MI-3の翻訳出版について 2019年1月になりました

ミラーとロルニックによるいわゆるMI-3、Motivational Interviewing, 3rd Edition, Helping People Changeの翻訳も最終コーナーに入りました。
9月末に再校を星和書店に送りました。2013年に本を手に入れてから5年。レースに例えれば周回遅れも良いところです。私自身の翻訳業で言えば5年間に別の本の翻訳を3冊出しています。自分で自分を追い越して何をやっているのでしょうか?
一方、翻訳で読み返し、校正でさらに読み返しを続けているうちに次第にこの本が好きになってきました。翻訳の真っ最中は、用語のブレやミラーとロルニックの文章作法の違い、引用の出典の間違いなどに不満ばかりもらしていたことを考えると、何度も読むうちに本に対する私の評価が変わってきたことになります。訳者は普通の読者よりも本を精読します。精読を繰り返して最初よりも良い本だと思えるようになることは、本が本当に良いからでしょう。
でも、なぜMI-3をいい本だと思うのでしょうか?日本語になったこの本を読んでふと気づいたことがあります。

  1. MI-3は人間が癖のようにやる白黒、良い悪いのような二分法を避けるようにしています。動機づけの場合は動機づけあり・なしと分けます。動機づけ自体も外発的・内発的に分けます。MI-3は動機づけがあるかどうかは対人関係の文脈によるものであり、ある人を動機づけある・なしに分類すること誤りだとする立場をとります。説明上、分類が必要な場合でも、二分するのではなく、指示ー案内(ガイド)ー追従のように3つに分けることもできる連続体としています。実例を取り上げる場合もシナリオを3つに分けるようにしています。白黒思考は社会が男女で成り立っているように人間にとっては当たり前の習慣になっていますが、本を読んでいくうちに、その習慣から自然に開放されていくようです。
  2. MI-3には大きな理論がでてきません。MI-2ではSelf-determination theory、いわゆるSDTといった説明のための理論を取り上げていました。MI-3にはありません。この差がはっきりわかるのが索引です。
    索引の中に頭文字だけの略称がどのぐらいあるかをチェックしてみました。MI-3では6です。 AA,やCAT, DARN, Project MATCHなどです。対してMI-2には14もあります。BASICSやAMI, CYT, DCU, GMI, ICT, Project CARES, Project MATCH, SDT, TTMなどなど。この点ではMI-3はMI-1に先祖帰りしたところがあります。MI-1にはAIDS, FRAMES, GGT (gamma-glutamyl transferase), HIVの4つしかありません。理論絡みの略称はMI-1の索引には出てこないのでした。

MI-3はMI-1から始まったMIを普及させる努力の結果を取り込んでいます。それまでの版では両価性があることについて変化のプラス面とマイナス面の両方を聞くことやスケーリング質問、仮想的な質問(ミラクル・クエスチョン)、鍵となる質問などが、いわばMIをするときの必需品、オールマイティーのようになっていました。私自身、MINT Forumで仲間のデモを見ていると決まりきったパターンになっているのをよく見かけました。MI-3では、このようなパターン化したものがMIだと読者が誤解しないようにする工夫があちこちにあります。
人が変わるための道筋は一つでありません。同じ相手に同じテーマで面接する場合、可能な対応はいくつもあるのです。”分かれ道に来たら、とにかく進め”。ヨギ・ベラの名(迷)言です。私の翻訳から、この名言の意味が読者に伝わればと心から祈っています。
MI-3の日本語版を皆さんのお手元に届けられるのは2019年1月になる予定です。詳しい内容について知りたいという方は原井までご相談ください。

どうでもいいトリビア

MI-2の索引にはInternetとWorld Wide Webがあります。当時はどちらも新語だったのでしょう。
MI-3の索引にはこれでもかというぐらい人名がでてきます。Miller, Rollnickはもちろん、Dostoevsky, Moyers, Obama, Yahne…索引の最後(つまり本全体の大トリ)はZuckoff。私が理事会でやりあった(やり込められた)スキナー嫌いのAllan!。関わった人たち、取り上げた人たちへの感謝の意が込められているのでしょう。

2018/10/04 原井宏明

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