方法としての動機づけ面接―思春期を指導・支援する人のために 草稿 思春期学 35, 1 2017

方法としての動機づけ面接―思春期を指導・支援する人のために

著者 原井宏明

所属 なごやメンタルクリニック

動機づけ面接とは

動機づけ面接(どうきづけめんせつ:Motivational Interviewing,以下MI)とは米国のWilliam R. Millerと英国のStephen Rollnickが主になって開発したカウンセリングアプローチである。クライエント中心でありながらカウンセラーが一定の方向性をもって誘導し、変化への動機づけをクライエントの中から引き出し,強めるようにする。最初はアルコール症に対する治療として始まったが,現在は行動変化を必要とするさまざまな領域において効果を示すエビデンスが蓄積されてきている。

MIは他のカウンセリングアプローチと異なり,ランダム化比較試験(RCT,Randomized Controlled Trial)の積み重ねから成り立っている。精神分析のように創始者の思いつきから始まったものではない。心理学理論の応用として始まったものでもない。従って、首尾一貫した動機づけ理論や病理モデルは持っていない。言い換えれば,人格や個人の成長・変化に関する体系的な心理療法ではない。理論・体系がないことは欠点でもあるが,それゆえに他の認知行動療法や薬物療法,栄養指導などとよく馴染む。エビデンスも他の治療法と一緒に使うことをサポートしている。

MIの特徴

MIはゴール志向的かつクライエント中心のカウンセリングであり、クライエント自身の内発的動機づけをカウンセラーが積極的に引き出し,関わることによって行動変化が自発するようにする。クライエントの矛盾した行動に寄り添いつつ、隠れた感情や背景を探り,矛盾の解消と前進を促す。非指示的療法と比べると,フォーカスとゴールが明確である。もし、開始時点でそれらが曖昧ならば、明確化が最初のゴールになる。クライエントが判断に迷い,堂々巡りを延々と繰り返すならば、そうなる理由や感情にフォーカスし、出口の方向を見つけられるようにする。相矛盾する複雑な感情・背景を解きほぐし,まとめて整理し、行動を起こす方向に行くこと促す。カウンセラーはクライエントが自分で判断し,行動を決定することの大切さを強調し、自己決定がしやすいように可能な選択肢を提示することもある。複数の選択肢の間で迷いつつ、敢えて一つだけの選択肢を自ら選ぶとる方向に進み始めれば、一つ目のゴールを通過したことになる。

クライエントは様々である。何かしなければといつも考えているが,今まで一歩も踏み出したことがないクライエントがいれば,何度も何度も新しい行動を試しては全て失敗に終わることを長年、続けているクライエントもいる。そして人生の中でなすべき行動は一つだけではない。1人の人間の中でもそのときの気分や文脈、課題によって変化の準備性が変化し、多様な段階が同時に共存する。カウンセラーはこうしたクライエントのあり方に対して,批判や評価をせず,矛盾もクライエントのありのままとしてそのまま受け入れていくようにする。このような関わり-ロジャーリアンならば無条件の肯定的関心と呼ぶだろう-の中からクライエントが自ら変わっていくように仕向けていく。

実際の進め方

カウンセラーに必要な四つの基本的スキルOARS

MIは基本的なスキルを以下の四つにまとめている。

O           Open Ended Question, 開かれた質問
クライエントが先入観なく自由に自分の行動や感情を話すように促す。問題の認識や気がかり,変化への意思,希望などが出てくるようにする。「今日の朝から今までで」「今のままで30年たったとすれば」のようにして具体的な考えを引き出すような台詞を使うことがある。

A           Affirmation, 是認
変化の方向につながる発言をクライエントがしたら,すかさず是認し,「詳しく聞かせて欲しい」のように興味を見せる。矛盾した発言や,表面的にはネガティブな発言の中から是認できるポイントを発見し,認め,変化の方向への発言を強化する。

R           Reflective Listening, 聞き返し
オウム返しのような単純な聞き返しから,増幅した聞き返しや両面をもった聞き返し,リフレーム,比喩などのさまざまな複雑な聞き返しを使う。単純な聞き返しの場合でも戦略的に使えば,クライエントの隠された複雑な感情が浮き彫りにできる。どの部分を聞き返すが、どのタイミングで言うか、繰り返すか、細かな戦略がある。

S           Summarize, サマライズ
ポイント,ポイントで今までに出てきた話題・背景をまとめ,今どこにいるのか,これからどこに行こうとしているのかをクライエントとカウンセラーの間で共有できるようにする。サマライズ自体はクライエントの発言や考え、状況の正確な鏡である。しかし、言葉遣いや構文,話題の順序を工夫することで、話を聞く側のクライエントの次の反応に影響を与えることができる。たとえば、絶望と希望が共存している時、絶望の次に希望を言うのと希望の次に絶望を言うのでは、同じ内容でも聞く側の反応は違う。

MIのスピリット

スキルだけが上手くてもそれはMIではない。決断させることだけならば不動産や車のトップ・セールスマンのほうが普通のカウンセラーよりも上手だろう。クライエントの福祉と自己決定をいつも最高の関心事とするような態度が必要である。逆に,あまりにも良心的・親身・熱心という態度も問題である。善意も行き過ぎるとクライエントの自己破壊的な行動に対する断罪につながる。

