アクセプタンス・コミットメントセラピーについて

アクセプタンス・コミットメントセラピーとはなにか?

ACTは,「第三世代」に属する行動療法の一つである。
一般用語で人の心と呼ばれているもの,一般用語としての「意識」は,言語行動によるものである。言語行動に関する基礎的な研究であるルール支配行動や関係フレームに関する理論に基づいたものがACTである。

言語をもつ人間は,問題を解決するために言語をもっぱら使用する。その結果,本来は解決のためには実際の経験が必要であるものに対しても言語を使おうとする。それが,実はかえって苦悩を生んでしまい,逆に問題を深くしてしまう。比喩的に言えば,心それ自体は,環境を克服するための「すばらしい道具」であるが,しかし,その道具である心が,主人である人間に刃向かうようになるというおかしな状態であると言える。心が人に逆襲するとは,ブレードランナーなどの近未来映画で見られるように,人工的な知的機械が人を襲うようなものである。

非常に困難にみえる精神的問題に対して,それをどうやって解決するかについてのアイデアを考え,それを実行したにもかかわらず,皮肉にもさらに慢性的になり,手に負えなくなってしまった,ということが,古代ギリシャ時代や釈迦が生きていた時代から,繰り返し報告されている。論理的な心は,もともと精神的な問題を解決できるようにはデザインされていない。 DSMには200以上の精神疾患が最新の科学的知識をもって分類され,定義され,疫学データが表記されている。このホームページを見ている方は,当然文盲ではなく,日本語の読み書きができる。これを当然と思っている思っている人が普通だろう。ところが世界に居住する人々が話す言語8千〜1万語に対し,文字を使用している言語は,僅かにその8%にしかあたらない。しかもその文字はせいぜい5000年の歴史しかない。日本人の大半が文字を読めるようになってからではせいぜい100年だろう。人類が地球に誕生して5百万年程度が経過している。精神的な悩みの歴史の長さからみれば,言語,とくに文字の歴史の長さはとるに足らない。人類が遭遇した過去数十年間の問題ならば,言語で解決できるかもしれない。それ以上古いものはおそらく無理である。

非文明的・原始的と差別される先住民は採集狩猟民であり,農耕や牧畜の伝統がなく,文字や数字を持たない。文字を持たないことによる最大の不利は大きな数字を表記できないことである。文字がなければせいぜい指で数えられる10ぐらいが最大の数字になり,それ以上は数えられないぐらい多い,とひとまとめにされる。数の数え方が「ひとつ」「ふたつ」「たくさん」という民族すらある。彼らにとっては,3つ以上の心の悩みは全てたくさん悩みがあるということなのである。 200以上も悩みを数えられることができる知的な現代日本人は,数えられることによって幸せになるのだろうか?

言語はもともと心の悩みを解決する目的のために設計されていない。言語にできるはずのないことを言語をもつ私たちは要求している。DSMもその名前のごとく,診断と統計のマニュアルであって,治療のマニュアルではない。ところが,私たちは,診断と統計があれば,治療マニュアルが当然存在するがごとく誤解する。このような皮肉な状態が生じてしまったのは,心が解決をしようとした努力の結果である。苦悩とはそのような”作られた”ものなのだ。
アイヌ語には文字がない。アイヌ勘定という言葉がある。「アイヌは数字の数え方も知らない,和人より劣った民族である」ということを連想させるために作られた言葉である。最も典型的な話は「和人がアイヌと交易をする時に,サケの数を,始まり,1,2〜10,終わりと数えて12匹分を手にしながら,10匹分の金しかアイヌに払わない。それでもアイヌは数の数え方を知らないから,だまされてもわからない。アイヌ語では10以上はぜんぶ10だから。」というものである。私たちは昔のアイヌではないかもしれない。しかし,私たちが私たちを言語のアヤでごかし,だますことは容易であり,日常的にしていることである。

これは,とても奇妙な主張に聞こえるだろう。特に,精神的な問題をなんとかしようとしてACTに触れた人にとっては,そのように聞こえるだろう。一般に,うつ,不安,薬物乱用,トラウマ,ストレス,燃え尽き,慢性疼痛,喫煙などの特定の問題に対して,それをなんとかしようとする場合,文字を読める人はインターネットを代表にする文字情報に助けを求める。平均的な人にとって,こういった問題の克服は,文字情報による解決方法の探索と結びついている。たとえば,ストレスを克服するには,まずストレスに満ちた感情を取り除く,禁煙をするにはタバコを吸いたいという衝動をなくす,不安障害を克服するには不安対処の方法を学んだり,考え方を変化させることを学んだりしなければならない,とおそらく全ての文字情報には書いてある。そのような対処方法が一般的なものである。

ACTは目標と手段とを注意深く区別していく。そしてよりよい生き方へ導いてくれるはずの多くの常識が,現代の心理学理論(特に行動分析学)では,実はリスキーで不必要なものとされていることを示す。ACTはそのような心理学理論に基づいた新しい捉え方である。

関連情報

単行本 <あなた>の人生をはじめるためのワークブック―「こころ」との新しいつきあい方アクセプタンス&コミットメント(単行本) S.C.ヘイズ(著), S.スミス(著), 武藤 崇, 原井 宏明, 吉岡 昌子, 岡嶋 美代

Detalied presentation in English

Power point sliedes and other related with Acceptance and Commitment Therapy
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International Congress of Behavioral Medicine 2008, in Tokyo, Japan Power Point slide Power Point slide

Revised: 2008/09/01
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