2000 北部九州とハワイの物質使用障害患者の比較, 厚生科学研究補助金 医薬安全総合研究事業 中毒者のアフターケアに関する研究 11年度研究報告書,71-100

研究主旨 日本における薬物依存・中毒に関する治療・リハビリテーションに関する研究は諸外国と比べてまだ不十分であると考えられる。中でもアメリカ合衆国の治療に関する医療情報は豊かであるが,それらの情報が日本の患者でも有用かどうかはまだ確かめられていない。この研究では両国の患者を直接比較し,米国の医療情報が適応可能かどうか検討した。

I.       目的

物質使用障害は世界中どこにでもある疾患である。先進工業国では社会全体の問題になっている。日本は戦後の混乱期を除いて比較的低い水準の有病率を誇ってきたが,他の国に近づいてきている。

物質使用障害についての研究や治療方法の開発については自助グループや法制度を初めとして米国に学ぶことが多い。また治療関係施設,研究者,ボランティア,医療関係者などの資源についても質・量ともに大きな差が有ると考えられる。自助グループや治療方法については米国で出版された資料をそのまま翻訳して用いていることが多い。

一方,日本の物質使用障害に関する研究者の中には,日米間の患者数の違い,主要乱用薬物の違い,人種や文化の差から米国での研究結果や治療方法は日本には適応しがたいとする意見が強い。米国での経験をそのまま持ち込めるかどうかについての検討が必要である。

日米の比較の最初のステップとして,治療施設に受診した物質使用障害患者の比較を行うことにした。患者の間に共通性があれば,米国での経験を日本に持ち込むことについての根拠が得られることになる。

平成10年度にH-SUDS(肥前薬物依存面接基準)を作成した。国立肥前療養所を受診した物質使用障害の患者に対して本面接を試行し,有用性を確認した。

平成11年度は同じ面接基準を英訳した。英語版を用いてハワイ州オアフ島カネオヘにあるHina Maukaと呼ぶ物質使用性障害患者に対する治療施設に入所した患者を対象にデータを収集した。

II.      方法

H-SUDSについては,厚生科学研究補助金 薬物依存・中毒者のアフターケアに関する研究 平成10年度研究報告書に示されている。これは半構造化面接と自記式評価尺度により構成されている。精神科診断の他に薬物使用歴や治療・司法・福祉的処遇歴,社会適応,家族歴,合併精神障害,小児期の養育体験・離別体験などについて評価が行えるようになっている。面接は熟練した面接者が行えば1時間程度で終了する。自記式評価尺度は薬物使用歴とDAST 20 (Skinner)などから構成されている。

原井宏明がH-SUDSの英訳を行った。英語版の語句の修正については,Hina Maukaのスタッフの協力を得た。

III.    対象

研究の趣旨,研究方法については国立肥前療養所とHina Mauka双方の倫理委員会の承認を得ている。対象者は全て研究の趣旨について説明を受け,書面による同意書を得ている。ハワイサンプルのデータに関する守秘義務については米国連邦規則42条パート2に準じている。

九州サンプル

10~11年に国立肥前療養所を受診した物質使用性障害の患者に対してデータを収集した。患者の概要については比江島らが報告している。面接は研究協力者である九州大学文学部臨床心理修士課程の学生4名及び村上優,杠岳文が行った。学生に対しては熟練した精神科医でありH-SUDSの作成者である原井宏明が5回の面接基準ワークショップを行い,診断面接が行えるように訓練した。村上,杠は熟練した精神科医である。

51人(男性37,女性14),平均年齢26歳が対象となった。

ハワイサンプル

ハワイ州オアフ島カネオヘにあるHina Maukaという物質使用性障害患者に対する入院型治療施設に入所した患者で研究の趣旨に賛同し,書式による同意文書を記入した者を対象に直接面接によりデータを収集した。面接期間は1月28日から24日である。診断面接は全て原井宏明が行った。通訳などは用いず,直接英語で面接を行った。面接に関する英語力についてはHina Maukaでの倫理委員会で認定を受けた。

38人(男性25,女性13),平均年齢37歳が対象となった。このうち,6人はアルコール症及びニコチン依存の診断が主診断であり,アルコール以外の物質については乱用の既往のみであったため,その後の検討については除外した。

