2012/04/22 東京認知行動療法アカデミー ワークショップ 会って話して動く気にする (動機づけ面接)2

早稲田大学国際会議場にて,加濃正人先生とジョイントで4時間のワークショップを行いました。今までにも参加されたことがある方,初めての方と多くの方に参加を頂きました。今までのワークショップでは使ったことがない新しいテーマやビデオ,エクササイズ,アクセプタンス&コミットメントセラピーと合わせた墓碑銘のエクササイズなど,2時間で行うのには盛りだくさんで,消化不良になってしまいました。使用したプレゼンテーションをPDFにしたものを添付します。

Monty RobertsのJoin Upなどについては,以下のリンクを辿ってください。

http://www.montyroberts.com/

またMINTが発行しているオンラインジャーナルMITRIPは以下のリンクから読むことができます。

http://www.mitrip.org/ojs/index.php/mitrip

原井宏明(2012) 薬物依存と動機づけ 精神科, 20(3):268-274

依存症とは

依存症の問題とは何だろうか?はっきりしていることがある。文明があれば依存症の問題がある。プラトンは,18歳以前にワインを絶対に飲んではいけないと言う。旧約聖書は,手に負えない大酒飲みを石で撃ち殺せと命じる(申命記21:20-21)。

DSM-IV-TR(1)による依存症の診断基準の1つに項目(7)がある。

精神的または身体的問題が,その物質によって持続的または反復的に起こり,悪化しているらしいことを知っているにもかかわらず,物質使用を続ける。

ICD10でも同じような基準(6)を設けている(2)。

有害な結果をもたらすことが明白であるという証拠があるにもかかわらず,物質使用を継続すること。これは使用者が実際に害の内容や程度に気づいているか,気づいていたらしいときにも続けていることで明らかとなる.

依存症になった患者は,プラトンに禁止されても,石で撃ち殺されそうになっても使う,ということになる。使えるチャンスが訪れたとき,使った後に起こるデメリットを考慮すれば,使わないのが当然だと常識人なら思うはずの場面で,使う方を選ぶ。普段は常識人のように振る舞い,いざとなれば使う,このような人を見かけると,人は判断力が犯されている,と言う。「後で起こるデメリットは分かっている,分かっていて使うのだ,自分の体を害するだけで他人には迷惑をかけていない,それで何が悪い?」と言う使用者もいる。害が誰から見ても明らかなときでも,その害を無視して平然としている人に対して,私たちは,動機づけが足りない,という。

血中に存在する薬物によって脳が直接影響を受けている場合を除いて,乱用も含めて依存症とは物質使用者本人の判断や動機づけの問題と呼ぶことができる。

(中略)

最初から今日まで,MIは常識的な意味での判断や動機づけの概念をもたない。動機づけという概念を用いて,患者の心を理解することをしない。ある特定の技法を使えば,患者の問題が治るとも言わない。普通の精神療法とは対極的に見えるはずだ。さらに言えば,MIは常識的な医学モデルとは対極にある。1993年の論文でMillerはMIをこのように形容している。

This approach to client motivation departs radically from traditional “confrontational” methods that attribute denial to personality characteristics of the client, emphasize acceptance of the label “alcoholic,” and conceive of alcohol abuse as explained by personal loss of control.

一方で,RCTによるエビデンスはそんなMIが,普通にどこでもよく使われる精神療法になるべきだと主張している。それは,MIがある特定のやり方によって,習得可能な方法であり,技術レベルを測定できるからだ。指導者から学習し,実際に行い,指導者に技術をチェックしてもらうことができる。その点では動機づけ面接はごく普通の精神療法である。

(必要な方は別刷りをご請求下さい)

原井宏明 (2001). 「精神医学」への手紙 10歳以下の子どもに大うつ病性障害が存 在するか 大井論文を読んで. 精神医学(0488-1281) 43(11): 1270-1271.

