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参考資料(暴露−反応妨害法による強迫神経症の治療)

  1. 強迫性障害の治療
  2. 専門家の皆様へ
  3. 参考資料(暴露−反応妨害法による強迫神経症の治療)
  1. はじめに | 強迫神経症についての概説 | 暴露−反応妨害法とは | 技法導入まで | 技法の導入 |
    治療操作の実際病院でのE&RP操作家庭でのE&RP操作治療操作の実際例) | 治療結果 | おわりに

暴露−反応妨害法による強迫神経症の治療
九州厚生年金病院精神科(現 林田クリニック院長)
林田 正人

I はじめに

強迫神経症の治療は困難であるが、行動療法はこの分野において他の心理療法よりも有力のように思う。なかでも、暴露−反応妨害法の効果は多くの治療例を通して既に評価が確立されている。しかし本邦では、この技法は未だ広く受け入れられているとは言い難い。それは行動療法自体の普及の問題とともに、治療技法の詳細が十分には紹介されていないからではないかと考える。
  どのような心理療法でも言えることであろうが、実際の臨床である技法を用いる場合単にその技法の基本的原理、原則を知っているだけでは不十分である。治療効果を上げるためには、患者にいろいろな反応、状態に応じたきめの細かい具体的な対応法や治療操作などの知識、いわば技法運用のノーハウとも言うべきものが不可欠である。残念ながら、暴露−反応妨害法についてのそのような詳しい解説書は今のところほとんどないようである。そこで筆者は、ここで、これまで筆者が行ってきた暴露−反応妨害法による強迫神経症の治療の実際の手順をできるだけ詳しく紹介するとともに、筆者なりの工夫や留意点を述べ、暴露−反応妨害法の今後の普及の一助となることを願う。

II 強迫神経症についての概説

1.強迫神経症(obsessive-compulsive neurosis)とは

馬鹿馬鹿しい、不合理だという意識がありながらも、ある考え、イメージ、衝動が意志に反して浮かんで来たり(強迫観念 obsession)、ある行為(強迫行為 compulsion)をしないと気がすまず、それで悩み苦しむもの。

2.強迫観念
  • 強迫観念は意味のない語句、歌の一節などのこともあるが、通常は患者に恐怖、不快感を起こす内容のことが多い。その場合、強迫観念は反応であると同時に恐怖刺激という面も持つ。
    強迫観念が特定の刺激状況で起こる場合、恐怖対象に応じ○○恐怖という名をつけることができる。例えば、不潔恐怖、刃物恐怖 etc。森田正馬はこれを多用し、不完全恐怖、過失恐怖、失礼恐怖、涜神恐怖など多くの恐怖名を命名している。この森田の考え方は行動療法的であり、有用である。
  • 恐怖に対する患者の心配の程度及び不合理感の程度
       本気で自分や家族に病気や事故などの不幸が起こることを心配しているものもあるが、多くは、万一・・・したら困るという程度の心配か、又は、全く心配はないがただ気持ち悪いから、いやだからというものである。
  • 患者は強迫観念惹起状況(恐怖状況)をできるだけ避けようとし、次第に日常生活が制限されていく。(受動的回避行動)
3.強迫行為
  • 患者は恐怖状況を避けきれずに遭遇した時に、そこで起こる強迫観念及び恐怖に対し、その生起を予防したり低減させるために何らかのovertを、時にはcovertな行為を行う。これが強迫行為である。
  • 強迫行為は強迫観念及び恐怖の生起を予防したり低減させる効果(強化子)があるため、強迫観念、恐怖が存在する限り習慣化して持続する。ただし、長年続く強迫行為では、恐怖がなくても自動化した儀式として存在することがある。
  • 強迫行為はfear-reducingであるが、同時にfear-inducingのこともある。強迫観念が自己の行為に対する疑惑(ちゃんと・・・したか)である場合、確認という強迫行為はその疑惑と恐怖を低減させる一方で、その行為自体が新たな疑惑を引き起こすことになる。(ちゃんと確認したか)。このため、再び確認という強迫行為が起こる。このように確認強迫は反復されやすい。
  • 日常の臨床でよくみられる強迫行為
      多く見られる強迫行為は洗浄強迫(cleaning compulision)と確認強迫(checking compulsion)である。
      洗浄強迫は主として不潔、有害物との接触、接触したのではという疑惑により恐怖が生じ(不潔恐怖)、頻回で入念な身体の洗浄がなされ、しばしば反復される。
      確認恐怖は主として自己の行為に間違いがなかったかという疑惑により恐怖が生じ(不完全恐怖)、頻回で入念な確認がくり返されている。
      この他、物の整理整頓、神仏に対する礼拝、謝罪、目に入る文字や数字を読んだり記録したりすることが強迫行為となったり、不幸が起こるという強迫観念が起こるたびにまじないをしたり、現在行っている行為を停止したり反復したりする強迫行為もある。また、日常の動作が万事、入念で緩慢となっているケースもある。
  • 強迫行為が過度に入念に反復されると強迫行為が非常に苦痛なものとなり、そのため強迫行為惹起状況(恐怖状況)の回避が起こるようになり、生活が制限される。
4.抑うつ状態

強迫観念、強迫行為に対し無力であることから気分が抑うつ的となる。

III 暴露−反応妨害法とは

  • 暴露(exposure)とは意図的に患者を強迫症状惹起刺激(恐怖刺激)に暴すことである。刺激の呈示のし方としては、患者を実際の刺激状況に直面させるやり方(exposure in vivo)とイメージを用いた呈示法(exposure in fantasy)があるが、強迫神経症の治療では圧倒的に前者を用いることが多い。また刺激強度に関しては、始めから強い恐怖刺激を用いるやり方(フラディング flooding )と弱い刺激から始め次第に刺激強度を上げていくやり方(段階的暴露 graded exposure)の2通りがある。
  • 反応妨害(response prevention)とは、言語指示により、あるいは身体的介入により患者に強迫行為をさせないことである。
  • したがって、暴露−反応妨害法(exposure and response prevention)とは、患者を強迫症状惹起状況に直面させ、そこで強迫行為をさせないという操作よりなる治療法である。
      以下、暴露−反応妨害法をE&RPと略す。
  • 単に反応妨害法という場合、これは日常生活の中で自然に遭遇する状況で強迫行為をさせないという反応操作であり、治療としての意図的な刺激操作を含むE&RP法と区別されるべきである。しかし、反応妨害法をE&RP法と同義に用いることもある。
  • フラディング法という場合、これは厳密には刺激操作のみを指し、強迫行為の有無にかかわらず強い恐怖刺激を与え続ける治療操作である。しかし通常、強い恐怖刺激を与え続けるためには同時に反応妨害をせざるを得ないことが多く、その場合、フラディング法は強い恐怖刺激を用いたE&RP法を指すことになる。
  • E&RP法の歴史
      行動療法における最初の報告は1966年Meyerのものである。1970年代に入り、Rachman、Marks、Hodgson、Boulougouris、Emmelkamp、Foaらによって熱心に研究され有効性が確かめられた。もっとも、強迫神経症者に対する同様の治療操作の有効性は既に1925年Janetにより報告させており、日本においても1920年頃に始まった森田療法の治療例の中に同様の治療操作を見ることができる。これらのことは、理論はともかく、強迫症状惹起状況に患者を直面させそこで強迫行為をさせないという治療操作が有効であることが以前より経験的にわかっていたことを示すものである。また、治療操作とは言えないが、不潔恐怖症者が身体疾患の手術の後しばらく手洗いができずにいるうちに恐怖、強迫症状が自然に治ってしまったという例などがあることも、そのような考え方の治療が有効であるであることを示す例といえよう。
      E&RP法はそのような治療操作をより体系的に効率良く行う治療技法なのである。

IV 技法導入まで

1.情報収集
a.病歴

病歴はできるだけ詳しくとる。いつ頃からどのような症状が出現し、それがどうなったかを聞く。患者は今一番困っている症状だけを訴えがちである。治療の途中で新たな強迫症状が出現したかのように見えるが実はよく聞くと以前からあったというようなことが時々ある。患者の訴える強迫症状以外の強迫症状についてもその有無、程度を聞いておく必要がある。

b.現在症
  • 現在症では、現在どのような症状がどのような状況でどの程度起こっているかを聞く。日常生活での患者の様子が目に浮かぶように、刺激状況、その時の患者の思考、感情、身体におこる変化、強迫行為の一部始終、その後の気持ちなどを詳しく聞く。できれば診察室で強迫症状を実演してもらうと良い。
  • 強迫症状の程度(日数や持続時間など)は初診時は大まかで良い。
  • その他、初診時に聞いておくこととして、強迫症状に対する不合理感や内的抵抗の程度、恐怖の最終的な対象(何を怖れているのか)の有無、日常生活における回避の程度、家族に対する態度(保証の要求や強迫行為の強要)と患者に対する家族の対応、抑うつ気分の程度などがある。
  • 強迫症状を包括的に把握するために、Leyton Obsessional Inventory のような症状評価スケールを用いることも有用である。
c.記録

