症例 | 女性 196*年生まれ |
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診断 | 強迫性障害 |
主訴 | 入浴・トイレに時間がかかる |
家族歴 | 祖母(86才 X+1年5月死亡) 父(63才) 母(61才) 夫(32才) 長男(2才)と同居 姉(33才)がいる。精神疾患の家族負因はない。 |
高卒後、電気関係の商事会社事務に就職した。
電気販売会社社員と恋愛結婚した。二人で団地に住んだ。近所との付き合いはあまりなかった。夫は仕事で帰りが遅かった。昼食をとらず、夕食も夫の帰りを待って遅かったので、食事が少なく痩せた。古い団地で汚れが目立ち、食事のあとかたづけ・掃除に時間がかかり、家事が思うように行えなくなった。手洗い1分、排便10分、入浴35分くらいだった。
実家に帰れば良くなると考え、自分の実家に夫と戻った。
自宅で夫と喧嘩した後、けいれん発作が起こった。
不妊のためO医大産婦人科受診した。卵管造影では正常と診断された。
長時間の手洗い・食器洗いのためO医大精神科を受診したが、2回ほどで行かなくなった。
第1子を妊娠した。このときから家事を母がするようになった。このあと手洗いなどの強迫行為が長くなった。手洗い10分、排便60分、入浴60分くらいになった。
出産。母乳栄養で育てた。おむつ交換はできたが、子供の風呂は母親がした。
O医大精神科を再び受診した。抗不安薬を処方された。母乳に対する薬の影響が心配で、母乳をやめた。
強迫行為がさらに延長した。他の家族が家にいる昼間に、風呂場でシャワーホースを首に巻き自殺を図った。母親がすぐ見つけ、何事もなかった。「何をするにも時間がかかってきついし、不潔なことを考えるのが疲れた。長期の治療でなかなか治らないように思え、子供を育てる自信がなく、自分がダメだ、人に迷惑をかけていると考えたから」と述べた。
希死念慮があるため、主治医から入院を勧められ、O医大精神科に入院した。「病院になじめない、薬でなく自分の力で治したい」と考え、1週間後に本人が希望して退院した。クロミプラミンを服用するようになった。この間、症状の改善はなかった。
夫が胃潰瘍で入院した。
第2子を妊娠した。服薬中のため、奇形を心配して中絶した。このあと月経周期が不規則になった。
自宅で意識消失を伴う痙攣発作が起こった。手洗い30分、排便60分、入浴120分くらいになり、入浴が特に長くなった。
「長期に薬を飲むのがいや、受診しても治らない」といい、本人が受診を拒否するようになった。
本人の入浴を夫が手伝いはじめた。夫は手伝えば早くなるだろうと考えたが、かえって以前より長くなった。トイレも長くなり、母がトイレの壁清掃を手伝いはじめた。手洗い45分、排便120分、入浴180分になった。
家族の負担が大きくなりすぎたため、夫が本人に強制し、H精神病院に医療保護入院した。20日間保護室にロックされた。「不自由だったがほとんど動かないため考えないですんだ。寝ていることが多かった」と本人は述べた。保護室から出た後は手洗いは少し短縮した。入院中に主治医が退職し、その後直ぐに退院した。退院直後は食器洗いやトイレのタオルに触れたりができていたたが、2、3日で元の通り出来なくなった。手洗い60分、排便180分以上、入浴180分以上になり、寝ているか、トイレか風呂にいるかのどちらかの生活になった。
夫がO医大精神科に相談し、当院を紹介された。前医からは薬物に拒否が強く、治療意欲が乏しいとされていた。
入院した。薬物には拒否的なため行動療法のみをうける約束で入院した。
時間 | 行動 |
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15 | 起床 食事 |
18-20 | 大便 おしりを拭いた手で壁が汚れたと感じる |
20-21 | 母が本人の指示に従い、トイレの壁を拭くが、
このあいだ、 脱衣所で服をぬいだ後、考える。 母に「どこそこを拭いて」大声で指示する 。 |
21-22 | 夫が帰宅。 夫が本人の大便終了前に帰宅したときは、夫は本人に会わない位置に留まる。 トイレ後の汚れが夫に移ると心配する。 |
22-3 | 夫の帰宅を待ってから入浴 髪(ロング)を洗ったあと、身体に髪が着かないようにタオルを頭に巻く。 入浴中は夫が身体をこする。 |
5 | 食事してから就床 |
