OCDとADHDの合併症例について ポスター発表 日本認知・行動療法学会第45回大会2019年8月

発表者 原井宏明 1),岡嶋 美代 1)2),金田翔太郎 1)

1) 原井ク リニック 2)BTCセンター東京/なごや

はじめに

強迫症(Obsessive Compulsive Disorder;OCD)の成人の有病率は2~3%であり,しばしば他の疾患を合併する。注意欠如・多動症(Attention-deficit hyperactivity disorder;ADHD)の成人の有病率は2.5%であり,その3割程度はOCDも合併するとされる1)。今回の研究ではOCDに対する行動療法を専門にしたクリニックの患者の診療録をもとにADHD患者の有病率を調べた。また,OCDの治療と並行して行われたADHD症状に対する薬物療法の経過も報告する。
方法
対象 2019年1月1日から2019年4月30日までに原井クリニックを初診した患者190名(男性78名,女性112名,平均年齢男性32.4歳,女性35.2歳)を対象とした。主診断がOCDの患者の中で,ADHDの診断がついているものを調べた。
結果
OCDの患者は190名中154名,ADHDの合併がある患者は4名(2.5%)で,すべて女性であった。ADHDのみの患者は来院していなかった。ADHDと診断された患者のうち2名に中枢神経刺激剤が処方されていた。本研究ではOCD治療に加えてADHDに対する薬物治療が著効した例(症例1)を詳述する。なお発表にあたって文書による説明同意を本人から得ている。
症例1:30代後半女性 会社員(休職中)診断名</B >:OCD,ADHD
主訴:鍵が締まっているか,火の元が消えているか等を何度も何度も繰り返し確認してしまうこと。会社の業務の基本的な内容について,先輩や上司に繰り返し確認を取ってしまうこと。日常生活の会話における確認行為。現病歴: X-5年にAメンタルクリニック初診。「ストレスがたまって(実家の壁を)ぼこぼこにしていた」という。X-4年にはBメンタルクリニックで自閉症スペクトラム障害と診断。X-1年10月にBメンタルクリニックにて強迫症状を指摘され,OCD治療を勧められた。X年1月には家の鍵や火の元,冷蔵庫の締まりを気にしていた。
現在の会社には10年以上在職しているが,研修を5-6年後に教えてもらったということが衝撃だったという。この頃から同僚に対して業務内容を頻繁に確認するようになり,会社のル-ルだけでなく日常生活でも自分が正しい行動をとっているか家族を巻き込んで確認するようになった。同月原井クリニック受診。
処方薬量の変化:
X-1年12月 リスペリドン錠1mg2錠,ファモチジンOD錠20mg,オランザピン2.5mg錠,アルプラゾラム錠0.4mg,チキジウムカプセル5mg。
X年1月(初診) オランザピン2.5mg錠,エスシタロプラム錠10mgに変更。
X年2月ロラセパム錠0.5mg追加。X年3月 メチルフェニデート徐放錠18mg追加。X年5月 オランザピンOD錠5mg「JG」追加。
治療経過:
第1著者の診察と第2著者のカウンセリングを並行して実施した。診察およびカウンセリングの頻度は1週間~隔週で行われた。 第1期(#1~#5)では心理教育と処方薬の調整を中心に行った。第2期(
#6~#9)では3日間集中治療(three days intensive therapy;3DI)に参加し,曝露反応妨害法(Exposure and response prevention ;ERP)の実施とコンサ-タの処方を行った。第3期(#10~#14)ではメチルフェニデートの調整および復職にかかわる訓練を行った。第4期(#15~)では一人暮らしの練習や日常生活でのERPの実践を行っている
。#1~#3までは父親が同伴していた。
第1期(#1~#5)
初診時は受付スタッフに対して原井クリニックであっているのか,自分が記入した問診票にミスがないかを何度も確認していた(#1)。再診ロラゼパム0.5mg追加(#2)。家族とテレビをみている際に流れたニュ-スで話題になったことについて確認が見られた。家族へのまきこみに対しての心理教育を行った(#3,#4)。父親の飲酒をみて昔の飲酒運転を思い出したことで 警察で自分が飲酒運転したのではないかと確認したという(#5)。確認の多さに威力業務妨害で逮捕するとまで言われたが繰り返し続けていたとのことだった。
第2期(#6~#9)
3DI中にも頻回の確認行為や貧乏ゆすり,落ち着きのなさが見られた(#6~#8)。顔をしかめ,足をばたばたと震わせる様子が頻回にみられた。3DI後の診察にてASRSパ-トAを行い、ADHDと診断できたため、メチルフェニデート18mg追加(#9)。