強迫症状惹起状況と強迫症状の程度を詳しく知るために、技法導入前に日常生活場面での症状記録を行わせる。これはE&RP法のための階層表作成の材料として、また治療による症状変化を知るためのベースラインデータとして必要となる。

  • 一週間の日常生活での強迫症状について、起こった時間、刺激状況、強迫観念の内容、強迫行為の内容、回数、持続時間を記録してもらう。
  • 最初の1〜2週間はできるだけ詳しく記録してもらうが、患者の強迫症状について大体のことがわかったら、その後は刺激状況と強迫行為の回数、持続時間だけで良い。その際、1回の強迫行為とはどこからどこまでを指すのかを定義して患者に伝えておく必要がある。
  • 症状が頻回に起こり記録が困難な患者の場合は、何時から何時までと時間を区切って記録させる。朝(起床から昼食まで)、昼(昼食から夕食まで)、夜(夕食から就床まで)と1日を3分割して、その区間での回数をまとめて記録させても良い。
  • 記録しようとするとかえって強迫観念がひどくなるという人がいる。その場合は、就床前にその日の大体の回数を思い出して記録させても良い。
  • 毎日の記録がどうしても困難という人では、週1回でも良い。しかしその場合は、その1回は週末ではなく平日を選んだ方が日常の状態がよりよく反映されて良い。
  • 強迫症状の持続時間よりも反復が問題というケースでは、回数だけの記録でも良い。
  • 頻回に家族に保証を求めることが問題となっている人の場合は、その回数を家族の方で記録させる。
  • 患者の負担を軽くするために記録用紙を用意し、記録しやすいように工夫する。
  • 症状の記録は以後の治療期間を通してもずっと行なわれるが、患者の受動的回避行動が強い場合(日常生活の制限が強い場合)、記録された強迫症状の変化は必ずしも治療効果と相関しない事を知っておくべきである。
d.治療者の態度

病歴や現在症を聴取する際、治療者は患者の強迫症状とその時の気持ちを先取りして聞くと良い。“こんな時、こんな感じがして、こんな事をするんでしょう。そして、こう思うんでしょう”この先取りにより、自分の事をよく理解してもらっているという気持ちが患者に起こり、治療者−患者間に信頼関係が生まれる。特に、強迫症状をしてしまった後の情けなさや、また強迫症状に明け暮れる1日が始まるのかという毎朝の抑うつ感を先取りして共感すると良い。

2.初期治療

初診時からE&RP法導入までの期間は、上記の情報収集を行いながら以下の治療を行う。この期の治療の目的は、皮肉な言い方をすれば、如何に知的な働きかけが無効であるかを患者にわからせることにある。

a.保証と安心づけ
  • 強迫神経症はひどくなっても精神病になることはないことを保証し安心させる。自分が変な事、間違った事をするのではないかという強迫観念が強い人の場合には、実際にそのようなことをした人はいないと保証してやる。
  • 誤った考えの是正と保証
      多くの場合、患者自身、自分の心配、恐れが不合理であることをわかっているが、中には誤った考えから本気で病気や災害を心配している人もいる。そのようなケースではその誤った考えを是正する必要がある。また、自分の心配が不合理だとわかっている人の場合でも、治療者が改めてその不合理さを指摘し、安全を保証することは必要である。例えば怖れの対象が病気である場合には、“汚いものにさわっても病気になることはない”とか“梅毒患者がさわったものに触れても梅毒になることはない”など医学的見地からの保証も行う。場合によっては証明書や保証書を発行するのも良い。火元の確認が強迫症状になっている場合は安易な保証はかえって反感を生むことがあり注意が必要であるが、その他の場合は事故や災害が起こることは絶対にないと意識的に強く安全を保証してやる。このような保証だけで強迫症状が大きく減少することはまずない。しかしこの過程はE&RP法を導入する上でどうしても省けない過程である。それは良い治療者−患者関係を作る上で、また説得や保証などの知的働きかけが強迫症状の改善において如何に無効であるかを患者にわからせる上でこの過程が必要であるからである。
b.薬物療法
  • 始めから患者が心理療法を望んでいる場合は別であるが、通常、患者は強迫症状のためいよいよ家庭での生活が困難となって来院することが多く、そのような場合、悠長に心理療法を始めるわけにはいかない。とりあえず患者の現在の苦痛を軽くする必要がある上、治療者−患者関係の形成のためにも患者の期待に沿う姿勢を示す必要がある。(処方しないと何もしてもらえなかったと思う人がいる。)そこで原則として初診時より向精神薬を処方した方が良い。
  • 患者の1〜2割ではclomipramineやbromazepamなどの向精神薬の投与により強迫症状の軽減が認められる。また、強迫症状は減らなくても不安や抑うつ気分が軽くなるものは多い。
  • しかし結局、薬物療法だけでは治療効果は不十分であることがわかるがその点を患者にわかってもらっていた方があとでE&RP法を導入しやすい。
  • E&RP法導入時に薬をやめてみる事をすすめるが薬の効果が少しでもあればE&RP法中も服薬を続けても良い。
c.その他の指示、説明
  • 患者が強迫神経症の急性期にあり、どんどん恐怖対象が増えているような場合は、とりあえず生活の範囲を制限したり、家事を代行してもらうなどして刺激をコントロールすることが必要である。
  • 確認強迫症者には、確認するときに指差し、声出し、メモなどの方法により1回の確認で済まないかどうかやってみるようすすめる。
  • 家族に対しては、患者の今の状態は強迫神経症という病気であり、決してわがままではなく、本人も苦しんでいる事を伝える。また、いずれ家族にも治療に協力してもらう時が来るが当面は患者を責めたりせずに静観するよう依頼する。

V 技法の導入

1.導入の時期

E&RP法の導入はあわてずに時期が熟すのを待つことが大切である。治療者からの保証や説得、及び薬物療法だけでは治療効果がないことが本人に十分わかった時点でE&RP法を導入する。なかには、こちらが指示してないのに自分で強迫行為を止めてみようとやみくもに努力する人もいる。そのような人の場合は、無計画な試みでは結局うまく行かないことが本人にわかるまで自由にさせておく方が良い。

2.説明と説得

E&RP法導入の際、患者と家族に対し強迫症状とその治療法に関し、次のような説明をまず行う。

a.強迫症状の説明

ここでは恐怖、強迫症状の条件づけ、習慣化と恐怖の役割りの重要性について強調する。

  • “現状では、ある刺激状況に遭遇したり、ある考えが浮かぶと、不安、恐怖、不快の感情が反射的に起こるようになっている。その恐怖感情は不合理だとわかっていてもどうすることもできない。一方、強迫行為は一時的にその感情を弱めたり消したりする働きとなっており、恐怖が起こるたびにその行為がくり返されるようになっている。したがって恐怖がある限り強迫行為がいつまでも続くということになる。もしも、恐怖、不快が起こる刺激状況に全く遭遇せずに毎日の生活ができれば強迫行為をせずに済ませられるかもしれないが、家族問題としてはそれは不可能である。”
  • 一般的な説明と平行して、目の前にいる患者の症状について、上のある刺激状況、強迫行為のとこに患者の具体的な刺激状況、強迫行為をあてはめて再度説明する。患者は自分の感情を表現する際、恐怖、不快、不安などという言葉ではなく、気持ち悪い、イヤーッという感じで表すことがある。そのような場合はその言葉をそのまま使って症状を説明した方が良い。
b.E&RP法の説明

ここでは、恐怖の治療のためには恐怖刺激への暴露による慣れが重要であることと慣れを起こさせるための条件について説明する。

  • “したがって、強迫神経症の治療では基にある恐怖、不快感情を弱めることが必要となる。”
  • “それではどのようにして恐怖、不快感情を弱めるかが問題になる。それには慣れるしかない。”
  • ネズミ恐怖の例
      “例えばネズミの怖いという人がいるとする。ネズミが怖いからといっていつもネズミを避けていてはいつまでたってもネズミの恐怖はとれない。ネズミの恐怖を治すには、ネズミに関する刺激に直面し、慣れるしかない。それには、最初は遠くからネズミを見させ次第に距離を短くして徐々にネズミに慣れさせていく方法もあれば、いきなり部屋の中でネズミと長い間一緒に居させ一気に慣れさせる方法も考えられる。いずれにせよ、慣れるには恐怖対象に直面することが必要である。”
  • “恐怖というのは、恐怖刺激との直面中に破局的な不都合さえ起こらなければ時間の経過とともに必ず弱まるものである。”
  • “強迫神経症者の恐怖、不快感情も同じである。それに慣れるには恐怖刺激に直面する必要がある。生活を制限し、回避的な生活をしていてはいつまでたっても慣れは起こらない。
  • “恐怖に慣れるには恐怖刺激に直面する時間も非常に重要である。一般に弱い恐怖刺激では短時間の暴露で慣れが起こるが、強い恐怖刺激では短時間の暴露では慣れが起こらず、かえって恐怖が感作されることもある。例えば前のネズミ恐怖の場合、ネズミに遭遇した時すぐにその場から逃げ出してしまっては慣れが起こらないばかりか、「アー怖かった」とかえって恐怖が強まることにもなりかねない。強迫神経症でも同様である。患者は毎日の生活の中で恐怖刺激に何回も暴露されているといえるが、それにもかかわらず慣れが起こらない。それは何故かというと、患者がその状況で強迫行為をするからである。恐怖状況で強迫行為がすぐ起こるので、慣れが起こるまで十分に恐怖刺激との接触がもたれないのである。つまり恐怖があるから強迫行為が起こり、強迫行為が起こるから恐怖が続くという仕組みになっている。”
  • “あなたの場合も・・・云々”とここで患者のケースをとり上げ、(6)を説明する。
  • “したがって強迫神経症の治療においては、恐怖、不快を弱めるために患者を強迫症状惹起刺激に直面させ、そこで強迫行為をさせずに恐怖刺激に長く暴露させ、慣れが起こるのを待つということが考えられる。”
  • “ここではそのような治療を行うが、あなたの場合は・・・云々”と患者のケースについて具体的な恐怖刺激、強迫行為をあげて実際の治療操作を説明する。
  • “強迫神経症者の恐怖、不快は長年続いた感情であるので、ただし一回恐怖刺激に直面したからといって、それですぐに弱まるものではないが、強迫症状惹起状況に身を置き、そこで強迫行為をしないで長時間我慢するということを何回もくり返し行えば、次第に恐怖、不快が弱まることが期待できる。そしてこの恐怖・不快が弱まれば強迫行為をせずにすむようになる。“これが治療の原理である。”“このような治療を病院と家族で熱心に行えば、大体6ヶ月位で良くなるであろう。”