Hina Maukaについて

Hina Maukaとは,ハワイ州オアフ島カネオヘ市に本拠をもつ非営利物質使用障害治療団体である。30年の歴史を持つ。現在は州立精神病院に隣接した敷地に本部と50人の患者を収容可能な入所型治療施設を,オアフ島ワイパフ市とマウイ島に外来クリニックを有している。M.P. Andy Andersonが全体の組織運営責任者であり,W.F. Haningが医学部門の責任者になっている。物質使用障害に対する入所によるリハビリテーション及びデイケア,集中的外来治療,アフターケア,高校生に対するアウトリーチ(学校までスタッフが出かけて心理教育を行う)などが,主な業務である。ハワイ州政府保健衛生局から認定され,入所患者の2,3割程度はハワイ州政府の資金で費用がまかなわれている。

面接対象患者は入所治療を受けた患者から選ばれた。入所治療は1~3ヶ月間行われる。朝から夜まで週末の休みなしで心理教育セッションや学習会,ミーティング,作業のプログラムが組まれている。州政府から認定を受けた薬物使用障害専門カウンセラーが個人カウンセリングを平行して行う。8人のカウンセラーがおり,それぞれが6、7人の入所患者を担当している。カウンセラーの他に十数名のTreatment Associatesと呼ばれる治療補助者がおり,施設の運営や患者の相談などを受け持っている。スタッフの半分は自身に物質依存の問題があった回復者である。またHina Mauka専属の精神科医による面接が必要に応じて行われ,物質使用障害以外の精神分裂病や気分障害などの精神障害を合併する患者に対する薬物療法も必要に応じて行われている。物質使用障害以外の精神障害を合併する患者は重複診断(Dual diagnosis)患者と呼ばれ,専用のプログラムが設けられている。

入所治療は日常生活が自立し,急性精神病状態や自傷他害の恐れのない患者を対象としている。施設は全開放であり,入所時に交わされた契約に違反した患者(施設内での薬物使用など)は退所になる。

患者の大半は精神科などの医療施設や裁判所からの紹介患者である。医療施設の場合は急性精神病状態や離脱せん妄が終わった後,Hina Maukaに紹介される。

国立肥前療養所の薬物依存治療プログラムとは,急逝精神病状態や離脱症状に対する治療を行わない点で異なるが,物質使用障害に対する治療・開放処遇と患者の構成については類似しているところが多い。ハワイ州には他にも物質使用障害を対象とした治療施設・精神病院があるが,Hina Maukaが国立肥前療養所に一番近似していると考えられた。

IV.    結果

結果は現在集計中であり,最終的な結果報告については後日報告する予定である。この報告では主診断の比較とハワイ群の面接中に受けた印象についてまとめた。

主診断

DSMIVによる物質使用障害の診断を表に示す。九州では吸入剤(シンナー)がもっとも多い。覚せい剤が2番目である。次に鎮静剤または催眠剤,抗不安薬,その他の薬物,多剤依存が続く。具体的には,処方されたベンゾジアゼピン系抗不安薬,薬局で処方箋無しで購入可能なOTC薬物である咳止め剤(商品名ブロン,トニン)や鎮痛剤(商品名セデスなど),睡眠薬(商品名ウットなど)である。

ハワイでは覚せい剤が過半数を占める。コカインが2番目である。覚せい剤とコカインを合わせた中枢神経刺激剤が全体の93%を占め,抗不安薬やOTCは数が少ない。また麻薬依存も少数である。ハワイでは日本以上に覚せい剤が使用されていることが分かる。処方されたベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用は麻薬と同じ程度見られる。日本と違い,咳止め薬の使用はなかった。

表 日本とハワイの患者の主診断別パーセンテージ

DSMIVによる主診断 Amphetamine dependence Inhalant dependence Cocaine dependence Sedative, Hypnotic, or Anxiolytic Dependence Other substance dependence Poly substance dependence Amphetamine abuse Inhalant abuse Sedative, Hypnotic, or Anxiolytic abuse Opioid dependence
九州 33% 40% 0% 8% 6% 6% 2% 2% 2% 0%
ハワイ 53% 0% 40% 3% 0% 0% 0% 0% 0% 3%

