認知行動療法事典:介入技法 エクスポージャー(草稿)

エクスポージャーは不適応的な行動や反応をおこす刺激にクライエントをさらすあらゆる方法を指す。他の方法と同時に用いることが普通である。不安階層表を使うことをほとんどの治療ガイドラインが指示している。飽和技法の場合は同じ言語刺激を再生機器で反復する。系統的脱感作では筋弛緩や主張行動などの不安拮抗反応をさせる。強迫症に対するERP(Exposure & Ritual Prevention, エクスポージャーと儀式妨害)の場合は、エクスポージャー後の儀式行為を禁止する。逆に言えばエクスポージャーはそれ単体で独立した治療技法ではなく、様々な治療パッケージの中に頻繁に含まれる一つの要素である。本事典の中でも“エクスポージャー”が100回以上出現する。

エクスポージャーの歴史

恐怖を克服するためには恐怖の対象に立ち向かわなければならないということは古代から知られている。森田療法には恐怖突入、フランクルのロゴセラピーには逆説志向という考えがあり、いずれも自発的に自らを恐怖にさらすことを含んでいる。学習心理学によって情動条件づけのメカニズムが明らかになり、恐怖に対する治療法として行動療法が1950年代に始まった。この時点では脱感作やフラッディング、インプロージョンなどさまざまな名称で呼ばれていた。1969年にマークスがこうしたさまざまな概念をエクスポージャーとしてひとくくりにすることを提唱した(Marks, 1969)。CBT研究法の一つが治療パッケージの中から一つ一つの部品を外して効果を比較する解体研究(Dismantling study)である。たとえば最初に成立したCBTの治療パッケージの一つである系統的脱感作について解体研究を行った結果、たとえばパニック症については筋弛緩をしないほうが効果が高いことが分かった(Barlow, Craske, Cerny, & Klosko, 1989)。現在では脱感作などの用語は使われなくなり、エクスポージャーに持続やイメージなどの形容句を付け加えることが普通である。

一方、エクスポージャーは単に手続きを意味するだけであり、これだけで治療になるとは限らない。逆に不安を条件づけ、悪化させる場合もある。十分な時間をかけなかった場合、安全確保行動などの見えない回避行動をそのままにさせていた場合によく起こる。強迫症の場合、儀式妨害が強調されるのはエクスポージャーのセッションが終わった後の手洗い・確認を自由にさせると症状を悪化させることになるからである。

エクスポージャーと認知

エクスポージャーの中でも期待やセルフエフィカシー、安全確保行動などの認知的要素が扱われる。心の中の儀式を行っている強迫症の場合には認知的エクスポージャーと儀式妨害を行うことになる。こうした技術はベックの認知療法はまだ世にない1950年代から使われていた。CBTでいう“認知”と認知療法で言う“認知”は意味が異なる。

治療の妨げ

エクスポージャーに対するもっとも大きな障害あるいは誤解は今まで避けていたものや経験、情動にさらされることで過去に経験したことがない大変なことが起こるかもしれないという予期不安である。この不安は治療者側の中にもあり、精神病を発症する、PTSDになると思い込んでいる専門家がよくいる。治療者自身が実際のエクスポージャー場面を見学して根拠のない予期不安を払しょくすること、エクスポージャーの必要性を自身自分が理解していながら予期不安のために前に進めない患者に対して動機づけ面接を使えるようになることが必要だろう(原井, 2012)。

【さらに詳しく知るための文献】

Sisemore, T. A. (2015). セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック : その実践とCBT、DBT、ACTへの統合. (坂井誠, 首藤祐介, & 山本竜也, Trans.). 創元社.

Richard, D., & Lauterbach, D. (20016). Handbook of Exposure Therapies. Elsevier.

【参考・引用文献】

Barlow, D. H., Craske, M. G., Cerny, J. A., & Klosko, J. S. (1989). Behavioral Treatment of Panic Disorder. Behavior Therapy, 20, 261–282.

Marks, I. M. (1969). Fears and phobias. Academic Press.

原井宏明. (2012). 方法としての動機づけ面接. 東京: 岩崎学術出版.

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