以上のような説明を患者と家族に行う。

c.症状別説明

上に述べた説明は強迫神経症に一般的なことであり、大半の症例でそのまま通用するが、症状の特徴によって若干、説明を修正したり追加したりした方が良い。

  • 洗浄強迫例
      不潔恐怖であれば、“今は汚なさに過敏すぎる状態である。他人並みに鈍感になった方が生活は楽である。汚さに慣れるのが治療の目標であり、そのための訓練が治療である。”と説明を追加すると良い。
  • 確認強迫の例
      強迫観念、確認行為が全く不合理、不必要なケースでは次のように説明する。“自分の行為が間違いなくなされたからという疑惑が起こること自体が病気であるが、万一を怖れそのまま事態を放置できない点も問題である。日常の生活をする上では心配に対しある程度の鈍感さがあった方が楽である。自分の行為に疑惑が起こって不安になっても確認(再確認)せずに放置できる能力をつけることが治療の目標であり、そのための訓練が必要である。それによって疑惑そのものも起こらなくなるだろう。”
      戸締りや火元の確認のように疑惑、確認行為自体は全く不合理という訳ではないが、不必要に反復されるケースでは次のように説明する。“確認が1回で済まない点が病気である。1回目の確認のあと疑惑が起こりそのまま事態を放置できないのが問題である。治療としては1回目の確認後、そのまま2回目を行わずに放置する訓練をする。”
  • 強迫観念だけの例
      強迫観念が恐怖、不快を起こす内容のものでは、その生起の予防、軽減のために呪文や打ち消し文句を唱えるというcovertな行為がなされることが多い。このcovertな行為は機能的にはovertな強迫行為と同じものである。したがって、“治療は強迫観念に直面し、covertな打ち消し行為をせずにそのまま恐怖に慣れること”となる。
  • 恐怖のない強迫行為の例
      恐怖が介在せず強迫行為が起こっている例では、刺激−恐怖−強迫行為−強迫低減という図式は当てはまらない。そのような例では強迫行為は気が済む、済まないということで起こっている事が多い。
    この気が済まないという気持ちは恐怖とは異なるものの、強迫行為を動機ずける負の強化子という点では同じである。したがって“強迫行為惹起状況では強迫行為をせず、気が済まなくてもそれを放置し、慣れるのが治療”ということになる。
d.E&RP法への説得
  • 患者の強迫症状は何も治療をしないと長く続くこと、患者の症状が家族に迷惑を与え、子供の精神発達に悪影響を及ぼす可能性があることを指摘し、治療を受けることをすすめる。
  • E&RP法による治療成功例を話し期待をもたせる
  • 治療は楽ではないが、決して患者のいやがる事を無理強いしないこと、同意した事だけしか行わないことを伝え、不安を取り除く。
  • E&RP法を強くすすめる。
  • 患者の激励、勇気づけ、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」
  • 患者がその気になるように家族にも応援を求める。
e.説明の際の留意点
  • 症状、治療原理の説明は、時間をかけ、相手の知的レベルに合わせてわかり易く行い、十分に理解、納得してもらうことが大切である。
  • 一般的な説明と患者の症状に応じた説明を交互に行い、理解を深めさせる。
  • 家族にも同様の理解、納得をしてもらっていた方が良いので、説明の際は同席してもらう。
  • E&RP法で治るという期待を持たせることは良いが、催眠術的な治り方はしないことを告げておく。
  • 治るか否かは本人の努力にかかっていることを強調しておく。
  • 症状、治療原理の説明は以後の治療セッションにおいてもくり返し行うことが大切である。
f.治療対象の選択
  • 強迫症状の種類が1つの場合は問題はないが、洗浄、確認、その他と複数の種類がある場合は、現在患者にとって最大の苦痛、生活上の支障となっている症状から治療を始める。
  • 洗浄、確認の両方とも同じ程度であるならば、治療操作のし易い洗浄強迫の治療から始める。
  • 原則として、2種類以上の強迫症状を同時に治療対象とすることはせず、1つの強迫症状が十分軽くなってから、残った強迫症状を治療対象とする。
3.階層表の作成

E&RP法として始めからフラディング操作ができそうな人の場合は別であるが、段階的なE&RP法を用いる場合には、実際の治療操作に入る前に、強迫症状惹起状況(恐怖刺激状況)を強さの順に段階的に並べた階層表(hierarchy)を作る事が必要である。階層表の作成は単にE&RP法の実施に必要というだけでなく、作成過程で刺激系列を明確化できるなど自分の症状を改めて見直すことができるという利点もある。それはちょうど、これから登るべき山がハッキリわかるようなものであり、それによりE&RP法の理解、受け入れが更に進むことになる。また階層表の作成は、場合によっては後になって治療による症状の変化を知るために利用することもできる。作成の時期は、E&RP法の説明を行った後の方が自然であるが、不安の強い患者では情報収集期にやっていた方が良い場合もある。

a.作り方
  • 強迫症状の種類が複数の時は最初に治療対象とする強迫症状の方から階層表を作る。
  • 病院でもE&RP操作を行うのであれば家庭用以外に病院用の階層表も作る。
  • 家庭用階層表の作成では、それまでの情報収集期に集めたデータから日常生活での強迫症状惹起状況を抜き出し、各状況をSUD(※注)で評価し、順番に並べる。SUDは、0〜10点か、0〜100点(0:全くなんともない、100:最大の恐怖、パニック)で評価される。
  • SUDがつけられない人の場合、点数を言葉に置きかえて順番をつけさせると良い。
    0 全くなんともない
    1〜10 ごくわずか怖い、どうかある
    20〜30 少し怖い
    40〜50 かなり怖い
    60〜70 とっても怖い
    80〜90 非常に怖い
    100 パニック
    注:SUD:Subjective Unit of Disturbance 自覚的障害度:不安、恐怖の自覚的強さを数値で表したもの
  • 病院用の階層表は、これからE&RP操作に使えそうな病院内の場所、物を患者に見せてから作る。
  • 生活範囲の制限が強い人では回避している恐怖状況が情報収集期のデータからもれていることが多い。しかし階層表作成時に、最近実際に遭遇していない恐怖状況を無理やりSUD評価させる必要はない。回避状況がどの程度のものかさえはっきりわかっていれば、当面は日常生活内だけの階層表で十分である。
b.留意点
  • 階層表の作成は、あくまでも治療のための階層表であることを目指し、階層表のための階層表にならないよう注意する。
    各強度のSUDに必ず1つは刺激状況を配置しなければとか、始めから厳密なSUD評価を行なわねばと考える必要はない。SUDの強さよりも、ある恐怖状況が他のものより強いか弱いかということの方が重要であり、これからの治療で用いる暴露刺激が全体の中でどの位置にあるのかがわかれば良い。
  • 治療の途中で、治療前に作った階層表を変えざるを得ないことがある。階層表はいつでも修正、追加すべきものであることを理解しておく必要がある。
  • 階層表を治療効果の評価にも使おうとする場合は治療開始前に十分に時間をかけて厳密なものを作っておく必要がある。
  • 始めからフラディング操作ができそうな人では、階層表が不用のこともある。
c.階層表の実例

1. 21才 女

洗浄強迫の治療のための病院用階層表
SUD10 便にさわる
9 便器の外側、トイレの内のドア、トイレ掃除用ゴム手袋にさわる
8 トイレの外のドア、トイレ掃除用モップの柄にさわる
7 診療室の床にさわる
6 トイレの洗面所の蛇口にさわる
5 トイレの壁にさわる
4 自分の靴にさわる
3 診療室のドアノブ、洗面所の鏡、公衆電話の受話器にさわる
2 待合室のソファーにさわる

