医学的情報から支持されているばかりでなく,飲酒運転により罰金を課されたり,飲酒による結婚生活上の問題等の重大な負の結果にも関わらず,何年も大量飲酒を続けていたという家族からの指摘により一層明白となる。更に,圧倒されるかと思える事実であるが,患者自身がいろいろな流動的な動機づけ因子による為に,自分がアルコールに関わる問題を持っている事が分かっていない。彼は,肝機能障害を起こしたことに罪の意識を感じているかもしれず,自分が生命を救ってくれる介入にふさわしくないと考えているかもしれない。もしくは,自分のアルコール使用について詳しく検査をし過ぎ,アルコール歴を他人に話すことにより,自分が肝臓移植に不適当であると考えられる事を怖がっているのかも知れない。彼は既にもし現在も飲酒を続けているのであれば,肝移植のリストから外されると告げられているかも知れない。

 この時点で臨床家としての私にとって特に重要な点は,患者が自分のアルコール使用の問題を直視したがらない態度に驚いたり,批判したりしない事である。単純な事実であるが,彼は今まで自分の病気をアルコールのせいであると考えたことはなかった。彼の問題ある飲酒についての驚くべき事実に立ち向かうことは,彼をより防衛的にし,否認を強化し罪と恥の意識をより強めることになる。

 評価の際には,私は患者の飲酒歴と現状の状況につながるあらゆる機会を,過度の自己暴露をせずして利用する。特に,患者が必要とし恐れる事に敏感であり,患者にアルコールと物質使用の正の部分を共有してくれる様頼み,そこから,患者の考え方からは物質使用が有益となることを認めることで治療上の同盟関係を支持していく。

 この様な状況では,充分に評価した後に,患者にアルコール依存症についての医学的考えを提供することは珍しくない。私は,患者の学歴や医学知識の理解力に合わせて,脳内のさまざまな化学反応,報酬系,耐性の問題,遺伝的変化,アルコールに対する違った酵素反応,そして中毒症を形成するその他の生物学的過程について話す。必要に応じて,より詳細に語ることもあるし,患者の教養が低い場合には,糖尿病等のよりなじみのある疾患を例に用いて説明する。患者は質問を重ねていくうちに,中毒症についての新しい絵を描き始め,その絵の中に自分自身を見出すようになる。各患者に合わせた説明提示とそれを通して患者に質問を促すことにより,私は患者と(もし家族がいれば)その家族に対しアルコール依存症を支持する生物学的因子についての,重要な情報を提供する。その知識により,自己診断に至ることがしばしばみられる。こういった精神教育再形成により,疾患に対するより倫理的な理解に基づいて形成されていた罪と恥の意識が払拭され,クライアント内にアルコールとの関係に対する違った見方が生じてくる。この自己判断という行動こそが前考慮段階から考慮段階への移動なのである。それは専門的であるものの純粋に同情的な形で作られた完全な治療評価の中で,単純に再形成されることで完成する。
Jeffrey.M Georgi, Consensus Panel Member

Establish Rapport and Trust(ラポールと信頼関係を築くこと)

 変化について考えていない人々に変化についての話題を掲げる前に,ラポールと信頼関係を築くこと。この挑戦は,クライアントが心地良く本当の対話に没頭できる様な安全かつ支持的環境を作り上げることになる。ラポールを育てる一つの方法としては,まずクライアントに変化についての話題を扱う許可を願い出ることであり,これは,クライアントの自主性への敬意の表現となる。
 次に,あなたやあなたが提供するプログラムがどの様に働き,どうすればあなたとクライアントが共に作業ができるかという方法についてクライアントに伝えること。この時こそ,どれ位の長さで話し合いが続き,あなたが今及び一定期間内に何を成し遂げようと期待しているかを述べる時である。プログラムにある規則や規約で新しいクライアントを圧倒しない様努めるべきである。もし適切ならば,どんな評価や取り決めが必要となるかを明らかにすること。もし秘密性の問題があれば(この章の後半で詳細について述べられている),それは話し合いの初期に持ってくるべきである。どの情報が秘密として守られるべきか,どの情報が許可を得て公表して良いものか,更にどの情報が委託してくれた機関に送り返すべきなのかをクライアントに伝えることが肝腎である。
 あなた方は動機づけアプローチを用いているのだから,クライアントに対し何をすべきかやどの様にして変化できるかとか,変化すべきか否かについては伝える意思はないことを表明しなければならない。むしろ,あなた方はクライアントが話し手のほとんどを占める様依頼するのであり,クライアントが現在起こっている事に対する考え方と感じ方を述べる様に事を進めていくのである。又クライアントが何を成し遂げようと期待しているかについてのコメントも歓迎すべきである。次に,クライアントになぜここに来たかをたずね,あなたがその理由について知っている事を言い,そしてクライアントの意見や詳細について聞き出すべきである(Miller and Rollnick, 1991)。もし,クライアントが極端にためらったり,防衛的であったりする様に見える場合には,一つの戦略として物質使用に結びついており,かつクライアントの興味を引き出しそうな話題を選ぶ方法がある。その様な興味の的につながる鍵は,クライアントを委託してきた施設や人から提供されることもあり,又,クライアントに病気,結婚生活上の不和,過労等といったストレスがあるかどうかをたずねることで明らかになり得る。その興味の的を知ることで次のような質問に自然に入って行けることになる。"あなたが……を使用することがどの様にそれに結びつくのですか?"もしくは,"あなたが,……を使用すると健康にどう影響しますか?"クライアントの"問題"や"物質乱用"に直接言及してはならない。というのも,そうすることは,クライアントの物質使用に対する考え方を反映したものではないからである(Rollnick他, 1992a)。あなたは,物質が使用されるに至った状況とクライアントの変化に向けての準備性を理解しようとしているのである。無論,もしクライアントが考慮段階について,変化に傾倒しようとしていることが分かれば,あなたはすぐにより変化の後の段階に適切な戦略へ移ってよい。(第5章第6章を参照)。
 最初の話し合いで述べるべき重要なポイントは,カウンセリングの話し合いの場で,明らかに酔っていたり,薬物で"ハイ"になったりしているクライアントと一緒に仕事を進めて行くか否かである。最近,精神状態を変えてしまうような物質を摂取した人からは,正確で信頼できる情報が得られる見込みは少ない(Sobell 他, 1994)。多くのプログラムには,アルコール検出の為の呼気テストや薬物検出の為の検尿が取り入れられており,もし物質が一定量以上検出されたり,クライアントが酒に酔っていたりすれば,カウンセリングの話し合いの計画は変更されることになる(Miller 他, 1992)。

Explore the Events That Precipitated Treatment Entry
(治療への参加を促進した出来事を探ること)

 クライアントが治療を受けに来た感情的な状態は,カウンセリングを開始するゲシュタルト(形態)や状況の重要な部分となる。治療を受けるクライアント達は,彼らをカウンセリングの場に来させた種々の経験(例えば,逮捕,伴侶との対立,健康上の危機等)に関連した,広域に亘る感情を表現するであろう。治療に入ってくる人々は動揺し,怒り,引っ込みがちで,恥じて恐れており,又救われた気持ちでいることもあるが…多くはこれらの感情が入り混じったものとなっている。あなた方カウンセラーが聞き返しによって,それらの感情を認めることに失敗すれば,強力な感情の為に変化は阻止されてしまう。個人を治療の場に導いた状況は,変化に対する防衛を増加させていたり,減少させたりする。
 動機づけを増強させる為には,あなたの最初の対話がクライアントの最近の経験に基づいたものであり,あなたが提供された機会を利用することが重要となる。例えば,ある運動家がスポーツを続けたり,競技に参加したりする事に不安を抱えている様な場合;従業員が職にとどまりたいと願っている場合;ドライバーが運転免許証を失うこと;刑務所に行くこと;他人を傷つけること等の可能性を心配する場合がある。妊婦は健康な子供を持つことを望み;子供の世話を放棄してきた母親は子供達を再び取り戻したいと思うし;更に,妻を心配する夫は,彼女を治療に向かわせる様説得する為の特殊なガイダンスを必要とする。
 しかし,時にはクライアントは,カウンセリングに来る事を強制されたとして,委託元の機関や人を非難することがある。そうなる意味は,しばしばその機関や個人が状況を的確に観ていなかった為である。変化への動機づけに至る道を見つける為には,クライアントが見ていること,信じていることが正しいということを確認することである。例えばクライアントの妻が,クライアントが治療に来る様主張するけれど,クライアント自身は何の問題の存在も否定する場合,あなたは,"どんな事が彼女を悩ませているのですか?"とか"何が彼女にあなたの飲酒に問題があると思わせているのですか?"とたずねることになるであろう。もし,妻の見方がクライアントの見方と食い違っていた場合には,あなたは妻も一緒に治療の場に来た方が,お互いの見方の違いが良く分かるであろうと提言するであろう。同様に,委託元の機関からの説明や,臨床家から提出された身体に関するデータを再評価したり,確認したりすべきであるかもしれない。そうすることで,クライアントにとって脅威的でない方法で違った見方をクライアントに示す役に立つ。保護監察官に問題があるとクライアントが考えている場合には,あなたは"なぜ,あなたの保護監察官があなたに問題があると思っているのですか?"とたずねることができる。こうすることで,クライアントは委託側の見方から,問題について表現できることになる。それは又,あなた方がクライアントに委託側の説明の中の真実を認める勇気付けを行う機会を提供してくれる(Rollnick 他1992a)。
 最初の話し合いの中では,第3章で述べた戦略を全て使う事を忘れないでほしい:
答えが自由に選択できる質問をすること,聞き返すこと,肯定すること,要約すること,そして自己動機づけの言葉を引き出すこと(Miller and Rollnick, 1991)

Commend Clients for Coming(クライアントが治療に来たことを褒めること)

