2001 菊池アディクション治療プログラム-Kikuchi Addiction Treatment Service略称KATSについて-病院への報告2001年度

原井宏明(医師)
関係スタッフ
田中裕之(OT),竹内良輔(医師),丸尾結香(看護),福山正剛(看護),高木健志(CW),吉村綾(OTR)

国立療養所菊池病院

国立療養所菊池病院での治療プログラムの経緯

依存症は使用開始から問題使用に至るまでに数年間かかることが知られている。日常生活が破綻しておらず,重篤な合併症はなく,入院や入所が不要な患者が相当数あるものと推定される。また,違法性薬物の場合,入院や入所は本人にとって社会生活の破綻を意味する場合がある。それを恐れて入院や入所を拒む患者も相当数あると考えられる。これらのことから考えると外来での治療プログラムに対するニードがあると思われる。一方,日本での治療の現況について考えると,行われている物質関連障害に対する治療のほとんどは入院や入所を前提としている。入院を拒み,外来のみを希望するような患者に対しては適切なサービスを提供できないのが現状である。

一方,薬物依存の治療転帰は仕事や家庭生活が維持されている段階の方が良好であることが知られている。仕事や家庭生活に影響しない形で治療を受けられる道筋も用意されるべきであると考えられる。実際に,米国ではIOP(Intensive Outpatient Program)が治療のひとつのオプションになっている。

以上のような考えから,国立療養所菊池病院において外来集中治療プログラムを開発し,KATS(Kikuchi Addition Treatment Service)と名づけた。プログラムの開発に当たって,米国ロサンジェルスのMatrix Instituteの認知行動療法プログラムを参考にした。

国立療養所菊池病院では今まで物質関連障害に対して専門的な治療が行われたことがない。物質関連障害の治療に当たっては治療技法以上に周囲の理解や協力体制が重要である。院内の治療環境整備には1年以上の時間をかけた。2000年5月に九州DARCによって院内DARCミーティングが開催されるようになった。2001年4月からプログラムの準備を行った。患者の紹介や連携のために熊本家庭裁判所や熊本刑務所を訪問した。熊本保護観察所とは毎月話し合いを持つようにした。KATSについて熊本県内の精神医学会などで発表した。8月から実際の患者がミーティングに参加するようになり,現在は4名の患者が外来に通院している。

KATSの基本的な考え

治療の目標

断薬のみを目標にしない。治療の目標についてアナログ的に考える。つまり,薬物再使用と再使用の間の期間をできるだけ長くすること,再使用した場合の生活の困難の程度を軽くし,生活が困難である期間を短くすることを目標にする。具体的には次のようになる。

  1. 非合法性薬物の使用を減らす
  2. 非合法性薬物使用に伴う害や障害を減らす
  3. 非合法性薬物使用に伴う公衆衛生上の問題(感染症など)や暴力的な犯罪を減らす
  4. 非合法性薬物の使用を減らす方法として刑務所収容や長期隔離的入院よりも安い方法を提供する

この治療プログラムは「底着き」体験を強調しない。それは,嗜癖者個人が回復した後に自分の体験を振り返って考えることだからである。回復の入り口にある人に,底着き体験を求めることはしない。

治療の方法

物質関連障害に関する臨床研究によれば,心理社会的治療のうちで認知行動療法が最も効果を上げている。具体的な技法として心理教育や動機付け面接,再発予防訓練,日常生活での再発のきっかけに対する対処訓練,随伴性マネージメントなどがある。また,治療効果を予測する因子で最も強いものは,患者のコンプライアンスと受診回数である。最低週1回,可能ならば2~3回の受診をするようにする。週2回患者が来るようにすれば,週2回患者はクリーンになっていることになる。患者が好み,次の外来治療に来ることが動機付けられるようなプログラムを準備し,外来受診に強化が与えられるようにする。患者の好みや必要に応じて,家族療法や12ステップ,治療共同体も取り入れる。

物質関連障害の経過・治療については不明な点も多い。説明同意を得た上で治療に統合された形で,臨床研究を行う。

受診の仕方

最初に,電話相談にて外来受診(インテーク面接)予約をとるようにしている。外来での個人面談にて治療について説明し同意が得られたら,外来治療プログラムを行う。治療について次のことを説明している。

個人情報の保護:救急救命上必要な場合と法律上特段に規定された場合を除いて,診療上知りえた患者の個人情報を,本人の同意なしに警察を含めて病院から外へ漏らすことはない。診察室以外の場面で観察される違法行為,例えば,病院敷地内での刑法に触れる行為については警察に通報する。

治療プログラム:週2回,午後6時から外来にて集団治療プログラムを行う。週1回,予約された時間に担当医による個人面接を行う。治療の時間帯は,昼間の仕事や学校に支障がないようにする。

DARCメッセージ:毎月第2木曜日は国立療養所菊池病院院内のDARCメッセージのミーティングに参加する。

現在の状況

2001年8月に熊本県保護観察所から,17歳男性,シンナー依存と覚せい剤乱用の患者が紹介された。その後,紹介や患者自身による受診があり,現在,外来治療プログラムに物質関連障害の患者が4名定期的に通院している。他にプログラムは参加していないが,外来に通院している例がある。中には断薬の意思が不十分な患者もいる。こうした患者に対しても外来受診を継続させ,薬物関連問題のマネージメントを提供することがKATSの役割であると考えている。

治療以外の臨床・研究活動

高校生への教育

菊池郡市の五つの高校にたいして,毎年の健康調査を行い,結果をフィードバックしている。

タバコの経験がある・使っていると答えた生徒はほぼ50%であった。ただし,若年ほどの低下する傾向がある。シンナーの経験がある・使っていると答えた生徒は全体の2%であった。ライターガスの経験がある・使っていると答えた生徒はほぼ同数であった。覚せい剤の経験がある・使っていると答えた生徒は0.4%であった。タバコは数が多く,将来の健康への影響も強い。禁煙教育の資料を提供するなどしている。

日本DARCとのかかわり

2000年12月に日本ダルクの回復者カウンセラーに対するセミナーを開催した。ハワイの治療施設“ヒナマウカ”から,ルビー兼城氏を講師に招聘し,3日間のセミナーを2回,群馬県藤岡市と東京都にて開催した。

また,NAの国際会議,Asian Pacific Forumに日本側の代表の一員として加わっている。(2000/3,2002/1)

学会発表

薬物プログラムについて,熊本精神医学会,熊本アルコール関連問題学会,九州アルコール関連問題学会にて報告している。

資料

転帰調査用フォーム
一般向けKATS説明三つ折りパンフ
病院スタッフ向けKATS説明パンフ
参加患者向けハンドアウト・ワークシート
参加患者向けスライド配布資料

 

 

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