原井宏明 (1995). “「精神医学」への手紙 無作為割り付け臨床試験以外のevidence 1事例実験デザイン.” 精神医学(0488-1281) 37(9): 1010.

古川論文1)は最近の臨床研究の大切さ,統計的検定によるp値で
価値判断することの誤りを指摘している点で共感した。しかし,無
作為割り付け臨床試験(RCT)と症例研究に対する意見には疑問が
ある。RCTの欠点と,治療と結果の聞の因果関係を知りたいとき
RCT以外に1事例を用いた巧みな実験デザインがあることを示し
Tこい。
1. RCTの欠点
RCTにはグループデザインから起こる欠点がある。例えば抗う
つ薬のうつ病に対する効果を知りたいとき,理想的なRCTとはう
つ病全体を代表できるランダムサンプルに対するRCTである。こ
の場合,対象者は若年から高齢者まで,短期から遷延例までのばら
つきの大きな群になり,結果も大きくばらつく。しかし,数字とし
て扱われるのは群全体の平均であり,著明改善群があっても無変化
群と混じって統計的には無効になる可能性がある。また,得られた
結論からはどのようなうつ病の患者には抗うつ薬がよく効くかはわ
からない。逆に偏った対象を集めてRCTをした場合には,得られ
た結論は他のうつ病には一般化できない。
丸山ワクチンの治験のように一部の患者には有効だったというこ
とを無視して,統計学的に比較群と有意差がない(実際には帰無仮
説が棄却できないとは効果がないことの実証にはならない)では患
者は納得しないだろう。
2. 1事例実験デザイン2)
この方法は,行動療法,特に応用行動分析でよく用いられる。薬
物の効果を判定するとしよう。治療なしをA.プラセボ投薬を
A1. 実薬をBとすると, ABだけでは(通常の症例報告)薬物と効
果についての因果関係はわからない。A-A1-B-A 1-Bデザインの
ように薬物からの離脱期を設け,実薬とプラセボの交代を行えば,
二重盲検でBの効果を判定できる。無治療比較群が得られない場
合,精神療法のように患者の特性や経過に合わせて治療を変える場
合に有用である。症例の特性が示されているので結果は似た症例に
は応用できるだろう。特性の異なる症例には追試をする必要がある
が,少ない症例数で十分である。
この方法は不完全な形ならば日常の臨床でも行われている。計画
的な治療と十分な記録が行われている患者にとっては病歴自体が
evidenceだろう。古川論文にある鈴木先生の症例の場合,初発エ
ピソードから3年間の経過を詳しく調べ,服薬中断と再発に関連が
あることを示すことによって予防療法の大切さを説明する必要があ
ると考える。
文献
1)古川壽亮:Evidenced based Psychiatry 一実証的証拠に基づく精
神医療(第I回,第2回).精神医学37:1 18,24 2,19 95
2) Barlow DH,et al :Single case Experimental Design, 2nd ed.
Pergamon Book, New York,
1984(高木俊一郎,他監訳:1事例の実験デザイン,二瓶社,
1993)
(国立肥前療養所原井宏明)

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