 カウンセリングを委託されたクライアントは,自分達には治療の過程において,制御する力はないと感じるかもしれない。批判や非難されることを期待する者や,あなた方に治してもらえると期待する者もいるし,又カウンセリングにより大した努力もなしにクライアントの問題を全て解決できると期待する者もいるだろう。彼らの期待が何であるにせよ,"あなた方がここに来た努力に深い感銘を受けました"と言う事で,彼らが治療を受けに来た勇気を肯定して欲しい。彼らが自分達の責任を表明することを称賛すれば,変化が可能であると考える彼らの自信を深めることになる。また,クライアントがカウンセリングを受けに来たことは,彼らが変化の話題と興味に何らかの投資をしたと,あなたはほのめかすことができる。例えばクライアントに"あなたは子ども達の世話を一生懸命しなくてはならない"と言う事で子どもを引き離されるという危険を知らせることなく,治療に来る決心をしたことを褒めることができる。この様な肯定によりクライアントに彼らの最良の興味内での良い選択ができることをうまく伝えることができる。

Gentle Strategies To Use With the Precontemplation
(前考慮段階にいるクライアントに対して用いるやさしい戦略)

 一度クライアントを治療に従事させる方法が分かれば,以下の戦略を用いることが,クライアントの変化への準備性を増加させ,考慮段階へ向かわせることを促進するのに有用となる。

Agree on Direction(方向付けに同意すること)

 まだ変化について真剣に考えていないクライアントを手助けする際,あなた方は注意深く戦略を練り,クライアントに受け入れられる道について交渉する事が大切となる。同意が得られるものもあれば,そうではないものもある。あなた方は正方向の変化を促進しているという事実に正直になることで,臨床家としての役割に名誉を与えている。又あなた自身の経験や懸念に基づいた助言を与えることも適切であるかもしれない。しかしあなたが言うべきことをクライアントが聞きたがっているかどうかたずねてみるべきである。例えば"ここで我々にどんなことができたか話したいと思いますが宜しいですか?"。あなた方がクライアントの見方と違う見方を表明する時は,必ず協力的であることを明確にすべきであり,決して権威的であったり対立的となったりしてはいけない。あなたの助言を心に留めたり,計画に同意したりする選択権はまだクライアントにある。この様な早期段階においては治療のゴールに同意する必要はない。

Types of Precontemplation(前考慮段階にいる人々のタイプ)

 中毒性の行動を持ち,まだ変化を考慮していない人々を4つのグループに分類できる(Diclemente, 1991)。各々のカテゴリーはクライアントを前進させる為の適切な戦略についての手引きをあなた方に与えてくれる。

  • 気が進まない前考慮段階の人々(Reluctant precontemplators)は変化が必要であると考える為には,問題の重要性や問題がもつ個人的な影響力に対する充分な知識が不足している。彼らは物質使用が,彼らの人生にいかに影響を及ぼしているかを示す敏感なフィードバックにしばしば反応する。
  • 反抗的な前考慮段階の人々(Rebellious precontemplators)は人生における制御権を失うことを恐れ,選択した物質に多大な投資を行う。あなたの挑戦は,この彼らのエネルギーを強制されたと考え,抵抗し続けることから自分達の為の正の選択に向けさせる手助けを行うことである。このタイプの人々には,個人的制御権を強調することが有効となる。
  • あきらめた前考慮段階の人々(Resigned precontemplators)は変化に対しての希望を失っており,必要とされるエネルギーの大きさに圧倒されている。彼らは以前恐らく何度も治療を受けたり,又何度も自力で物質使用を止めようと試み失敗していると思われる。このグループの人は彼らの変化への能力についての希望と楽観性を取り戻さなくてはいけない。この為には新しくスタートすることを阻む障壁が何かを探る必要がある。
  • 合理化する前考慮段階の人々(Rationalizing precontemplators)は全ての答えを持っている。物質使用は他人にとっては問題となるかもしれないが,彼らにとってはそうではない。なぜならオッズは彼らが危機的状況にいるという考えに反する為である。このグループの人々には,理由付けをした議論よりも"両側の反映"が最も有効な戦略となる。クライアントの言う事を認める一方,クライアントが既に述べたかもしれない事への疑念を追加してやる(第3章を参照)。
Assess Reading To Change(変化への準備性を評価すること)

 初めてクライアントに会う時は,クライアントの変化への準備性を確かめること。これによりどんな介入戦略が功を奏するであろうかという決定ができる。クライアントの準備性を評価する方法はいくつか存在する。2つの一般的な方法も以下に述べる(変化への準備性を評価する為のこれ以外の道具については第8章を参照)。

Readiness Ruler(準備性を測るものさし)

 クライアントの変化への意志を測る最も簡単な方法は,準備性ものさし(Readiness Ruler)(第8章, Figure8-2)又は1から10までのスケールを用いることであり,これによる低い数値は変化への考えがない事を示し,高い値は変化に対して特別な計画や試みがあることを示す。クライアントに以下の様な質問に対する答えとして最も適当なものを,ものさしの上に示してもらう様頼む。"変化することはあなたにとってどれくらい大切なことですか?","変化に向かうと決心した場合為し遂げる自信はどれくらいありますか?"前準備段階にいる人々はスケールの低い値を示すことになり,通常0から3の間の値となる。次にあなたは"あなたがx(低い値)からy(高い値)に移動するのに何が必要ですか"といった質問をクライアントに対しすることができる。
 これらの数値的な評価は固定したものではなく,又直線状のものでもないことを心にとめておいて欲しい。クライアントは各段階を越えて前進後退を繰り返したり,連続体のある部位から他の部位に,いずれの方向にも又いろいろな時に飛び移ったりする。あなたの役目は正方向への移動を促進することである。

Description of a typical day(特別な日について述べること)

 変化への準備性を測るもう一つのより間接的な方法は,クライアントに特別な日について述べてもらうことで,これはラポールを形成すること及びクライアントを促して,非病理的な枠内で彼らの物質使用パターンについて語らせることである(Rollnick他, 1992a)。このアプローチはあなた方が,クライアントが物質を使用する状況を理解するのに役立つ。例えば一日のどれ位を生計を立てる為に費やし,又愛する人と過ごす為の時間がどれ位しか残されていないか等。クライアントの行動と感情に関する情報を引き出すことにより,物質を使用することが,クライアントにとってどれ程の意味を持つものか,更に物質使用を止めることがどれ程難しいか又は簡単であるかが分かる。物質使用は,ある者にとっては最も生活に密着したもので,文字通り帰属意識を与えてくれるものであるし,他の者にとっては体内で起こる強力な生物学的,化学的変化であり,それが物質使用を更に継続させることになる。アルコールや薬物を使用することは,深い心の傷を隠してくれることになり,友情の潤滑油となり,又興奮を与えてくれるものでもある。
 クライアントに次の様に語り掛けることから始めること"次の数分間は特別な日について考え,…使用について話し合いましょう,それも最初から最後までです。まず最初のことから始めましょう。"この方法を経験した臨床家達が提案することは,"問題"や"心配事"には一切言及しない方法から始めるべきであるということ。クライアントの行動や感情に焦点を合わせながら,その日中に起こった全ての出来事を一つ一つ追って行くべきである。"どうなりますか"と聞き続けることが肝腎であり,不意に問題に関することや,なぜある出来事が起こったか等についてのあなたの仮説を差し挟むべきではない。クライアントに彼らの言葉で語らせ,ある特別なジャルゴンが分からない時や,ある事が見逃されそうになった時だけ,意味をはっきりさせる為に質問しても良い。

Provide Information About the Effects and Risks of Substance Use
(物質使用の効果と危険性に関する情報を与えること)

 もしクライアントが薬物やアルコールについての教育を受けておらず,しかもそれに興味を持っている場合,治療の早期に物質使用についての基本的な情報を与えるべきである。クライアントに向かって"…の効果について少し説明させてください"と言ったり,自分達が選んだ物質の効果や危険性について知っている事を説明する様,頼んだりすることである。中立的な立場から,その物質のいかなる使用者に対しても起こり得ることを説明すべきで,そのクライアントだけに当てはまる事を言うべきではない。更にあなたが考えた事を話すのではなく,専門家が見出した事を述べた方が良い。そして情報を与えた時は,クライアントに"これらのうちどれを行いますか?"と聞くべきである(Rollnick他, 1992a)。
 物質依存に陥っている人や,自分を狂気じみていると思っている人に対しては,中毒に至る過程を,生物学的専門用語を使って説明することが時に有用である。中毒症についての事実を理解することは,変化への希望や準備性を高めることになる。一例を以下に示す。"あなたが初めて物質を使用した時は良い気持ちになります。物質を使用し続けるとあなたの脳はこれらの物質をそのまま使用し続ける必要があると信じますが,それはちょうど生存する為には,食物の様な生命を支える物を必要とするのと同じ様なことなのです。あなた自身はまだこの過程よりも強くはありません。しかしより賢明になれば,物質依存から独立する事ができるのです。"
 同様に酒酔い運転をした人々は,どの様にして2〜3杯の飲酒が法的に酔いの状態を作り出すか,そしてその程度の飲酒がどれ位自分達の反応力に影響を及ぼすかを知り,驚くであろう。子どもを欲しがっている若い女性は,どの程度物質が生殖力を阻害し,妊娠したと気付く以前にも胎児に障害を与える危険性を持つかということを理解していないであろう。又クライアントは,アルコールがうつ状態や高血圧の為に服用している薬剤と併用すると,どの様な相互作用を起こすかも知らないであろう。

Use Motivational Language in Written Materials
(文書の中での動機づけ用語を用いること)

 クライアントと向き合っている時に,動機づけを増強する効果的な戦略に,文書があることも忘れないで欲しい。小冊子,ちらし,教材,そして宣伝広告等がクライアントに変化を考えさせる影響を与える。しかしこの場面で判決的な用語を用いるとクライアントは不快を覚えるが,それは治療中でも同様である。例えば"乱用"や"否認"等がそうである。あなたが与えるカウンセリングサービスについての文献は,全て動機づけを意図して書かれたものでなければならない。もし小冊子が長ったらしい規則の一覧表で始まっていれば,クライアントは勇気付けられて治療に入ってくるどころか,逆に怯えてしまうであろう。クライアントを前向きに捕らえた観点から文書を再検討し,あなた方は自分の役目がクライアント自身に最終的な責任がある変化の過程において,パートナーであるべきことを心に留めておかねばならない。