2. 37才 女

確認強迫のための家庭用階層表
SUD10 勤め先のストーブ、エアコン
9 自室の石油ストーブ
8 アイロン
7 コタツ、ドライヤー
5 テレビ、電気スタンド、電子オルガン、食器乾燥器

VI 治療操作の実際

A.病院でのE&RP操作

1.1回目の治療

E&RP法を行うことに同意したら、短時間で階層表を作成し、患者の気持ちが変わらないうちにすぐに1回目のE&RP操作を行う。

a.暴露刺激の選択
  • 暴露刺激として何を用いるかを患者と相談して病院用階層表の中から選ぶ。
      E&RP操作は弱い刺激強度から始めた方が無難といえるが、恐怖が時間の経過と共に弱まるということを患者にはっきり体験させるためには、始めから中等度以上(SUD 50以上)の強さのところから始めた方が良い。それがうまくいけばその後の家庭での治療もやり易くなる。しかし、始めから無理やり強い恐怖刺激を押しつけると、そのセッション内で恐怖反応が弱まりにくいというだけでなく本人や家族の反感をかい、その後の治療の継続に、支障をきたすことがあるので慎重を要す。実際には、患者がこれ位ならE&RPできるという最大のSUD項目を用いる。
  • 暴露刺激の呈示の前に患者に覚悟の程をたずね、武者ぶるいを起こさせ、意気込みをもたせるようにすると良い。それらは恐怖の拮抗作用を持つ。恐怖刺激にいやいや直面させるよりは迎え撃つ態度を持たせた方が良い。
  • 暴露操作をしたが実際には思った程の恐怖が起こらなかったという場合がある。その場合はすぐに上の方の項目で再度、暴露操作を行う。その際、“案ずるより生むが易し 幽霊の正体見たり枯尾花”という格言を与える。
  • 初回の治療セッションで用いる暴露刺激の数は、洗浄強迫では1つだけにした方が良い。しかし確認強迫では複数の刺激状況に次々に暴露させた方が効率が良い。
b.洗浄強迫の治療
  • まず治療者が患者の目の前で洗浄強迫惹起刺激(不潔恐怖であれば洋式トイレの蓋や便座など)を両手でさわり、その手で自分の髪、顔、腕、服にさわり、ニッコリ笑う。(モデリング)
  • 次いで同様の事を患者に行うよう指示する。患者がこわごわ、へっぴり腰でやる場合は、しっかりさわるよう指示し、場合によっては患者の手をつかんで強くさわらせる。
  • 両手で全身をさわらせた後、“もう、しっかり汚れたからね”と確認する。
  • 今やっている事は汚さになれる訓練であることを再度強調し、やっていることの意味を再確認させる。
  • 恐怖刺激が小さな物体である場合は、それをずっと手に持たせても良い。
  • 暴露後は、手を洗いたくなっても我慢するように指示する。(言語による反応妨害)
c.確認強迫の治療
  • 確認強迫惹起状況でまず治療者が次のような事をやってみせる。(モデソング)例えば、電気製品のスイッチを入れた後それを切る。ガスに火をつけた後それを消す。ソファに座った後、確認せずにその場を立ち去る。
  • ついで同様の事を患者に指示する。
  • 行為の後疑惑が起こっても、振り返ったり、確認したりしないように指示する。
  • 疑惑を放置する訓練であることを再度強調する。
  • 確認強迫が起こる状況が多くあれば、複数の行為、状況に次々に暴露させる。例えば、火をつけて消した後電気をつけて消し窓を閉めさせるなど。
  • 暴露後、患者が立ち止まったり確認行為をしたそうなそぶりを見せた後は、言語指示により、場合によっては患者の身体をひっぱってもその場を離れさせる。(身体的反応妨害)
  • 万一、わずかでも確認行為が見られたならば再度、暴露操作をやり直す。
  • 治療者が側にいると強迫症状が起こらないという場合は、患者一人でやらせる。その際、確認行為をせずにその場を立ち去ることを指示しておく。
  • 症状が交差点や車の運転中、買物中にしか起こらないという場合は、病院外でE&RP操作を行うことも考える。
d.治療中の対応の仕方
  • 暴露操作後は治療終了まで患者を診察室に居させる。
  • 治療中は本を読んだり親と雑談させたりせずに治療に集中させる。
  • 暴露直後と以後10分(あるいは5分)毎に、患者の状態を記録する。自覚的恐怖、不快感の強さ(SUD)、強迫欲求の強さ、心拍数、表情や仕草。
  • SUDの変化がわからないという人の場合、10分前と比べ少しは楽になったかどうかだけでも良い。
  • 治療中、治療者はできるだけ患者に安心感を与えるように振る舞う。患者が不安そうだったり、“大丈夫か”と聞いた時などは、“大丈夫”と安心させる。また患者のつらさに同情すると共に治療を最後まで続けるよう激励する。
  • 恐怖、不快感 が下がってきたら、“時間がたてば楽になってきたでしょう。こんな風にやっていくと慣れが起こるんですよ。”と説明する。
e.治療時間
  • E&RP操作は原則として恐怖、不快が十分弱まるまで行う必要がある。SUDがゼロになるまでやる必要はないがSUD 50→30程度の減少は必要である。
  • 治療前に、恐怖が十分に弱まるまでE&RP操作をしようと言っておくと、不自然に早くSUDが下がることがあるので好ましくない。
  • 初回のE&RP操作では、始めから、2時間位続けましょうと長い時間を言っていた方が良い。
      2時間といっても、それ以前に恐怖が十分に弱まれば、そこで終了しても良い。しかし30分以内で大きく減少するのはむしろ要注意である。初回は少なくとも1時間はやった方が良い。
  • 2時間で恐怖、不快が弱まらない場合は更にE&RP操作を延長する。その場合も下がるまでとは言わない。恐怖が弱まるのに5時間かかった例もある。
  • 心拍数を測定している場合は、心拍数が暴露開始時よりも上がった状態で終了してはならない。
  • 何時間E&RP操作をやっても全くSUDが変わらない人がいる。そのような人は強迫行為をしたい、すべきだという気持ちや考え、あるいは、嫌い、イヤだという気持ちとSUDを混同しているか、始めからE&RP法に拒否的な人かである。前者であれば、恐怖、不快感を素直に評価するよう指示するとともに心拍数、表情、仕草など恐怖の他意的指標の変化を患者にフィードバックしてみると良い。後者であれば、症状や治療法について再度の話し合いが必要である。
f.治療後の説明と指示
  • まず患者の努力を賞賛し、その努力のつみ重ねが病気を克服するものであることを述べる。
  • 恐怖の特性(時間の経過と共に弱まる)を患者、家族と共に確認し、再度、E&RP操作の意義と目的を説明する。
  • 家庭でのE&RP操作の重要性を強調する。週1回の病院での治療だけでは不十分であり、強迫神経症が治るかどうかは、実際に生活している家庭でE&RP操作をどの程度行うかにかかっていることを説明する。
  • 家庭でのE&RP操作のために家庭用階層表の中から暴露刺激状況を選ぶ。
  • 家庭でのE&RP操作を始める前に、その日病院で行ったE&RP操作をそのまま家に持ち込ませ、家庭での治療の第一歩とさせる。洗浄強迫者であれば、治療後家に帰っても手洗浄、入浴、着替え等をせずに、病院で汚れた身体のまま家でもしばらく生活させる。できれば病院で着用していた服のまま床に就かせると良い。どうしてもいやという場合には夜の入浴、就寝まで続けさせるが、その場合でも病院での暴露刺激が家の中に広がるように生活させる。翌日以降も病院で汚させた衣服を着て生活することをすすめる。
g.初回治療の重要性と留意点

初回治療はそのセッションの治療効果そのものよりも、恐怖、不快が時間と共に弱まるという体験を患者にさせることと、患者と家族にE&RP操作のやり方を教えることに大きな意義がある。

  • 強迫行為をせずに我慢していると恐怖が弱まるということが患者に体験的に理解させれれば、以後の治療は容易になる。しかし、不本意に強い恐怖刺激に暴露せれたり、恐怖が強いままセッションが終わったりすると以後のE&RP操作がやりにくくなるばかりでなく、ドロップアウトの危険も出てくる。治療がうまく行くか否かは初回治療の結果にかかっていると言っても過言ではない程、初回治療の比重は大きい。したがって初回治療は万難を排し、必ず成功するように努力するべきである。そのためには暴露刺激の選択と治療時間に留意し、治療時間を長くとれるように準備しておくことが必要である。
  • 治療を通して、患者が恐怖の特性、治療原理、治療操作の意味を体験的に理解できるように、治療中、あるいは治療後、セッションを振り返りながら説明をよく行うことが大切である。
  • 家庭でしか強迫症状が起こらない人の場合でも、できるだけ治療者の目の前で強迫症状が惹起できるよう努力すべきである。工夫すれば、程度は弱いが症状を惹起できるということは少なくない。惹起できた強迫症状が家庭で起こるものよりも程度の軽いものであっても、初回のE&RP操作としては十分である。また仮に病院では全く強迫症状が起こらない人の場合でも、家庭でのE&RP操作のために病院でやり方を教えリハーサルを行う必要がある。

