感想文: スーパービジョンを受けて

  1. 精神療法・行動療法
  2. コンサルテーション・スーパービジョンサービス

30代 心理士 精神科パート勤務 

 私は精神科で認知行動療法外来を担当している。強迫性障害(OCD)の患者さんを担当することが良くある。OCDの患者さんの中には認知行動療法をやる気があまりなく,カウンセリングを10何回続けても,あまり変わり映えしない方もいる。

 私は治療の進展のないOCDの患者さんを抱え,無力感でいっぱいになっていた。同僚に相談すると,「本人にやる気がないのならば進展がないのも仕方がない」と言われていた。そう言われれば,私も安心する。しかし,また患者さんに会うときには,「私には何も出来ない,情けない」とまた感じる。また相談して安心,そして何も出来ない,を繰返していた。こんなことを数年間続けるうちに,治療に対してやる気のある患者さんだけが改善していくことに対して矛盾を感じるようになった。
 私はOCDの患者さんにはERP(エクスポージャーと儀式妨害,暴露反応妨害)が有効だと良く知っている。実際にやる気がありERPをした患者さんが良くなっていくのを見ている。しかし,動機づけができないと感じるうちに,やる気がない患者さんにERPを勧めることができなくなってきていた。上手くいかないことを患者さんのやる気のせいだけにしてしまって良いのだろうか、と悩むようになったのである。
本来の治療を患者に勧められないことに悩んた私は認知行動療法に関する本を何冊も読んだ。知識は増えたが,いくら読んでも私の不安は拭えない。患者さんにどのように生かせばよいのかも分からない。悶々と悩む日々が続いた。

 そんなとき、原井先生がスーパービジョンのサービスをされていることを思い出した。正直、パートとして働いている私にとって1回5千円は安くなく一旦躊躇した。しかし、毎回のことではないし一度5千円を払って相談してみようと思った。
  先日,スーパービジョンを受けた。相談したケースは不潔恐怖の患者さんで薬は使いたくない,認知行動療法で治療して欲しいと希望されている方だった。10数回カウンセリングを続けているが,手洗いは変わらない。このまま続けることに何の意味があるのだろうか,と悩んでいたケースだった。今は,本当に受けて良かったと思っている。ゆうに5千円以上の価値はある。継続して受けたいとも思っている。 何が良かったかといえば、まずは患者さんの症状が理解出来たことと今後の介入方法がクリアになったことである。今までは,患者さんが訴える一つ一つの症状に気を取られていたが、実は患者さんが恐れていることは一つであり,それが根本にあるということが分かった。これが理解できたことで,いままでどうまとめて良いのか分からなかった症状がすっと一つにまとまった。患者さんは最も恐れていることをまともに話すことも避けていたので,このことが今まで分からなかったのである。また,私自身がカウンセリング中に,患者さんの確認に巻き込まれ、治療場面自体が保証する場となっていたことに気付いた。

 そして,もう一つ大きかったことは、私がERPをすることに対してやる気になったことである。この患者さんにはERPが必要であり効果があることは経験からも分かっていた。もとからやる気がある患者さんには思い切ってERPを勧め行ってもらうことが出来る。一方,それ以外の患者さんにはERPを勧めることを私はためらっていた。ERPをさせた結果,万が一にも患者さんが不安に耐えられず,もっと悪い状態になってしまったらどうしよう、私には責任が取れない,そんなリスクを犯すぐらいなら現状維持の方が良いのではないか、と思っていたのである。しかし,やる気がある患者さんにだけERPを勧め,やる気のない患者さんにはERPを勧めること自体を怖がり躊躇している自分は情けないとも感じていた。こんな臆病な自分が嫌で,一時は,心理の仕事も止めたいと思うぐらいになっていた。

 今は,原井先生のアドバイスによって,自分自身がERPをするように動機づけられたという感じがする。次に患者さんにお会いするのが楽しみである。ERPに取り組ませていく決意が出来ているからだと思う。
 この数年間を振り返ると,私は患者さんにERPをさせることに対して恐れを感じていた。そんな私が,1回のスーパービジョンで大きく変わった。患者さんへの問題と介入方法がクリアになった。そして,私自身のERPに対する態度まで変わった。自分自身が変わったことに驚いているし,また嬉しくもある。
 私が考えるに,スーパービジョンを受ける意義は、治療内容についてアドバイスをもらえることだけではない。それ以上に,もらったアドバイスを実践できるような動機づけ,方向づけをしてもらえることが大きいと思う。
 知識だけではERPができるようになるのは難しい。スーパービジョンは治療者がERPに取り組めるようになるために欠かせない、重要な勉強方法であると思う。 
                             

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