Create Doubt and Evoke Concern(疑問点を作り出し,不安を引き起こすこと)

 クライアントが,前考慮段階を越えて自分の物質使用に関する問題のいくつかに気付いたり,認めたりする様になれば,変化の可能性は増加する。そうなるとクライアントはますます矛盾に気付き,より強い両価感情を持つ様になる(Miller and Rollnick, 1991)。クライアントを前考慮段階から考慮段階に移動させる主な戦略は,クライアントの中に"物質使用は無害なのだろうか"という疑念や,"万事うまくいかないのでは"という不安を呼び起こすことである。
 クライアントの中に不安感を抱かせる為の一方法として,物質使用についての良い点,良くない点を探ることがある。アルコールや薬物によりもたらされ得る"恩恵"についてのクライアントの考え方から始め,物質使用を悪い事や問題点とする二分法を立ち上げるのではなく,連続体の上をより益のない方向に進んで行くべきである。もしあなた方が検討を,物質使用のマイナスの面に向けてしまうと,クライアントは物質使用を防衛したまま検討を止め,あなた方はクライアントが望まない変化を提唱しただけに終わってしまう。更にクライアントは物質使用の有害な効果について何も気付かず,準備ができていないかもしれない。あなたが,クライアントがアルコールや薬物を大事にする理由が理解できている事を示すことで,湧き出る問題をよりオープンに認めるための場面を設定することになる。例としてあなた方は次の様に質問しても良い"あなたが自分の飲酒についてどう考えているかを私が理解する手伝いをしてください。何が楽しいのですか?"更に"飲酒のどういったところはあまり好きではないですか?"物質使用に関連した良くない点が分からないクライアントは,恐らく変化を考える準備はできていないし,更なる情報も必要とはしていないのであろう。これらの良い点と良くない点を探ったあと,個人的な言葉で行われたやり取りを要約し,クライアントが起こりつつある両価感情についてはっきりと理解できるようにする:"それで,…を使用することであなたはリラックスでき,その為にお金を使うことに楽しみを覚え,月曜日に仕事に行くのが辛くなるのですね"(Rollnick他, 1992a)。第5章に両価感情を扱う為のガイダンスの追加が述べられている。
 あなた方は又,クライアントに物質を使用することが人生に大きな影響を与える多くの方法を考えさせることによっても,彼らを考慮段階に向かわせることができる。例として,次の様に質問することがあげられる。"物質を使用することがあなたの勉強にどういう影響を及ぼしていますか?あなたの飲酒は,あなたの家族の人生にどう影響を与えていますか?"個人の人生における物質使用の効果を探って行く時には,バランスのとれた聞き返しを行うべきである:"私に理解できる様,協力してください。あなたは,変化する必要は何もないと言ってきましたが,同時に又,家族を失うことになるのではないかという不安も持っています。私には,これらの事は,一致しない様に思えますし,あなたにとっても混乱するものとなるはずです"。

Assessment and Feedback Process(評価とフィードバックの過程)

 殆どの治療プログラムでは,クライアントがとりかかり過程の一部としての,評価の為のアンケートやインタビューを終了することが求められている。時々,これらが同時に行われることがあり,クライアントにとって大きな負担となったり,治療に入る障害物となったりすることがある。プログラムは,クライアントに評価を完了する為,一ヶ所以上の場所に行く様求めるが,その為にかなりの時間とエネルギーが注がれることになる。治療カウンセラーがとりかかりとしての評価を指揮するが,その後の評価はクライアントが知らないか再び関係することのない別の者がしばしば担当する。最初の評価の結果を治療計画を立てる為に用いずに,診断確定や扱いきれない身体的,精神的問題を除外する為に用いているプログラムがあまりにも多すぎる。
 しかし現在,ますます多くのプログラムが多くの場面に沿った包括的な評価法を強調しており,それが,臨床家達が個人の必要性に合わせて治療を処方し,治療法の優先順位を決定するのに役立っている。評価される部分は,通常,治療を受けるクライアントのタイプや提供される医療の種類によって異なる。例えば,都市の中央部に住む人々に対するプログラムにおいては,彼らの犯罪歴,従業の技術,住宅供給事情,HIVテストの結果を,アルコールを乱用している中流階層の専門家たちに向けての夕方の外来プログラムにおいてよりも重視されることになる。
 広い基盤に基づいた客観的な評価から得られたクライアントの個人的結果を与えることは,特にそれが,注意深く解釈されて正常なものや期待されるものと比較された場合には,教育的というばかりでなく,動機づけ的なものとなり得ることをも臨床家達は分かってきた(Miller and Rollnick, 1991; Miller and Sovereign, 1989; Miller他, 1992 ; Sobell他, 1996b)。このことは,アルコールを誤使用又は乱用しているクライアントに当てはまる。なぜならば,現在アルコール飲用に関する社会的な規範が存在し,多くの研究により健康や身体反応にとって,これ以上飲むと危険であるという飲酒レベルが明らかにされている為である。この種のデータは,不法な薬物に対してあまり多くは存在しないが,同様のアプローチがマリファナ使用者に対して用いられている(Stephens他, 1994)。クライアントの個人的な物質使用に関する危険性とその使用パターンが規範的なものとどう違っているかという点に関してのフィードバックを提供することは…特に,同一文化背景と同性のグループに対して提供された場合…食い違いの観念を作りだし,変化を動機づけできる強力な方法となる。クライアントが自分達の評価の結果を聞き,その危険性と結果を理解できた場合,多くのクライアントは現在の自分達と価値観との位置の間の差異に直面することになる。

Preparation for an Assessment(評価の為の準備)

 クライアントが客観的情報の実践価値を理解し,その結果が有用であると信じる場合には,評価から得られた所見は最も容易に治療過程の一部となり得る。この様に,クライアントが少なくとも一つのあなた方との話し合いを終えた後では,あなた方は最も適切に形式的な評価を計画できるであろうし,又,それを土台としてクライアントの変化への準備性と個人別のフィードバックへの反応の可能性を決定できる。又,どのタイプのテストやアンケートが使用されるとどんな情報が明らかとなるかという点についても説明できる。更に,どれ位の時間がこの評価に必要であるか推定でき,又,他の必要な指示を与えることが可能となる。クライアントが変化を考えておらず,物質を使用することに関して何の心配も問題も認めたことがない場合には,あなた方は,何も問題は存在していないかも知れず,この評価は淡に何が起こっているかを明らかにするだけであるという点に同意できる。医学的検査と同様に,この評価法は心配事が存在する(存在するかも知れない)部位や何らかの変化が起こるかもしれない場所を正確に把握することができる。

評価の内容

 評価のさまざまな道具や手順がある。最初はアルコール関連の問題を持つクライアントを評価するのに包括的であると考えられる8つの部分が提案されている(Miller and Rollnick, 1991)。これら8つの部分を以下に掲げる。

物質使用のパターン

 評価の最初の部分は,薬物とアルコールの使用であり,それには現在特に使用されている量,使用頻度,使用法(例,注射等),更に使用開始,増量,過去の治療そして最後の使用に関する歴についての評価も含まれている。質問事項には全ての合法的な物質(処方薬剤やニコチンも含まれる)と違法な薬物が網羅されている。Consensus Panelは飲酒と喫煙に有意の関係があるとして,喫煙パターンを評価することを強く勧めている(Hurt他, 1996)。合衆国における飲酒問題を持つ人々の80〜90%が喫煙者であると推定されるが,これは一般成人の喫煙者が25%であるのに比較して異常に高い数値となっている(Wetter他, 1998)。更に物質使用の治療を受けている患者において,タバコ関連の疾患が第一の死因となっている(Hurt他, 1996)。あなたのクライアントの物質使用の全体像を調べることが,ある有害な物質依存が別の物質依存に代わることを防ぐのに重要である。アルコールと薬物が一緒に使用されることがしばしばである為,何の薬物が使用されているか,それらがどの様に使用されているか,そしてどの様な相互作用を及ぼし得るかについての完全な情報を手に入れることが肝腎である。
 これらの情報はさまざまな方法で集めることができる。それらにはアンケートの集計,典型的な週間物質使用量とのバリエーションから,平均使用量が計算できる仕組みとなる組織立てられたインタビュー,カレンダーや記憶を呼び起こして再構成された日々の使用,又は毎月の日記や,ある一定期間のアルコール Timeline Followbackを使って作るクライアントの自己観察記録等がある(Miller他, 1992; Sobell and Sobell, 1995a)。TIP24,初期治療を行う臨床家の為の物質乱用治療サービスのガイド(CSAT, 1997)は,より多くのスクリーニングや評価の道具を提供してくれる。

依存症候群

 評価に関連するものとして物質依存症があるが,その決定には精神障害に対する診断と,DSM-IV(Diagnostic and Statistical Manual of Manual Disorders, 4th Edition;DSM-W)に載せられた診断基準を用いる(American Psychiatric Association, 1994)。通常探られる要因としては,同じ効果を得る為に必要な物質の量が増加してくるという"耐性"の発達がある。それらには;物質使用が急に中止された場合に起こる特徴的な"禁断症状"(例,記憶喪失,一時的な記憶消失,アルコール禁断症状,振戦せん妄);通常の日常生活を犠牲にしてまで物質を求めたり,健康や安全性に深刻な危機が及ぶのもかまわずに物質を求めること;最初意図していたよりも多量の物質を使用したり,長時間使用し続けること;物質を求めるのに過剰に長い時間をかけたり,回復するのに時間がかかる様になること;物質の減量や中止を何度も試みて失敗すること等がある。可能性のある医学的治療計画を立てる為や,治療結果の重要な指標として,あなたのクライアントの依存度の重症度を知ることが大切である(Miller and Rollnick, 1991)。DSV−Wの為の組織立てられたクリニカルインタビューにある様な組織立ったインタビュー形式の質問からはより信頼できる,かつ防御できる診断がもたらされる。

