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“抗うつ薬”の効果とその使われ方について

抗うつ薬の適応拡大と実際

SSRIを中心として,抗うつ薬の適応拡大は著しい。一見,新しいニュースに見えるが,“抗うつ薬”がうつ病以外について効果があることは,一部では20年以上前から知られていた。しかし問題が依然としてある。抗うつ薬は十分に使われていない。

“抗うつ薬は”もはや“抗うつ薬”とは呼びにくい。これらの“抗うつ薬”を用いて治療しようとする疾患は特殊な専門家が診たり,特殊な専門治療病棟で治療したりするような疾患ではない。一般精神科医や一般内科医,歯科医,整形外科医が外来で診ることになる。

抗精神病薬やベンゾジアゼピン系抗不安薬は“神経症”という保険病名のもとに,本来の薬剤名とはかけ離れたさまざまな用途に広く用いられている。これらは多くの場合,エビデンスがなかったり,対象としている症状・疾患が不明であったり,処方が無計画であったりする。それに引き換え“抗うつ薬”の場合は,“うつ病”以外に使うことについてエビデンスがあるにも関わらず,広い用途に用いられることが少ない。また実際に使われている場合でも量や期間が不足していることが多い。“抗うつ薬”の使われ方について,エビデンスが示唆することと実際の臨床で行われていることとの間には容認できない大きな違いが横たわっている。

“抗うつ薬”の使い方のガイド

抗うつ薬の使い方について以下にまとめる。これは不安障害に限らず,他の抗うつ薬が有効な疾患にも当てはまる。

  • 抗うつ薬の適応疾患
    抗うつ薬はうつ病だけの薬ではない。パニック障害にも強迫性障害にも社会不安障害にも効く。もっと他の疾患にも効くかもしれないので,診断に迷う場合には,”とりあえず試しに使ってみる“という気持ちで使うことをお勧めする。SSRIは併用薬に気をつければ過量投与しても安全な薬剤である。
  • 抗うつ薬の計画的増量(Dose titration)
    • 抗うつ薬は計画的な増量が必要である。試験的に使ってみる場合,効果が現れなくても,3-4週間は計画通りに増量する必要がある。3-4週間は何も変わらなくてもあきらめない。
    • 増量途中で効果が多少現れた場合も,さらに増やすともっと高い効果が得られることがある。効果があっても中途半端で計画的増量をやめない。
    • 計画的な増量には治療計画と患者の協力,症状の経時的なアセスメントが必要である。効果がはっきりしないまま薬だけが増える状況は患者にとってつらい。
    • 患者の不安や懸念を良く聞くこと,きちんと服薬していることについて賞賛し,将来の希望をもてるようにサポートすることが良い。
    • 症状のセルフモニタリングやアセスメントを行い,小さな症状の変化でも見つけられるようにすると,患者は治療に望みを持ちやすくなる。
  • 多剤併用の害
      実際の臨床で最も見られやすい過ちは,患者に十分な量(社会不安障害に対するフルボキサミンなら1日200mg以上)の投与,十分な期間(8週間)の投与をせず,臨床上の改善がみられないという理由で,増量をやめてしまい,他の薬剤の併用をすることである。併用は効果がないので,更なる併用を重ねることになる。多くの場合,ベンゾジアゼピン系抗不安薬が用いられ,依存を形成することになる。フルボキサミンのように併用禁忌の厳しい薬剤の場合は,多剤併用による身体合併症も見逃せない。
  • 単剤から単剤へ
    単剤を十分量・十分期間投与しても反応しない,あるいは十分量に耐えられない場合も併用を避ける。抗うつ薬には交叉耐性がない。1種類の抗うつ薬を最大量かつ4週間以上出しても効果がない場合,あるいは副作用のため続けられない場合には,他の抗うつ薬に切り替えることをお勧めする。

抗うつ薬の今後

過去20年間,不安障害に関する研究者は,抗うつ薬が不安障害を治療する重要かつ有用な道具として用途を広げることを見てきた。しかし,実際の臨床家に抗うつ薬が有効であるという情報が伝わって生じたことは,むしろエビデンスとはかけ離れた出来事である。抗うつ薬が不安障害に有効だという情報は,従来の治療方法・薬剤に抗うつ薬が少量付け加えられて,結果的に多剤併用を悪化させただけのように見える。

さまざまな不安障害に対するエビデンスのある有効な治療方法が見つかったということは,長らくこの疾患に悩み続けた人にとっての光明である。しかし,実際に光明が光明になるためには,医師は今までの馴染んだ知識・教科書を捨て,そして身についた多剤併用の悪習を変える必要がある。治療研究の進歩を実際の臨床に結びつけること,すなわち“技術移転”が必要な疾患として不安障害がその代表となるだろう。

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