2008年11月2日日本行動療法学会第34回大会自主シンポジウム「エクスポージャーの実際と理論~変わらない実践と変わる理論的背景~」

「エクスポージャーの歴史と理論への期待」
原井宏明 なごやメンタルクリニック,国立菊池病院

「エクスポージャーの実際 ~儀式妨害と内部感覚エクスポージャー」
岡嶋美代 なごやメンタルクリニック

「恐怖反応の消去操作としてのエクスポージャー法 ~条件づけの基礎研究と行動療法を再びつなぐ」
中島定彦 関西学院大学文学部総合心理科学科

「強迫性障害とエクスポージャー ~「阻止の随伴性」から考える~」・指定討論
奥田健次 桜花学園大学人文学部

エクスポージャーの歴史と理論への期待

原井宏明

Borkovec T(2007)によれば,行動療法は#1 現時点でベストの理論と原則を出自にこだわらず用いる,#2 実証的・実験的証拠に基づくことのみ主張する,によって特徴づけられる。1959年にEysenck, HJが行動療法という名前を用いた時点では,学習理論が人間の行動,情動を説明するベストの理論であった。拮抗条件づけや消去,反応制止,逆制止を理論的説明に用いた系統的脱感作が考案された。系統的脱感作のDismantling研究によって生まれたのがエクスポージャーである。この概念は理論から生じたものではなく,行動療法の#2の特徴から生じたものだと言える。#1については,“認知革命”以降,さまざまな理論が出現したが,いずれもメンタリスティックな構成概念である。これらは後づけの理由づけには役だつが,行動の予測や制御には役立たない。

エクスポージャーは実際の効果についての十分な実績を持つ。実践のなかで工夫を重ね,効率的かつ永続的に不適切な行動・反応を減弱させることができるようになった。一方,この先,治療の進歩には実証的証拠に加えて,機能する理論が欲しい。

学習理論はこの50年間に大きな進歩があった。コンテキスト条件づけや刺激等価性,行動経済学,スケジュール誘発性行動,Autoshaping, Sign-Tracking, Behavior-system, Core affect, 価値条件づけ,Herrnsteinのマッチング法則,進化生物学など種々の発見や新しい概念がある。臨床家にとっていずれも魅力的である。たとえば,次のように言い表したくなる。

エクスポージャーを行うとき,条件刺激(conditioned stimulus, CS)を細かく把握することよりも無条件刺激(unconditioned stimulus, US)を把握することがより重要である。そうすればUSをエクスポージャーの中に組み込み,無条件反応としてのCore affectを引き出し,効率的に条件反応( conditioned response, CR)の消去ができる。そして,スケジュール操作とCRの消去が起こるまでの間にSign-Trackingを誘発することで,エクスポージャー行動をAutoshapingできる。

儀式妨害と内部感覚エクスポージャーの実際

岡嶋美代

原井・岡嶋はこれまで様々な疾患にエクスポージャー療法を用いた症例を本学会で発表してきた。エクスポージャーは儀式妨害とともに不安障害を治療する上で欠かせない。一般的なエクスポージャーは患者が日常生活で避けている状況(乗り物や不潔物など)に対して行われることが多い。現実には起こせない状況(火事や感染症,雷など)にはイメージを用いることもある。一方,我々がエクスポージャーを行うときには中核とみられる不快情動を引きだして,その情動に馴化を促すようにしている。

情動条件づけは多くの場合,身体内部感覚の変化を随伴している。たとえば排泄物や悪徳への嫌悪感(吐き気・過呼吸・背筋が凍る感覚など)や、対人場面での緊張(喉のつまり、発汗、紅潮など)に悩む患者は,これらの情動や感覚自体がエクスポージャーの対象である。

このようなエクスポージャーを集中的に行う行動療法カウンセリングを1~2週毎に1回1~数時間、または8時間を2日間連続して行うなどの形で,一人の患者について平均6回行っている。多くの患者はこれで寛解水準に達する。治療計画やエクスポージャーのアイデアは患者や状況に合わせたテーラーメイドである。