患者の特性 違い

面接した印象として患者の違いについて述べる。

  • 九州の年齢が若い

平均では九州サンプルの方が10歳以上若い。施設内の雰囲気もHina Maukaの方が大人びていた。ハワイサンプルでは50歳代の患者が4名いた。いずれも数年間の断薬期間をもっていた。60~70年代のカウンターカルチャーの時代に多彩な薬物を経験していた。

  • 使用薬物の差

九州サンプルでは7割以上はアルコールとタバコ,覚せい剤,シンナー以外は経験していなかった。コカインやヘロインの使用経験者はなく,マリファナ経験者は数人以下であった。

ハワイサンプルでは9割以上がアルコールとタバコ,マリファナを経験していた。これはアルコール依存症患者にも共通していた。ただし,これは出身地が米国以外の患者2,3名には当てはまらなかった。例えば南米で生まれ成人してから渡米してきたアルコール依存症患者の場合は,アルコールとタバコ以外には使用経験が全くなかった。米国の薬物使用文化の中では常に多種類の薬物が流通していると思われる。マリファナについてはハワイで自生しており,特にハワイ島などでは大量に栽培されているところがある。ハワイサンプルではマリファナの入手方法について自分で栽培したという答えが多かった。

シンナーなどの吸入剤については,数人の患者で接着剤やライターガス,塗料を吸引した経験があった。病院看護婦との付き合いの中で笑気ガスを乱用していた例もあった。しかし,純粋なトルエンを吸入したことがあるものはなかった。純粋はトルエンはハワイでは流通していないと思われた。接着剤や塗料の吸入は10数年前に流行した今は時代遅れの子供だましと薬物使用者からは思われていた。

覚せい剤やコカインの使用者はマリファナやオピオイドを経験したことがあった。覚せい剤とコカインの使用者は中枢神経興奮に伴う不眠や食欲低下を補うためにマリファナやアルコールを調整しながら同時に使用することが通常であった。覚せい剤とコカインが同時に使用されることはなかった。中枢神経刺激剤依存患者は覚せい剤とコカインに対して交叉依存を起こすことなく,どちからに対して高い選択性をもっていた。覚せい剤依存症患者にコカインを好まない理由を問うたところ,鼻に良くないからなどの理由が挙げられた。またコカイン依存症患者に覚せい剤について同様の理由を問うたところ,依存性が高く暴力的になるから等という理由が上げられた。いずれの理由も表面的であり,患者自身が理由についてよく分からないというところが正直なところと思われた。どちらかに依存するのは生得的に決定されていると考えられた。

50歳代の患者の中には20歳代にアルコール依存症やヘロイン依存になり,その後10年間断酒や断薬,40歳代から覚せい剤やコカインの依存になり,今回のHina Maukaでの治療につながった例があった。アルコールやヘロインと中枢神経興奮剤の間には交叉依存が見られるようであった。

  • 家族の関わり

九州サンプルの若年者では殆どの場合,両親の関わりがあった。両親に生活を依存することや本人受診の前に家族だけが相談するなどの行動があった。

ハワイサンプルでは日系人の一部で同様な家族の関わりが見られたが,殆どの場合,薬物使用を始めた10代後半で親元から離れて暮らしており,親の金で薬物を使用することや親だけが医療機関に相談のために受診するということはまれであった。Hina Maukaのような治療施設を経た後,カウンセラーなどの治療上の指示で薬物使用仲間や場所から離れるために両親の家に身を寄せることはあった。

日系人の場合はハワイで生まれ育ち,島を離れることなく,両親も離婚していない例が多かった。ハワイ系やフィリピン系の場合はハワイで生まれ育ち,島を離れることが無い例が多かったが,両親は殆ど離婚していた。白人や黒人系の場合は,アメリカ本土で生育し,成人してからハワイに移ってきている例が殆どであった。その結果,家族や親戚は全て遠方におり,配偶者や恋人を除いた家族の関わりもなかった。

  • ハワイ系女性患者での若年出産・子沢山

ハワイ系混血の女性患者では10代後半から出産している例がよく見られた。20代後半で数人の子供を持つ例があった。妊娠中絶は例外的であった。この間に離婚を経験することが殆どで,婚外子を出産することが多かった。こうした例ではChild Protection Serviceが必ず関わっていた。

一方,日系や白人では子供を持つことは少なかった。

  • ハワイでの薬物売買の多さ

ハワイサンプルでは違法性薬物の販売により生計を満たす以上の利潤を得ていた患者が数人いた。こうした販売は10代から始まっていた。患者は,10代の方が他の売人に警戒されず,売りやすいと述べていた。

