第10章 将来の研究方向

Treatment Improvement Protocol (TIP) Series 35
Enhancing Motivation for Change in Substance Abuse Treatment

  1. 薬物依存治療動機づけ
  2. 第1章 | 第2章 | 第3章 | 第4章 | 第5章 | 第6章 | 第7章 | 第8章 | 第9章 | 第10章 | Appendix A

 動機づけ介入は、プラス方向の行動変化を促進するアプローチで、比較的新しいものではあるが、その有望性は評価されている。このアプローチは、クライエント中心カウンセリング、認知療法、システム理論、そして変化の超理論モデルtranstheoretical model of change (Miller and Rollnick, 1991)などを源に生まれた。今日までに、動機づけ介入は様々な種類の問題、クライエント集団、設定において有効に用いられてきた(第2章参照)。また、本来は過剰飲酒者や過剰喫煙者を対象に開発されたものではあるが、その方法論は一般的に応用可能と思われる。これまでに動機づけ面接や動機づけアプローチを用いた短期介入に関する多くの比較臨床試験が実施され、有望な結果が示されている (Bien et al., 1993; Noonan and Moyers, 1997)。
 多くの革新的治療アプローチの例にもれず、動機づけ介入に関しても、いまだ回答を得ていない疑問がたくさん存在する。とりわけこの概念は、誕生から比較的短期の間に進化してきたことも関連するかもしれない。これらの疑問の多くは、現在進行中の幅広い計画一覧の中にすでに課題として含まれている。その他の疑問は、臨床応用に関するより現実的な問題といえる。また、これらの疑問の大部分は複雑で互いに絡みあっているので、これらを解きほぐして回答を見つけるのは、困難な作業である。

追加研究が必要と思われる疑問、課題のいくつかを以下に挙げる:

2つの診断名を持つ入院患者の動機づけ面接

私が動機づけ面接(MI)に興味を持ち始めたのは、我々のチームが精神科病棟から退院した2つの診断名を持つ患者のアフターケアへの参加率を改善しようとしていた時でした。この種の患者に対する動機づけ介入の有効性に触れた文献がほとんどないことは、大きな驚きでした。そこで、我々のチームは、2つの診断名をもつ患者に対するMI の有効性についての研究を行うことにしたのです。まず患者の半分を、標準型治療(ST) に振り分けました。この治療は、入院患者用の標準精神科治療で、チームがアフターケアの重要性を説明して励ます、という標準退院プランも含まれていました。残りの半分には、STに加えて動機づけアセスメント、入院時に[アセスメント]結果のフィードバック、それから退院直前に1時間の動機づけ面接を与えました。

 結果は、二つの診断名を持つ患者のうち、MI 群では退院後最初の外来予約に現れる確率が、ST 群に比べて、2.5倍高くなりました(Swanson et al., 印刷中)。これは、事実上何の修正も加えられていないMIの有効性を示唆するものです。介入アプローチは、動機づけが非常に低い患者に、特に有効のようのようでした。これは、これらの患者が自分たちのアンビバレンスについてより語る傾向があって、我々としてはMIをアンビバレンスを解消するのに最適な方法として捉えているから、というのが理由かもしれません。他にも我々が学んだこととして、患者にどうしてアフターケアに参加しないのか、と聞くことは驚くべき効果を持ちます。これが治療者と患者の間のラポールの強化につながるからでしょう。どうも患者に、我々はアフターケアの重要性について話すだけではなく、それに対する患者のアンビバレンスについて喜んで話し合準備がある、ということを伝える意味があるようです。

 患者はまた、アフターケアに参加しない理由について直接問いたださないことに対しても驚いていました。例えば、患者が「もうよくなったのだから、アフターケアは必要ない」と言った場合、我々は「しかし、よくなった状態を保つには、治療を続ける必要がありますよ。」とは言いません。その代わりに、自由回答形式の質問(例:「よくなったのは何のおかげだと思いますか。」または簡単に「それについてもう少し話してください。」)を用いました。または増幅した聞き返し amplified reflection (例: 「また治療が必要になることは、二度とないということですか。」または、より脆弱な患者に対しては「治療を続ける必要があるかもしれないのは、どうしてでしょうか。これを考えるのはつらいことかもしれませんね。」)仕事の時間を削られる、とか家族が嫌な顔をするなど、患者がアフターケアを続けることの具体的なデメリットに言及した場合は、自由回答形式の質問または聞き返しで同様に反応しました(例:「あなたにとって仕事はとても大切で、何者にも邪魔されたくないみたいですね。」)。たいていの場合、このような質問と反射によって、最終的には患者自身が、自分の最初の反抗的な発言に反発するようになります。たいへん難しい患者までもが、アフターケアの考えを受け入れるよう自分を説得することなりました。しかも、彼らは我々が及ばないほどうまくその説得をやってみせたのです。MIは我々がその過程を援助するための最高の手段を与えてくれます。ここで、最も重要なことは、実は何をしないか、ということでした。具体的にはクライエントと言い争う、もしくは彼らのアフターケアに対する(時には)非論理的な考えに対して、治療の観点から異論をはさむことさえしてはいけないのです。代わりに、我々は動機づけの芽が生じるのを待ち、患者がそれ以上の治療を求める側に立って、自分自身を説得するようになるまで、その芽を見守るのです。
Michael V. Pantalon, フィールド・リヴューワー[現場批評]

結び

このTIPでは、多数の動機づけアプローチについて討論してきた。現時点までの文献証拠は、短期介入でさえクライエントの動機づけに影響を及ぼし、重要な進歩を引き起こす、という非常に勇気付けられるものである。しかしながら、我々はこれらのアプローチがどのように、また、なぜ有効なのかについて、そして、様々な母集団に対する医療サービスの中に、どのように組み入れたらよいのか、について理解し始めたばかりである。これらの前途有望な治療法の将来は、これらを取り入れ、クライエントにとってより有効になるように改良し、評価する、臨床家と研究者の独創性にかかっている。

  1. 薬物依存治療動機づけ
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