児童青年期は私の専門ではないが個人的に大変関心のある領域である。展望大井論文1)は大変参考になった。気になったところがあるので,2,3指摘したい。

まず第1点として,展望論文のあり方について議論したい。大井論文は,“はじめに”の章で“確かに,現在の子どもの達を取り巻く環境は悪化の一途をたどっている”,“成人の診断基準を特に児童期の感情障害にどこまで当てはめることが可能なのだろうか”,“内因性と心因性の違いも以前のようにあまり顧慮されなくなってきていることを批判しているが,同感である”と著者の意見を明らかにしている。この後の本文もこの意見に合わせて書かれている。

しかし,タイトルと全体の構成から見ると,大井論文は児童期・青年期の感情(気分)障害の診断や疫学,経過,治療を含めた全体像についての展望を目指しているようである。全体を見渡す展望論文とは著者の個人的立場を示すものではないと私は考える。 Sackett2) らが述べるように,論文収集の方法を示し,集めた論文についてエビデンスの強さの観点から批判的吟味を行い,吟味にかなった論文だけを選び,内容をまとめるものである。大井論文はこの意味で展望論文らしくない。

第2点として,著者の意見自体に疑問がある。現代の子供たちを取り巻く環境が悪化していることについて大井論文はデータを示していない。そして私に入手可能な統計を見る限り,著者の意見を補強するデータがあるとは思えない。

日本の現代と過去を厚生省の人口動態統計や警察白書などを用いて比べてみよう。

日本の乳幼児死亡率は戦後,例のないほどの速度で低下を示し,出生千当たり3.6(1998年)は欧米諸国と比べても低い。自殺に関しては,子どもの自殺がもっとも高頻度であったのは,1950年代後半である。近年での未成年の自殺がもっと多かったのは1986年で785件である。ちなみに現代の日本で自殺率がもっとも高いのは50台の男性である。

殺人(未遂も含む)で検挙された少年の数は,1960年前後に400人を超えてピークとなり、その後は減り続けて,1975年以降はずっと100人前後のままである。

離婚率は1963年ごろがもっとも低く人口千対0.7程度で,1998年では1.94であるが,これは米国の半分以下であり,先進国の中でもっとも低い部類に入る。離婚について戦後大きく変わったのは親権の行方である。離婚後の親権を行う親は1965年までは父親が多かった。その後は母親が増え,1998年では子供が一人の場合母親が親権をとるのは83.1%である。すなわち離婚した場合,昔は母親から引き離され,現在は母親がそのまま養育に当たるようになった。白雪姫のような継母による継子虐めは昔話になりつつある。

国際比較をしてみよう。米国の10台妊娠率,貧困世帯の数は先進国の中で最も多い。医療へのアクセスが悪く,医療保険をもたない人々が約5000万人いる。ヒスパニック系の高校卒業率は50%台である。15~24歳台の人口10万対自殺率を見ると,米国は13.8(1994)であり,日本の12.2(1998)よりも高い。

さて,これらの統計データから見た場合に,日本の現代の子どもは,現代日本の50台男性よりも,戦前の子供よりも,1950年代の子どもよりも,1986年頃の子どもよりも,また米国の子どもよりも不幸なのだろうか?

第3点として,文献に対する解釈に疑問がある。児童期のうつ病に関する日本での疫学的研究は乏しいが,その数少ない中のひとつである村田,辻井らの研究について(359ページ)“いかに現代の子ども達が不幸な環境にいるかを示す” と著者は解釈する。引用された論文の執筆者はこのような解釈の仕方に対して怒るのではないだろうか。

最後にプライベートな意見を述べさせていただく。私は大人の非精神病性精神障害を主に診ている精神科医である。児童精神医学についてはユーザーの立場にある。私の長男は小学2年生のときCDI(Child Depression Inventory 3) )は一時30を超えていて,それは半年近く続いた。もし,子供の不幸の原因が著者の言うように現代社会環境にあるならば,児童期のうつ状態に対する対策は社会改革であり,個々の患者に対する治療の研究は無用ということになる。10歳以下の子どもにもうつ病があることを研究者が認めるようになり,それが私の長男のような子ども達への医療の改善につながることを私は願う。

文献

1) 大井正巳: 児童期・青年期の感情(気分)障害. 精神医学 43:352 -366, 2001

2) Sackett,D L, Straus,S E, Richardson,W S,et al: Evidence-Based Medicine -How to practice and teach EBM, Second Edition. Churchhill Livingstone,London, 2000

