ほんとの対話「ワークショップから学ぶ認知行動療法の最前線 PTSD・強迫性障害・統合失調症・妄想への対応」書評. こころの科学. 2009;144(3):127

本書は2004年7月に神戸で開催された世界行動療法認知療法会議(World Congress of Behavioral and Cognitive Therapies, WCBCT)ワークショップ記録である。学会では合計30本ワークショップがあり,様々な疾患や状態,アプローチについて著名な研究者や臨床家が解説した。これらうち,10本を編者が選び,2巻に分けて収録したも一つが本書である。本書には,ヴァン・ダー・コークによるPTSD,フォアによる強迫性障害,ミューザーとタリア,ピーターズによる統合失調症や幻覚妄想,5本が掲載されている。

本書には講師が話したことや使った資料だけでなく,聴衆質問と講師答えも含まれている。講師会話調講義がこなれた日本語になっている。おそらく,本を読むだけでワークショップ雰囲気大部分がつかめるだろう。実際ワークショップに参加することと比べると,質問ができないという欠点がある一方,全部日本語という長所がある。英語が苦手な人にとっては実際ワークショップよりもこが役立つかもしれない。

本書はいろいろな感慨を私に起こさせる。一つ目は5年前記憶である。私もプログラム委員として学会準備に関わった。主催者としては,参加者確保が大問題であった。こんな中,編者一人である丹野義彦氏は日本に認知行動療法を広めるという目標を常に見失わず,皆をリードしてくださった。ワークショップを充実させよう,実践家を増やすため学会にしよう,と引っ張っていったは丹野氏である。本を出すために丹野氏をはじめとする編者が,学会が終わってからも本にまとめる努力をつづけたことを賞賛したい。

二つ目は,の本を読んでWCBCTについて私自身が知らないということを知った。私は裏話ならいくらでも知っている。表話を知らない。10個ワークショップどれも出ていない。改めて読んでみると,認知行動療法と言っても様々であることを感じる。改めて,5つ特徴について見てみよう。

1章は「PTSD現象学,神経生物学,および治療について」である。こ章は他と異なる。ヴァン・ダー・コークは,認知行動療法を批判している。EMDRは認知行動療法ではなく,場合によっては認知行動療法より優れているとしている。
4ページ「認知を扱えば、トラウマがもたらした影響と格闘することはできますが、真克服には至らないと思っています。」
PTSD神経生物学に関して詳しく,”脳”が140回出現する。首尾一貫して,トラウマによって脳が障害されることがPTSDであることを雄弁に主張している。
43ページ「だから脳が死んでいるです。」
考え方は,他4章とは対照的である。2章では”脳”という単語は一度もでない。5章は,”脳”を4回使っているが,すべて古い考えを否定するためである。
4ページ「認知行動療法学会に招かれて,私は場違いな気がしています」とあるが,それを評者も感じる。

2章は「強迫性障害診断と認知行動療法」である。私にとってWCBCT始めてワークショップが1988年ォアによる同じもであった。治療基本は曝露と反応妨害であり,20年前と変わらない。一方,20年前は不潔恐怖・洗浄強迫を対象に具体的に反応妨害を行う時間や仕方を述べていたに対し,今回は加害恐怖を対象にイメージエクスポージャーを重視している。また具体的な方法よりも,行動理論・認知理論についてページを割いている。”理論”という単語が14回出現する。認知行動療法ができるようになるためには,仕方を表面的に物まねしてもダメだ,遠回りようでも基礎的な理論から理解する必要がある,とフォアが考えるようになっただろう。

3~5章は統合失調症や妄想を扱っている。3章が「生活技能訓練」,4章が「対処ストラテジー増強法(CSE)」,5章が「妄想に対する認知行動療法」である。それぞれ技法も理論的背景も異なる。3章は行動形成に関する学習理論に,4章はカンファー自己コントロール行動理論」に,5章は「心理論」や認知バイアスに基づいている。一方,章でも共通していることは,健康な状態と病的な状態間は連続だと見なしていることである。

教科書的には統合失調症とは内因性精神病であり,抗精神病薬で治療すべき脳障害である。患者は脳病気に圧倒される受け身存在である。それに対して,3~5章講師はみな,232ページ「精神疾患とは脳病気であるという古い考え方は,臨床的にほとんど役に立ちません。なぜなら,部分に介入すれば精神症状がなくなるかということしか考えなくなってしまうからです。つまり,こ古い考え方には,強い苦痛をともなう体験をしている人にどような援助ができるかという観点がないともいえます。」という考えを基本にしている。

本を手に取り,読む人がどこからこ本を読むかは私には分からない。もし全編目を通すならば,読者に気づいてほしいことがある。5人講師がすべて同じ方向を向いてる訳ではない。

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