生活機能の問題

 個人の人生内で発生する問題を確認することは,それが物質使用に関連していようがいまいが,直接の早急な介入を要するほかの難事を指摘できる。これらには結婚問題から家庭内暴力,失業,犯罪,財政的危機等がある。ミシガンアルコールスクリーニングテスト;Michigan Alcohol Screening Test(MAST)やCAGEの様なスクリーニングの為の道具は,現在起こっている人生上の問題に対しては良い道具とはならない。それはこれらのテストがさまざまな面を(例,救いを求めること,病的な使用,依存,負の結果等)を一緒に扱っていることが部分的な理由となっている。物質関連問題を評価する為に,特別にデザインされた道具が好ましい(復習の為にはAllen and Columbus, 1995;を参照。Miller他, 1995b)。

機能的分析

 機能的分析は薬物とアルコール使用をとりまく状況を探る。特に使用の引き金となる刺激と,使用に引き続く結果との関係を調べる。このタイプの分析は,その行動のクライアントにとっての意味を解明する為の重要な手がかりと同時に,変化にとって動機づけとなり得るものや,障壁となり得るものを提供してくれる。より詳しい情報については第7章を参照

Biomedical effects(生物医学的効果)

 あいにくアルコールや薬物は,個人的な反応の仕方に大きくばらつきがある為に,身体的健康への影響を予見できる効果が存在しない。血液生化学検査や血圧のスクリーニング等の,アルコールの影響力を測定する為のさまざまな生物医学的なものさしがあるが,物質乱用を確かめる為の決定的なテストや,一連のテストはない(Eastwood and Avunduk, 1994)。しかし,ある指標を用いることで薬物やアルコールの過剰摂取を疑うことができる。血圧の上昇や,γ-グルタミントランスフェラーゼ,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ,アラニンアミノトランスフェラーゼ等の,酵素の上昇などがその例である(Eastwood and Avunduk, 1994)。多くの身体的不安が,アルコールや薬物の乱用と関連があり,体内のほぼ全部の系統が影響を受けることになる。

Neuropsychological effects(神経精神学的効果)

 記憶障害やその他の認知力への効果も,アルコールや薬物使用による一時的,又は永久的な影響の結果であり得る。これらの分野の検査は高価で,日常的には行われないが,これらの検査での異常値に関するフィードバックは動機づけを増幅するものとなり得る。なぜなら,その検査からの情報は目新しく,普通の日常生活の経験しかない人には利用されない為である(Miller and Rollnick, 1991)。しかしこの評価法により検出された障害は,物質使用以前からあったものであるかも知れないので,フィードバックを提供する際には注意を要する(適切な検査を再調査する為にはMiller, 1985a, 及びMiller and Saucedo, 1983を参照)。物質使用の為に発生したと誤診され得る,身体的及び認知障害をスクリーンしたり評価したりする方法についての,より多くの情報がTIP29に記載されている(Substance Use Disorder Treatment for People with Physical and Cognitive Disabilities[CSAT, 1998])。

Family history(家族歴)

 物質乱用と依存に陥るリスクは,部分的にであるが遺伝的因子に影響されるため,父,母両側の親戚に関しての物質関連問題や疾患,反社会的な性格障害,集中力欠損や過剰反応を呈する疾患の有無が,完璧な家族歴を聴取することで明らかになる。物質関連問題に陥る素質が物質乱用罹患を予言するものではないが,そのリスクは重要な警告信号になり得るし,又同時に中毒性物質を使わない様に注意深く選択する為の動機づけ因子ともなり得る。

Other psychological problems(他の精神的問題)

 アルコールと薬物乱用はしばしば付加的な精神的問題を伴うことがあるが,それらには抑うつ,不安神経症,反社会的性格,セックス障害,社会生活を送る技術の欠損等があげられる(Miller and Rollnick, 1991)。薬物やアルコールの中毒や禁断症状が,ある精神障害に類似したり,それを隠したりする可能性もある為,精神的検査を指示する前に,一定期間クライアントを物質から隔離する必要がある。精神障害の中には違う種類の処方薬に反応するものがある為,あなたのクライアントが合併疾患を持っているか,そして両者同時に治療を行うことが有益となるかを決定すべきである。あなたが,クライアントが合併症としての精神疾患を持つか否かを評価する様な訓練を受けていない場合や,あなたのプログラムに評価や治療を扱う充分なスタッフが存在しない場合には,あなたのクライアントを適切な精神治療プログラムや臨床家に委託して,評価を受けさせるべきである。物質乱用と他の精神障害を合併しているクライアントを評価する為の,より多くの情報を見る為にはTIP9を参照すること。〔Assessment and Treatment of Patients With Coexisting Mental Illness and Alcohol and Other Drug Abuse(CSAT, 1994b)〕

Personalize and Interpret Feedback About Assessment Results
(評価の結果についてのフィードバックを個人の問題として解釈すること)

 評価の結果を提示し検討する事が,動機づけを強化する軸となり得る;従ってあなたのクライアントにテストやアンケートから得られた個人データを与える前に,思慮深く話し合いを組み立て,ラポールを成立させるべきである。まずクライアントに情報を提供してくれたことへの感謝を表明すべきであるし,又何か困難があったかたずねるべきである。質問に答えたり,アンケートの欄を埋めてしまったりすることからも分かる様に,クライアントは既に自分達の人生における物質の役割に対し,新しい考え方を持っていたのかも知れない。あなた方は次のような質問をすることで,この点を高めるべきである"人々は評価を終えると時々驚くべき事を学び取ることがあります。テストに対するあなたの反応はどうでしたか?"結果を正確に解釈する為には,クライアントの手助けが必要であることをはっきりさせておく必要がある。クライアントに質問をする勇気を与えること:"私はあなたに多くの情報を提供するつもりです。何か分からなかったり,より多くの説明が欲しかったりする時は呼び止めてください。必要なら私達には今日も,又別の話し合いに対しても充分な時間があります。"あなた方は又使用された道具の客観性を強調したがるし,どれ程どれらが標準化されており,どんなに広く使われているかという点について,適切であればその背景的情報を少し与えたがるであろう。又クライアントがコピーできる要約文を提供することも有用となる。
 クライアントの個人データを標準データや他の説明用の情報と比較する為に,フィードバックを提供する事が有用である。例として,クライアントは自分達の日常の飲酒レベルが正常域を超えたものであり,これが長期に亘ると脳卒中,肝硬変,女性の乳癌,男性にとってのあらゆる種類の癌等のリスクを予測するものとなることを理解しなければならない(Figure4-1)。点数とそれを解釈,説明することの両者共が重要である:両者共それ自体興味深いものでもなく,又動機づけとなるものでもない。例えばAUDITで23点という高得点を獲得することは,問題のある大量飲酒を指すことが理解できれば,クライアントがそれまで正常行動と思っていた事に対する疑問を掲げることができる(Figure4-2)。AUDITは付録Bにも再掲載されている。
 クライアントはしばしば,既に大量の情報が書かれた小冊子を与えられているけれども,最小限のデータでさえ文書の形で説明を付して呈示されなければならない。更にまた,情報を呈示する際は,動機づけスタイルが用いられるべきである。クライアントに診断を受け入れる様圧力をかけてはいけないし,又結果が何を意味するものとなり得るかについての,クライアントが望まない意見を提供してもいけない。代わりに次の様に語ることで説明を始めるべきである"このことをあなたが懸念しているかどうか知りませんが…"とか又"あなたがこの結果をどう使うつもりか私には分かりませんが…"等。クライアント自身で結論を出す様にすべきであるが,次の様に質問することで彼らの手助けを行うべきである"これをどう使うつもりですか?"又は"この結果をどう思いますか?"クライアントの反応を見たい時は,顔をしかめたり,眉をしかめたり,時には涙を流したりする言葉以外の手がかりを見るべきである。これらの反応を次の様な言葉に反映させるべきだ。"この結果を受け入れることは,あなたにとって難しいと想像します。というのも,これはあなたの妻が言い続けていた事を確定するものとなっているからです""この結果は恐るべきものです""この結果全てを信じることは辛いでしょう"(Miller and Rollnick, 1991)。
 最後に,既に現れたリスクや問題,クライアントの反応,フィードバックによって促進させられた自己動機づけの言葉等を含む結果を要約することである。そしてクライアントにその要約を見せて,追加文を加えたり修正してくれたりする様頼むべきである。
 動機づけの形態で呈示されたならば,評価のデータは単独でクライアントを"物質使用とその結果"に対しての新しい考え方を持つ方向に移動させることができる。もしクライアントが評価の結果を受け入れることに困難を覚え,自分達の物質使用量が異常なレベルではないと主張する場合には"Colomboアプローチ"(第3章)を用いると良い。;"私は混乱してしまいます。以前話し合った時には何も問題はなかった様に見えました。でもこの結果が問題があると言っているんでして,しかもこの評価は極めて信頼のおけるものと一般に考えられているんです。どう考えますか?"
 フィードバックの過程の形式と解説を示した一つの良い例が,Project MATCH(Miller他, 1995)の為に作り上げられた個人的なフィードバックレポートの中に見られる。これは付録Bに再現されている。もう一つは要約レポートであるWhere Does Your Drinking Fit in?(Sobell他, 1996b)で(そのFigure4-1と4-2に呈示),Guided Self Changeに参加する個人に提供されるものである。Guided Self Changeとは,自分の飲酒量が,形式的な治療を受ける理由となる程深刻ではないと思うけれども,健康診断には同意する過剰飲酒者の為に開発された評価とフィードバックのプログラムである。これは飲酒者を勇気付けて自分達の飲酒を新しい見方で捕らえさせることにより,"自己変化"を育てる目的で作られている。
 広範囲に亘る飲酒評価ができない状況で働いている開業医の為に,無料の個人向けのフィードバックプログラムがインターネット上で利用できる。3人の研究者(Drs Cunningham, Humphries, Koski-Jannes)がProject MATCHの個人的フィードバックレポート(Miller他, 1995c)とWhere Does Your Drinking Fit In?のレポート(Sobell他, 1996b)内で使われた材料に基づいて一つのプログラムを開発した。このプログラムも又依存症研究財団…カナダのトロントにある依存症と精神衛生の為の,センターの一部門…のウェブサイト上でアクセスできる:www.arf.org. 解答者は飲酒に関する21ヶの短い設問を埋め,そのデータを送る。個人向けに作られたフィードバックが返送されてくるが,それは解答者の飲酒を同年齢,同性,同一出身国(合衆国やカナダ在住の人に対して)の人達のデータと比較したものとなっている。短いけれども,このフィードバックプログラムは開業医にとっても役に立つ道具となる。
 クライアントのアルコールや薬物使用レベルを標準的なレベルと比較したもの,クライアントの使用レベルによってもたらされる健康上の危険,現在の使用量にかかる費用等についてのフィードバックを提供することは,時に前考慮段階の人をそれ以上のカウンセリングやガイドなしに,かなりの速度で移動させるのに充分となる。動機づけスタイルで提供されたフィードバックも又変化への系統を増強し,治療効果を高める。例えばある研究によると,住み込みの治療センターに入居した人に評価のフィードバックと動機づけインタビューを施行した結果,コントロールグループに比較し,より治療に従事する様に臨床家には見えたし,更に追跡調査の結果,物質使用中止率が通常の2倍となったことが示された(Brown and Miller, 1993)。