3) Kovacs,M :Rating scale to assess depression in school-aged children. Acta Paedopsychiatorica, 46;305-315, 1981

原井宏明 (1997). 急速交代型双極性障害に対するセルフモニタリングと薬物自己投与 による躁病再発予防の試み. 精神医学(0488-1281). 39: 843-846

PDFファイル 急速交代型双極性障害に対するセルフモニタリングと薬物自己投与による躁病再発予防

Application of self-monitoring and self drug administration for preventing severe episodes in a rapid cycling bipolar patient

抄録

病相予防が困難な急速交代型双極性障害の1症例にセルフモニタリングなどの行動療法の技法を応用し、躁病エピソードの兆しに患者自身が気がつくことができるように、また躁病エピソードの初期に向精神薬を自己投与できるようにした。この結果、入院に至る重度の躁病エピソードが減少した。セルフモニタリングと向精神薬の自己投与は急速交代型双極性障害の患者に有用な方法だと考えられた。

Key Words

Bipolar Disorder, Rapid Cycler, Relapse prevention, Behavior Therapy,

 

 

q  はじめに

気分障害の中で1年間に4回以上の躁またはうつのエピソードを持つものを急速交代型双極性障害(Rapid Cycler)[1]といい、薬物による病相予防が困難であることが知られている3)。

セルフモニタリングは行動療法の技法の中でよく用いられる方法である。患者自身が標的となる自分の症状や行動を記録することによって多くの情報が得ることができ、セルフコントロールが期待できる13)。

筆者は急速交代型双極性障害の診断基準を満たし、入院回数が増加傾向にあった症例に対して通常の気分調整薬の維持療法に加えて、セルフモニタリングと鎮静効果のある向精神薬の自己投与を計画した。セルフモニタリングによって躁病エピソードの兆しを本人が気付くよRapid cycling seisinigaku 1997うにすることと、躁の早い時期に向精神薬を本人自ら服用するようにした。経過の評価にはLife chart methodを用いた8)。この方法を用いた後では躁病エピソードによる入院が減少した。躁病エピソードを軽い段階で押さえ、重症化を予防することができたと考えられた。双極性障害の躁病エピソードの予防に対してセルフモニタリングと向精神薬の自己投与が有益だと考えられたので報告する。

q  症例

<症例>女性 初診時21歳

家族歴

同胞4人(妹2人、弟1人)の長子。上の妹は分裂感情障害にて治療中である。

生活歴・現病歴

成長・発達に特に問題はなかった。18歳、最初の躁病エピソードが起こった。T精神病院に入院し1カ月で寛解退院した。18才以降の経過を図1に示す。短大卒業後就職し、2回目入院時に退職した。以後は短期のパートと両親の自営業(雑貨販売店)の手伝いをしている。祖父母、両親、同胞2人と同居している。

86年4月(21歳)、夜間外出と無断外泊、頻回の電話、多弁、まとまらない言動、早朝覚醒が2,3日の内に生じてきた。家族に付き添われて本人が当所を受診した。

当所初診時現症および2回目入院経過

多弁・多動、気分高揚、観念奔逸、行為心迫、脱抑制、転導性の亢進が認められた。医療保護入院とし、保護室を用いて行動制限を行った。保護室内ではドア蹴り、大声、食器を投げるなどの行動が見られた。ゾテピン、レボメプロマジン、炭酸リチウムの投与、ハロペリドールの筋注などを行い、10日間程で通常の状態に戻った。

88年12月までの経過

退院後、当所での治療を現在まで継続している。2回目退院後の86年8月後頃から軽症うつ病エピソードが起こった。抑うつ気分、過眠、精神運動抑制、気分の日内変動が見られた。幻覚や妄想、希死念慮はなく現実判断は保たれ、身辺整理は行うことができた。家族がみな店の仕事で働いているのに休んでいるのがつらいと本人は訴えた。外来でアミトリプチリン75mgを投与したあと改善した。アミトリプチリンは87年4月に中止した。

