条件反射制御法は行動療法になれるか? ―科学的言説とは―

日本認知・行動療法学会第41回大会 2015年10月2日(金)~4日(日)

行動療法士会企画シンポジウム「条件反射制御法は,行動療法として認知されるか?―実践から後付けの理論を考える―」

指定討論者 草稿

発表に用いたパワポファイル(PDF)原井 on the associative learning theory(1)

条件反射制御法は行動療法になれるか?

これは集合の問題である。「行動療法は条件反射制御法になれるか?」という質問は誰もしないだろう。行動療法はさまざまな要素を含む概念であり,そこに含まれる要素は1959年に概念が生まれてから,ずっと増え続けている。

条件反射制御法∈行動療法 ?

条件反射制御法には創始者がいる。平井愼二著「条件反射制御法」はどう思っているか?

平井は“学習理論に著者は賛成しない。学習理論は誤っており,精神や行動に関する種々の分野の発展を阻害してきたと考える”(1)。だから,創始者の立場ははっきりしている。

平井:パヴロフ学説の応用⊄学習理論の応用

行動療法家:行動療法⊆学習理論の応用

だから,条件反射制御法は行動療法とは相容れない。お別れである。

平井愼二著「条件反射制御法」は学術書か?

学術書としてみたら異様な本である。

  1. 先行研究を一切,調べていない

一切,系統的なレビューがない。清々しい。

  1. 引用文献が面白すぎる

外見は166ページある立派な単行本だが,引用文献は全体で10件しかない。そのうち5件は自著である。外国人のものはすべて訳書である。

例えば,

E・マルデ、ルシュテイン(1979)世界名作で学ぶ大脳生理学.講談社

これは調べるとブルーバックスである。他には,

柘植秀臣(1974)条件反射とはなにかーパヴロフ学説入門.ブルーパックス,講談社

平井と演者は同世代である。私も高校生のころにはブルーバックスには大変,お世話になった。しかし,高校生の時に買った本を2015年に出す自著に引用文献として出す勇気はとても私にはない。

  1. 人と動物を言語で区別するという素人常識に従っている

日本行動療法学会第36回大会で松沢哲郎先生に特別講演をしていただいた。訓練をすればチンパンジーにも言語を操れることは平成の年代ならば中学生でも教わることだ(2)。

創始者を無視して技法を見てみよう

平井の著書の理論的部分を無視して,患者の記載のところだけを見ると興味深いところがある。“はじめに”にある場面は薬物条件づけによって覚せい剤のパラフェルナリアが強い条件刺激になったことを意味している。そして,おまじないなどの技法は抑制学習(Inhibitory Learning)に注目していることがわかる。

エクスポージャーを物質依存に対して用いるのは1990年ごろからある。” Cue exposure and relapse prevention”で検索するとかなりの文献がみつかる。さらに,Craskeらが,抑制学習に関する理論的レビューを書いている(3)。今まで行動療法家はエクスポージャーを消去・馴化としてしか見てこなかった。もっと積極的に反応抑制を学習していることにも注目すべきだろう。

EMDRという前例

EMDRは始まった時点では行動療法の新しい技法として注目された。演者も1992年にEMDR (Eye Movement Desensitization and Reprocessing)をオーストラリアで開かれた国際行動療法会議(WCBT)で知り,大変興味を引かれた。なによりもJoseph Wolpeが絶賛していたのである。

しかし,この技法は現代では行動療法の一技法としてはみなされていない。EMDRの治療開発者はEMDR専門家として行動療法研究者からは独立してしまっている。

行動療法には解体研究(Dismantling study)という伝統がある。新しい治療法が出現すると,その新しい部分だけを取り去った治療と,新しい治療の間の成績を比較してみるのである。それをEMDRに行ってみたら,その結果は芳しいものではなかった(4)。こうした批判に対してShapiroは感情的な反応をした。そして,行動療法学会との付き合いに避けるようになった。

条件反射制御法を行動療法にできるか?

あとは行動療法家がどうするかだろう。条件反射制御法には確かに抑制学習という行動療法家が見落としていた観点がある。この方法の効果を検証するRCTを日本で行うことができれば,それは学術的業績になり,行動療法に貢献したことになるだろ。

文献

  1. 平井愼二. 条件反射制御法 物質使用障害に治癒をもたらす必須の技法. 東京: 遠見書房; 2015. 20 p.
  2. 国語2 文部科学省検定済教科書 中学校国語科用 平成4年度版. 東京: 光村図書出版; 1992.
  3. Craske MG, Treanor M, Conway CC, Zbozinek T, Vervliet B. Maximizing exposure therapy: An inhibitory learning approach. Behav Res Ther. 2014 Jul;58:10–23.
  4. Cahill SP, Carrigan MH, Frueh BC. Does EMDR work? And if so, why?: a critical review of controlled outcome and dismantling research. J Anxiety Disord. Jan;13(1-2):5–33.

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