第3期(#10~#14)
3DI後の診察では「確認の繰り返しはまだやってしまう」ものの「貧乏ゆすりが減った」 との報告があった(#10)。その後,メチルフェニデートを18mgから27mgに増量した(#11)。#12では母親に対する確認行動が減少し,「家で寝転がって本を読んでいることができるようになった」とのことだった。しかし,質問する行為自体は完全にはなくならず,「法律は国のル-ルですか」や「会社のル-ルですか」といった確認がみられた。高頻度の反復や衝動性の高さから,一種のチックであると推測された。復職6月を希望。
第4期(#15~)
強迫行為がでるときの頓服薬としてオランザピン2.5mg錠へ変更した(#17)。#18には一人暮らしの練習を始めており,当初は1時間鍵かけにかかっていたが,今週は5回の確認で済ますことができたという。 東京OCDの会にも行き,元患者の「この不安はずっと続かない」という言葉が印象に残ったとのことだった。
一人暮らし練習の継続,家族に対する確認行為の減少など,日常生活の改善が見られたことから,「会社に自分の症状(OCD,ADHD)を説明する」「具体的に課題を立てて練習する方法を見つける(課題分析,計画立案の訓練 注意訓練)」「気になることを増やして,確認が追いつかないようにする」 「課題を増やして,幅広く経験するようにする」ことを設定し,復職への目途を立てた。
症例2:女性・20代前半
主訴:確認
診断名:OCD,ADHD,うつ病
治療経過:X-1年2月に3DI参加。X-1年10月から障害者支援施設へ入所。
処方薬:エスシタロプラム10mg アトモキセチン25mg 4T
症例3:女性・10代・高校生・休学中
診断名>:OCD,ADHD
主訴:不潔恐怖(トイレ等の床,椅子の座面などを消毒する。エタノ-ル400mlを2週間で使い切る)確認行為,加害恐怖,学校関係を相談したい。
治療経過:X年2月初診。診察とカウンセリングを実施。X年4月に3DI1日目に参加。
処方薬:フルボキサミンマレイン酸塩200mg。
症例4
:女性・10代前半・中学生・不登校
診断名:OCD,ADHD,トゥレット障害
主訴:不登校。引きこもって水浴び。布団上で過ごし,手足が他に当たっていないか確認する。
現病歴:X-1年7月からC病院を受診。C病院での診察中の様子は,動き回り,院長へ暴言を述べ,まともな診察にならなかった。
中学2年途中から強迫症状が悪化。3年に進学してから登校出来ず,当院への紹介となった。初診時の様子は待合室で動き回る。受付に張り付く。医師に思いつくまま質問し,暴言を連続して浴びせる,診察室内あちこちを触るなどの行動が見られた。
治療経過:原井クリニックにて初診日に3DIに参加する。2日目でリタイアしたが,メチルフェニデート徐放錠18mg1錠,フルボキサミンマレイン酸錠75mg2錠を処方したところ,患者の母から4日後から手洗いが減り,登校できるようになったとの報告があった。最近では修学旅行にも行けたという。
考察
原井クリニックに通うOCD患者のうち2.5%がADHDと診断されていた。
従来,我が国ではOCD症状を見たとき,それを発達障害の二次障害とみなす傾向があった。ADHDの場合も,その二次障害としてOCDが出現しているとみなされることが多く,発達障害がある限り,ERPのような行動療法の適応はないと判断する傾向がある。そのため,治療者のOCDに対する治療への注目は減少しがちであるといえる。今回の症例において,OCDとADHDをそれぞれ独立した疾患として扱い,処方薬の変更・追加を行ったことで,当初の主訴であるOCD症状の低減が実現した。本研究はOCDとADHDの治療を進めるうえで,疾患ごとに介入を使い分けることのメリットを示唆している。
主要引用文献
1)Geller, D. A., Biederm
an, J., Faraone, S.ほか. Re-examining comorbidity of Obsessive Compulsive a
nd Attention-Deficit Hyperactivity Disorder using an empirically derived ta
xonomy. European Child & Adolescent Psychiatry. vol. 13, no. 2, p. 83-91.20
04,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15103533, (参照 2019-05-22).

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