87年7月から軽症うつ病エピソードが始まった。アミトリプチリン75mgを投与した後、9月から躁病エピソードが起こり3回目入院をした。この入院時から筆者が担当している。3回目以降の躁病エピソードの症状・治療経過・入院形態は初診時、2回目入院時と同様である。3回目退院後は病相予防を目的に炭酸リチウム(600~800mg)またはカルバマゼピン(400mg)の維持投与を行った。しかし、気分の変動を抑制することが出来なかった。

87年12月軽症うつ病エピソードが起こった。87年9月の躁転がアミトリプチリン投与をきっかけに起こったため、抗うつ薬の投与は控えた。抑うつが続き、本人が休養入院を希望したため、12月から4回目入院した。うつ病エピソードについては4、8、11、12回目の入院がある。いずれも86年8月と同様の軽症エピソードであるが、自宅では休養できない、入院したいと本人が述べるため入院となった。入院1ヶ月程度で気分が改善し、退院している。

88年は4,11,12月に躁のため5,6,7回目入院した。躁の際は、家族が気がついて本人を外来受診させていた。この時にゾテピンなどを処方したが、症状の発展は止まらず翌日には入院せざるを得なかった。

現在までの経過中に行った検査では甲状腺機能は正常範囲にあった。月経周期は28日周期で定期的にあり、躁・うつのエピソードと月経周期との関連はなかった。炭酸リチウム血中濃度は600mg/日投与時に0.5~0.7mEq/l、800mg投与時に0.9~1.1mEq/lにあった。気分変動時でも血中濃度の変化はなく、指示通りの服薬が行われたと考えられた。

炭酸リチウムやカルバマゼピンの維持投与を行い、コンプライアンスは良好であった。血中濃度は一般的な治療域にあった6)。88年からは抗うつ薬の投与を控えた。しかし、病相は予防されず、図に示すように初回躁病エピソードから2回目が3年、2回目から3回目が1年5ヶ月、3回目から4回目が7ヶ月と病相サイクルが短縮傾向にあった。

セルフモニタリング・向精神薬の自己投与

6回目入院では、入院の3日前に本人から不眠と焦燥を訴える電話があった。このことから、本格的な躁病エピソードになる前に不眠・焦燥の時期があり、これを本人が自覚できるのではないか、この時期に早めに鎮静効果のある向精神薬を服薬すれば本格的な躁病エピソードへの発展を予防できるのではないかと考えられた。しかし、家族が気がつくのは遅すぎ、外来受診してからの投薬では間に合わなかった。従って躁病エピソードの兆しに本人自身で気がつき、本人から向精神薬の服用を始めることが必要だと考え、気分などのセルフモニタリングとレボメプロマジンまたはゾテピンの自己投与を計画した。

市販の日記に、一日の出来事と気分の点数、入眠・起床時間、服薬した薬物を本人が記録するようにした。気分点数は、通常の状態を0、極度の躁を100、極度のうつを-100とし、-100~100の間でつけるようにした。

気分の評価の仕方は次のように教示した。

躁のなり始めは

・イライラして落ちつかない

・気分が変わりやすく上がっているのか落ち込んでいるのか分からない

・朝起きが早くなる

うつのときは

・考えがゆっくりになる

・夕方が朝より元気 朝御飯が食べられない

・眠りが浅く、朝起きが悪い

・1週間くらいは気分が変わらず落ち込んだまま

躁かうつか分からないときは主治医に電話する

維持量の炭酸リチウム、眠前薬の他に余分のフルニトラゼパム2mg錠とレボメプロマジン25mg錠、ゾテピン50mg錠を処方し、本人がストックするようにした。離床時間が早くなる、気分が落ち着かなくなるなどの変化が起こったら筆者に電話すること、電話の指示に従ってストックの薬を追加して服用することを説明した。

その後の経過

89年3月中旬に焦燥を訴える電話があった。本人は爽快気分はないと述べ、気分点数を-30(うつ側)につけた。外来診察時は化粧の仕方が濃く、話す速度が早く、声が大きかった。セルフモニタリングによれば起床時間は普段(7時頃)より1時間以上早くなっていた。これらのことから軽躁であると考えられた。気分評価の仕方を説明し、レボメプロマジン25mg錠を追加すること、追加は最低でも3日は続け、朝起きが遅くなり昼間に眠気がでれば減らすことを説明した。4月初めに気分安定した。