Intervene Through Significant Others(重要な他人(SO)を通しての介入)

 かなりの調査の結果,重要な他人(SO)が加わることで,物質使用者を変化の考慮段階に移動させ,治療に入らせ,治療過程にとどまらせ,従事させ,そして回復の成功へと至らせるのに役立つことが分かっている。SOはクライアントの物質使用を,以下の方法で扱うことで彼らの変化への傾倒を増強させる,極めて重要な役割を果たす。

  • 物質使用に関係する出費と恩恵に関しての建設的なフィードバックをクライアントに提供する。
  • クライアントが負の行動パターンを解決することを促進する。
  • 変化に対する具体的な感情的障害物を確認する。
  • 物質を使用しないライフスタイルに導いてくれる,社会的,個人的に付き合う力に目を向ける様クライアントに注意を促す。
  • クライアントが物質使用行動を変化させる為にこれらの社会的,個人的に付き合う力を使用する様励ます。

 SOを動機づけ介入に参加させるいくつかの方法がこの章で検討されている:カウンセリングにて,向かい合った介入にて,家庭での治療にて,又は地域社会強化アプローチの一部として。

変化の過程におけるSOの参加

  配偶者や親戚や友人等のSOを積極的に動機づけカウンセリングに参加させることが,実にクライアントの変化への傾倒を促進する為に有用なことが分かった。SOはクライアントが中毒的行動を変化させる事に対する両価感情でもがき苦しんでいる時に,建設的な信号入力ができる。SOからのフィードバックにより物質使用からもたらされる負の結果に対するクライアントの意識が高められる。同時にSOはクライアントを変化に傾倒させ続ける為の必要な支えとなる。

 SOを参加させる前に,私は常にそのSOがクライアントと正の協力関係にあるか,又変化の過程に貢献する為の真の投資となり得るかを決定する。クライアントと強く結びついており,クライアントの物質使用の変化を手助けするのに関心を持っている場合には,そのSOは,変化を達成する為の貴重な貢献をしてくれる。もしこれらの質に欠けた人であれば,変化の過程を阻害する。従ってSOを参加させる前に,私はクライアントとそのSOとの間の相互作用について評価してみる。私は,クライアントが述べた動機づけの言葉が,SOによって支持されるか否かをみることに特に関心を持つ。

 この短い評価に続いて,SOが動機づけの過程を促進することの手助けになるさまざまな傾倒を増強する戦略を用いる。クライアントの変化できる能力に関するSOサイドの楽観性を助長する質問を行う様にしている。例えば私はSOに以下の様な質問を行う:

  • Jackは自分の飲酒を変える為にどんな努力をしているか気付いていますか?
  • Jackが自分の飲酒を直す手助けを行う際,あなたにとって最も有用であったものは何ですか?
  • Jackの変化する能力についてより良くなったと感じるに至った違いは何ですか?

クライアントから自己動機づけの言葉を引き出す様なテクニックを使用することにより,SOは変化の過程における共同促進者となり得る。
Allen Zweben, Consensus Panel Member

Significant Others and Motivational Counseling
(重要な他人と動機づけカウンセリング)

 一般的にSOはクライアントの内面に潜む力を動機づけて行動を起こし,実行し,そして維持させる働きの手助けを行い,その結果クライアントは物質を使用しない生活スタイルに到達できる。SOはクライアントを変化の為の解決策を自力で生み出す方向に向かわせるものとして期待される。それでも変化に対する究極的な責任はクライアントにあるということを忘れてはいけない。
 SOは通常は配偶者,同居者,又は家族の中のそれ以外の人であるが,クライアントと密接に個人的協力関係を維持できる人であれば誰でも良い。強い協力関係が必要ではあるが,それだけでは動機づけカウンセリングにSOを参加させる条件としては不充分である。実例が示す様に,SOを交えた治療に適格な候補者とは,クライアントの物質を使用しない生活を支える人で,かつその支えをクライアントが高く評価するものでなくてはならない(Longabough他, 1993)。

Orient the Client to SO-involved treatment
(クライアントを,SOを交えた治療の方に向けること)

 クライアントにSOを治療の話し合いの場に参加させて良いかたずねること。更にSOがクライアントの物質使用を扱う上で極めて重要な役割を果たすこと,つまり感情的な支えとなること,治療のゴールを妨害する問題点を確認してくれること,更に一緒に教会に行くといった物質使用のない活動に参加してくれること等を,クライアントに伝えるべきである。又,変化に対する究極的な責任はクライアント自身にあるのだから,SOはクライアントの物質使用を観察,記録する様な依頼はされていない事も説明すべきである。SOの役目は専ら支えとなることのみで,方針決定と選択権は完全にクライアントのものである。秘密にすべき重要な点を振り返り,パートナーと共有する情報は,クライアントとパートナーの承諾なしには,決して話し合いに参加しない外部の人達と検討することはないことをクライアントに伝えなくてはならない。時にはSOに参加の許可を与える旨の文書が必要な場合もあり得る。

Create a comfortable, supportive, and optimistic environment
(心地よい,支援的な楽観性を持った治療環境を作り出すこと)

 最初のSOを交えた話し合いでは,クライアントの物質使用パターンを変化させる為に協力的かつ建設的に働こうと思った意欲に対し,SOとクライアントの両者を褒めるべきである。変化への最終的な責任はクライアントにあることを思い出させた上で,SOに参加してくれる様頼んだ理論的根拠を何度も説明し,クライアントとSOの役割と責任についても説明すること。クライアントに変化を起こさせる影響力を持つという考えに関しての楽観性をSOにしみ込ませることが大切である。しばしばSO達は治療に入り,挫折感や絶望感を覚えることがある;多くのSO達は問題が長期間存在する事や,再発と回復を繰り返す事を知らないのであり,その為に挫折感が増す。その結果SOは変化の過程における自分の影響力に対して無力感を覚えることになる。SOの力になれるという信念を強化する為に,あなた方は以下の戦略を用いることができる:

  • SOが用いた手段が有効であった事を積極的にほのめかし,そしてそれは上出来であったと寛大に述べてやる。
  • クライアントの変化に向かう現在の努力についての,SOからの確信を持った批評を強化する。
  • 変化を促進する為に行うSOの努力により,クライアントが恩恵を被る為の将来の策について検討する

この時点での全体的なゴールは,SOがクライアントの変化の手助けになれる権限を与えることである。

Provide constructive feedback(建設的なフィードバックを提供すること)

 動機づけカウンセリングの話し合いにおいて,変化に向かう正の動きは,SOによりこのまま物質使用を続けて行けば,二人の価値ある協力関係を維持して行くことは難しいかもしれないと指摘されて,初めて起こることがしばしばである。クライアントはSOからの入力信号に…大切な二人の関係を失ったり,傷つけたりするようなことにつながり得るものである為に…極めて敏感である。クライアントに対して物質使用から利益を得ようとすると,その社会的代償はより高いものとなることを説明すべきである。ここで言う利益とは,楽しみを強化したり,気晴らしをうまくやったりすることで,代償とは非常に価値のある協力関係にひびが入るか,又は失うことであろう。この結果,クライアントは物質使用を続けることに不安感を覚える様になるであろう。この不協和を減らす為に,クライアントは物質使用を止めるという決心をしなければならなくなる。以上の意味から,SOのフィードバックは,変化の行程を活発に進ませる大きな輸送手段となる。
 この理由から,SOに,より深くカウンセリングに参加する様頼むべきである;例えばクライアントの物質使用問題の結果に関した情報を共有したり,クライアントと共同で変化の為の戦略を探したりする事等を。これらの情報は建設的に伝えられなければならないが,その為にはクライアント本人に焦点を合わせる(例;"あなたは飲酒をするから悪い人だ"と言う)のではなく,むしろ飲酒や薬物使用から生じる有害な結果(例;家庭崩壊)に焦点を合わせるべきである。

Maintain a therapeutic alliance(治療上の同盟関係を維持すること)

 SOが配偶者の場合には,SOとクライアント間の絆を強める為に,特別な努力がなされるべきである。強力な家族の絆は,クライアントを変化に傾倒させておく為の有効な因子である(Zweben, 1991)。二人と一緒に,結婚関係の質を高めるのに役立ついろいろな活動を探るべきである。例えば休暇をとり,子ども達抜きで外食に出かけること等。中にはSOにとってこれらの仕事が悩みの種となることもあり得る。特にクライアントが物質を使用していた為に,家庭崩壊を来した前歴がある場合がそうである。SOは又クライアントに家庭内の主な責任を与えた場合,再び家庭状況を不安定なものにしてしまわないかという点を恐れるかもしれない(この様な懸念は,クライアントが不安定な回復パターンをとった場合起こり易い)。カウンセラーはこれらの懸念を認め,正常化し,そしてこれらの新しい取り合わせを扱う為の計画をより多く作り上げるべきだ。再発した場合を扱う手順も含めた段階毎のアプローチが導入されるべきであり,これにより家族が,クライアントを家庭内に再度編入させるという仕事の大きさに圧倒されることを防ぐ。

Problematic SOs(問題あるSO)