2.2回目以降の治療

a.質問事項
  • 毎回の治療セッションの始めに、前回の病院での治療セッション後家に帰るまでの間に強迫行為をしなかったかどうか、またその間SUDや強迫欲求がどう変化したかを聞く。家に帰ったときに気持ちが楽になっていたというのであれば、恐怖、不快は時間の経過に従って弱まるという事が更に実証されたことになる。
  • 次いで前回来院時から今回来院時までの間、どの程度家庭におけるE&RP操作がなされたか、そしてその結果はどうであったかを聞く。家庭での治療的実践ができなかった場合は何故できなかったかも聞く。
  • 強迫症状全般の変化を聞く。
b.E&RP操作
  • 病院でのE&RP操作のやり方は1回目の治療と同じである。モデリングも効果があれば行う。
  • 暴露刺激の上げ方
      セッション終了時のSUDやセッション内でのSUDの下がり方よりも暴露操作直後のSUDが参考となる。何週間か同じ恐怖刺激によるE&RP操作をやってみて、暴露直後のSUDが大きく下がってくればその次の週からは上の恐怖状況でのE&RP操作に進んで良い。例えば、ある恐怖刺激による初回の暴露操作直後のSUDが50であったものが、何回かの同一恐怖刺激によるE&RP操作により、あるセッションで暴露直後のSUDが30位にまで下がっていれば、次のセッションからは更に上の恐怖刺激を用いたE&RP操作を行って良い。
  • 上の恐怖刺激に進む時は必ずしも治療開始前に作成した病院用階層表の1つ上の項目に移る必要はない。治療前に作成した階層表のSUDは治療の進行によって当然変わるものであり、項目の順番が入れ変わることも珍しくない。E&RP操作をSUD 50の項目から始めたのであれば、上の恐怖刺激に移る場合もその時点でSUD 50に相当する刺激状況でE&RP操作を行うと良い。
  • 適当な刺激状況がなければ、新たに刺激状況の追加を行う。
  • 患者が熱心で理解が良い場合は、一気に階層表の最上位でのE&RP操作をすすめても良い。
  • 洗浄強迫の場合でも、何回かE&RP操作を行った後は暴露操作時に複数の恐怖刺激を用いても良い。“ついでに”といって、他の汚い物にもさわらせる。
  • 2回目以降のE&RP操作でも治療時間は長い方が無難であるが、そのうち、患者の大体の反応パターンがわかり、治療時間も決まってくる。ただしどんなに早く慣れが起こる人であっても最低30分間はE&RP操作を続けた方が良い。
  • 毎回、治療の前、中、後に治療操作の意味を繰り返し説明し、恐怖に慣れることの重要性を強調する。
  • 来院の頻度は通常、週1回とするが、家庭での治療実践が十分なされれる人では2週間に1回の来院でも良い。逆に、家庭での実践が不十分な人では週2〜3回の来院が必要となる。
  • 病院でのE&RP操作は病院用階層表の上位を用いたE&RP操作でSUDが下がり、我慢して強迫行為を抑えているという感じがなくなるまで行う。
  • 病院用階層表の上位によるE&RP操作が終わっても日常生活状況で強迫症状が多く残っている場合は、病院での治療は家庭でのE&RP操作実践を高める指示を出すことが主になるが、洗浄強迫者では家庭にある強迫症状惹起刺激を病院に持参させ、それを用いて病院でE&RP操作をすることも必要となる。
c.患者の心配への対応

E&RP法を行っていると患者からいろいろな疑問や心配が出される。

  • 強い恐怖刺激への暴露、強迫行為の禁止指示に対し、患者からそこまでやる必要があるのかという疑問が出ることがある。それに対しては、日常生活でハプニング的に強い恐怖刺激に遭遇した時に恐怖が再感作され、今まで良くなっていた恐怖、強迫症状が悪化することがある。また、そのようなハプニングがなくても十分な治療をしておかなければ恐怖の戻りがあることを説明し、強い恐怖刺激でのE&RP操作が治療として必要であることを説明する。
  • 徹底したE&RP操作により、ルーズな人間になることを心配する人もいる。そのような人に対しては、もともと几帳面な人の場合、どんなにE&RP操作をしてもだらしないルーズな人間にはならないこと、また、いつでも適応的な行動を再修得できることを伝え安心させる。
  • 治療の途中段階で強迫状態恐怖と呼べる状態が現われることがある。例えば、今は治療により手を洗わずに済んでいるが、また洗い出したら前のように止まらなくなるのではないかという不安である。しかしこの不安は一過性であり、治療が進めば自然に消失するので特に問題となることはない。
  • 洗浄強迫者の場合、家庭のE&RP操作により家の中が汚されることで罪悪感を持つ人がいる。この場合、患者の家族がE&RP法に同意し、家の中が汚染されることを許せば本人の罪悪感もとれ、家庭での治療が容易になる。
d.適応的標準行動の教示、指導、訓練
  • E&RP法で恐怖、不快が弱まり、強迫行為が減少した場合、治療の仕上げ段階として、患者に適応的で標準的な確認・洗浄行為のやり方を教えることが必要となる。どのような状況でどのようなやり方が適応的で標準的なやり方なのかを教示する。例えば手洗浄であれば、その状況としては、食事前、用便後、帰宅後が普通で、回数としては1日数〜10回程度という事を教え、簡単な手洗いの仕方をモデリングで教える。その際、治療者の教えが偏っていないという印象を与えるために、予め看護婦と打ち合せをしておき、看護婦にも同じ意見を述べてもらうようにすると良い。手洗いで石けんを用いる状況や洗濯の仕方、確認の方法などについても同様である。
  • 本来適応的であるが過度に入念で儀式的となっている行動が患者の問題となっている場合には、簡単で標準的なやり方を教え、それで切り上げさせる訓練をする必要がある。例えば、歯磨き、洗顔、用便などが問題となっている場合では、標準的なやり方を教え、モデリングし、患者の例でコーチする。その際、念入りな行動を少しずつ短くするのではなく、一気に標準的な時間まで短くし、それで済ませるように指導した方が良い。この場合も、気が済まなくても我慢して慣れることが必要であることを強調する。家庭での同様の訓練のために家族にも短縮化訓練のやり方を見せておく。
e.指示
  • 病院でのE&RP操作を家庭まで持ち込むための指示。VI−A−1−f項と同じ。
  • 家庭におけるE&RP操作のための指示。VI−B項で詳述する。
  • 次回治療の予告
      次回も同じ暴露刺激を用いる場合は問題はないが、より強い恐怖刺激へ移る予定の時はその事を予告すべきかどうか考える必要がある。患者が予告を受け、覚悟して来院する場合はその覚悟が治療的に働き、E&RP操作が予想以上にスムーズに行くことがある。(flooding in fanfasy の効果? 案ずれば生むが易し?)しかし予告がドロップアウトの原因となることもありうる。実際には、治療意欲のある人では予告し、怖がりの人では予告しない方が良いようである。
  • 治療終了時の指示
      通院治療を終了しても、当分の間は日常生活において気安め行為をしないという治療的態度を持ち続けることが必要であることを説明しておく。特に、強迫行為が弱まったとはいえ完全に消失していないケースでは、治療終了後も強迫行為をしないという反応妨害の努力は必要である。その意味では治療終了後も治療は続くと言える。
      治療終了時、3ヶ月後と6ヶ月後のfollow upを約束する。follow upの日時を決めると患者はその期間、反応妨害努力を続けるので症状の改善は更に進ことが多い。
B.家庭でのE&RP操作

 強迫神経症をE&RP法を用いて外来で治療する場合、病院でのE&RP操作だけでは治療としてはなはだ不十分である。それは病院で誘発される強迫症状が家庭で実際に起こるものよりも程度の軽いものが多いという事に加え、週1回程度の外来治療では強迫症状を弱める上でE&RP操作の絶対量が少なすぎるからである。したがって強迫神経症の治療のためには、家庭における十分な量のE&RP操作が不可欠となる。