6月下旬に再び軽躁になり、このとき本人は+30につけた。このときの経過を図2に示す。13日から離床が早くなった。17日朝は5時前に離床し、睡眠時間は6時間以下になった。20日頃からいらいら気分や易怒性が見られ、自宅で物に当たったり家族に当たったりするなどがあった。17日から本人自ら眠前のフルニトラゼパムを増量し、睡眠時間が8時間に延長した。21日に予定より早めに本人が受診し、「上がったり、泣いたりする、落ち着かない」と訴えた。気分の点数は20日から躁側の30点につけていた。レボメプロマジンの追加を指示した。26日にも同様に訴えて受診した。ゾテピン100mgに変更した。この間、離床時間は不安定ながら、睡眠時間は6時間以上が保たれた。7月からは気分変動は見られなくなり、気分の点数も10以下に戻った。

9月中旬に同様な早朝覚醒(5時頃)と軽躁が起こった。このときは本人から筆者への連絡や受診は無く、本人自ら向精神薬を1週間服用し、落ちついた後漸減した。本人は軽躁の兆しについて次のように述べている、「日記を後から見返すと上がる兆しがあるのがわかった。用もないのに外出したり、髪を切りに行ったりする。落ち込んでいるときも安心できない。突然上がることがある。」

この後6回の軽躁が93年末までにあり、本人が同様に対処した。91年8月、92年7月に躁病エピソードによる9,10回目入院があった。91年8月入院前の経過を図3に示す。入院の2週間前から離床時間が着実に早くなり、最後は全不眠になっていることがわかる。17日からは外出が頻回になり、18日家族に連れられ受診した。診察時は観念奔逸、多動があり、行動がまとまらなかった。16日から本人自らレボレプロマジンを25から50mgへ増量し、受診した18日にはゾテピン200mgなどの追加が行われたが、症状はさらに進み、19日に保護室に入院した。この間、気分の点数は0のままであった。向精神薬の追加が遅すぎたために重篤な躁病エピソードへの進展が止まらなかったと考えられる。

以後も現在までセルフモニタリングは続いている。外来受診は4週間に1回で手持ちの薬物の残量を本人が管理し、筆者は不足分を処方している。炭酸リチウム600mg、眠前にフルニトラゼパム2mgとレボメプロマジン25mgを維持服薬している。気分の変動時用にゾテピン50mg錠とレボメプロマジン25mg錠をストックしている。93年末の日記に本人は次のように書いている。「病気そのものを治すことはできないと思う。でも少しずつ自分の状態をいい方向に持っていき、病気と仲良くつきあっていくという気持ちで、前向きに生きていきたいと思っています」

q  考察

この症例では、86~88年の3年間に躁病エピソードによる入院が4回あった。セルフモニタリングと向精神薬の自己投与を始めた後の89~94年の6年間には軽躁または躁病エピソードが13回ある。躁病による入院は2回で92年7月以降はない。経過上は軽躁を含めた躁病エピソードの数は減少していない。一般に双極性障害では経過につれて病相サイクルが短くなることが知られている5)。これらのことから、この症例の躁病エピソードによる入院の減少はセルフモニタリングと向精神薬の自己投与によって躁病エピソードの減少が見られていると考えられる。

Wehrらは躁病エピソードに至る過程の途中に睡眠時間の短縮が共通してみられ、睡眠時間の短縮が躁病の悪化をもたらし、躁病の悪化が更に睡眠時間の短縮を起こして悪循環になり、最終的に重度の躁病エピソードに至るというモデルを提唱している。そして、睡眠時間の短縮を押さえることができれば重度の躁病エピソードへの発展を予防できるかもしれないと述べている14)。この症例については彼らのモデルに従って説明することができる。図2で示すように、気分が上がる(気分点数が上がる)前に睡眠時間の短縮があり、その時に向精神薬を追加し睡眠時間を延長することで躁病の発展がとん挫していると考えられる。一方、追加が行われない場合は図3の場合にように着実に睡眠時間が短縮し、躁病エピソードに至っている。