 適切なスクリーニングを行ったにも関わらず,SOの中には変化に対して少ししか,又は全く傾倒しないものもいる。この様なSOは何度も治療の為の話し合いに欠席したり,約束を取り消しても新たな約束はしなかったり,遅刻したり…等の,一般的に言えばクライアントに対して負の態度をとっている。又クライアントと負の相互作用を起こしたり,カウンセラーから過度に促されたりしないと,何も建設的な意見を出さないSOもいるし,更には物質使用のない活動に参加することを拒否するSOまでも存在する。この様なSOは彼らが治療の中で深刻な問題を起こす前に処理しておくことが重要である。そうなった場合には,以下の事を考える。

  • SOに対し,SOを交えた治療の目的について思い出す様に穏やかに説く…つまり感情的な支えとなること,建設的なフィードバックを提供すること,変化への動機を強化すること,そしてクライアントと共同で物質使用行動を変える様に働くこと。
  • SOの中には,クライアントの変化に対する能力と意志に対して抱いている自分の不安に気付いておらず,これが逆にクライアントに向けられる負の感情となっているものもいるかもしれない。この様な場合には,SOの潜在的な不安を扱う必要がある。聞き返し,正常化,明白化,要約等の技術を使用することで,SOが自分のクライアントに向ける負の態度の潜在理由を探る手助けを行うことができる。これらの戦略により,SOにクライアントに対する不安を発散してしまう機会を与えることが可能となる。そうしないとSOは話し合いの間,クライアントに対して負の方向で接し続ける(例;不安を行動に表わす)。これらの点は普通,SOとの個人的な話し合いの中で扱われている。
  • もし上記のアプローチが役に立たない場合は,SOの役目を,情報を共有することだけに制限することも考える。SOに現在クライアントに提唱されている治療計画だけ…自己救済グループへの参加,薬剤服用,新しい職場を探すといった特別な仕事等…を伝えるべきである。これは一回の話し合いで終えることができるか,もし認められるなら,更に一度の話し合いを追加しても良い。SOを,物質使用行動を変化させる活動の強化や,方針決定に参加させない様にする。より以上の手助けを必要としているSOに対してはAl-Anon等の個人カウンセリングや,地域社会の支援グループに委託することも考える。これによりSOが自分自身をクライアントの問題から遠ざけ,治療過程を害することを防ぐ手助けとなる。
Reseach Support(研究による支持)

 短い動機づけカウンセリングの研究から,SOの参加(主に配偶者)は介入の効果に貢献する重要な因子となり得ることが示唆されている(Longabough他, 1993; Sisson and Azrin, 1986; Zweben他, 1988)。Edwardsの仕事を初めとして,SO参加の短い動機づけカウンセリングは,より大規模な従来の治療法と比較し,同等かそれ以上に効果的であった事が,飲酒とその関連問題に関する多くの測定から明らかとされた(Edwards他, 1977; Holder他, 1991; Zweben and Barrett, 1993)。これらの研究は全てアルコール関連問題を持つ人々から導き出されたものであった。それにも関わらず,上記の好ましい結果やアルコール以外の物質を使用しているクライアントをモデルとして得られた開業医達からの陽性の結果をみると,動機づけカウンセリングアプローチに,SO参加の部分を追加することを考慮すべきであることが分かる。これにより,あるクライアント,つまり家族と強い絆で結ばれている人々への介入の有効性が増加する。
 しかし,短い動機づけカウンセリングの異なる部分(セラピストの共感,フィードバックと助言,書物による治療,等)がクライアントの動機づけを増強させることへの,比較的貢献度については明らかにされていない(Zweben and Fleming, 印刷中);セラピストの共感といった因子は,動機づけの変化に与える影響に関しては,SOの参加よりも,より顕著な役割を果たし得る。変化を促進する点に関して,SOの参加部分の比較的貢献度を他の治療部分(例,セラピストの共感)と比較検討した研究が今後望まれる。

The Johnson Intervention(Johnson介入法)

 1960年代に紹介されて以来,Johnson研究所で開発されたアプローチは頻回の並べ替えにより,対立するやり方から,より厳しくない戦略へと変更されてきた(Stanton, 1997)。Johnson介入法は広く知られた方法であり,ここでは家族や物質使用者の社会的仲間は,かなりのトレーニングとリハーサルの後に臨床家の立会いの下で物質使用者に立ち向かう。彼等は交代で物質使用者に向かって物質使用がいかに彼等に影響を与えているかを告げ,物質使用者に救いを求める様迫り,もし変化…通常治療への入り口…が起きなかった場合,どんな結果になるかを明細に言う。その計画の一部には驚くべきものが含まれる。創作者によって描かれた基本的な仮説を以下に示す(Johnson, 1973):

  • 使用者にとって意義深い,影響力のある人が,使用者に個人情報や事実を呈示する。
  • 呈示されるデータは実際の出来事に特異的で,かつそれを描写したものであるべきで,意見ではない。
  • 対立の語気は審判的であってはならないが,懸念を反映していなければならない。
  • 呈示される証拠は,飲酒や他の物質使用に直結しているべきで,ある程度詳細でなくてはならない。
  • ゴールは物質使用者が,援助が必要であることを認めるに充分な事実を見つめ,受け入れることである。
  • 物質使用者は,適切かつ役に立つ治療の選択の余地を呈示されるべきであり,これにより使用者の尊厳は保たれ,方針決定能力が尊重されることになる。

 このアプローチは,最初は入院患者の治療委託に適用された(例,28日のMinnesotaモデルプログラム)が,結果的には外来施設で用いられてきた。しかし,充分に広く評価されたものではなく,少ししかない研究も少数の参加者を反映したものに過ぎない。治療センターに助けを求めている人々に対する最近の研究からJohnson介入を経験した人々は,治療センターに強制的(例,裁判官,雇い主,公的な支援によって)に連れてこられた人々や,自発的に来た人々よりも治療に入る傾向が高いことが示された(Loneck他, 1996a, 1996b)。しかし大きな問題としてJohnson介入法のカウンセリングを始める家族の75%がこの方法を受け入れ難いと考え,又他の理由から,家族による対立的面会を行わない事実がある(Liepman他, 1989)。従って,対立面会を完了する家族は少数派であり,80%以上の介入を経験して治療に入ってくるものは他の委託先を通して治療に入る者と比較した場合,より飲酒を再開したり,症状の再発をみたりする傾向が高かったと報告されている(Loneck他, 1996b)。

Unilateral Family Therapy(一方向性家族療法)

 一方向性家族療法(UFT)においては,カウンセラーは協力的かつ薬物使用のない配偶者に対して援助を行い,物質使用している相方が変化するように促す機会を確認し利用できるようにする。このアプローチにおいては,薬物使用者の配偶者は"極めて重要な決定的となり得る影響力を持つものであり,セラピストにとって主なもしくは唯一のリハビリ的要因として利用できるもの"と見なされている(Thomas and Ager, 1993)。別の形のUFTが現在臨床家達によって使用されているが,これらを以下に呈示する。

The Thomas and Ager Approach to UFT(ThomasとAgerによるUFTへのアプローチ)

 このアプローチではアルコール依存症の為の,UFT介入の3つの焦点が述べられている:

  • 個人の焦点は配偶者が飲酒問題をうまく処理する技術を高め,その問題を扱う特異的な方法を探す手助けとなる。
  • 相互作用の焦点は配偶者が物質を使用しているパートナーに相互作用を及ぼす非効果的な方法(小言を言ったり,アルコールを捨てたりすること)及びあおる方法(アルコールを買ってくること)の両者を減らすことにより,夫婦や家族としての機能を高める手助けを行う。
  • 第三者的焦点は配偶者や家族が,飲酒をする人に動機づけを行い,治療を求めさせ飲酒を止めさせる"介入"を実行する準備を行う(Thomas and Ager, 1993)。

 Thomasとそのグループにより実践された様に,UFTには3つの層がある。第一層は,3〜8週間の話し合いを要するが,配偶者にリハビリテーションにおける役割を予測させる。配偶者はアルコールの効果についての教育を受け;パートナーの飲酒の程度とタイミングを観察記録し;パートナーが飲酒していない時に楽しめる行動を強化することで,夫婦の絆を強める方法を学び;古くて効果のない飲酒抑制策の中止や修正を行い;飲酒を促進する行動を減らす。
 第二層には,5〜18週間を要するが,いろいろなタイプの介入法…それは物質使用者に合わせたもので,抵抗を示す飲酒者の特殊な性質に合わせて作られたもの…の適合性と実行可能性についての評価を行い,そして非対立による介入(例;"しらふ状態"の支持,及び医師によるアルコール乱用の検査)や医師の立会いの下での,より系統的な良く前準備された対立や要求を行うことが含まれる。この介入は彼らの確固たる,そして情熱のこもった語気が特徴的である。飲酒者が禁酒に傾倒できない場合には,引き続いての介入も可能となる。
 第三層では,3〜6週間の話し合いを要する。配偶者とパートナーが得たものを維持することに焦点が合わせられる。飲酒をしない配偶者は,パートナーがしらふでいたり,節酒したりすることに救いを得る。そしてパートナーの新たな飲酒や酒量の増加を阻止するという積極的かつ適切な役割の果たし方を学ぶ(Thomas and Ager, 1993)。
 このUFTへのアプローチに関する2つの研究から,UFTに参加している配偶者の技術が上達したことが指摘された。それは物質関連の生命的窮地や精神病理が減少したことで示された;夫婦間の絆も強められたが,それは配偶者の幸福と適応というものさしで示された;更に調停中の配偶者を持つ飲酒者も治療に入り,コントロールグループと比較して,より頻繁に節酒,もしくは禁酒を行う様になった(Thomas and Ager, 1993)。

Orford's Approach to UFT(OrfordのUFTへのアプローチ)

 WHOは臨床家達がアルコールや薬物使用者の家族や友人の要望や嘆願に応える為のガイドとして,Orfordの仕事を用いてきた。このアプローチは,家族や友人達はストレスに関連した身体的,精神的疾患を患う危機に陥っていることを強調している(Orford, 1994)。どの様にして彼らを力づけてうまく状況を処理させるか,又彼らが物質使用者を治療の場に連れてくるのを助けられるのかという事を知る為に,Orfordは通常家族に使用されており,各々が長所と短所を持ち合わせている戦略について研究した。彼が確認した8つの方法が一般的であり,それらを以下に記す。