当所神経症病棟4人部屋に入院した。入院当初、衣服はビニール袋に入れて他に触れないようにしていた。ドア、窓などに触れるたびに手をティッシュでふいていた。手は皮脂が失われ、表皮の剥離が見られた。一日にティッシュは20枚使っていた。洗面所での手洗い中に他の患者が横に来ると汚れたと感じて手洗いを繰返していた。洗濯食器洗いに繰り返しがあり時間がかかった。殺虫剤などの化学薬品も気になった。清潔維持の対象は口に入るものが中心でベッド・シーツは気にしなかった。気になるものがあると口に入って病気になるのではないかと考えると述べた。食器洗剤も気になり食器洗いの際に洗剤を使えなかった。処方薬についても「夫が胃潰瘍の薬を飲んでいる間は胎児に影響がありそうで子供は作らない」と述べた。気になるものを見ると口に入って病気になるのではないかという考えが強迫観念で、手洗いや気になるものが口に入っていないことを確認することは強迫行為であると考えられた。
入院当初は一日一日の不安感について0:不安なし〜100:強度として、セルフモニタリングを行った。また日常生活の様子を観察し、回避している対象を調べた。次に不安階層表をつくり、それに従って段階的な暴露・反応妨害法の計画を作り本人に説明した。
週二回、計12セッション行なった。トイレのドアノブ、トイレのブラシ、トイレの溜り水、便、殺虫剤、ウィンドウォッシャー液、の順で行なった。反応妨害は暴露した午後2時頃から翌日3時までにした。自宅で行ったセッションを除いて治療者が同伴して行った。手洗い、ティッシュの使用を禁止した。手や体が他に触れないようにする受動的な回避も妨害するために暴露した後にベッドや足に触れるようにさせた。「きれいな所、汚いところを区別するのに悩まなくていいように回り全部を同じくらい汚い感じにするようにすると良い」と説明し、汚れを広げるような感じで手でまんべんなく回り全部を触るようにさせた。本人が触れる前に治療者が触れたり、指を嘗めたりして、本人が行いやすいようにした。
午前中に暴露・反応妨害1回目を行った。洗面所の壁、シンク、蛇口、トイレのスリッパ、洗剤液容器、電気のスィッチに触れさせた。自室に戻り、触った手でタオル、衣服など本人が汚れないようにビニール袋に封をしてしまっていたものに触れさせた。SUDは50→90になった。午後のSUDは80程度だった。夕方にようやく50まで低下した。本人は「暴露で触ったところを思い浮かべて大丈夫かどうか確かめている」と述べた。洗いたい衝動は消失してるが、思考の形で行われる確認行為が続いているため、SUDが下がりにくいと考えられた。「汚れは本当についている、口にも入っている、胃酸があるから汚れを食べても病気にならない」と考えるように教示し、胃液の殺菌作用について説明した資料を渡した。
SUD40まで下がった。表情は晴れ晴れとしている。入浴は23分で終わった。「着替えなども汚してしまったので風呂も長くする必要がないと思った」「反応妨害は終わったので自由に洗って良いけれど、どうせ身の回りが汚れているので手だけ洗うのは不必要な気がして複雑な気分」と述べた。
2回目を行った。トイレの便器に触れさせた。SUDは90まで上がった。翌日には40まで下がった。反応妨害中は静かに座っており、その間は「口に入っても本当に大丈夫」と頭の中で繰り返し考えているという。反応妨害中も思考による確認強迫が続いていると考えられた。思考自体を妨害することは困難なので、暴露を1日のセッションの中で繰り返し行い、新しい刺激の提示によって思考が妨害されるようにした。
3回目を行った。以後はSUDが速やかに低下するようになった。
入浴・手洗い時間の短縮には、洗い桶を使った水量制限を行なった。手洗いは1分以内、入浴は20分程度まで短縮した。
薬物に対する拒否は、向精神薬だけでなく、入院中に見られた身体症状(上気道炎、胃炎による上腹部痛)に対する内科薬にも見られた。薬物に対しては不潔物に触れることよりも嫌悪感が強かった。薬物に対する拒否は、他の強迫症状が軽減するに連れて軽減してきた。9月18日にクロミプラミンの強迫症状に対する効果を説明したところ、納得したため、20日からクロミプラミン100mgの投薬を開始した。この後、暴露・反応妨害の時に「大丈夫?」と繰り替えし考えることが少なくなり、治療が進めやすくなった。
数日間の外泊を行なった。夫・母親に方法を説明し、実際の暴露・反応妨害のセッションを見てもらうようにした。自宅でも夫・母親の協力で暴露・反応妨害を行えるようにした。
軽快退院した。退院後も、クロミプラミンの服薬とセルフモニタリング(排便・手洗い・入浴の時間、気分の点数)を続け、自宅で不潔を伴う作業(ねたきりの祖母と2才の長男のおむつ交換)を続けるようにした。
Total Score of Mausdlay Obsessive Compulsive Inventory |
Obsessive Compulsive Interview Checklist |
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9/2 | 27 | |
10/11 | 9 | 13 |
10/29 | 6 | 6 |
WAIS VIQ:96 PIQ:91 IQ:93 |