  • 九州で自殺が多い

ハワイサンプルでは自殺企図の頻度が少なかった。売人をしていた患者に尋ねたときでも,客に自殺がある例はまれだと答えていた。九州サンプルの方が自殺の頻度が高いのではないかと考えられた。

ハワイの場合でも,アルコール依存症の場合はかなり自殺企図が見られた。自殺には拳銃が用いられることが多かった。方法の点を除いて,アルコール依存症に伴う自殺企図の頻度では九州サンプルとの差はないように思われた。

  • 警察との関わり

薬物使用者の殆どが10代から使用を開始していたが,日本でいう補導を受けることはまれであった。高校で同級生相手に常習的に売買していた例でも補導を受けずに済んでいる例があった。ある日系女性例では,高校1年生の時に高校敷地内でマリファナを大量に所持しているところを学校のガードマンに発見され,警察に連れて行かれたが,その後,司法的処置は受けなかった。

またある男性患者例では高校2年生の時に,コカインを販売していて逮捕され,裁判になったが,売買で得たお金で弁護士を雇ったところ,出廷する必要もないまま無罪になったと述べた。この間は親が関わったことはないようだった。

高校生から売人をするというのは日本からするとかなり極端な逸脱行動のように思われるが,高校生の段階から自分で金を稼ぎ,裁判費用も自分で出すということがアメリカでは習慣になっていると思われ,高校生の薬物売買もそれほど逸脱行動とは思われていない可能性がある。

治療や治療環境の違い

  • 医療経済上の違い

肥前療養所とHina Maukaが類似している点のもう一つに治療費がある。肥前療養所の場合は健康保険で賄われるが,一ヶ月あたりの医療費は30万円程度になる。Hina Maukaの場合は,患者の保険によって請求額が異なるが,全て自費の場合で一日$165,民間健康保険会社(HMO)で$135~145,福祉医療(メディケア)で$125となる。これらは食費なども全て含んだ額である。HMOの場合はこのうち20%が自己負担になる。保険に加入している患者の自己負担額は一ヶ月$810~870になる。日本の医療保険の場合よりもやや高いが同等に近いといえるだろう。一方,病院に入院する場合には一日の入院の医療費請求額が$800~1000になる。一ヶ月の入院になると$30,000を越える。現在は,メディケアでも健康保険会社でも余程の例外的理由が無い限り,1週間以上の入院に対しては支払いを拒否する。物質誘発性障害(離脱せん妄,精神病性障害)などのために入院する場合,3日程度が標準的な入院期間である。

また,Hina Maukaに入所する場合でも民間健康保険会社の場合,無条件に1ヶ月の入所を認めることはない。3日おきに保険会社から入院継続の必要性について問い合わせの電話がかかってくる。また1ヶ月を越える入所については支払いを拒否されることが多い。1ヶ月を越える入所が必要であったり,本人が希望する場合は,ハワイ州政府健康保健局薬物アルコール部門が支払いをしてくれる病床(Hina Maukaの50床のうち10床ほどは患者の費用はハワイ州から支払われる)の空きを待つことが必要になる。

民間保険会社との契約を持つ患者の場合は,マネージドケアという仕組みによって診断によって受診できる医療機関,治療内容について制限がある。薬物使用性障害だけでなく,精神分裂病や気分障害の合併診断をもっていれば,保険会社からの支払いの継続が受けやすくなる。カウンセラーの主な仕事の一つは保険会社との交渉と医療費の調整である。

刑事犯として訴追され,薬物法廷から治療を受けるように指示され,治療費が司法当局によって支払われている患者には,こうした費用や入院期間についての心配がない。しかし,この場合は医療機関の選択や治療内容について患者の自由はない。

こうした医療経済上の事情が患者の受診行動に大きな影響を与えている。例えば,九州サンプルとハワイサンプルでは面接時までの治療歴について大きな差がある。九州の場合は,患者や家族があちこちの医療機関を訪れているが,ハワイの場合はHina Maukaが始めての受診である場合が過半数を占めていた。10代から物質使用に伴うさまざまな問題が生じているにも関わらず,受診や専門家への相談がないことが多い。親が子供に関わることが日本よりも弱いことなども関わっているが,医療機関受診にかかる金銭上の問題が受診を抑制していると思われた。