MIでは,カウンセラーは判断中立を保ち,非直面的である。病的な行動・抵抗に対しても指摘をしない。もしクライエントが自己破壊的な行動をしているなら,そうしている理由にピュアな興味を持ち,その行動が起こす結果についてクライエントがどう思っているかを引き出すようにする。問題を指摘するのはカウンセラーではなく,クライエントなのである。このようにしたほうが、数分だけの短いカウンセリングであっても,クライエントは自分の行動についての見方を変え,変化の必要性や可能性について自ら語ることが増える。もちろん変わらないクライエントは変わらない。それもクライエントの選択として尊重することはカウンセラーとしては辛いことかもしれないが、結果的には双方にとっての利にかなう。

このようなカウンセラーの態度をMIのスピリットと呼び,協同と,受容,喚起,慈悲の4項目にまとめられている。

4つのプロセス

MIの進め方は4つのプロセスとしてまとめられている。

関わる  クライエントのカウンセラーの間で絆と作業同盟が確立するプロセスである。

フォーカスする               次のプロセスは,話題を特定のものに絞ることである。クライエントには普通は話したい話題があるだろう。カウンセラーにもあるはずだ。変化についての話し合いが会話が特定の方向に向かって進み続けるようにするプロセスである。

引き出す            クライエント自身から変化への動機づけを引出すことである。これが起きるのは変化の方向が決まり,フォーカスが当たっているときである。なぜ・どうやってそうするかについてのクライエント自身の考えや感情をカウンセラーが活用する。

計画する            動機づけが高まり,それが閾値に達すると、シーソーのバランスが変わるのと同じように,なぜ変わるのかよりも、いつ・どのように変わるかについて考え始め,言葉にするようになる。この時、カウンセラーや専門家の情報や助言をクライエントから求めることがある。それに対して適宜,情報を提供し,その情報をもとにクライエントがどうするかの判断をさらに引き出していくようにする。

MIのエビデンス

最初の大規模なエビデンスは米国NIAAA(国立アルコール乱用・依存症研究所)が行ったProject MATCH(4)によるものである。この中では4セッションだけのブリーフ・セラピーとしてMIの応用版(動機づけ強化療法)が用いられた。その後,さまざまな領域でランダム化比較試験が数百以上行われている。系統的レビューも200ある。生活習慣病など行動変化を必要とするさまざまな領域での有用性が証明されている(5)。

MIにはその学習,習得に関する研究が多いことも特徴的である。以下のことが分かっている。

  • カウンセラーの教育歴や過去のトレーニングがどのようなものであっても,MIを使うことには支障がない。
  • MIはマニュアルに合わせて行うものではなく,クライエントに合わせて行うものである。
  • 並み程度の共感・言語能力があれば,職種や学歴,経験を問わず,誰でも身につけることができる。
  • 実際に行えるようになるためには合計で2,3日~数日間の集団ワークショップ参加と1年程度の個人レッスン(スーパービジョン・コーチング)が必要である。デモンストレーションを録画したビデオ教材も役立つ。
  • 日本語のビデオ(6)(7)や本(8)も出ている。

MINT:MIトレーナーたちの国際的ネットワーク

発展,普及についても,MIには他と心理療法とは異なった経緯を辿っている。MillerとRollnickは,自分たちが創始者ではあるが,その創始者をトップに頂き,その下に弟子たちが連なるピラミッド型の構造にならないように気をつけた。MIのスピリットが意味するものの一つはクライエントとカウンセラーの間の平等主義である。権威主義をMIは嫌う。そのために,初期の段階から,自分たちと同じようにMIのトレーニングができるようなトレーナーを育成することに力を注いだ。

このための集中的な3日間ワークショップがTNT(Training for New Trainers)と呼ばれるものである。1993年に始まり,今までに世界各地で60回以上行われている。2015年5月には日本でも行われた。トレーナーたちの世界組織があり,MINT(Motivational Interviewing Network of Trainers)と呼ばれている。今日のMIの発展・普及はMINTのメンバーが中心になっている。現在の日本には約60人のMINTのメンバーがいる。また日本でも日本動機づけ面接協会が2013年に発足し、毎年研究会を開いている。

創始者でなくても,誰でも習得でき,教えることができ,治療アウトカムを出せる心理療法にしようという二人の考えが,今日のMIを生み出したと言える。

MINTのホームページ:http://www.motivationalinterviewing.org/

日本動機づけ面接協会のホームページ:http://www.motivationalinterview.jp/

文献

  1. Miller WR. Motivational interviewing with problem drinkers. Behav Psychother. US: Cambridge Univ Press; 1983;11(2):147–72.
  2. Miller WR, Rollnick S. Motivational interviewing: Preparing people to change addictive behavior. New York, NY, US: Guilford Press; 1991. xvii, 348 p.
  3. Miller WR, Rollnick S. Motivational Interviewing, Third Edition: Helping People Change (Applications of Motivational Interviewing) Guilford Press; 2012. 482 p.
  4. Project MATCH (Matching Alcoholism Treatment to Client Heterogeneity): rationale and methods for a multisite clinical trial matching patients to alcoholism treatment. Alcohol Clin Exp Res 1993 Dec
  5. Hettema J, Steele J, Miller WR. Motivational interviewing. Annu Rev Clin Psychol 2005
  6. 原井宏明. 動機づけ面接 トレーニングビデオ日本版 導入編. OCDの会; 2004.
  7. 原井宏明. 動機づけ面接 トレーニングビデオ日本版 応用編. OCDの会; 2009.
  8. 原井宏明. 方法としての動機づけ面接. 東京: 岩崎学術出版; 2012.

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