草稿:心理的支援(動機づけ面接も含めて)

関節リウマチ看護ガイドブック
第2 部 実践知識編 第3章 生活者としての患者に寄り添う看護
羊土社

Point

  1. 動機づけ面接はコミュニケーションのスタイルの一つである、診療に限らず職場でのやり取りにも使える
  2. 一般的な“ムンテラ”や支援、教育指導、認知行動療法とは違う
  3. 動機づけ面接はランダム化比較試験によって選ばれ、成長してきた
  4. コアなスキルとしてOARSがあり、面接を進めるガイドとして4つのプロセスがあり、常に維持すべき態度としてスピリットがある

 

支援の目的

医療者としてあなたが患者と関わるとき、あなたはどんな立場をとっているだろうか?経験と知識を兼ね備えた専門家として迷う患者を指導するだろうか?それとも患者の自主性を最も重要なものとして、患者の要求に合わせるだろうか?この2つを場合によって使い分けるという人もいるだろう。患者が標準的な治療から外れることを要求する場合は前者、治療の選択肢が複数あり、どれかが絶対に正しいとは言えない場合は後者というようにする。

では、あなた自身が患者になったと思って欲しい。医師・看護師が病気になり、患者としてやってくると扱いにくい患者になるのは誰でも経験があるだろう。そういう患者になったつもりになってほしい。たとえ治療ガイドラインから外れていても自分としてはベストだと信じている治療法を、眼の前にいる専門家が「その治療はもう古いです。最新のガイドラインではこうなっています」と否定したらどう思うだろうか?自分自身でもどの治療がベストなのかわからずに迷っているとき、眼の前にいる専門家が「ご自身で決めることが一番良いです。なぜなら、あなた自身が長い経験をお持ちの専門家なのですから」と言ったとしたらどう感じるだろうか?

動機づけ面接(Motivational Interviewing, 以下MI)はこうした場面での患者側の戸惑い、医療者側のフラストレーションに対する一つの答えである。もともとは大量飲酒者に対して依存症の治療を受けさせることを目的としたMiller1)らによる認知行動療法の研究開発から始まった。結果は意外なものだった。当初考えていた教育指導などの認知行動療法は大量飲酒者を治療動機づけすることには無力だった。それよりも患者の立場を尊重しながら、的確な質問をし、なんども聞き返し、会話をまとめていくことがもっとも効果的だった。入院中でも隠れて飲酒するような患者が予想外の方法で変わっていくようになったのである。そんな予想外の方法を一つの治療法とみなして、依存症を対象にしたランダム化比較試験であるProject MATCHなどで認知行動療法や12ステップ、薬物療法などと比較するようになった。こうするうちに予想外のところから生まれてきた非特異的な治療法から、評価と訓練が可能な特異的な方法に変わってきた。実は創始者のMiller自身、最初のスタート時点では自分がどんな面接をやっているのかがよくわかっていなかったのである! 一見、Carl Rogersのクライエント中心アプローチの一種のように見える、非特異的な面接法を具体的に記述する試みをMIと呼ぶことができる。

使われる技法はごく簡単な4つだけである。Open Question(開かれた質問)、Affirm(是認)、Reflection(聞き返し)、Summarize(サマライズ)である。MIではこの4つの頭文字であるOARSを使い続けるようにする。

支援の実践法

MIをどう行うか、教えるかはこの30年間に変化し続けている。最初はFRAMES(フィードバック、責任、アドバイス、選択肢の提示、共感、自己効力感)だった。次は4つの原則(共感表出、矛盾模索、抵抗転用、自力支援)2)としてまとめられた。今では4つのプロセス(関わる、フォーカスする、引き出す、計画する)としてまとめられている。

問題を否認する大量飲酒者は一般の医療機関では扱いにくい患者である。タバコを吸いながら毎晩晩酌をしている中年医師がリウマチ外来を受診したとしたら、誰でも扱いにくい患者が来たと思うだろう。このような患者が「とにかくステロイドを出してくれ」と言ったとしたらあなたはどう応じるだろうか?