1.洗浄強迫の治療

 家庭でのE&RP操作は病院でのE&RP操作の項(VI−A−1−f)で述べたように、病院でのE&RP操作を引き継ぎ、それを家庭に持ち込むことから始まる。更に、それに加え以下に述べる治療操作を行う。

a.段階的なE&RP法
  • 家庭でのE&RP操作で用いる暴露刺激は、患者と相談しながら家庭用階層表の中から決める。一般に、家庭でのE&RP操作は病院におけるそれよりも困難なことが多く、家庭治療での暴露刺激の強度は、その週、病院で用いた暴露刺激のSUDよりも弱いものを用いざるを得ない。特に家族の協力がなく患者が一人でE&RP操作を行わねばならないケースでは本人の意見を尊重する。
  • 暴露刺激の数は始めのうちは1つの方がやり易いが、ある程度治療が進めば複数の刺激を用いても良い。
  • 実際のE&RP操作としては、階層表の中から決められた恐怖刺激(例えば、受話器、スリッパ、ゴミ箱など)にさわらせ、その後一定時間、手洗いをせずに我慢させる。
  • E&RP操作の時間は1〜2時間の間で予め決めておく。治療時間は治療初期や暴露刺激のSUDが高い場合は、長めの方が良い。
  • E&RP操作中は、できるだけ普通の生活(水仕事を除く)をそのまま続けさせるようにする。これは手を介して暴露刺激(汚れ)で室内を汚染させる意図を持つ。しかしE&RP操作中は何もさわりたくないという人の場合はそれでも良い。
  • 治療中、家族に対し“大丈夫か”“汚くないか”など保証を求めないように患者に指示しておく。また家族に対しては、患者が尋ねても“約束で答えられないことになっている”と返事し、安易な保証をしないように指示する。保証を求めることも手洗浄などと同じ強迫行為であり、これもさせないようにすべきである。
  • 毎回、E&RP操作直後と終了時のSUDを記録させる。
  • E&RP操作はできれば午前中と午後の2回行った方が良い。日中は患者が一人になりやりにくいという場合は、家族が一緒に居る時間帯(例えば夫の出勤前や帰宅後)に行わせると良い。また、夫の休日も利用できる。
  • 決められた時間のE&RP操作が終わっても、どうしても手洗いをしたいという気持ちが強い場合は、水仕事をする際についでの手洗いを認める。
  • その日の決められたE&RP操作時間外でも、その日用いた暴露刺激よりも低い恐怖刺激に遭遇した時にはできるだけ強迫洗浄行為をしないように指示する。しかしこれはある程度治療が進まないと困難なことが多い。
  • 洗浄、消毒のためアルコール綿や石鹸の使用が激しい人では、E&RP操作時間外で、まずそれらの使用を全面的にやめ、水洗いだけにすることをすすめる。
  • 恐怖が強い患者の場合、階層表の低い項目でE&RP操作を行っている段階では、日常生活で極端に強い恐怖刺激に遭遇しないように配慮した方が良い。例えば、便所掃除などは他人に代わってもらった方が良い。これは階層表の下位で治療をしている時に、他方で恐怖の感作が起こることを防ぐためである。
  • 少なくとも次回来院までの1週間は、毎日同じ暴露刺激を用いてE&RP操作を行う。1週間、同一刺激でのE&RP操作でも十分の慣れが起こってなければ、同じ刺激でのE&RP操作をその後も行わせる。暴露直後のSUDが低く、E&RP操作終了時の手洗い欲求が軽くなっていれば、その項目で慣れが起こっていると判断され、上の項目に進むことになる。その際、家庭用階層表の見直しを行い、必要があれば追加、修正を行う。
  • 洗浄強迫者の中に、病院ではフラディングができるのに家庭では弱い恐怖刺激下でさえE&RP操作ができない人がいる。この原因が家を聖域化することによるもの、つまり、家の外ではどんなに汚れても良いが自分の家(部屋)だけはきれいでなければならないという信念に基ずいている場合は、家庭でのE&RP操作はできない。そのような人では本人が強迫症状のため生活が一層困難となり、治療上どうしても家(部屋)を汚す必要があるという事を納得するまで待つしかない。
  • そのような信念は持ってないが、家の汚れと病院の汚れを区別し、家庭でのE&RP操作ができない人の場合は、家庭の恐怖刺激を病院に持って来させ、それを用いて病院でE&RP操作をすると良い。例えば、ゴミ箱を拭いたタオルをビニール袋に入れて持って来てもらうなどを行う。
b.全反応妨害法

前に述べたように、段階的なE&RP法では治療セッション外でも、その日用いた暴露刺激よりも弱い刺激状況では強迫行為をしないよう患者に指示する。その場合、E&RP操作が階層表の上位にある刺激状況でなされていれば、治療セッション外での反応妨害指示は、結局、家庭生活の大半において強迫行為をしないという指示と同じになる。
全反応妨害法は治療の始めからこれを行わせようとする治療法である。即ち、一切の強迫行為をさせずに毎日の生活を送らせ、一気に慣れを起こさせようとする治療法である。日常生活の中で恐怖状況を避けず、しかも一切の強迫行為をしなければ、患者は当然強い恐怖刺激にくり返し暴露されることになる。その意味では全反応妨害法はフラディング法でもある。この治療法は、治療意欲があり、しかも病院でフラディング操作ができる人で適応となる。

  • どんな物にさわっても、用便の後でも、食事の前でも手洗い等の洗浄行為をさせない。食事の支度の際、自然に手に水がかかるのは良いが、わざわざ汚さを落とすための家事は禁止する。
  • 下着は毎日着替えても良いが上着は一週間は同じものを着用させる。入浴は許可するが風呂場での洗浄強迫は禁止する。
  • 治療の開始前に、一週間手洗いをしなくても病気になることはないという保証は与えておく。
  • 家族にも理解、同意を得ておく。
  • 効果がハッキリ出るには2〜4週間の全反応妨害期間が必要であるが、治療開始時は“とりあえず3日間やってみよう”と短期間の治療をすすめ、その後、1週間、2週間と治療期間を延ばしていくと良い。2〜4週間を1クールとし、症状の改善度に応じて何回かくり返す。
  • この治療法は、恐怖は左程強くないが手洗いをすべきか否かの迷いが強く、結局洗ってしまって後悔するという患者に特に良い適応となる。このような患者では、全反応妨害指示により、強迫行為をすべきか否かの迷いがなくなり楽になるという面がある。
  • 十分慣れが起こってから、改めて常識的な手洗い状況と簡単な手洗いのやり方を教示する。

2.確認強迫の治療

  • 確認強迫惹起状況がたくさんあり、しかもそれら状況間でSUDに差がある場合は、洗浄強迫の治療と同じように家庭用階層表から暴露刺激を選択し、E&RP操作を行なう。暴露方法としては段階的暴露の場合もあるしフラディングの場合もある。
  • E&RP操作を行なう場合は、一回の治療セッションで同じ程度の強さの刺激状況に次々に暴露した方が効率が良い。例えば、部屋の中の電気製品のスイッチ、コードのプラグ等を全部、一回のセッションで治療に使うなど。
  • 家族が側に居ると強迫症状が起こらないという患者では、患者一人でE&RP操作を行わざるを得ない。そのようなケースでは、患者が一人で E&RP操作を行いうる状況を如何に見つけ、作るかが治療のポイントとなる。
  • E&RP操作は、決して単なる日常生活での確認行為の妨害ではなく、治療のための意図的な暴露と反応操作である。それは、わざわざ不自然に惹起されたものであるため、日常生活の中で自然に遭遇する確認状況と比べ SUDが低いことが多い。実は、その点が狙い目なのである。日常生活の中で一人ではとても反応妨害ができそうにない状況でも、治療として意図的に同じ確認状況を作ることによりE&RP操作が可能となる。
  • 確認強迫ではE&RP操作を可能にするには階層表の工夫が必要である。E&RP操作の難易度は単に確認状況(確認対象)だけによって決まるものではなく、さまざまな要因が影響する。例えば、同じ外出の際の火元確認といっても、同伴者の有無、外出先、外出している時間、火を使って外出するまでの時間などによってSUDは少しずつ変わってくる。遠方への外出の際には確認行為をRPできない人でも、10分位の近くへの外出であればRPできることがある。また、投函の際の確認強迫にしても、他人宛の手紙ではRPできないが自分宛の手紙を出す訓練ではRPできるということもある。このように、ある状況での確認強迫に対しE&RP操作を行おうとする場合は、確認強迫の程度に影響する要因をできるだけ多く明らかにしておくことが必要であり、それらの要因を細く調整することにより無理のないE&RP操作が可能となる。
  • E&RP操作では1日2回は行った方が良い。治療時間は洗浄強迫のE&RP操作ほど厳密に決める必要はない。E&RP操作後その場を離れるだけでSUDが急速に弱まるものも多い。しかしSUDが弱まるのに時間がかかるケースでは、操作時間を長くとる必要がある。
  • 火元の確認だけは例外的に1回は許可する。この場合治療は再確認の反応妨害ということになる。
  • 階層表の下位でE&RP操作を行っている段階では、できれば日常生活場面で強い確認強迫惹起状態は避けた方が良い。
  • 確認強迫が、必ず何か所かを一定の手順で行う一連の儀式となっているケースでは、まず、その中から明らかに不必要だと本人がわかっている項目から省略(反応妨害)させていくと良い。そして、最後に残った確認状況に対し改めてE&RP法を行なう。
  • 確認欲求に打ち負かされないための工夫として、疑惑が起こり確認したくなっら“ストップ”と大声で自分自身に命令したり、ゴムバンドで手首をはじくことも役に立つ。また暴露後は、すぐにその場を離れたり、次の動作、仕事に移る方が良い。

3.強迫行為短縮化訓練

病院で指導した短縮化訓練(VI−A−2−d)の家庭における訓練である。

  • (1) 家族が治療者となり、病院で教えられた簡単な手順、時間で訓練を行なわせる。その際、時間が来れば“ストップ”と言って止める。
  • 自分一人でやる場合は、時計を側に置いてやらせる。
  • この訓練も、日常生活とは切り離し、治療として時間をとって行なわせる。