また,こうしたマネージドケアなどの医療保険の仕組みや制限は過去10数年の間に大きく変った。50歳代の患者で15年前,7年間,今回と3回の治療エピソードがある患者を面接したが,保険会社が認める医療内容が治療の度に変っている。過去には数ヶ月精神科病床に入院できたのが,7年前には1ヶ月,今回は3日,そして前に入院した病院は精神病棟を廃止している,というように変化している。患者は同じ病気で入院しているのにも関わらず,治療期間や内容が制限されていくことに不満を抱いていた。

  • CPS(Child Protection Service)による治療導入

子供を持つ女性患者の場合は薬物使用が明らかになった時点でCPSが強制的に子供を母親から取り上げることが行われていた。子供を取り返すためには断薬することが条件になっており,そのために治療を受ける患者がいた。患者は一般にCPSの対応は厳しいと述べていた。

  • 薬物法廷(Drug Court)の導入

過去2,3年間で有罪となった薬物事犯に対して収監するだけでなく,治療を受けさせることが法廷の命令で行われるようになった。この制度を薬物法廷といい,執行猶予中や仮釈放中または実刑そのものの代用として治療命令が出される。2,3年以上の一定期間,毎週裁判所に出頭し,尿を提出し(薬物反応が陰性でないといけない),指定された命令を守る(例えば特定の薬物汚染地域に出入りしてはならない)を守ることが義務付けられる。これに違反すれば,収監される。一方,命令を遵守すれば前科の記録が取り消される。この制度による入所患者が数名いた。いずれも華々しい前歴や反社会性人格傾向の持ち主であったが,治療契約に対する動機付けが強かったのが印象に残った。法廷の命令による患者と比べると,自発的入院の患者の方が,薬物使用に伴う社会的問題の程度は低いのだが,治療に対する動機付けが一般に弱かった。

  • 司法処置に関する患者の感想

逮捕歴や訴追歴,薬物法廷などを経験したことがある患者にこうした司法制度への感想を尋ねた。

警察制度については,ハワイ州やホノルル市警察州の刑務所システムに対してはあまり良い評価がなかった。ホームレスであったり街娼をしていた患者からは警察に不当に扱われたという感想を聞くことがあった。刑務所にいた患者からは刑務所内で薬物が売買されていたことを聞いた。また州や市の警察はあまり取り締まりが厳しくないという感想があった。一方,連邦警察(FBI)やDrug Enforcement Agencyなどの連邦レベルの取り締まりについては厳しいという感想が多かった。

薬物法廷や執行猶予中・仮釈放中の保護観察官に対しては好意的な感想が多かった。

患者の特性 共通性

  • 薬物使用の結果起こること

覚せい剤について述べると,使用の結果起こることについては共通点が多かった。また一回当たりの価格もほぼ同等であった。

依存の進行,使用時の誘発性精神病性障害,離脱,連続使用とクラッシュ(使用を止めて2,3日間寝て食べる)の繰り返し,セックス中の使用など共通していた。覚せい剤使用中の特徴的な行動の一つに常同的に一定した細かな作業に熱中することがあるが,日本語では適切な表現がなかった。ハワイの患者はこれを“Tweaking”(微調整する)と呼んでいた。

覚せい剤使用者では使用中に暴力が多いことが他の薬物と比べて問題になっていた。いったん断薬した後の再発の事情も日本の患者と似通っていた。

このような事情からすれば,ハワイで覚せい剤使用者も対象にして作られた治療マニュアルは日本の患者にも同様に役立つと考えられる。

  • 患者の雰囲気

主観的な感覚であるが,Hina Maukaで患者が休み時間に集まっているときに原井に示した好奇心や発言は,DARCを訪問したときに受けた経験とよく似ていた。何人かの患者は日本での薬物入手可能性や価格に興味を示していた。

  • 日系の患者など

日系や中国系の患者の一部では両親や親族とのかかわりがあり,その中のやりとりは日本で見られるものとよく似ていた。

Hina Maukaを含めたハワイにおける治療

ハワイにおける薬物依存治療について印象深かったことがらをまとめる。

  • さまざまな専門職種の存在

必要があればそれに応じて専門の職種や資格が作られている。州政府から認定を受けた薬物使用障害専門カウンセラーがその一つである。他にもさまざまなカウンセラーの資格がある。個人療法は許されず,集団療法のみ行えるカウンセラーの資格もある。