  • 感情的な戦略は物質使用についての感情を表わす。
  • 耐性の戦略は物質使用を支持する。
  • 不活発な努力では,物質使用者を支持も,とどまらせもしない。
  • 回避する方法では,自分と物質使用者の間に距離ができる。
  • コントロールアプローチは物質使用を直接コントロールする。
  • 対立する戦法では,自分自身の要求と物質使用の効果についてオープンに理解し合える。
  • 支持的な戦略は,飲酒や薬物使用を行う人々に家族の関与といった代替ゴールを達成する手助けを行う。
  • 自立した反応は,飲酒者や薬物使用者に依存性がない事を示す。

 Orfordの結論は,"親戚が何とかうまく処理している方法のいくつかは何よりも良いというのは,それで自分達が病気になるリスクを減らし,愛する人の飲酒や薬物使用に影響を与えているからである"(Orford, 1994, p428)。どの戦略が最も役に立つかは親戚の境遇による。Orfordの信念は,"臨床家にとって最も重要な役目は,親戚が自分達の健康上のリスクを減らし,更に物質使用者の過剰物質使用を減らす手助けとなる,最も有効な処理法を見つける手助けを行うこと"である。これを行う為に臨床家達は以下の事を行うべきである。

  • 非審判的に聞き,安心させること
  • 有用な情報を与えること
  • うまくやっていく方法について非指示的な助言を与えること
  • 社会の支持と家族の問題解決の為の団結を強化すること
Community Reinforcement Approach(CRA)(コミュニティ強化アプローチ)

 CRAは1960年代に独自に開発された包括的な治療システムであり,アルコールの影響を受けている広域に亘る問題を扱う様に作られている。それらの問題には失業,結婚問題,社会的孤立,未発達の社会的連絡網,有用なレクリエーション活動の欠如が含まれる(Hunt and Azrin, 1973)。今度のTIPを参照すること。Brief Interventions and Brief Therapies for Substance Abuse(CSAT, 印刷中[a])。CRAは正統な雇用,家族の支持,社会活動等を通して飲酒を止めさせたり,減量させたりする事を求めている。この行動の治療プログラムの中では,臨床家は飲酒をしない家族…通常は配偶者…に次の技術を教える:

  • 暴力につながる徴候を確認し,自己防衛行動をとることで,身体的な虐待を減少させる
  • しらふでの行動を褒めることや飲酒による負の効果を経験させること…それが生命を脅かすものでない場合に限る…により,"しらふ"でいる時間を長く持てる様に勇気付けること。臨床家は家族に飲酒が再開された時,どう行動すべきかの助言を与え,アルコールを含まない屋外での活動に訴える様提案する。
  • 専門家の手助けを求める様提案すべき最良の時を確認しながら,飲酒者に治療を求める様促すこと(例:アルコールの使用量が大量で,飲酒者が飲酒の負の効果に鋭く気付いている時)。飲酒者が治療に来た時は,臨床家はすぐに配偶者を呼べる準備をしていなくてはならない。
  • 夫婦のカウンセリングに同席し,飲酒者に職探しやアルコールがない活動を発見する手助けをする事で治療に協力すること。更に,飲酒者は医学的検査を受け,嫌酒薬を服用する。

 その効果について検討した研究によれば,CRAには平均7.2回の話し合いが必要であったのに対し,その中で臨床家が配偶者に支えとなるカウンセリングや地域のAl-Anon自己救済グループへの委託を提供した,より伝統的なプログラムでは3.5回を要していた。CRAではより長時間の傾倒を要してはいたが,7人の飲酒者の6人が治療に入っていたのに比し,一方従来のアプローチでは治療に入った者はいなかった(Sisson and Azrin, 1986)。維持段階におけるCRA使用についての検討は第7章を参照

Community Reinforcement Approach to Family Training
(コミュニティ強化アプローチから家族トレーニングまで)

 CRAは,その明らかとなった特徴を強化しながら修正され続けてきた(Meyers and Smith, 1997)。地域社会のアプローチから家族のトレーニングまで"Community Reinforcement Approach to Family Training(CRAFT)"と言われる様に,このアプローチが主張するところは,不安を持つSOが適格ならば,愛する人の飲酒や物質使用にインパクトを与えることができるし,又その人に治療に入らせる様な影響を与えることもできる。今度のTIPを参照,Brief Interventions and Brief Therapies for Substance Abuse(CSAT, 印刷中[a])。このアプローチを用いる際の臨床家の務めは以下の如くである。

  • SOを勇気付けて,愛する人の物質使用に関する欲求不満を表明させ,同時にそのSOに,現在の状況の責任は,飲酒や薬物使用をする人にあることを保証すること。
  • SOと共に,愛する人の物質使用の誘因と結果を確認する為の努力を行い,それらを分析してSOが事をうまく処理していく方法を作り上げる為に用いること。
  • 物質使用者が"しらふ"でいる時や,変化に向けて努力している時にSOが使うことのできる正の強化剤が何であるか,又SOが自分で気付かないうちに支持してきたかも知れない物質使用による負の結果が何であるかを確認すること。
  • 家庭内での行動の変化に反応して起こり得る家庭内暴力の可能性を確認する方法と,被害を減らす為の適切な注意の払い方をSOに教えること。
  • アルコールの説明,乱用をしている人との相互作用にとり,有効と判明している7つの伝達法則ができる様SOを訓練すること。
    1.簡潔に
    2.積極的に
    3.特異的にそしてはっきりと
    4.あなたの感じた事を付け加えること
    5.飲酒者の考え方から問題点が見えた時は,理解した旨の言葉を伝えること
    6.適切なものであれば,部分的な責任を引き受けること
    7.支援を申し出ること
  • 物質使用者が変化するか否かに関わらず,ストレスを減らしより良い人生を生み出す様な,意義深くかつ価値のある活動を探す様SOを勇気付けること。
  • 愛する人にアプローチする脅威的でない方法をSOに指導し,ロールプレイや成功への最良のチャンスを提供する為の言葉の使い方,語気の使い方の下稽古,更に物質使用者と話し合う最良の時を見つける"道路地図"の開発を行った後に,SOに治療を行わせることを提案する。
  • 治療を開始し,SOが治療の中でクライアントを支えていくという方針が決定された時治療は有効となる事を確認すること。

 CRAFTの臨床応用の結果,このアプローチがAl-AnonやJohnson介入よりも,動機づけされていない問題ある飲酒者や薬物使用者を治療内に引き入れておくのに,実際より有効であったことが判明した(Miller and Meyers, 印刷中)。行動上の技術の強化,変化の話題を持ち出す機会の上手な選択,飲酒や薬物を使用している愛する人の適切な行動を,積極的に強化する為にSOが利用できる技法と,それを素早くカウンセリングに取り入れる事等を組み合わせることは,前考慮段階の人を変化の重要な考慮段階に向けて移動させる有望な方法となる。

Albany-Rochester Interventional Sequence for Engagement

 Albany-Rochester Interventional Sequence for Engagement(ARISE)はNew YorkのAlbanyにある大規模な外来患者治療施設において開発された。この方法では,臨床家は薬物やアルコール乱用者の家族を通して介入を行い,対立ではなくゆっくりとした,苦しみの少ない方法で変化を導入する。この戦略を開発した人は,現在使用されている同様の戦略が持つ3点の限界に応えている;それらは物質使用者と会する準備と下稽古にかなりの時間と労力を要する事;何人かの家族を脅かし,逃げ出させてしまう様な成熟した従来の介入法の中の最終通告;最近の研究の結果であるが,形式的な介入に参加した人々の数が飲酒や薬物使用に逆戻りしなかった人数の2倍近くに昇る傾向があったこと(Stanton, 1997)。

ARISEの過程は以下の3つの場面で展開して行く

  • 場面1:セラピストが出席しない非形式的な介入,不安に思っている人がクリニックに電話をした時は,専門家はその人に電話口で,家族構成と誰が関与しているかをはっきりさせる様に告げる。臨床家は不安を持っている人全員に会う為の時を設定し,物質使用者は必ず来るべきである事を明らかにしておく。
  • 場面2:セラピストが同席する非形式的な介入,必要に応じて一回から3回の話し合いとなるが,臨床家は家族と一緒に,どうすれば最も上手に物質使用者を治療に引き込めるかという方法を決める努力をする。通常臨床家は家族が話し合いの場から物質使用者に電話をかける様提案する。
  • 場面3:形式的介入。もし場面1と2を通しても物質使用者が治療に入らなかった場合には,臨床家はJohnson研究所モデルから出てきた介入法を用いるが,それは原法よりは負の部分が少なくて,より穏やかなものとして修正されている。この介入は又,アルコール問題の世代間パターンにも注意が向けられている。

 ある後ろ向き研究による分析から,ARISEのある層に参加した薬物使用者の55%が治療に入り,飲酒問題を持った人の70%も又治療に入った。他の小研究から報告されたARISEの成功率は25から95%であった。現時点での仮の結論としては,この戦略は臨床家が物質使用者と確認できた人を,治療に入れる適切な時期に捕らえる準備が出来ている時,及び多人数の人が介入の為に集合している時最も良く機能する。

Motivational Enhancement and Coerced Clients: Special Considerations
(動機づけの増強と強制的に連れてこられたクライアント:特別な考察)