頻回のエピソードがある症例であるが、日記が示すように本人は病気に圧倒されるのではなく自分でコントロールしているという感じを持つようになっている。これはセルフモニタリングの効果と考えられる。筆者にとってもセルフモニタリングによって病状の把握が容易になった。

躁病エピソードによる入院は抑制できるようになったものの、うつ病エピソードに対しては治療が不十分である。セルフモニタリングを始めた89年以降に15回のエピソードがあり、内4回は任意入院になった。抗うつ薬でうつの改善が得られることはわかっているが、通常の使用法では過去に躁転を起こしている。94年の12回目入院後からはうつの初期にミアンセリン30mgを3日間に限定して投与する方法を行っている。この後はうつ病エピソードは比較的短期に終わるようになった。13回目入院はうつ症状だけではなく自宅改築のために家に居づらかったためである。うつ病エピソードの予防のためには今後、クロナゼパムなどの気分調整薬を試みる必要があるかもしれない。

American Psychiatric Associationが1994年12月に出した治療指針では、躁病性障害に有効な特定の精神療法はないとし、寛解維持期の治療として維持服薬と精神科的管理(Psychiatric Management)を勧め、治療再発の予防のためには、患者への教育、再発の兆候を早くとれるようにすることが望まれるとしている2)。双極性障害における病相予防については、炭酸リチウムやカルバマゼピン以外にも近年はバルプロ酸やクロナゼパムなどの有用性が指摘されるようになった6 9)。今回のような急速交代型の症例についても今後新しい薬物によって躁病エピソードの予防ができるようになる可能性がある。しかし、臨床試験では効果があってもコンプライアンスなどの問題により理想的な服薬が行われないことが多く、臨床試験で示される薬物の効果と実際の臨床での効果には差があることが指摘されている4)。薬物療法が実際の臨床では限界があることを考えると、双極性障害に対しても疾患に対する対処行動を標的にした心理社会的な治療が必要だと考えられる12)。

しかし、精神科的管理や心理社会的治療を実際に行った報告は数少ない。Bipolar Disorder、relapse、treatmentまたはtherapyをキーワードとしてMedline上で1966~1996年10月の間で検索を行った。薬物療法以外の治療についての報告は、Miklowitzらによるbehavioral family management (行動療法的家族指導)が1件あるのみであった7)。双極性障害は生物学的負因が強いことと、エピソードが終われば完全に緩解すると考えられていたこと、精神分析家が歴史的に双極性障害には精神療法が向かないとしてきたことから、薬物療法以外の精神療法の試みが無効だと考えられていたと思われる10)。

今回の症例で示したセルフモニタリングなどの心理社会的な治療方法は、今後、薬物療法が進歩しても開発していく必要があると考えられる。


参考文献

1.American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 4th Edition. American Psychiatric Association. Washington DC, 1994 (高橋三郎,大野裕,染矢俊幸 訳, DSM-IV精神疾患の分類と診断の手引き, 医学書院, 1995)

2.American Psychiatric Association: Practice Guideline for the Treatment of Patients With Bipolar Disorder. Am J Psychiatry 151:12, Supplement 1994

3.Dunner DL: Rapid cycling bipolar disorder, Directions in Psychiatry No.7 Lesson 4, Hatherleigh, New York, 1990

4.Guscott R, Taylor L: Lithium prophylaxis in recurrent affective illness. Efficacy, effectiveness and efficiency. Br J Psychiatry 164:741-6, 1994

5.Hamilton M: Mood disorders Clinical Features, in Comprehensive Textbook of Psychiatry 5th ed., Williams & Wilkins, Baltimore, 1989

6.岸本朗: 双極病における病相発現予防の臨床.精神医学 33:910-924,1991

7.Miklowitz DJ, Goldstein MJ: Behavioral family treatment for patients with bipolar affective disorder. Behavior Modification 14:457-89 1990

8.Post RM, Roy-Byrne PP, Uhde TW: Graphic representation of the life course of illness in patients with affective disorder. Am J Psychiatry 145:844-848, 1988

9.Schaff MR, Fawcett J, Zajecka JM: Divalproex sodium in the treatment of refractory affective disorders. J Clin Psychiatry 54:380–384, 1993