4.記録

家庭でのE&RP操作の結果と症状全体の経過を記録させる。

  • 家庭でのE&RP操作では、洗浄強迫の治療では暴露直後と治療終了時の SUDを、確認強迫の治療では決められた暴露状況でのE&RP操作ができたか否か、また、何十分後に疑惑がゼロになったかを毎回記録させる。
  • 強迫症状全体の経過記録としては、洗浄強迫では回数、症例によっては持続時間を記録する。水道使用量やガス使用量の変化も症状の大ざっぱな変動を知る上で役に立つ。(ただし季節要因を考慮に入れる必要はある)。確認強迫では回数、時間を記録するが、余り頻回に起こっているものでは、時間や日を区切って記録させても良い。
  • 数字を書き込めば良いだけの記録用紙を作っておくと便利である。
  • 強迫症状が複数ある場合は、現在治療対象としてない強迫症状の変化も記録しておく必要がある。

5.治療時間

  • 実生活で強迫症状が十分に弱まるまで家庭でのE&RP操作を続ける必要があることは言うまでもないが、強迫症状が一旦、弱まったかのように見えても自然にぶり返したり、ハプニングを契機に悪化したりすることがあるので、治療終了の時期は慎重に決める必要がある。
  • 家庭用階層表の上位におけるE&RP操作でSUDが下がり(30以下)、我慢して強迫欲求を抑えているという意識がなくなるまで治療を行なった方が良い。
  • 家庭でのE&RP実践がよくなされ、治療に積極的な患者では、本人が“もう大丈夫、あとは一人でやれる”と思った時点で通院を中止にしても良い。

6.家庭でのE&RP操作における工夫と留意点

如何にして家庭でのE&RP操作の実践を増やすかがこの治療法の最大のポイントであり、そのためには今まで述べてきた事に加え以下の工夫、留意が必要である。

a.指示の出し方
  • E&RP操作の指示は具体的で細かい内容のものとする。例えば、今週は両手で家のゴミ箱のフタにさわり、そのまま1時間、手を洗わずに家の掃除をすることが毎日の課題であるという風に出す。
  • 指示は1週間に1つか2つと少ない方が良く、宿題、課題という感じで出す。その際、指示内容を紙に書いて渡すと良い。
  • 指示は家族同席のもとに出す。家族に対しては、本人が宿題を実践するかどうか見守り、場合によっては治療者として働くように指示する。また、本人が“大丈夫か”と保証を求めても保証を与えないように本人の前で注意しておく。
  • 我慢、辛抱、勇気、努力という言葉による奨励を行なう。
b.患者の心構えについて
  • 自分の努力で病気を治すという意識を持たせる。
  • 地道な努力の積み重ねが大切であり、劇的な変化を求めないよう指導する。
  • E&RP操作は慣れるための訓練、治療であるという意識をしっかり持たせ、やっている事の意味をよく理解させておく。
  • E&RP操作はいやいややるよりは、覚悟し、意気込んで、武者ぶるいしてやる方が良いのでそのような態度をとるよう指導する。
  • 治療中、辛抱、我慢という言葉を自分に言いきかせるようにさせる。
  • くじけそうになったら病院でのつらいE&RP操作の体験を思い出させ、あれだけの事をやったんだからと自分で励ますようにさせる。
c.患者への対応の仕方

基本的には、患者に対しては暖かく、しかし厳しくという態度をとる。

  • 患者が指示を守り、家庭でE&RP操作ができた時は賞賛し、更なる実践を激励する。まず、“良く頑張った。”と賞賛し次いで“つらかったでしょう”と同情しねぎらう。更に“その努力が病気を治すんですよ”と述べ“これからも頑張るように”と激励する。この4つをセットにして、毎日対応する。
  • 患者が指示を守れなかった時は、実践しようとした努力は評価し、できなかったことを一緒に残念がる。次いで、何故実践できなかったかを検討する。その際、家庭でのE&RP操作の実際を詳しく報告させる。患者によっては、指示と似て非なることをやっている場合や、指示以上のことを勝手にやって失敗しているケースもある。時にはやり過ぎを抑えることも必要となる。
  • E&RP操作によるSUDの変化、症状の変化を患者と共に検討し、良くなっている点を一緒に喜ぶ。記録をグラフ化して視覚的に改善が確かめられるようにすることも役に立つ。
  • 治療初期では、患者は良くなった点よりもまだ続いている症状の訴えを多くするものである。このような時は、治療により良くなった点や本人が努力して抑えている症状などに目を向けさせ、E&RP操作の効果を認識させるようにもって行く。
  • 治りが悪い時は、思い切ってフラディングを行なうようすすめるのも良い。
  • 病院での治療後2〜3日は家庭での実践はできるがその後自然にできにくくなるという人の場合、来院間隔を短くすること以外に電話による激励を行なうことも効果がある。しかし、患者の方から治療者に自由に電話することを許可するとちょったした事で保証を求めてきたり、依存的になったりすることがあるので、原則としてこれは認めない方が良い。
  • 治療が順調に進み、恐怖、強迫症状が弱まっても、患者に対し安易に“治った”とは言わない方が良い。本人に我慢しているという意識が少しでもある限りは、“よく頑張っている”と努力を評価した方が良い。
d.家族の協力

病院で首尾よくE&RP操作ができたからといって誰もが家で簡単にE&RP操作ができるわけではない。家庭での治療でどうしても家族の協力が必要な人も多い。

  • 患者が青少年の場合は、特に母親の協力が重要である。母親が家庭で積極的に治療者の役割りをとる程治療効果は良い。
  • 患者が既婚者の場合は、配偶者の協力が重要である。患者を実際に監視しなくても、患者がE&RP操作をやっているという事を配偶者が知っているだけでも効果がある。そのためにも治療導入時に配偶者を治療場面に同席させ、治療の目的とやり方についてよく理解、納得してもらっておく必要がある。
  • 家族がより積極的に治療に関与しなければ家庭でのE&RP操作がなされないケースでは、配偶者が患者に対して弱すぎたり、優しすぎる場合や配偶者自身が強迫症状を持っている場合は配偶者は治療者として不適切である。その場合は、友人を治療者にしたり、配偶者の実家(本人の実家はダメ)で生活させながらE&RP操作を行なわせると良い。
  • 夫婦不仲で、夫のさわったものが汚いという洗浄強迫者では、E&RP法適応用前に夫婦関係の調整あるいは別居、離婚といった問題解決が必要である。
C.治療操作の実際例
症例 症状 主な治療操作
No1 17才女
罹病6年
トイレ関係の汚さへの恐怖と洗浄強迫。1回の用便に2時間半かかり、トイレットペーパーを3巻使用 便器の蓋と便座をさわらせるフラディング。足で便器を踏ませ、靴を替えさせない。トイレットペーパーの制限 (10→8m)と時間制限(30→15分)による用便指導。家から汚いものを持参させ、それを用いたE&RP。
No2 21才女
罹病1ヶ月
トイレ関係の汚さと金属の錆への恐怖と洗浄強迫。 診察室の床、トイレのドア、便器の蓋をさわる段階的E&RP。鍵、蛇口、錆のついた排水管をさわるE&RP。途中より家で一切、手洗浄しない全反応妨害法。
No3 38才女
罹病6年
a.トイレ関係の汚さへの恐怖と洗浄強迫。
b.水道水への殺虫剤混入の疑惑と水のくみ直し
a.便器の蓋と便座にさわるフラディング。用便後以外の手洗い禁止指示。ゴミ箱をさわるE&RP。
b.殺虫剤希釈液を作る練習。殺虫剤のビンの近くで水仕事をさせ、やり直しをさせないE&RP。
No4 23才男
罹病6ヶ月
a.ポマード、カビ、服の汚れ、他人のツバへの気持ち悪さと洗浄強迫。
b.車への運転中、事故を起こしたのではとの疑惑と確認強迫
a.家で一切、手洗浄をしないという全反応妨害。カビの生えた汚れた服の着用指示。地面に硬貨を落としそれを拾うE&RP
b.運転中、気になっても車を止めたり引き返したりせず。ルームミラーで1回確認するのみで行き過ぎる訓練。
No5 28才女
罹病1年6ヶ月
a.水道水に汚物が混入しているのではという強迫概念と水のくみ直し。
b.トイレ関係の汚さへの恐怖と洗浄強迫。
c.ガス、ストーブ、アイロンその他電気製品コンセントの確認強迫。
a.まず水道水に対するE&RP。手洗浄、洗顔、茶碗やタオルの水洗いを反復せずに短時間で済ませる訓練。
b.便器の蓋、外をさわるフラディング。
c.まず家の外の風呂釜を1回の確認で済ます訓練。次いで電気製品。最後に台所のガスの元栓を1回の確認で済ます訓練。最初は夫に指示してもらい、その後一人で。
No6 37才女
罹病8ヶ月
暖房器具、灰皿、電気製品のスイッチ、プラグの確認強迫。 朝、電気製品のスイッチをオンにし、出勤する時にそれらをオフにしてすぐに外に出る訓練。昼と就寝時にも。まず、テレビ、電気スタンドから始め、コタツ、ドライヤー、更にアイロン、石油ストーブと段階的に上げて行き、最後に職場のストーブへ。段階的E&RP。
No7 15才男
罹病3年
神仏を冒涜する内容の強迫概念とそれらの打ち消し、謝罪行為。 意図的に神仏を冒涜する内容の強迫概念を集中的に惹起するイメージによるフラディング。お守りを靴に入れて踏んだままで生活させるin vivoフラディング。