a. まずタバコとお酒をやめることが先決です。最新のガイドラインではステロイドについてはこのように評価されています、副作用として・・・
b. どうするかはご自身で決めることが一番良いです。ステロイドの作用にもお詳しいようですね

どちらが患者との関わりを続けられるだろうか?答えは簡単だろう。aではおそらく患者は怒って去ってしまうだろう。bなら、患者は怒らずに「そうだ」と頷いてくれるだろう。関節リウマチの辛さを少し話してくれるかもしれない。患者との関わりができたところで、MIではさらにこのように続ける。

c. ご自身で自分にステロイドを処方することも可能なのでしょうが、それでは不安なのでリウマチ専門外来に来ていただいたのですね。餅は餅屋というのをよくご存知だからでしょうし、長年の関節の痛みは自己治療ではどうにもならないところまで来たからでもあるのでしょう。どうでしょうか?リウマチ専門家として私からお勧めできる生活習慣の修正や新しい治療法がいくつかあります。どこからお話しすれば良いでしょうか?

MIではこれを「許可を求める」という。アドバイスをする前に相手が何を欲しているのか、アドバイスを欲しがっているのか確認するのである。また、開かれた質問にして相手を縛らないようにしている。では、もしここで患者が次のように答えたらどうだろうか?

d. 自分でもタバコと酒が問題だと思って何度も減らそう、やめようとするのだけれど、いつも失敗するのです。でも関節リウマチが辛い。専門外来に行こうと思って、あるクリニックを予約しようと受付に電話したら「喫煙者お断り」と言われてしまって。結局、予約をキャンセルしたのです。この病院では喫煙者にもバイオを出してくれるのですか?

あるいは次のように“生活習慣”という一言で反発してくるかもしれない。病院で生活習慣と聞くとたいていの人が“特定保健指導”を思い浮かべ、あれこれお節介なことを“指導される”と思っている。

e. 生活習慣病?この腹回りを見てそう思ったわけね。自分の体をどうしようが私の勝手でしょう。とにかく仕事ができるようにしてくれ。

MIはこの二つに聞き返しを使う。dの場合でもすぐに「はい、禁煙外来に通っていただき、タバコを止められたらバイオを出してリウマチを寛解させましょう」とは言わない。eに対して言葉に詰まったりしない。

d’. バイオの効果に期待しておられますね。一方で生活習慣の修正を条件にされるとそれは無理、と諦めておられたのですね。やめたいのにやめられないというのは誰しもあることです。習慣は癖です。意思は必要ですが、それだけではいくら強くてもハンドルのついていない大排気量のスーパーカーのようなものです。ちょっと賢いやり方を今、指導することもできますし、まずとりあえず今使える薬を考えて次の再診時に専門の先生を紹介することもできます。

e’ 仕事が一番、自分の健康は後回し、紺屋の白袴を地で行っておられますね。

d’は相手の問題に診断名をつけることを避け、誰にでも身に覚えがある「やめたいのにやめられない」問題に引き寄せている。ノーマライズと呼んでもいいだろう。そして本人は直接口にしていない、心に秘めている気持ちを言葉にして聞き返している。MIはこれを複雑な聞き返しと呼ぶ。正確な共感と呼ぶこともできる。次に比喩を使いながら、習慣は意思力の問題ではないこと、細かな行動修正のテクニックの用意があることを示唆している。この場合でもセルフモニタリングやパブリックポスティング、随伴性制御などのすぐには理解できない専門用語を使ってテクニックを具体的に説明することを避け、まず患者が興味を示すかどうかを見極めている。さらに選択肢が二つ以上あるようにして、相手が自分で自発的に選ぶ行動を促すようにしている。

e’はそのまま聞き返しだが、比喩を使っている。医者の不養生と言っても良いだろう。タイミングの良いたとえ話は相手の抵抗を和らげる効果がある。かかわりを保つことができれば、「私の勝手でしょう」と言い放つ患者であっても、どこかで最後に「バイオを出してくれないか」と言い出すだろう。