状況に対するエクスポージャーではパニック障害や強迫性障害,社会不安障害など疾患毎に行うことになる。一方,どの疾患も特定の情動に対する恐怖症であるすれば,治療方針は共通する。本シンポジウムで診断を越えたエクスポージャーの共通メカニズムについて議論していただけることを期待している。

恐怖反応の消去操作としてのエクスポージャー法
条件づけの基礎研究と行動療法を再びつなぐ

中島定彦

恐怖症を治療するため恐怖喚起刺激に繰り返しさらすエクスポージャーは、条件性情動反応の消去操作と等しい。条件づけに関する基礎研究は現在でも盛んに行われており、既存の理論の見直しや新しい理論の提唱、新現象の発見などが続いている。しかし、それらが行動療法の実践家に十分に伝わっているとは言いがたい。本発表では、レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)の消去に関する主要な理論と、消去後に見られるさまざまな反応復活現象を紹介し、エクスポージャーについて考える手がかりを提供したい。

消去の行動メカニズムについては、さまざまな理論が提唱されてきた。それらのうち主要なものは、(1)連合の喪失(学習の解除)、(2)般化の減衰、(3)CSの馴化、(4) US表象の劣化、(5)反応制止の形成、(6)制止性連合の形成、の6つであるが、これらのどれか1つで消去現象をすべて説明するのは困難であり、複数のメカニズムが関与していると思われる。

消去した反応はその後、復活することがある。Pavlov (1927)の報告した (a)時間経過による自発的回復(自然回復, spontaneous recovery)効果や、(b)外的刺激の呈示による脱制止(disinhibition)効果がよく知られているが、Bouton & Bolles (1979a, 1979b)が初めて体系的に研究した、(c)消去後に異なる環境(背景文脈, context)でCSを呈示することで反応が復活する復元(renewal)効果、(d)消去後にUSを単独で与えてからCSを呈示することで反応が復活する復帰(restatement)効果についても、この30年間に数多くの実験が行われ、理論的考察が深められてきた。

エクスポージャーを消去操作とみなせば、最も速く恐怖反応を消失させる手続きを動物や人間での実験結果や消去理論から推し量ることができるだろう。また、各種の反応復活効果に関する知見は、治療後の恐怖症の再発を防ぐヒントになるだろう。

強迫性障害とエクスポージャー
―「阻止の随伴性」から考える―

奥田健次

強迫性障害の症状を強めたり弱めたりするための要因を明らかにしたのは、行動療法によるアプローチからの貢献が大きい。しかしながら、強迫性障害の発症メカニズムについては依然として不明な点も多く、行動療法でよく用いられるエクスポージャーについても、実際にはどのような操作を行っているのか緻密な分析が行われているとはいえない(「習慣の随伴」や「自動化」などの説明は曖昧である)。

奥田(2007;未公刊)は、強迫性障害とエクスポージャーを『阻止の随伴性(杉山・島宗・佐藤・マロット・マロット, 1998)』の観点から分析した。阻止の随伴性の特徴は、人間が注意を集中し続けるのに役立つ側面がある(杉山ら, 1998)。

こうした側面は次のように換言できる。人間が注意を強迫的に集中し続けて、ある特定の行動を強迫的にし続ける行動随伴性がある。それが、「嫌子出現阻止による強化」と「好子消失阻止による強化」である。例を挙げると、直前条件「やがて泥棒に入られる」、行動「何度も戸締まりを確認する」、直後条件「泥棒に入られない」といった随伴性である。この例の場合、「やがて泥棒に入られること」が嫌子である。一方、エクスポージャーの手続きについては、それまで「阻止の随伴性」で強化されてきた行動に対して、「消失の随伴性」に移行させているのかもしれない。また、そこには馴化や消去の作用がある。これらはすべて、オペラント条件づけとレスポンデント条件づけの枠組みとして簡易に記述されるべきである。

検討すべき問題としては、阻止の随伴性における好子や嫌子であろう。「やがて起こりうる可能性」が直前条件として十分に機能している。これは、言語刺激(ルール支配行動を含む言語行動)かもしれないし、ある種のレスポンデント行動を引き起こす条件刺激であるかもしれない。討論にて一つの“考えるよすが(food for thought)”を提案できれば幸いである。

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