原井宏明(2009) 抗不安薬・催眠鎮静薬,抗精神病薬・抗うつ薬

出典:伊藤澄信 編集「頻用薬・常用薬上手に使っていますか?日常診療でよく使う薬の使い方とそのポイント 」(pp. 6–33). 東京: 医事新報社.

2018年6月で残部は断裁され、絶版になった。出版権が消失しているため、ここにPDFをアップする。

1. 抗不安薬・催眠鎮静薬一[1] 超短時間型

人類は悩みや心配,不安,不眠を苦痛に感じ,苦痛を癒す物質と方法をおそらくその発祥のときから探し求めてきた。かつてはアルコールが主役であり,万病の長薬と呼ばれた。近代有機化学は臭化物やバルビツール酸,そしてベンゾジアゼピンをもたらした。人類は長年,飲めばたちどころに不安と苦痛が霧散し,かつ安全な抗不安剤を探し求めてきたのである。抗不安剤や催眠鎮静剤は鎮痛剤と並んで人類にとって欠かせない物質となった。
しかし,これらの物質はいずれも治療を妨げたり,人生や生命も危険にさらす可能性を持っており,それは薬理作用そのものと裏腹の関係にある。それらは,治療効果に対する耐性と,依存症を生じること,離脱時や過量使用時の症状が死に至るほど重篤なこと,である。依存性と離脱症状の過酷さのために,政府はこれらの薬剤を麻薬及び向精神薬取締法で規制している。
ここで取り上げるベンゾジアゼピン系薬剤は人類が今まで使ってきたアルコールやバルビツール酸などと比べると遙かに安全な薬剤である。皮膚粘膜眼症候群や中毒性表皮壊死症のような重篤な副作用も報告されていない。経口摂取によるジアゼパムの致死量は500mg以上とされ,これは通常一日量の100倍である。ストレス性の一時的な不安や不眠を緩和する手段としてほぼ理想的な薬剤である。しかし,完全ではない。ごく一部の患者は乱用する。また薬理効果は一時的なものである。慢性的な不安障害や気分障害,睡眠障害が背景にあるとき,これらの薬剤の使用では疾患の寛解や予防は達成できない。表1にベンゾジアゼピンの利点と欠点を整理した。
全診療科の医師を対象にした対象にしたアンケート調査によれば催眠鎮静剤・抗不安薬は8割弱の医師が処方をしていると答えている。その中で上位に位置する薬剤はハルシオン,マイスリー,レンドルミン,デパスである。後発品も多い。デパスだけでも15種類以上ある。・・・

1.抗不安薬・催眠鎮静薬一[2] 短中時間型, 抗不安作用

抗不安剤と催眠鎮静剤は問題の原因や診断,また患者の性格や背景,合併症などにこだわらず,悩みや心配,不安,苦痛を即効的に緩和させる。種類は多いが,薬物力学と薬理作用は全て共通である。一方,薬物動態には大きな違いがある。1回目は抗不安剤,催眠鎮静剤の総論と超短時間型の催眠剤を説明した。2回目の今回は薬理作用と薬物動態,服薬方法,薬物以外の不安対処について説明する。個別の薬剤については中時間型の催眠剤と抗不安剤について解説する。・・・

1. 抗不安薬・催眠鎮静薬一[3] 長時間型,問題使用への対応

ベンゾジアゼピン系の抗不安剤と催眠鎮静剤の使いやすさと即効性は他の薬剤とは一線を画している。これらは悩みや不安,苦痛,不眠を即効的に緩和させる。医師の側からすれば患者の種々の訴えを即座に退けることのできる魔法の薬である。禁忌や重い副作用はあまりなく,使い方を患者に任せたとしても,不都合はまず生じない。患者の側からすれば一度良さを覚えれば手放せない薬になる。常に身近に常備するお守りのようなものになる。医師と患者の双方がそのように考えているならば,医師患者関係は良好に保たれ,患者は薬が無くなる度に外来受診を必ずする。コンプライアンスが高くなるのである。一方でこのような使いやすさと医師患者関係は諸刃の刃でもある。本来の生活の問題は何も変わらず,薬と医者通いが増えただけになったとしたら,薬で病気を治したと言うよりも,増やしたという方が正しい。1回目は総論と超短時間型の催眠剤について,2回目は薬理作用と薬物動態,服薬方法,薬物以外の不安対処について説明した。3回目の今回は,長時間型と問題使用への対応について解説する。・・・

2. 抗精神病薬・抗うつ薬-[1] 抗精神病薬

抗精神病薬は幻覚や妄想、思考障害、行動異常を減らす薬剤である。医師全体では病
院勤務医の 45%. 開業医の 36%が処方している。健康保険上は統合失調症・躁病に対する適用が認められているだけだが、実際には診断や原因にかかわらず幅広い疾患や状態に利用価値がある。評価が定まっている適応症として躁状態や興奮・激越、せん妄、衝動行為、解離症状がある。抗うつ薬など他の楽に対する補助薬の役割も期待できる。
他にも医師個人の臨床経験をもとに様々な場面で使われている。①呼吸器・循環器へ
の影響が少なく、安全性が高いこと、②用量の幅が大きく,大量使用も可能であること、③鎮静作用が投与後2.3時間で現れ. また効果と投与量の関連が直線的でわかりやすいこと、などのメリットがあるためである。一方で、アカシジアなどの錐体外路症状、便秘や不整脈などの抗コリン作用、不可逆性の遅発性ジスキネジアなどのデメリットが、これらの抗精神病薬の使用をためらわせていた。 1996年にリスパダール(R)が上市され、非定型抗精神病薬が日本でも使えるようになった。
一方,使用の広がりに伴い、有害作用も目立つようになった。最も重大なものは高齢
者に投与した時、死亡率が増えることである。・・・

2. 抗精神病薬・抗うつ薬一[2] 抗うつ薬

抗うつ薬や催眠鎮静剤、抗不安薬は頻繁に処方される中枢神経用剤である。全診療科の医師を対象にした対象にしたアンケート調査によれば抗うつ薬は半数以上の医師が、催眠鎮静剤・抗不安薬は8割弱の医師が処方をしていると答えている。
これらの薬剤は薬剤や用量の選択、併用・頓服の有無などについて医師による使い方の違いが大きい。第一世代とされる三環系抗うつ薬の開発から半世紀が経過していること、過去数年間に選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)や選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)のような新しい薬剤が上市されたこと、うつや不安に関する治療のエビデンスが集積し、これらの問題に対するとらえ方、治療の仕方が過去二十年間に大きく変わったことが影響している。この10年間に、フルボキサミンとパロキセチンに対して社交不安障害(対人恐怖)と強迫性障害(強迫神経症)の効能追加が行われた。抗うつ薬は現在では抗ストレス薬と呼ぶほうが適切である。・・・

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