 雇用者又は従業員の支援プログラムにより委任されて,治療を始めるクライアントの数が増加しているが,法的な圧力から治療に入ってくるものもいる。この様なケースでは,治療に入り,治療にとどまることに失敗すると,特殊な処罰や負の結果(例:失職,保護視察の取り消し,告白,留置)となるかもしれないが,それは特別な時や満足できる結果となるまでの一時期である。数多くの異なった研究から一般化したものを作り上げることは困難であるが,治療に入る時の法的な状態はあまり治療成績には結びついていない様に見える(Anglin他, 1992; CSAT, 1995b; Leukefeld and Tims, 1988)。一般的に委任されたクライアントも自発的なクライアントと同様に治療に反応する。
 あなたの挑戦は強制的に連れてこられたクライアントを治療プログラムに引き込むことである。LeukefeldとTimsが言及している様に,外部からの圧力(合法的なもの)は人が治療に入るのに役立つが,回復を遂げそれを維持するためには動機づけや変化への傾倒は,クライアント自身(内部からの圧力)から出てこなくてはならない(Leukefeld and Tims, 1988)。これらのクライアントの多くは,変化の前考慮段階にいるのに,すぐに実行段階に向けられた介入を使いたい誘惑に駆られるが,これはクライアントの動機づけのレベルに同調するものではない。既に述べた様にこれでは逆効果となる。委託の過程の結果,及び彼らが自分では問題ないと考えている物質使用パターンを変えるのに成功しなかった場合に直面するであろう成り行きを考える結果,クライアントは強力な感情を持って到着する。常にそうであるが,彼らの見方は正しくないかもしれないという事を忘れてはならない。彼らがまれにしか過剰飲酒はしないというのは事実かもしれないが,特別な場合に飲んだ為に委託されたのである。
 これらの障害物が存在するにも関わらず,強制的に治療を受けさせられるクライアントは少なくとも動機づけカウンセリング形式には,他のクライアントと同程度に従順である。もし彼らの変化の段階に適切な介入を提供するならば,彼らは変化の過程に投資されたものとなり,物質使用の結果や変化の可能性について考える機会を得る。そして例えその機会が自発的に選択されたものではないものであっても,その機会から利益を得ることとなる。
 あなた方は強制的に治療を受けさせられるクライアントとの最初の話し合いを,クライアントから委託の過程という毒を消し去る為に使用すべきかも知れない。"あなた方がこの様な方法でここに来たことを残念に思います"とはっきりと述べる臨床家もいる。覚えておくべき重要な原則は以下の如くである:

  • クライアントの怒りと,人間性を抹殺されたという気持ちを尊敬すること。
  • 必要とされる治療のタイプを推測しないこと。
  • クライアントが話し合いの時間から,自分達が必要とし,有用と考えているものを引き出すことにあなた方が協力する意志があることをはっきりさせておくべきである。

 TIP12,Combining Substance Abuse Treatment With Intermediate Sanctions for Adults in the Criminal Justice System(CSAT, 1994e)は犯罪者のクライアントを,治療と回復への完全参加に引き込む為の提案と提唱する。
 強制に治療を受けさせられるクライアントを扱う際に求められる重要な点は,どの情報を委託元の機関と共有するかを,確立しておくことである。このためには,クライアントと機関との間で情報を公開することに同意する正式な文書による同意書を作っておくべきであり,それは州の守秘に関する法律に適合するものとなる。クライアントはどの情報が確実に公開されるかについて教えられ,同意しなければならない(例,出勤状況,尿検査結果,治療への参加状況等)。公開される情報に対してどんな選択権があるか,又どんな選択があなたのものでも,彼らのものでもないかということを,彼らが理解していることを確認すべきである(例,幼児虐待や育児放棄についての情報)。
 情報公開に際しては,クライアントの弁護代理人(弁護士)の役割についても考慮する方が賢明である。最後に許可のレベルの違いを明瞭に描写しておくこと。TIPシリーズのほかの出版物の中に,強制的に治療を受けさせられるクライアントに影響を及ぼす法的及び倫理的問題に関する手引きと,秘密の問題をどう扱うかという手引きが提供されている。TIP17の第8章を参照,Planning for Alcohol and Other Drug Abuse Treatment for Adults in the Criminal Justice System(CSAT, 1995b);TIP11の第5章を参照,Simple Screening Instruments for Outreach for Alcohol and Other Drug Abuse and Infectious Diseases(CSAT, 1994d);TIP12を参照,Combining Substance Abuse Treatment with Intermediate Sanctions for Adults in the Criminal Justice System(CSAT, 1994e);TIP30を参照,Continuity of Offender Treatment for Substance Use Disorders From Institution to Community(CSAT, 1998b)。

強制的に治療を受けさせられるクライアントとの最初の対話

 この対話は,カウンセラーと仮釈放としてグループ治療への参加が必要とされるクライアントとの間の,最初の会合を例証している。臨床家はクライアントを肯定する方法を,クライアントに影響力のある報償を見つける方法を,クライアントが最も重要な個人的ゴールを達成する手助けを行う方法を,そしてクライアントがより開かれた心で治療への参加を選択することで抑制力を取り戻すのに手助けとなる方法を求めている。

 この場面設定は,個人的に委託されたクライアントと,裁判所からの命令で委託されたクライアントを,物質使用者の為のイブニングカウンセリンググループに受け入れる為の外来治療プログラムである。このプログラムはDr.Albert EllisとDr.Maxie Maultsbyの仕事に基づいた認知行動アプローチを用いている。最初の介入の道具は合理的な行動のトレーニングである。これはカウンセラーと裁判所からの命令による保護観察中のクライアントとの間の話し合いである。

カウンセラー:おはようございます。私はジェフです。ポールさんですね。
クライアント:ああ。
カウンセラー:中に入って好きなところに座ってください。あなたの保護観察官からおおまかな話は聞いております。しかし、本当に役に立つことは,あなたから直接聞くことなのです,ポール。あなたの人生に起こっている事をもう少し話してくれませんか?どのようにしたら、あなたの力になれるかについても。
クライアント:私の人生に起きている最大の事は私の頭の上にぶら下がっているこの4年の刑と刑務所から出る為にやらなくちゃいけない,下らない事全部だよ。
カウンセラー:さてポール,もう一度繰り返しますが,あなたは忙しいようですね。又多くの困難を抱えている様に見えます。しかしこのプログラムが提供するものであなたの役に立つものがあるかもしれません。
クライアント:あなたにして欲しい事はあのいけ好かない保護観察官を追い出してくれる事だよ。
カウンセラー:あなたの言いたい事が今一つ良く分からないのですが,ポール。
クライアント:言いたい事は,自分は何でもやってきたということ。尿検査にも協力したし、保護観察のいろいろな条件も満たしてきた。そして今度は、裁判所が言うには,刑務所に戻らない為には、ここの薬物治療プログラムに入らなければならないと。
カウンセラー:私はまだ混乱しています。何をすればあなたの役に立つかを?
クライアント:あなたにできる事は,まず第一に、あの保護観察官に自分がここにいなくちゃならない理由はないと言ってやって欲しい事。そして彼女に自分の邪魔をしない様言ってくれることです。
カウンセラー:私が間違っているかも知れませんが,ポール,私の理解する限りでは,それは互いの選択肢になりませんよ。私は本当にあなたが観察官と対立しない様,あなたの支えになるつもりです。あなたにとっても彼女にとっても怒りを持った関係でいると災難につながります。更にあなたの言う事を聞いていて,あなたは心からあなた自身だけではなく,あなたの家族のことを思っている様です。そしてあなたが最もしたくないと願っている事はこの4年間の刑を刑務所で過ごすことではないかと私には聞こえます。
クライアント:あなたの言う通り。
カウンセラー:それで私には,あなたが正しい選択をした様に想えます。
クライアント:どういう意味?
カウンセラー:ええ,あなたはここに来るという約束をすっぽかすこともできたのに,それをしなかった。あなたが採った選択は,あなたがあなたの家族に,あなた自身に,あなたの仕事に,そして又あなたの自由に傾倒しているという事を,私にはっきりと分からせるものなのです。私はあなたの傾倒に敬意を表わします。そしてあなたが行った選択をたたえ,あなたの支えになろうと思います。
クライアント:それは私がこのクラスに来なくても良くなると言う事ですか?
カウンセラー:いいえ,私にはその様な事を決める権限はありません。しかし,あなたと共に頑張って,あなたがどうすればこのコースを利用して利益を得られるか,考えることはできます。
クライアント:ただ酔っ払いの集団と共にぶらぶらし,自分達の気持ちについて語り,そして自分達の人生で起こっている悪い事の愚痴をこぼしているだけで,何か得られるとは思っていない。
カウンセラー:あなたは愚痴をこぼす人には見えませんね。それにどんな場合でも,このグループはそんなものではありませんよ。我々が本当にやっていることは,新しい技術を学び,その技術を日常生活に生かして毎日をより楽しめる,そして意義深いものにする機会を人々に与えることです:今日あなたが示したことは,あなたが今まで選択してきたことを,より強く支持していくためにこれらの技術のいくつかを使えるということです。
クライアント:なんとまぁ,全く頭医者がいいそうなことだ。さっきも言った様に,私がしたい事は,私の保護観察官を見えない所へ追い払い,私の生きたい様に生きることだけなのです。
カウンセラー:このプログラムを終える事が,あなたがそうなる事を助けることになるのです。あなたはこのグループに入れば上手にやっていけることを既に証明したと思います。あなたは日常生活に生かすことができる物を学び取ることができるし,更にそれを恐らくグループ内の他のメンバーに教えてやることもできると私は信じます。私は必ずあなたと共に努力し,あなたが保護観察所からの要求に応える様手助けをするつもりです。私の提案は,あなたが一度一つのグループのことを考え,それがどうなるかを見ることです。あなたに質問したい事は,ある意味であなたが今までに何を実証したかということです。そして,それは心を開き続け,人生のゴールをいつも目の前に見つめていく意志なのです。私に分かることは,あなたがあなたの家族,自分自身,そして自分の自由に傾倒しているということです。私はこれらのゴールを3つとも支持します。
クライアント:ええ,私は少なくとも今はこのグループ作業が出来るかもしれません。でもなお,他の酔っ払い連中と一緒にぶらぶらし,話しをすることで何か得られる確信はありませんが,一応挑戦してみます。
カウンセラー:それが理にかなったことで,あなたがまた一つ良い選択をした様に私には思えます,ポール。「理性のある行動のトレーニング」についてもう少し詳しく書かれたハンドブックをあなたに差し上げましょう。そして明晩6:30p.m.にこのオフィスに来て最初のグループに酸化してください。会えて良かった。あなたとより知り合えることを楽しみにしています。
クライアント:明晩会いましょう。今日のことは私が思っていた程悪い物ではなかった。

Jeffery M.Georgi, Consensus Panel Member

  1. 薬物依存治療動機づけ
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