VII 治療結果

1.治療成績(筆者)
  • 治療に導入できた強迫神経症者ではE&RP法の効果は有効以上が約75 %であった。
  • 治療期間は3カ月〜2年、平均8カ月であった。
  • 半年以上の追跡調査では、治療終了時の状態が維持されていたものが1/3 、治療終了時より更に症状改善が進んでいたものが1/3 、軽い悪化、再発が見られたものが1/3 であった。悪化、再発側では治療終了時の症状改善が十分でなかった確認強迫者が多かった。
  • 治療結果と症例の特徴との関係では発病年令が若いものでは効果が良く、優格観念を有する例と治療開始時に服薬を中止できなかった例では効果が低かった。強迫症状の種類、罹病期間、重症度は関係なかった。
  • 治療結果を左右した最大の要因は、家庭におけるE&RP操作の実践度であった。家庭でよくE&RP操作を実践したもの程、治療結果が良かった。
2.治療による症状の変化
  • 治療初期はE&RP操作を行った部分しか良くならない。
  • 治療がある程度進むと、E&RP操作の対象としていない他の状況でもSUD が下がり、反応妨害しやすくなる。この時期になると患者の実感として生活が楽になったと感じられるようになる。
  • 回避行動の強いケースでは、治療が進み生活の範囲が広がるにつれて、かえって一時的に強迫症状が増えることがある。
  • 複数の強迫症状を持っているケースで、一種類の強迫症状がE&RP法により減少すると、他の強迫症状も自然に減少することがある。
  • 家庭でのE&RP操作により“つらい”と抑うつ的になることがある。しかしこれは治療初期だけの現象である。
  • 強い強迫刺激への暴露により恐怖が感作され、治療が一時的に後退することがまれにある。
3.治療困難例

E&RP法の効果が出るか否かは、優格観念のように症状の特徴が関係することもあるが、主として家庭におけるE&RP操作の実践の程度による。治療期間中、家庭での治療実践を高める努力を行ったにもかかわらず次のような症例ではうまくいかなかった。

  • 知能が低い患者、このような患者では恐怖に対する不合理感が乏しく(優格観念に近い)、かつ、治療の目的、治療操作の意味が十分には理解されなかったようである。
  • 指示を出してもE&RP操作を全くやろうとしないばかりか、症状の記録すら行わない患者。このような患者は家族から無理矢理病院に連れて来られたケースが多く、強力な治療的働きかけを通しても本人の治療意欲を高めることができなかった。
  • 親や配偶者から、食事、入浴、用便など生活全般にわたり介助してもらわなければならない程、家族に依存的になっている重症の洗浄強迫者。このようなケースでは家族が治療者としての役割をとることが困難であった。
  • うつ病ではないが、終回、臥床し、生活全般に無気力になっている患者。このような患者では治療に対しても意欲が見られない。
  • 病院でのE&RP操作中の反応が不自然な患者。例えば、左程強い恐怖刺激を用いている訳ではないのに、SUD 100と報告したり、どんなに長時間E&RP操作をしてもSUDが全く変化しなかったり、ニコニコ笑いながらもSUD高得点を報告する人である。このような患者ではE&RP操作に拒否的に反応しているものや、強迫行為が単に好き嫌いという次元で行われていたり、自分の感情を正確に評価することのできない人達であったと思われる。
    家庭でのE&RP操作ができなかった患者では上に述べた特徴をいくつか併せ持っているものが多かった。
4.入院治療が必要なケース
  • 回避行動が強い、強迫欲求が強い、強迫症状の頻度が高いなどの重症例で、家庭に治療に積極的に協力できる人がいない場合。
  • 患者の家族に過度に依存的になっており家族が治療者の役割をとれない場合。
  • 短期間で早く治りたい場合。
5.E&RP法の問題点
  • 患者にとって苦痛を伴う治療法である。治療をしなければ強迫症状による苦痛が長く続くことを考えれば、治るためのある程度の苦痛はやむを得ない。
  • ドロップアウト
      苦痛を伴う治療法であるため、治療の初期にドロップアウトが起こることがある。E&RP法の導入をあせったり、暴露刺激を上げ過ぎたり、家での治療で難しい課題を与えたり、圧力をかけ過ぎたりするとドロップアウトにつながり易い。
  • 恐怖の感作
      強い恐怖刺激を用いたE&RP操作でかえって恐怖の感作が起こることがある。しかしこれは一過性であり、治療初期に起こりさえしなければ治療全体への影響は左程ない。
  • E&RP法は治療者にとっても手間ひまかかる治療法である。しかしこれは治療が軌道に乗るまでの期間だけである。
6.E&RP法における治療者の役割(まとめ)
  • 反応妨害因子
    患者に恐怖刺激に直面させ、言語的、身体的に強迫行為をさせない働き。
  • モデル
    暴露後、恐怖を示さないモデルとして、また強迫行為に変わる適応的、常識的行為を教えるモデルとしての働き。
  • 不安の拮抗因子
    E&RP操作中、患者の側に居て安心感を与える働き。治療初期には言葉による安全の保証を与える働き。
  • 家庭でのE&RP操作実践の強化因子賞賛、激励、時には圧力をかけることにより家庭での治療実践を行わせる正、負の強化子としての働き。
  • 非持異的因子
    同情、共感、支持

VIII おわりに

E&RP法を外来で行う場合、その効果が出るか否かは家庭におけるE&RP操作の実践にかかっているということはくり返し述べた。ここで、家庭での治療実践に関与する要因を改めて考えてみたい。治療実践に関与する要因として、まず①症例の特徴があげられる。恐怖が強い症例や強迫症状の頻度が高い症例では当然、家庭でのE&RP操作は困難であろうと想像できる。次いで、②患者本人の治療意欲*が問題になる。これはどんな治療法においても結果を左右する大きな要因であるが、患者自らが自分の恐怖、強迫欲求と能動的に闘う必要のある本技法においては特に重要な要因となる。
  家庭でのE&RP操作の実践度に直接影響する治療者側の技術的要因として、③病院でのE&RP操作の結果と④家庭での治療実践指示の2つがあげられる。病院でのE&RP操作で一定時間、強迫行為が我慢できたという経験と、恐怖は時間の経過と共に弱まるものだという経験をした患者では、それらの経験が十分できなかった患者に比べ、その後の治療実践に取り組む姿勢に差が出るであろう。また、家庭治療における暴露刺激の選択を始めとする指示内容とそれらの出し方、患者への対応のし方、その他さまざまの工夫など、狭義の治療技術も家庭における治療実践に大きく影響する。最後に、⑤家族の協力も重要な要因としてあげなければならない。どんなに重症の患者であっても、本人に治療意欲があり、家族が治療者としての役割を積極的に果たしてくれれば、家庭でのE&RP操作は十分に可能である。
以上の5つの要因が家庭でのE&RP操作の実践度に影響すると思われる。このうち、治療者側の技術的要因として、今、③、④の2つだけをあげたが、②患者本人の治療意欲と⑤家族の協力も治療者の働きかけによってある程度は動かしうるものである。その意味では、これらも広義の技術的要因に含めることができる。実際、患者にE&RP法の有効性を説明して期待を持たせることや病院でのE&RP操作の結果を患者に積極的にフィードバックすることは、患者本人の治療意欲を高めることになる。また、家族に関しても治療法をよく理解させ、期待を持たせ、治療者として働くことの必要性を説くことで、治療に参加させることが可能である。
このように考えると、家庭でのE&RP操作の実践は治療者側の工夫と努力により大きく動かしうるものであるといえる。
多くの場合、患者は病院を受診するまでに家族から強迫行為を止めるようにさんざん注意されており、自分でも努力して止めようと何度も試みているものである。しかし、それにもかかわらず強迫症状は持続することが多い。これに対し、同じように強迫行為を止めるよう指示するE&RP法は何故有効なのであろうか。それは、治療の場において上に述べた②〜⑤を総合的にかつ計画的にうまく操作するからである。その操作のし方こそが治療技術なのである。筆者はこの解説書において、②〜⑤のそれぞれについて自分の治療経験を通して得られた技術的要点をできるだけ詳しく述べた。
強迫神経症に対するE&RP法の治療効果を更に高めるためには、今後もそのような細かい治療技術を積み上げ、洗練していくことが必要だと思う。

*注:行動療法の枠内で治療意欲という概念を持ち出すことは不適当とは思うが、ここでは論をわかりやすくするために敢えて用いた。

林田正人先生のご好意によりこの貴重な資料をWeb上に公開させていただきました
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Last updated: 01/20/2008 08:03:22
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