MIはどんな場合でも相手に合わせながら、相手にそっと手を添える。そしてその優しい手の力のかけ方の方向とタイミングを調整して、患者にとってベストな方向に行動が変わっていくようにする。自分で決められずに迷い、助言に頼ろうとする患者には、積極的に助言し行動の変化を促す。その場合でも相手のプライドあるいは依存心をそのまま受け入れ、本人しかわからない本人なりの価値観と判断を引き出す。自らの意思で自分の道を決めたという感覚をもってもらえるようにする。実は有能なセールスマンも同じことをしている。来店した客に微笑みかけ、購買意欲を引き出し、タイミングを来たら営業トークを展開し、顧客の判断を尊重し、最後は“良いものを買えた”とニコニコしながら退店してもらうようにする。セールストークとMIの違いは、前者は営利行為であり後者は利他行動である点である。最近よく見かけるようになったCompassion(思いやり、慈愛)がMIの基本にある。このような態度をまとめて“スピリット”とMIでは呼んでいる。

図 MIの根底にあるスピリット

看護師が知っておくべきエビデンス

MIのエビデンスは動機づけが必要な全ての領域に及んでいる。系統的レビューは200以上ある。主な対象にはアルコールや違法性薬物などの嗜癖領域,気分障害や摂食障害,強迫性障害などの一般的精神疾患がある。また,他の心理療法と違い,糖尿病などの生活習慣病やHIV感染予防のような公衆衛生領域にもエビデンスがある。関節リウマチ患者における薬物アドヒアランスの向上など,身体疾患の治療にも役立つ3)。

司法領域にもMIは応用されている。薬物事犯や性犯罪などは再犯が多い。こうした犯罪に対して厳罰化をしても,刑期が長くなるだけで,再犯予防にも治安維持にも役立たない。矯正施設や更生施設でMIを使うと再犯を減らせる4)。

重要!

MIの原理は簡単であり、知識もさほど必要としない。しかし、実際に使いこなせるようになるためには繰り返しの練習が必要である。会話術の一つであり、英会話を覚えるのと同じと言ってよいだろう。英語の教科書を100冊読んでもリーディングがうまくなるだけで、スピーキングもヒアリングは100%変わらない。実際に会話し、それを誰かにチェックしてもらい、修正すべき点と練習法を教えてもらってさらに繰り返す必要がある。また、どんなに素晴らしく書かれたマニュアルがあったとしても、そのマニュアル通りにやったとしたら結果は残念なことになる。ハンバーガー店に来た客にポテトを売るぐらいのことならマニュアル通りでもそこそこできるだろう。しかし、MIが扱おうとしていることは家や車を売るような大きな判断である。誰と住みたいのか、どこに行きたいのか、予算はどのぐらいか、ローンを組むのか?客が決なければならないことは無数にあり、マニュアルではとうていカバーできない。

逆に一度、身に付けるとMIをいろんな場面で使うことが楽しくなるだろう。病院はチーム医療の場面である。職場に高圧的な上司や話の通じない同僚、現場に向かない後輩がいると答える読者は相当数いるだろう。事務と話が合わないなんてごく普通の経験のはずだ。MIを使えるようになるとこうした場面でもストレスなく日常業務が進められるようになるだろう。

文献

1)          Miller, William R. Motivational interviewing with problem drinkers. Behavioural Psychotherapy. vol. 11, no. 2, p. 147–172.1983,

2)          原井宏明. 方法としての動機づけ面接. 東京, 岩崎学術出版, 2012.

3)          Georgopoulou, Sofia, Prothero, Louise, Lempp, Heidiほか. Motivational interviewing: relevance in the treatment of rheumatoid arthritis? Rheumatology (Oxford, England). 2015, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26515960, (参照 2016-01-24).

4)          McMurran, Mary. Motivational interviewing with offenders: A systematic review. Legal and Criminological Psychology. vol. 14, no. 1, p. 83–100.2009, http://doi.wiley.com/10.1348/135532508X278326, (参照 2016-01-24).

 

 

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