精神科医は制限なくどのような治療でも自分の独自の判断で行える立場にあるが,精神科医が提供するサービスに対する支払いが高いことから医療保険は精神科医受診を制限している。結果的に精神科医でしかできないことがら,すなわち診断と薬物療法に精神科医の役割が限定されている。

  • 監査

Hina Maukaのような国立肥前療養所から見ればはるかに小さな組織でも,品質管理担当者(カルテや治療が規定とおり行われているかどうかチェックする責任者)が規定されている。また定期的に州政府から係員が派遣されて監査がある。Hina Maukaは大学教授や銀行員などの外部委員によって構成された理事会に運営の責任があり,また寄付金を広く募っている。フォローアップを行い,治療成績の報告をすることが理事会によって義務付けられている。

Hina Maukaの品質管理担当者によれば手を抜くとすぐカルテの記入や所在管理がいい加減になるとのことであった。カウンセラーの中では煙たい存在であるようであった。

  • Hina Maukaの運営

英語で運営していることのメリットは,優れたさまざまな教育資料が大量に手に入ることである。資料の中にはCSAT(Center for Substance Abuse Treatment)のような連邦組織が無料で配布しているものもある。の日本語で行う限り,これらの資料は翻訳しなくてはならないし,それには大量の時間がかかる。

この20年間の間に物質使用性障害に対する治療を提供する組織,医療費支払い制度がハワイでは変化しつづけている。変化の中には経済的な理由によるとしか思えないものもあるが,治療成績の悪さや医療費の高さ,評判の悪さから消えていった治療施設が多いように思われた。オアフ島の中でHina Maukaと競合しているの治療施設に救世軍による施設があるが,離脱症状に対しても一切薬物を使わないことや救世軍の活動の一つとして行われている不要品販売活動について問題があることなどが面接した患者から述べられていた。自分自身からHina Maukaを選んで受診した患者の場合,Hina Maukaを選んだ理由について治療成績が良かったからと述べるものが多かった。治療成績のよしあしで治療を提供する団体が出現したり広がったり,消滅したりしている様子が伺えた。

Hina Maukaの場合,治療がうまく行っているのは,治療マニュアルの整備だけでなく,治療全体を監督している特定の人物の資質によるところも大きいという印象を受けた。

V.     まとめ

今回の報告は肥前療養所の患者とHina Maukaの患者を比べただけであり,それぞれが日本全体,アメリカ全体を代表しているという保証はない。アメリカでは各都市での薬物乱用実態についての比較調査があるが,それを見る限り都市間の差は甚大である。このことから類推すると肥前療養所と東京の間にも相当な差があるものと考えられる。したがって,今回の調査がそれぞれの国の違いを表しているとはいえない。

一方,薬物依存の治療について考えてみると,12ステップのようなアルコール依存症から始まった治療法が他の薬物依存にも良い成績を残していること,Hina Maukaではアルコールも違法性薬物も同等に治療に関しては同等に扱っていること,ハワイのようなさまざまな民族からなる地域においても出自の差から治療を変えてはいないことから,使用薬物の差や国や文化の差について考えるということはそれほど重要なことではないと考えられる。一方,合併診断の違いには気を配っていることを考えると,治療の成功を生むものは,個人個人の問題に合わせて治療を組み立てることだと考えられる。Hina Maukaの治療全体の監督者は患者同士や患者と外部の人間ののやりとりを考慮に入れながら,時期を逸さず,速やかに患者の処遇や治療方針について判断を下していた。

現在の時点では,米国の豊富な資料を選択して邦訳し,日本で使えるようにすること,治療者を訓練することが今後必要になると考えられた。

VI.    参考文献

肥前物質使用障害面接基準.厚生科学研究補助金 医薬安全総合研究事業 薬物依存・中毒者にアフターケアに関する研究 平成10年度研究報告書 pp9-46,1999

研究協力者

九州サンプルに対する面接協力者

九州大学教育学部臨床心理学科修士課程

国崎千絵

新林智子

石井実夏

大島祥子

英語版H-SUDS作成への協力者

Hina Mauka Kaneohe, Quality Assurance Department

Ruby Kaneshiro MS

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