10.Scott J: Psychotherapy for bipolar disorder, Br J Psychiatry 167:581-588, 1995

11.Silverstone T, Romans CS: Bipolar affective disorder: causes and prevention of relapse. British J Psychiatry 154:321-35, 1989

12.Solomon DA, Keitner GI, Miller IW, et al: Course of illness and maintenance treatments for patients with bipolar disorder. J Clin Psychiatry 56:5-13, 1995

13.Steven B: Self-Monitoring, Dictionary of Behavior Therapy Techniques, Pergamon Press, New York, 1985 (山上敏子監訳:行動療法事典. 岩崎学術出版社, p184-185, 1987)

14.Wehr TA, Sack DA, Rosenthal NE: Sleep reduction as a final common pathway in the genesis of mania. American J Psychiatry 144:201-204, 1987



[1] Rapid Cyclerの邦訳は、日本語の文献では病相頻発型と訳したものが大半である。しかし、95年に出版された高橋ら訳のDSMIV1)では急速交代型と訳している。ここでは高橋らの訳に従った。

原井宏明 (1995). “「精神医学」への手紙 無作為割り付け臨床試験以外のevidence 1事例実験デザイン.” 精神医学(0488-1281) 37(9): 1010.

古川論文1)は最近の臨床研究の大切さ,統計的検定によるp値で
価値判断することの誤りを指摘している点で共感した。しかし,無
作為割り付け臨床試験(RCT)と症例研究に対する意見には疑問が
ある。RCTの欠点と,治療と結果の聞の因果関係を知りたいとき
RCT以外に1事例を用いた巧みな実験デザインがあることを示し
Tこい。
1. RCTの欠点
RCTにはグループデザインから起こる欠点がある。例えば抗う
つ薬のうつ病に対する効果を知りたいとき,理想的なRCTとはう
つ病全体を代表できるランダムサンプルに対するRCTである。こ
の場合,対象者は若年から高齢者まで,短期から遷延例までのばら
つきの大きな群になり,結果も大きくばらつく。しかし,数字とし
て扱われるのは群全体の平均であり,著明改善群があっても無変化
群と混じって統計的には無効になる可能性がある。また,得られた
結論からはどのようなうつ病の患者には抗うつ薬がよく効くかはわ
からない。逆に偏った対象を集めてRCTをした場合には,得られ
た結論は他のうつ病には一般化できない。
丸山ワクチンの治験のように一部の患者には有効だったというこ
とを無視して,統計学的に比較群と有意差がない(実際には帰無仮
説が棄却できないとは効果がないことの実証にはならない)では患
者は納得しないだろう。
2. 1事例実験デザイン2)
この方法は,行動療法,特に応用行動分析でよく用いられる。薬
物の効果を判定するとしよう。治療なしをA.プラセボ投薬を
A1. 実薬をBとすると, ABだけでは(通常の症例報告)薬物と効
果についての因果関係はわからない。A-A1-B-A 1-Bデザインの
ように薬物からの離脱期を設け,実薬とプラセボの交代を行えば,
二重盲検でBの効果を判定できる。無治療比較群が得られない場
合,精神療法のように患者の特性や経過に合わせて治療を変える場
合に有用である。症例の特性が示されているので結果は似た症例に
は応用できるだろう。特性の異なる症例には追試をする必要がある
が,少ない症例数で十分である。
この方法は不完全な形ならば日常の臨床でも行われている。計画
的な治療と十分な記録が行われている患者にとっては病歴自体が
evidenceだろう。古川論文にある鈴木先生の症例の場合,初発エ
ピソードから3年間の経過を詳しく調べ,服薬中断と再発に関連が
あることを示すことによって予防療法の大切さを説明する必要があ
ると考える。
文献
1)古川壽亮:Evidenced based Psychiatry 一実証的証拠に基づく精
神医療(第I回,第2回).精神医学37:1 18,24 2,19 95
2) Barlow DH,et al :Single case Experimental Design, 2nd ed.
Pergamon Book, New York,
1984(高木俊一郎,他監訳:1事例の実験デザイン,二瓶社,
1993)
(国立肥前療養所原井宏明)